「イベント・集会」カテゴリーアーカイブ

マイナンバー制度を問う
日弁連の取り組みを紹介

●日弁連、マイナ保険証に意見書を提出
●プライバシー保障に問題があるマイナ保険証
●2月3日埼玉弁護士会学習会

 「マイナンバー制度を再考する」
●2月10日愛知弁護士会シンポジウム
 「問題だらけのマイナ保険証を斬る!」
●「日本のデジタル社会と法規制」出版

●日弁連、マイナ保険証に意見書を提出

 日弁連(日本弁護士連合会)は昨年(2023年)11月14日、「マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行保険証の発行存続を求める意見書」を取りまとめ、関係機関や自治体に提出した(意見書はこちら参照)。
 意見書では、
*マイナ保険証への一本化は、マイナンバーカードの「任意取得の原則」に反する
*マイナ保険証の取得・管理が困難である人を置き去りにしている(申請手続をしないと取得できない、介護施設入居者等にとって対応困難、紛失時の再発行に時間と手間がかかる、保険資格証明手段や本人確認手段を喪失させる、資格確認書のプッシュ型配布など政府の対応策の不合理性)
*マイナ保険証未取得者に医療費負担格差をつける不合理性
*政府のあげるマイナ保険証の利便性の不合理(重複投薬防止等の利点は現実と齟齬、システム化に対応できない医師の廃業等)
*マイナ保険証はプライバシー保障との関係で問題がある
*現場に過度の負担を押し付けているマイナンバーカード
などの問題点を指摘し、

1 政府は、マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行の健康保険証の発行を存続するべきである。

2 政府は、マイナンバーカードの利活用については、カードを取得しない自由を保障するとともに、カードの取得を希望する者に対してプライバシーを最大限保障し、さらに、地方自治体等の意向を踏まえて現場に過度の負担をかけないようにするべきである。

と求めている。

●プライバシー保障に問題があるマイナ保険証

 指摘されている医療や介護現場での問題等は、保団連(全国保険医団体連合会)や各地の保険医協会などの実証的な調査により指摘されている(こちら参照)。
 ここでは市民・患者にとって看過できないプライバシー保障の不備についての日弁連の指摘を紹介したい。

(1) 診療・薬剤情報、特定健診情報等との結合が当然の前提とされている
 マイナ保険証を使ったオンライン資格確認等システムでは、医療機関等は医療保険資格情報だけでなく、他院での薬剤情報や受診歴と手術情報も含む診療情報、特定健診等情報を見ることができる(こちら参照)。なお閲覧可能な情報は、今後の「医療DX」によってさらに拡大が予想される。
 医療機関が閲覧する際には、患者本人の同意が必要とされている。しかしそもそもマイナ保険証と診療・投薬情報、特定健診情報等との結合が当然の前提とされ、本人がこれに同意しない手続がなく、患者の自己情報コントロール権が保障されていない。医療機関も、センシティブ情報である診療情報等の結合自体を拒むことができない。
 診療・薬剤情報、特定健診情報等との包括的連携を拒む手続が保障されていない現在のマイナ保険証のシステムは、プライバシー保障に欠ける。

  厚労省資料(令和4年1月)より

(2) オンライン資格確認時に説明なしの同意を求めるシステム
 医療機関等がマイナ保険証で診療情報等を閲覧する際には、本人の同意が必要とされている。しかしその同意は、医師からその情報を閲覧する必要性等について何も説明を受けないうちに、受付窓口でカードリーダーを操作する際に求められる。患者は自らの治療のために医師との信頼関係の中で自らの状態を情報提供しているが、このような形式的同意ではこの信頼関係も損なう。
 さらに同意は、薬剤情報、特定健診等情報、診療情報の3区分で行われ、それぞれについて一括して過去数年分の情報が提供される。例えば腕の怪我の治療に際して、その治療とは関係のない1年前に性病にかかって服用した薬についての情報まで一括して提供するよう求められるのであり、患者は提供範囲の選択ができないシステムとなっている。
 このことについては法改正の国会審議でも、障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会の家平参考人からは「特に難病や内部疾患、精神障害者などからは、見られたくない個人情報が医療を受けるときにいつも見られてしまうことへの懸念や不安の声が多く寄せられています」と指摘されている(2023年5月17日参議院地デジ委)。
 医療DXによる医療情報の共有についての質問にも、家平参考人は「よく懸念されているのが、やっぱり障害とか疾患による差別というか、今まで長年そういう状況が続いてきているというのは、障害者にはたくさんあると思うんですね。そういう中では、例えば精神疾患だとかいう場合に、例えば歯医者に行くというときに、そういう関係のない情報まで、医療情報まで見られるということについての懸念だとか、そういうことが、知られたくない情報まで知られるんじゃないかと。しかも、そこの受付の人も含めてそういう情報が閲覧するというようなことになりかねないんじゃないかというのはいろいろありますし、それは障害者側にもストレスと、精神的苦痛にもなりかねないし、やる側、医療の側にもそういうことはあるんじゃないかなというふうに思う」と答えられている
 自己の医療情報にかかる「コントロール権」をないがしろにするシステムであるといわなければならない。

(3) マイナンバーカードの多目的利用とプライバシー保障
 国は利便性を重視して、マイナポータルで閲覧できる情報をどんどん増加させている。しかし、閲覧できる情報が多くなるということは、マイナンバーカードとパスワードが第三者の手に渡れば、なりすましによりマイナポータルにアクセスされ、極めて広範なプライバシーに関する情報を不正閲覧されてしまうなど様々な危険に直面させられる可能性が生じる。

●2/3市民学習会「マイナンバー制度を再考する」

 マイナンバー制度そのものが持つ問題点、さらにはマイナンバーカードの利用場面の拡大によって生じる私たち一人ひとりの権利侵害の可能性について、多彩な講師をお招きして、様々な角度からみなさまと学んでいきたい。

