混乱するマイナンバーの口座への付番理由とその狙い (1)

●預貯金口座へのマイナンバー付番が急浮上

 5月1日から開始した一人10万円の特別定額給付金のオンライン申請の失敗によって、預貯金口座へのマイナンバー付番の議論が活発になってきた。
  5月19日には自民党政務調査会マイナンバーPTが「マイナンバーカードとマイナンバー制度についての提言」(以下「提言」)をまとめ、6月8日に自民・公明・維新の3党で法案( 「特定給付金等の迅速かつ確実な給付のための給付名簿等の作成等に関する法律案」 )を国会に提出し、衆議院内閣委員会に付託されている。
 法案については自民党PT新藤義孝座長が Facebook で概要を説明している。
  ○緊急時給付迅速化法案の概要(ポンチ絵)
  ○法律案概要
 なお自民党PT「提言」について共通番号いらないネットは、反対声明「迅速な給付にならずマイナンバー制度を改悪する自民党提言に反対する」を発表した。サイトにコメントでその補足をしている。

 一方政府は、高市総務大臣が5月22日の記者会見で預貯金口座とマイナンバーとの紐付けについて、次期通常国会に向けて内閣官房番号制度推進室に検討を指示したことを表明した。
 6月30日にはデジタル・ガバメント閣僚会議に設置されたワーキンググループが、マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて、 預貯金付番の在り方など33項目の課題の整理をまとめ、 年内に新たな工程表を策定するとしている。
  7月17日に閣議決定された「骨太の方針2020( 経済財政運営と改革の基本方針2020 )」でも、公金振込口座の設定を含め預貯金口座へのマイナンバー付番の在り方について検討を進め本年中に結論を得るとなっている。

●食い違う自民党と政府の付番の理由と方法

 自民党マイナンバーPTの「提言」では、マイナンバーと口座のひも付けについて、本人同意で給付のための 1人1つの振込口座の登録ができる議員立法と、ひも付けを義務化する法案の令和3年度の国会提出を求めている。

【提言のポイント】 より抜粋
・ 緊急時等に国がマイナンバーを利用した迅速かつきめ細かな給付を実現するため、本人同意で預貯金口座を登録できる議員立法の制定を目指す。
・ 緊急時等の給付や大相続時代の対応における口座の管理をより効率化するため、国民生活の利便性向上と安心の観点から、マイナンバーの口座紐づけの義務化を目指し、政府に令和2年中に結論を得るよう要請する。

 これに対して政府は、当初、全口座への付番を義務づける姿勢だった。
 高市総務大臣は5月22日の記者会見で、可能であれば全ての預貯金口座にマイナンバーを紐付けたいと述べ、菅官房長官も6月1日の記者会見で、全ての預貯金口座とマイナンバーのひも付けの義務化を関係省庁で検討する考えを示していた。

  しかし6月9日の記者会見で高市総務大臣は方針を転換し、
・給付のため、1人1口座のマイナンバーの付番と登録の義務づけ
・希望者について、全口座へのマイナンバー付番
として、二段階で法案を検討していくことを表明した。

 自民党PT「提言」が給付用の1人1口座は任意で、全口座への付番は義務化としたのに対して、政府は給付用の1人1口座は義務化、全口座への付番は希望者と、逆の方針になっている。

●なぜ政府は方針転換したのか

 なぜ高市総務大臣は方針転換したのか。6月9日の記者会見では、給付用口座の登録を義務化することについては、
「振込口座の登録が一部の方にとどまるのであれば、登録してくださらない方には、別途、口座情報を申告していただかなければならなくなり、結局、緊急時の給付金事務の簡素化が限定的」となると説明し、
「全ての国民の皆様に、「行政からの様々な給付を受けるために利用する一生ものの口座情報」を、1口座のみ、マイナンバーを付番して登録していただくための制度」を政府提出法案として準備するとしている。

 一方、全口座への付番を希望者とすることについては、そもそも自身の相続時の経験などから全ての口座をマイナンバーと紐付けておけば便利になると思っていたが、「よくよく熟慮しますと、全口座への付番については、希望者の方だけでも良いかなと思いました」と曖昧な説明をしている。

●困難な「一生ものの1人1口座の義務づけ」

 しかしどちらの説明も、あまり説得力はない。
  「一生ものの1人1口座の義務づけ」は 、6月10日の朝日新聞が仕組みづくりを担う内閣官房番号制度推進室の声を紹介しているように、容易ではない。

(6月10日の朝日新聞 より)
 担当者らは「検討はこれから」「まだわからない」などと口を閉ざした。「ものすごい難問」と漏らす担当者もおり、新たな方針をどう実現するかは見通せない。
 高市氏としては、小さな子どもにも口座を持たせて登録させたい考えだが、法整備には子どもの口座開設の仕組みまで含めて調べる必要がある。
 ある内閣府幹部は「口座登録を個人に強制するのは難しく、罰則をつけて禁じるようなことも考えられない。強制してもなかなか登録してもらえないのでは」とみる。そのうえで、「口座を登録しやすい制度を増やすなどして、『全員登録』になるべく近づく落としどころを探るしかないのでは」と話す。

 「一生もの」といっても、常に変更がある振込口座を最新の状態に保たなければ、かえってトラブルの原因になる。アメリカなどで申請しなくても給付の振込ができるのは、毎年確認している確定申告の還付などで利用する口座があるからだ。そのアメリカでも、死亡した約110万人に誤って支払われたりしている

 市民はあるかないかわからない「緊急時の給付」のために、わざわざ口座変更のたびに登録が義務づけられるのだろうか。義務に反したら、処罰されたり給付されなくなるのだろうか。それで利便性向上になるのだろうか。
 国立市議会で「マイナンバーに各種預金口座をひもづけることに慎重な対応を求める意見書」が採択されたように、自治体からも疑問の声が上がっている。

●何のために全口座に
 マイナンバーをひも付けるのか

 全口座への付番を希望者とすることについても、「よくよく熟慮 」した内容の説明はされていない。金融資産情報を把握されるのではないかという強い反発を受けて、あわてて火消ししたということではないか。
  政府も自民党も、下記の高市総務大臣の説明のように、 マイナンバーを付番しても「口座の中身は把握されない」という説明を繰り返している。しかしこれは、2015年に預貯金口座へのマイナンバーの任意付番の法改正をしたときの説明とも食い違っている。何のための口座情報へのマイナンバー付番なのか。

「政府に全ての金融資産情報を把握されるのではないか」といった懸念をお持ちの方もおいでかもしれませんが、その心配はございません。つまり、口座の中身を把握されるのではなく、それぞれの方がどの金融機関に口座をお持ちかという口座の所在について、全ての国民の皆様に付番されているマイナンバーと紐付けておくことで、自らそれを知ろうとするときに大変便利なことであろうと思っております。( 5月22日 高市総務大臣閣議後記者会見の概要より)

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