中嶋啓明
5月15日、在京各紙の朝刊を斜め読みしていて驚いた。
『読売新聞』が一面トップに特大の横見出しで「皇統の安定 現実策を」と掲げていた。その下には「読売新聞社提言」とある。
一面だけではない。トップの本記記事に加え、提言に至った経緯を綴った社会部長・竹原興の主張「責任をもって結論を」のほか、与野党協議の論点やこれまでの議論の経過などをまとめた解説記事、普段の倍の量で「皇統の存続最優先に考えたい」と高らかに謳いあげる社説、写真や図表をふんだんにちりばめ、見開き2面全面を使って「提言」の内容を詳述する特集記事と、文字通り「全面展開」している。
「提言」は、①皇統の存続を最優先にする、②象徴天皇制を維持する、③女性宮家を創設する、④女性皇族の夫や子も皇族にする——の4項目を柱に据えた。
肝は、「女性宮家」を創設して当主の女性皇族の夫や子どもも皇族として認め、女性天皇・女系天皇の可能性を排除することなく制度改革を検討するよう求めていることだ。
社説は言う。「男系男子にこだわり続ければ、象徴天皇制の存続は危うくなる。女性天皇や、女系天皇の可能性を排除すべきではないだろう(略)自民党内では、皇室を迎え入れた旧宮家の男系男子を、女性皇族の結婚相手としてはどうか、といった意見も出ている。/しかし、女性皇族の意思を尊重せず、結婚相手をあらかじめ制度的に限定するようなことになれば、人権上の問題が生じよう。」
だが同じ社説の中で同紙は、「配偶者などを皇族でなく、一般国民とした場合、自由な意見表明や政治、宗教活動が可能になる。その結果、皇室が政治利用されたり、皇室の品位が損なわれたりする懸念が生じかねない」と主張し、男系派を批判する。「人権上の問題」より「皇室の品位」の方が大事なのだ。
こういうのをご都合主義と言うのだろう。
国会では衆参両院の正副議長が主導して、「皇族数確保策」を模索する与野党間の協議が続いている。6月22日に会期末を迎える今国会中に意見を取りまとめる意向だという。両議長に自民、立憲民主両党のそれぞれの“ボス”を交えた、魑魅魍魎うごめく政界を象徴するような水面下での「協議」が大詰めに差し掛かった中での「提言」だった。
衝撃が大きかったのだろう。早速、男系派の“牙城”を自負する『産経新聞』がかみついた。政界の反応などの続報と共に、“識者”の寄稿などで「提言」に対する批判を連投。
19日には一面で「分断招く『女系継承』は禁じ手だ」と題し、論説委員長の榊原智名で同社の見解を明らかにした。いわく——、
「『安定的な皇位継承の確保は先送りできない』とした問題意識は共有するが、かえって日本の皇統の断絶に向かう内容で賛同できない」
同じ右翼として連携してきた仲間による背後からの不意打ちに、近親憎悪も手伝ってか、発行部数1位の『読売』の影響力に対する『産経』の危機感は相当なようだ。
右翼内での暗闘の存在がうかがえる。
この間、政界で男系派の基盤の一角を担ってきた旧安倍派は、裏金問題など様々な形で逆風にさらされてきた。神社本庁内でも、ドロドロとした権力闘争が続いているようだ。
さらには、極右月刊誌の『Will』と『Hanada』で最近あった保守党の評価を巡るさや当てを見ると、当然のことだが、男系派も一体ではないのだと再確認できる。
そんな中で旧安倍派を出し抜いて最高権力者のポストを得た現首相石破だが、党内の支持基盤は弱いようで、旧安倍派、極右勢力からの“批判”、“攻撃”を受け続けている。旧安部派の顔色を窺わざるを得ない石破は、杉田水脈を今年の参議院選挙での党の公認候補に選んだ。石破の次の首相候補に、高市早苗を担ぐ策謀も活発化している。
旧安倍派は、今国会中の夫婦別姓制度導入の動きを頓挫させる程度には、いまだ力を保持している。
一方、以前から憲法や原発をめぐる論議などで、主張が『読売』と対極にあるはずの『東京新聞』は17日の社説で、いち早く「提言」に賛同する見解を公表した。
その後、『朝日新聞』も参戦。28日、同紙は社説で「女性・女系 将来の道閉ざさずに」と掲げた。
「社説は『広範な合意のないまま、数の力で押し切ることはあってはならない』としてきた」と言うように、これまで旗幟鮮明にすることを避けてきた同紙にしては、踏み込んだ主張だ。状況の煮詰まりを自覚していることの表れなのだろう。
主な活字メディアの論調を見る限り、日本社会はすでに、“リベラル”も“左派”も、天皇制に絡め捕られて久しい。
男系派内の亀裂など、「勝手にやってろ」と、高みの見物を決め込んでいればいいかもしれない。だが、“リベラル”、“左派”までが旗を振って、いっそう天皇制を社会に浸透させようとする動きには、やはりウンザリせざるを得ない。
『朝日』社説は「象徴天皇制と、『個人の尊重』や『法の下の平等』など憲法全体に流れる『人類普遍の原理』と、憲法には異質なものが同居しており、完全に整合させることは難しい。/新しい制度が、その不整合を逆に大きくしないか。(略)根本的な論点を、深めてもらいたい」と偉そうにのたまう。
社説は政府報告書を下敷きにした与野党協議を念頭に、「論点」とやらを検討している。なのに、わざわざ小泉内閣時の有識者会議の結論を持ち出し、女性・女系天皇も排除するなと主張する。ならば、なぜ天皇制廃絶を、「根本的な論点」から外すのか。
「根本的な」欺瞞をはらんで続くご都合主義丸出しの茶番には、「天皇制廃止」の声を、しつこくぶつけていくしかない。