日時 2024年2月3日(土)午後6時00分~(開場17時45分)
場所 さいたま共済会館 601・602号室
   (埼玉県さいたま市浦和区岸町7丁目5-14)
費用 無料
定員 200名(先着順)
講師 稲葉一将 名古屋大学教授 
   實原隆志 南山大学教授  
   長久保宏美 東京新聞デジタル編集部編集委員
共催 埼玉県保険医協会・埼玉弁護士会・日本弁護士連合会
チラシ こちら 
※当日はYou Tubeによる配信を予定 URL: https://saitama-hokeni.com/
埼玉弁護士会   https://www.saiben.or.jp/event/001311.html
埼玉県保険医協会 https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2024-01-21/

●2/10シンポ「問題だらけのマイナ保険証を斬る!」

第1部 基調講演「マイナ保険証の先に何があるか?」
講師:斎藤貴男氏(ジャーナリスト)
第2部 パネルディスカッション
 パネリスト 斎藤貴男氏
       杉藤庄平氏(愛知県保険医協会理事・歯科医師)
       加藤光宏(愛知県弁護士会情報問題対策委員会委員長)
 コーディネータ 新海 聡(愛知県弁護士会情報問題対策委員会委員)
日時 2024年2月10日(土) 13:30~16:00
開催方法 Zoomウェビナーによるオンライン開催
申込方法 以下のURLまたはチラシのQRコードから申込フォームにアクセスし、必要事項をご記入の上、お申し込みください。
 ■ウェビナー事前登録URL
 https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_MecyhbLOTqyN-PYY9Momig
参加費 無料
  どなたでもご参加いただけます。
主 催:愛知県弁護士会
協 力:愛知県保険医協会
お問合せ 愛知県弁護士会
  名古屋市中区三の丸1-4-2
  ☎052-203-4410(平日9:00~17:00)
 https://www.aiben.jp/about/katsudou/jyouhou/news/2024/01/210.html

●「日本のデジタル社会と法規制」出版

 日弁連は2022年9月29日、第64回人権擁護大会シンポジウムの第2分科会「デジタル社会の光と陰~便利さに隠されたプライバシー・民主主義の危機~」を開催した
 このシンポジウムの内容を紹介した「日本のデジタル社会と法規制-プライバシーと民主主義を守るために」が2023年10月出版された(花伝社、2750円税込)。
 日弁連は2010年、「デジタル社会における便利さとプライバシー~税・社会保障共通番号制、ライフログ、電子マネー~」をテーマに、第53回人権擁護大会第2分科会を開催している。2010年は「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」が設置され、マイナンバー制度構築が開始された年だ。「日本のデジタル社会と法規制」の第3章では、その後のマイナンバー制度の利用拡大や日本のデジタル化の経過を概観しながら、デジタル庁の「包括的データ戦略」がめざす「行政自身が国全体の最大のプラットフォームとなる」デジタル化政策の問題点やプライバシー保護の欠如がコンパクトにまとめられている。

 昨年2023年、マイナンバー制度は大きな転換期を迎えた。マイナンバーの利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大するとともに法改正によらずに利用や提供を拡大可能にする番号法の改正、2019年から推進してきた全国民に2023年3月までにマイナンバーカードを所持させる政策の失敗、マイナ保険証等のひも付け誤りなど制度の欠陥の露呈、健康保険証廃止に対する反対とマイナ保険証に対する市民の忌避の広がり、その一方でマイナンバーカードの次期個人番号カードへの転換の検討開始、など(こちら参照)。
 デジタル化政策の中で、マイナンバー制度は発足当初とは異なる展開をはじめている。本書はこの変貌しつつあるマイナンバー制度に、市民がどのように対していくかを検討する素材として最適だ。第2分科会の基調報告書(423頁、PDF10.5MB、こちらからダウンロード)の第3編では、本書第3章についての詳しい説明がされており、さらに理解を深めることができる。

第1章 二〇一〇年以後のデジタル社会の進展
第2章 顔認証システム、AIによる情報処理、フェイクニュース
パネルディスカッション①デジタルプラットフォーマーに対し、世界はどのように取り組んでいるか
第3章 政府が目指しているデジタル社会とは?
コラム①地方自治体における個人情報保護をめぐる問題点
パネルディスカッション②我が国のデジタル化はどうあるべきか
第4章 プライバシー権保障のための仕組み
コラム②主権者の幸福に資するデジタル社会とは?

 なお2010年の第53回人権擁護大会第2分科会の基調報告書も、こちらからダウンロードできる。またその報告も「『デジタル社会のプライバシー-共通番号制・ライフログ・電子マネ-』」(航思社2012年2月、本体3,400 円+税)が出版されている。

1月21日(日)14時~予定の
新宿駅南口街頭宣伝活動は
中止します

共通番号いらないネットでは、月1回「マイナ保険証を強制するな!マイナンバーカードなんていらない!JR新宿駅南口 街頭宣伝アクション」を行ってきました(こちらのいらないネットのサイト参照)。

2024年最初の街頭宣伝を1月21日(日)午後2時からJR新宿駅南口で予定していましたが、荒天が予想され、雪の可能性もあるため、中止とします。

月イチJR新宿駅南口 街頭宣伝アクションでは、市民が「マイナ保険証を強制するな!マイナンバーカードなんていらない!」を、1時間リレートークで訴えています。
過去のリレートークの模様は、下記で「ビデオ」をクリックするとご覧になれます。

ビデオ記録▼
●日時●2023年12月17日(日)
» ビデオ

●日時●2023年11月12日(日)
» ビデオ

●日時●2023年10月8日(日)
» ビデオ

●日時●2023年9月1日(金)(デジタル庁前)
» ビデオ

●日時●2023年8月20日(日)
» ビデオ

●日時●2023年7月1日(土)
» ビデオ

●日時●2023年6月10日(土)14時〜
» ビデオ

●日時●2023年5月31日(参院議員会館前行動)
» ビデオ

●日時●2023年5月19日(参院議員会館前行動)
» ビデオ

●日時●2023年4月9日(日)14時〜
» ビデオ

●日時●2023年3月12日(日)14時〜
» ビデオ

●日時●2023年2月12日(日)14時〜
» ビデオ

●日時●2023年1月21日(土)14時〜
» ビデオ

●日時●2022年12月3日(土)14時〜
» ビデオ

マイナ保険証やめろ!
マイナカード強制するな!
7.15新宿デモ

2023.7.15新宿デモ

●際限のない利用拡大に道を開く番号法改悪

 6月2日、改悪番号法が参議院本会議で成立した。マイナンバーの利用事務を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大するとともに、法律に規定がなくても「準じている」と行政が判断すれば利用を可能にし、法律の規定なしに情報連携を可能にする改正だ。
 3月9日の最高裁判決は、番号法が利用範囲を3分野に限定し、利用・提供を法令で限定していることを合憲理由の一つとしていたが、これにも抵触する。利用や提供の手始めに、国家資格の管理システムや在留外国人の適正管理のためにマイナンバーを利用拡大する(法改正内容についてはこちら、反対の取組はこちら、審議経過はこちら)。

 国会審議では、健康保険証廃止に向けて資格確認書を新設する法改正に対して、申請主義のマイナ保険証や資格確認書では高齢者や障がい者が保険診療を受けられなくなることや、施設入所者ではマイナンバーカードの管理が困難であることが、5月17日の参議院参考人質疑で明らかにされた。また医療現場ではマイナ保険証では保険資格が正しく表示されなかったり顔認証を誤る事例が多発し、その結果マイナ保険証で受診すると窓口でいったん10割支払う事態が起きていることが、保団連の調査で明らかになった。

 共通番号いらないネットは、4月25日5月8日5月19日5月31日と国会前行動や議員への要請行動などを取り組み、5月25日に声明「マイナンバーカードのトラブルは政府の責任 健康保険証は廃止するな! 番号法「改正」案は撤回を!」を発表した。保団連(全国保険医団体連合会)やマイナンバー制度反対連絡会などによる国会行動も連日のように取り組まれた。
 その結果、当初5月19日に予定されていた参議院の委員会採決は延期され、5月31日の委員会でも委員長から一時採決延期の考えが示されるほど反対世論が高まったが、残念ながら採決を阻止することはできなかった。参議院では20項目の附帯決議が付いている。

トラブル続出はマイナンバー制度の破綻を示す

 この国会審議の最中、マイナンバー制度のトラブルが次々と明らかになった。証明書コンビニ交付での誤交付、マイナポイントの別人口座への誤ひも付けや家族口座へのひも付け、マイナンバーカードへの別人の顔写真記載や別人への発行、公金受取口座の誤登録、マイナ保険証の誤ひも付けと別人の医療情報の閲覧、地方職員共済年金や障害手帳のデータの誤ひも付け。それらが終息に向かうというより、さらに新たなトラブルが発覚するという状態だ。
 当初、マイナンバーシステムの問題ではないと軽視してきた政府も、デジタル大臣、総務大臣、厚労大臣がそろって謝罪会見するハメになったが、しかしそれでも政府の責任は認めず、業者のミス、自治体や保険者の事務処理の誤り、意図的に家族口座にひも付けた市民のせいと、責任転嫁を続けている。

 それらの原因はさまざまだが、一連のトラブルで指摘できるのは、
 一つは、2023年3月までにほぼ全ての住民にマイナンバーカードを所持させるという2019年6月に策定した方針を、市民のニードと無縁にごり押しした無理の顕在化。
 第二に、マイナポイントの誤ひも付けは昨年(2022年)8月に総務省が確認し、公金受取口座の誤ひもつけは今年2月に国税庁から連絡され、マイナ保険証では2021年3月の開始予定が誤ひも付けが約35000件把握されて10月に実施延期された後も、誤ひも付けが発生していることが2021年11月には把握されていながら、それら事実を市民に公表しないまま、マイナンバーカードの普及やマイナポイントの申請やオンライン資格確認の義務化を推進し、トラブルを拡大してきたこと。
 第三にデジタル庁が庁内の連絡体制の不備によりこれらの事実を把握できなかったと説明しているように、2021年9月に発足した官民一体のデジタル庁が予想されたとおり統制がとれず、このような組織がマイナンバー制度の推進をはじめ私たちの個人情報の共有政策を推進するという危険な暴走状態にあること。
 そしてこれらのトラブルが5月以降一斉に顕在化したのは、2023年3月までのマイナンバーカード普及や国会での番号法改正案成立を最優先して、その支障になる不都合な事実は隠蔽しようとしてきたのではないかという疑惑などだ。

 これらでも、政府の責任は明らかだ。しかしさらに重要なのは、この一連のトラブルが示しているのは「個人を一意に識別して、個人情報を分野を超えて生涯ひも付ける」ことを目的とした社会基盤として2015年につくられたマイナンバー制度が、数兆円の税金を投じて7年以上運用されてきたにもかかわらず、その目的達成に失敗しているということだ。

●マイナカード押しつけを強化する「対応策」

 しかし政府はそのようなマイナンバー制度を推進してきた自らの責任を認めるどころか、このトラブルを利用してマイナンバーによる市民の管理をさらに強化しようとしている。
 6月21日に発足したマイナンバー情報総点検本部は、再発防止策の方向性として「各種申請時のマイナンバー記載義務化」をあげている。点検し検証する前に、今後の方向性は決めており、「総点検」はそのための口実づくりだ。
 早くも厚労省は6月1日から、資格取得届等にマイナンバーの記載を求める省令改正を施行している。いちおうマイナンバーの記載がない場合は、5情報(漢字氏名、カナ氏名、生年月日、性別、住所)によって地方公共団体情報システム機構(J-LIS)にマイナンバーを照会する扱いを保険者に示しているが、5情報が一致しない場合は本人に確認することとしている。

 注意すべきは、本人からマイナンバーの提供を受ける際には、かならず本人確認(身元確認と番号確認)を行うことが、番号法16条で義務づけられていることだ。

 本人確認はマイナンバーカードの提示のほか、運転免許証やパスポートと番号通知カードの組み合わせなどが認められてきたが、番号通知カードの新規・更新発行は2020年5月で終了し、住所氏名等に変更があれば番号確認書類として使えなくなっている。したがってマイナンバーの提供が「義務化」されれば、事実上、マイナンバーカードを提示するか、マイナンバーが記載された住民票写し・住民票記載事項証明書を提出せざるをえなくなっている(提供先によって若干の例外あり)。

 私たちは基本的人権を侵害する個人情報の利活用制度であるマイナンバー制度に反対し、「書かない番号!持たない(マイナンバー)カード!」と訴えてきた。それに対し各行政機関は、マイナンバーの提供を求めるが本人が拒んだ場合はそのまま申請を受理し、不利益なく手続きを行うことを認めてきた(厚労省国税庁金融庁)。
 政府のなすべきことは、なぜマイナンバー制度が目的達成に失敗したかを検証することであり、マイナンバー制度の失敗を糊塗するためにマイナンバーの提供とマイナンバーカードの取得を強要することは許されない。

マイナンバー制度改悪法案
早くも衆院通過-参議院へ

●拙速にすすんだ衆議院の委員会審議
●法案賛成だけの偏った参考人質疑
●「デジタルファシズムを思わせる」と立憲反対
●早くも参議院で審議入り
●疑問に答えず「メリット」を繰り返す答弁
●「より良い医療」を押しつけられるか
●行政判断で歯止めなき利用拡大へ
●政府のごまかし答弁
●いずれマイナポータルから招集令状?!

 3月7日に国会提出された番号法「改正」法案は、マイナンバー制度を大きく変える利用範囲や利用・提供の拡大、私たちの生活に直結する健康保険証廃止や戸籍氏名のフリガナ記載、預貯金把握に懸念が多い公金受取口座登録に通知に返答なければ登録する「行政機関等経由登録」の新設など、重要な変更がされようとしている。
 共通番号いらないネットは国会に対し徹底した問題点の解明と拙速に採決しないことを求めてきたが、急ピッチで衆議院を通過した。参議院では議論不十分なまま安易な採決が行われないよう、共謀罪・秘密保護法に反対する市民団体とともに、国会前行動を行う。

− マイナンバーカード強制反対! −
共謀罪廃止! 秘密保護法廃止! 監視社会反対!「12.6 / 4.6 を忘れない6日行動」
日時:2023年5月8日(月)12時〜12時45分
会場:衆議院第二議員会館前
詳しくは共通番号いらないネットのサイト

●拙速にすすんだ衆議院の委員会審議

 衆議院では4月14日の本会議で審議入りし、地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会で18日19日20日と急ピッチで審議が進み、共通番号いらないネットや中央社会保障推進協議会・全国保険医団体連合会マイナンバー制度反対連絡会などが国会前で反対行動を繰り広げる中、25日の委員会で採決された。
 この法案は約20の法改正の「束ね法案」で、その中には法務委員会で審議すべき戸籍の記載事項に氏名のフリガナを追加する戸籍法改正や、健康保険証廃止の条件整備として「資格確認書」を新設する医療保険各法改正のように厚生労働委員会と連合して審査すべき事項なども含まれていたが、特別委員会での13時間程度の審議により採決された。

●法案賛成だけの偏った参考人質疑

 20日に行われた参考人質疑では、日本医師会の長島公之常任理事、日本労働組合総連合会の冨田珠代総合政策推進局長、東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹、株式会社New Storiesの太田直樹代表取締役の4名が意見を述べた。
 森信、太田の両名はデジタル庁で法改正を検討してきたマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループの構成員であり、日本医師会の長島参考人はマイナ保険証を基礎とした医療DXはぜひとも進めるべきという立場から、連合の富田参考人は納税者番号とマイナンバー制度を推進してきた立場からの意見だった。
 賛否のバランスをとることが多い参考人招致で、全員が法案推進の立場から意見を述べるという偏った質疑になり、マイナンバー制度や法案に対する市民の疑問や懸念は省みられなかった。

●「デジタルファシズムを思わせる」と立憲反対

 4月25日の委員会採決では、立憲民主党と共産党が反対討論を、維新の会が賛成討論を行った。自民・立憲・公明・国民の4会派提案の12項目の附帯決議が付いている。
 立憲の福田委員はデジタルファシズムを思わせるような改正案だとして、マイナ保険証の見切り発車は強引で国民皆保険を損なう、利用拡大は説明不足、公金受取口座登録の「行政機関等経由登録」はあまりに強引だなどを指摘し、健康保険証の存続と監視や統制の手段ではなく国民の利便性の向上に資するデジタル化を求めた。
 共産の塩川委員は、保険証を廃止して申請交付にするのは国・保険者の責任放棄でありマイナ保険証の押し付け・保険証の廃止は撤回すべき、利用範囲拡大と利用・提供の法定の緩和はプライバシー侵害の危険性をいっそう高める、「行政機関等経由登録」は国民不信を招く、戸籍氏名のフリガナを審査するのは命名権の侵害などを指摘し、マイナンバー制度は廃止すべきとした。
 これに対し維新の住吉委員はマイナンバーをより幅広くフル活用すべきとして、改正法案の方向をより一層のスピード感を持って取り組むように強く要望するとともに、附帯決議に対してマイナンバーの利用促進を妨げる条項もあるとして反対した。

●早くも参議院で審議入り

 改正法案は27日午後の衆議院本会議で、自民、維新、公明、国民、有志の会の賛成、立憲、共産、れいわの反対で可決され、早くも翌28日午前の参議院本会議で趣旨説明と質疑が行われた。参議院本会議では、岸真紀子(立憲)、猪瀬直樹(維新)、伊藤孝恵(国民)、伊藤岳(共産)の各議員が質問を行った。

 立憲からは、束ね法案の問題、マイナ保険証でなぜ健康保険証を存続できないのか、申請方式のマイナ保険証や資格確認書では国民皆保険に漏れが生じる、公金受取口座登録は明示的な同意にかぎるべきで便乗した特殊詐欺も懸念、戸籍へのフリガナ追加で市町村窓口でトラブルのおそれ、などの問題を指摘した。
 その一方で、国民のための行政と社会のデジタル化につながるマイナンバーの利用拡大は推進する立場で、民主党政権でマイナンバー制度がスタートした当初の給付付き税額控除のための正確な所得資産把握という目的が見失われていることを批判した。

 維新からは、マイナンバーとマイナンバーカードの利用拡大を求め、収入資産把握という制度の根幹を進展させずに枝葉の成果をアピールしていると政府を批判した。マイナ保険証も電子カルテとの連動など利用拡大を主張し、マイナカード取得・マイナ保険証・預貯金口座とマイナンバーのひも付けなどの義務化を求めた。

 国民民主は、デジタル化の前提としての人権保障の必要や、マイナカード・マイナポイントの費用対効果や随意契約の問題点、公金受取口座のみなし同意は疑問、利用拡大に対する国会等の関与などを指摘し、情報の自己決定権を憲法で保障することを提案した。

 共産は、利用拡大でプライバシー侵害の危険性が広がるとの日弁連会長声明や、マイナ保険証は地域医療を損ない国・保険者の責務を放棄、公金受取口座登録は明示的な同意によるべき、戸籍フリガナを本籍地市町村長が記載するのは命名権の侵害などを指摘し、個人情報保護の対策は後回しにしたまま保険証を人質にとってマイナンバーカードの取得を強制することはやめよ、と迫った。

●疑問に答えず「メリット」を繰り返す答弁

 国会審議における政府の答弁は、指摘された問題点に応えずに、政府の考えるメリットを何回も繰り返すというものだった。
 例えばマイナ保険証では、政府はマイナンバーカードの申請・管理が困難な高齢者等への対応として、マイナカードの申請・代理交付等について入所施設の職員や支援団体等が協力したり、入所者のマイナカードを施設長が管理することを求めているが、保団連の「健康保険証廃止に伴う高齢者施設等への影響調査」では94%の施設が対応できないと答えている。政府の「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」の関係団体ヒアリングでも、異口同音にマイナンバーカードや暗証番号の管理の困難や申請の意思確認や顔写真撮影などの難しさが指摘されていた。
 健康保険証なら申請なしに送られてきて施設で預かり管理できても、「実印レベル」であるマイナンバーカードを申請し管理することは過大な負担になる。健康保険証なら問題ないので存続させるべきではないかと問われても、政府は「マイナ保険証で医療データが共有されて患者にとってより良い医療が受けられるので、保険証は廃止する」との答弁を繰り返すばかりだった。

 公金受取口座登録についても、行政が把握する口座を本人に通知して不同意の返信がなければ登録するという「行政機関等経由登録」を新設し、本人が希望していないにもかかわらず登録するのは強引すぎると批判されても、登録により国民が不利益をこうむるものではないので登録すると答弁した。
 不利益を被るのではないかと不安を抱いている市民が少なくないことは、マイナポイントで釣っても4割の人が公金受取口座の登録をしていない(デジタル庁ダッシュボード2023.4.23)ことでも示されているが、政府は無視している。

●「より良い医療」を押しつけられるか

 マイナ保険証やオンライン資格確認のデメリットが明らかになってくるにつれて、政府はもっぱら「医療データが共有されて患者にとってより良い医療が受けられる」ということを強調している。しかし何が「より良い医療」かを判断するのは患者であり、政府に押しつけられることではない。
 そもそも市民はメリットを感じていない。マイナポイントで釣っても、マイナカード所持者の1/3は保険証利用登録をしていない(デジタル庁ダッシュボード2023.4.23)。しかも保険証登録した理由の約9割は「マイナポイントがもらえるから」だ(業種別政府ネット調査)。

 マイナ保険証での医療データの閲覧状況を見ても、2023年3月の厚労省データでマイナ保険証による資格確認利用件数2,670,743件のうち、特定健診情報を閲覧したのは519,600件(19%)、他医療機関の診察情報を閲覧したのは590,600件(22%)だ。薬剤情報の閲覧でも1,240,319件(46%)に留まっている。
 そもそもオンライン資格確認の利用件数118,042,845件のうち、多くは医療データの閲覧ができない健康保険証利用による確認で、マイナ保険証利用は2,670,743件(2.3%)だ。ほとんどの受診者は閲覧していない医療データの閲覧を理由に、「より良い医療」を受けられるからと窓口で加算(下図:中医協資料より作成)を請求されている。ぼったくりだ。

 当ブログ「「より良い医療」を理由にマイナ保険証を強要できるか」で述べているように、オンライン資格確認によって患者には望まない医療情報(厚労省も精神科や婦人科を例示)が医療機関に伝わる不安や、DV等被害につながるおそれなどのデメリットもある。医療者の職業倫理(守秘義務)からも問題だ。
 登録される医療情報や医療機関が閲覧できる情報の選択権など、自己情報コントロール権を保障する法制度が前提でなければならない。

●行政判断で歯止めなき利用拡大へ

 今回の改正法案は、当ブロク「個人情報保護措置を崩すマイナンバー法改正案」のように、社会保障・税・災害対策の3分野以外の行政事務にマイナンバーの利用を広げる。いままで政府は3分野に利用が限定されているので治安対策自衛官募集等にマイナンバーを使うことはできない、と答弁してきたが、その歯止めがなくなり際限のない利用拡大がはじまる。
 さらにマイナンバー制度の個人情報保護措置の一つであるマイナンバーの利用情報連携を法律で制限していることを崩し、法定の利用事務に準じると行政が判断すれば利用を可能にし、情報連携事務を規定していた別表第二を廃止して利用事務であれば情報連携による提供を可能にする。

 この利用が3分野に限定されていることや、利用・提供を法律で規定していることは、最高裁が3月9日の判決でマイナンバー制度を合憲と判断した理由の一つだった。政府はこの法定を崩していくことに対して
a.個別の法律の規定に基づく利用拡大は法定事項であり、改正は国会で審議される
b.準ずる事務について、事務の性質が同一であるといった基準を改正案に規定している
c.準ずる事務は主務省令で公表され、主務省令の改正にあたっては行政手続法でパブリックコメントを行う必要があり、国民にはわかる
d.情報連携事務の法定をなくしても、情報連携できる主体と利用事務は法令で限定されているので、政府の裁量が大きくなることはない
e.個人情報保護委員会による監視監督の対象となることや分散管理など個人情報保護に変更はない
など、論点をぼかした答弁をしている。

●政府のごまかし答弁

 a.3分野以外への利用拡大がその都度法定されるのは当然であり、問題はどこまで利用が広がるのか、なんの歯止めもないことだ。今回提案されている利用拡大が、国家資格の登録管理システムや在留外国人の適正管理であることをみると、いよいよ国民監視というマイナンバー制度の真の意図が露になってきた。個人の行動把握を可能にするマイナンバーカードを、全住民に所持させるための普及促進策も法改正に含まれている。
 国会審議の中では、マイナンバー制度の立法段階から中心になって制度構築をしてきた向井治紀(元)内閣府大臣官房番号制度担当室長・(現)デジタル庁参与の発言が問題になった。「霞が関の「上から目線」ではだめだ、ミスター・マイナンバーが語る課題と今後(日経クロステック2023.04.13)」のインタビューで向井参与は、マイナンバー利用事務を最終的には法律ではなく政令で書けば利用できるようにすべきだ、と主張し、今回の法改正で「準ずる」事務でも利用できるようにしたのは非常に一歩進んだ良い改正だが、利用事務を法の別表第一に規定しているのは住基ネット訴訟の最高裁における合憲判決で利用範囲を法令に書かれていることとされたのを踏まえたためで、別表第一をなくすことが(今回の法改正後に)残された課題だと述べていた。
 これが政府の本音ではないかという立憲・岡本委員の問いに河野デジタル大臣は、参与は非常勤でデジタル庁の意思決定には係わらず日本は独裁国家ではないから有識者がいろいろ発言することは自由だという答弁をしていたが(2023年4月25日衆議院ちこデジ委員会)、向井参与は単なる有識者ではなくマイナンバー制度を作ってきた中心人物であり、発言の重みが違う。(2023.5.6追記)

 b.「準ずる事務」について「事務の性質が同一」等の基準があるというが、それに合致するかを判断するのは行政だ。問題は、いままで国会が判断していた利用拡大を、行政が判断するということだ。
 本来個人情報の利用・提供は本人同意に基づき行われるべきだが、マイナンバーを利用する特定個人情報については国会で法律に規定することで本人同意なく利用・提供可能とされている(私たちはそれでも自己情報コントロール権の侵害と考えているが)。その原則が崩れることが問題だ。

 c.マイナンバーの利用・提供の変更の際は、実施前に特定個人情報保護評価の実施が義務付けられている。国会答弁でそれに触れていないのは奇異だ。政府は改正理由として「情報連携を速やかに開始する観点」を強調しているが、法定を緩めても特定個人情報保護評価の実施(パブコメ、第三者評価)やシステム改修・運用テストなどが必要であることに変わりはない。「準ずる事務」は重要ではない変更として、特定個人情報保護評価の実施をスルーするつもりか?
 政府は速やかな開始が必要な例として、新型コロナ対策のワクチン接種システム(VRS)をあげている。このVRSはマイナンバーの利用拡大をしたいという平井元大臣の思惑によって、番号法に規定する個人情報保護措置をスルーして作られ、それを個人情報保護委員会が追認するという極めて重大な経過をたどった(コロナ予防接種で崩される!マイナンバーの個人情報保護(2)マイナンバー東京訴訟控訴審準備書面(3)20頁~参照)。特定個人情報保護評価の実施も、緊急時だから事後評価でよいとされて空洞化した(「新型コロナウイルス感染症対策に係る予防接種事務の特定個人情報保護評価の実施に係る解説」4頁)。このようなことを繰り返してはならない。

 d.個人情報保護において、利用と提供のプライバシーリスクは異なる。だからこそ番号法では利用(第9条、別表第一)と提供(第19条、別表第二)を分けて法定し、個人情報保護措置を規定していた。利用する主体と事務が法令で限定されているから、提供を限定しなくても政府の裁量は拡大しないというのは、利用と提供の違いを無視する暴論だ。
 しかも提供される事務の利用は法令で限定というが、この利用には「準ずる事務」(準法定事務)も含まれており(改正法第19条8で「準法定事務処理者を含む」と規定)、ますます政府の裁量は広がる。

 e.個人情報保護措置に変更がないのは当たり前だが、問題はこの個人情報保護措置が機能不全になっていることだ。
 とくに個人情報保護委員会に対しては、マイナンバー訴訟でも機能不全が問題になってきた。東京訴訟控訴審の準備書面(5)では、委員会の任務に個人情報の利活用推進も含まれている、委員会の監督権限が及んでいない重要な分野(刑事事件捜査など)がある、個人情報保護を専門とする常勤委員がいない、膨大な任務に比して委員会のマンパワーが不足などを指摘している。神奈川訴訟では個人情報保護委員会事務局長を証人申請した(個人情報保護委員会の現状と課題については、日弁連の第64回人権擁護大会第二分科会基調報告書219頁~参照)。

●いずれマイナポータルから招集令状?!

 国会審議の中で、改正後のマイナンバー制度の将来を暗示させるような発言があった。4月28日の参議院本会議で国民民主党伊藤参議院議員は質問の最後に、ロシア政府が給付金申請、ワクチン接種、住民登録など行政サービスを受けるために国民が登録していたシステムを使って、徴兵逃れ防止のために招集令状を個人アカウントに送りつけるニュースを紹介した。
 個人アカウントに通知すれば、対象者が招集令状を受け取ったことになり、出国が禁止され、出頭しなければ自動車運転やローン申込など社会活動が制限される。利用される政府のポータルサイトは「国のサービス」を意味する「ゴスウスルーギ」という名前で、「思ったより簡単」というキャッチフレーズで利用の呼びかけが行われてきたという(NHK解説委員室2023年04月27日「ウクライナに侵攻するロシアでデジタル招集令状導入 背景と影響」安間英夫解説委員など参照)。日本のマイナポータルとそっくりで、その将来を暗示させるようなニュースだ。
 4月25日の共通番号いらないネットの国会前行動で参議院沖縄の風の高良議員は、戦前の動員体制で役場に免許や技術など職業能力の申告をさせて徴兵の際の部隊配置などに活用してきたことを紹介し、マイナンバー制度の(改正法案で拡大される国家資格管理システムの)利用で同様のことができることを指摘され、利用拡大には軍事的な意味もあることを強調された。
 このような社会にしないためにも、マイナンバー制度の利用拡大に反対しなければならない。 

マイナンバー制度改悪迫る
「改正」案成立を許さない

●番号法「改正」案の国会審議開始

 マイナンバー制度の個人情報保護措置を崩し、利用を3分野から拡大し、健康保険証廃止に向けて準備し、公金振込口座を不同意しなければ登録してしまう番号法「改正」案の国会審議が、4月14日の衆議院本会議で審議が始まった。4月18日から衆議院地域・こども・デジタル特別委員会で審議され、来週にも採決が予想されている。
 共通番号いらないネットでは、国会議員への徹底審議の要請をしつつ(要請は末尾参照)、当面4月25日(火)12~13時に「番号(マイナンバー)法「改正案」の成立を許さない!衆議院第二議員会館前行動」を取り組む(詳細はこちら)。

●番号法「改正」反対のさまざまな取り組み

 日弁連(日本弁護士連合会)は3月29日「マイナンバー(個人番号)利用促進の法改正の再検討を求める会長声明」を発表した(→こちら)。法曹界では自由法曹団も4月18日「国民のプライバシー権を軽視するマイナンバー(個人番号)利用促進の法改正に反対する声明」を発表している(→こちら)。
 3月9日のマイナンバー訴訟最高裁判決が、利用の3分野への限定や利用・提供を法律で限定列挙していることなどを示して合憲判決を下していることをふまえ、拡大の歯止めや国会の関与の必要、任意取得の原則をふまえたマイナンバーカードの普及・利用などを指摘している。

 マイナ保険証(オンライン資格確認等システム)については、4月からの医療機関への導入義務化に対して、東京保険医協会の呼びかけで保険医・歯科保険医274人が2月22日「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」を提訴した
 導入義務化に伴い廃業する医院も出ており、医療の本質とかかわりのない資格確認の方法によって地域医療が損なわれることがあってはならないという立場から、義務化を定めた療養担当規則が違憲・違法であるとして提訴したものだ。全国の保険医に対して、引き続き原告団への参加を呼びかけている

 保団連(全国保険医団体連合会)は、医療現場などの実態調査をふまえ、法案撤回の厚労省への要請国会要請行動など取り組んでいる。
 実態について4月10日に「健康保険証廃止に伴う高齢者施設等への影響調査」の結果を発表した。厚労省はマイナカード利用が困難な方への対応として、施設職員や支援団体等にマイナカードの申請・代理交付等の支援について協力要請し、施設長が施設入所者分のマイナカードを管理し受診等の際にマイナカードを介助者など第三者に預ける場合等の対応を検討するとしている。
 調査結果では、現状約84%の施設で利用者・入所者の健康保険証を管理しているが、9割以上の施設が利用者・入所者のマイナカードの申請代理したり管理ができず多大な負担とトラブルを心配していることが明らかにされた。
 保団連とともに中央社保協(中央社会保障推進協議会)、マイナンバー制度反対連絡会は、国会審議に向けて法案撤回を求める緊急Twitterデモ&国会前昼休み集会を呼びかけている。

 その他、各地で法案に反対する集会等が行われている。多岐にわたる問題(共通番号いらないネットの下記議員要請参照)を束ねて決めて、マイナンバー利用・提供の法定を崩して無制限な拡大を図り、健康保険証の廃止や不同意表明しなければ勝手に公金口座を登録するなど、人権無視の暴走を止めるために、今、行動が必要だ。

●番号法改正案に対する疑問・懸念

 関係議員に要請した「番号法改正案に対する私たちの疑問・懸念」(→ダウンロードはこちら

個人情報保護措置を崩す
マイナンバー法改正案

●番号法の改悪案を国会提出
●制度のあり方を変える改悪案の内容
●マイナンバーの利用「範囲」を拡大
●法律による利用・提供の制限をなし崩しに
●利用や提供の歯止めがなくなる
●有識者からも法改正に懸念の声が
●最高裁判決からも許されない改正案

●番号法の改悪案を国会提出 

 2023年3月7日、政府は番号法改正案を閣議決定し、国会に提出した。4月にも審議が始まろうとしている。共通番号いらないネットは、3月14日、マイナ保険証の強制と番号法改悪に反対する院内集会を開催した。

  集会決議

●制度のあり方を変える改悪案の内容

 この改正案は、いままでの改正が利用事務の拡大であったのに対して、利用範囲を社会保障・税・災害対策の3分野以外に拡大するとともに、個人情報保護措置とされていたマイナンバーの利用・提供の法律に定める原則を崩すなど、マイナンバー制度の仕組みそのものを変える今までにない改正になっている。
 デジタル庁による「法案概要」では、今回の法改正は
[1]マイナンバーの利用範囲の拡大
[2]マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直し
[3]マイナンバーカードと健康保険証の一体化
[4]マイナンバーカードの普及・利用促進
[5]戸籍等の記載事項への「氏名の振り仮名」の追加
[6]公金受取口座の登録促進(行政機関等経由登録の特例制度の創設)
がポイントとなっている。

    テジタル庁資料 法案「概要」

●マイナンバーの利用「範囲」を拡大

 「法案概要」の1では、改正案では法の理念として、社会保障制度、税制及び災害対策の3分野以外の行政事務もマイナンバーの利用の促進を図ることをうたっている。
 現行法では第3条(基本理念)2で、社会保障・税・災害の分野は利用の促進他の行政分野や行政以外の国民の利便性向上になる分野は利用の可能性を考慮して進めることになっていた。
 それが改正案では「その他の行政分野」が、「利用の可能性を考慮」から「利用の促進」に変わる。

【現行法】第三条2 個人番号及び法人番号の利用に関する施策の推進は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、行政運営の効率化を通じた国民の利便性の向上に資することを旨として、社会保障制度、税制及び災害対策に関する分野における利用の促進を図るとともに、他の行政分野及び行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行われなければならない。
   ↓ ↓ ↓
【改正案】第三条2 個人番号及び法人番号の利用に関する施策の推進は、個人情報の保護に十分配慮しつつ、行政運営の効率化を通じた国民の利便性の向上に資することを旨として、社会保障制度、税制、災害対策その他の行政分野における利用の促進を図るとともに、行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利用の可能性を考慮して行われなければならない。

●法律による利用・提供の制限をなし崩しに

 「法案概要」の2では、マイナンバーの利用と提供(情報連携)の法定主義をなし崩しに緩和しようとしている。
 現行法では、マイナンバーを利用できるのは法9条により別表第一に列挙する事務と自治体が条例で規定する事務のみであり、情報提供ネットワークシステムを使って情報連携できるのは法19条8・9により別表第ニに列挙する事務と個人情報保護委員会規則で認めた自治体の事務に限定されている。
 それを改正案では、第9条の別表第一に列挙されている利用事務に「準じる事務」として省令で定める事務を「準法定事務」として、法律に規定がない事務も行政の判断で国会に図ることなくマイナンバーの利用を可能にする。
 それとともに法19条を改正し、情報連携事務を限定列挙した別表第二を廃止して、別表第一(改正後は単に「別表」)による主務省令で利用を認めている「特定個人番号利用事務」であれば、行政機関等の判断で情報提供ネットワークシステムを使って提供できるようにしようとしている。

●利用や提供の歯止めがなくなると

 番号法が成立した2013年の国会審議では、個人番号の利用範囲あるいは提供範囲は、番号法で社会保障・税・災害と限定的に書いているので、警察や公安でのマイナンバー制度の利用は想定していない、と説明されていた(参議院内閣委2013年5月21日向井政府参考人)。
 自衛官募集業務について、DMを送る対象者を絞り込む際の情報収集にマイナンバー制度を使うことはないかと質問された際には、「社会保障、税、災害対策の分野で利用されるものでありまして、自衛官の募集の分野では利用することはできないものだと承知をいたしておりまして、自衛官の募集につきまして、現在のところマイナンバー制度を利用する予定はございません。」と中谷防衛大臣は答弁していた(参議院安保特別委2015年9月2日)。
 利用を3分野に限定する番号法の規定が、これら利用拡大を防ぐ歯止めとなっていた。
 政府はマイナンバー制度が「安心・安全」である根拠の一つとして、マイナンバーの利用範囲・情報連携の範囲を法律に規定し目的外利用を禁止していることを、私たちにも国会でも説明し、裁判でも主張してきた(下図)。その前提が崩れていく。

法制審議会戸籍法部会2017年10月20日参考資料3マイナンバー制度について

●有識者からも法改正に懸念の声が

 この法改正は、デジタル庁が設置した「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」で検討されてきた。
 2022年11月29日の第7回WGでは、デジタル庁の示した法改正事項に対して、有識者から「何かよく分からない間に利用範囲を広げたように伝わらないように」「便利になるから、ということだけで拡大するのではなく、国民の理解を得ることが不可欠」「なぜ歯止めが必要なのかというのは、幾つか懸念があった名寄せリスクですとか、いわゆる国民の情報が全て一元管理されるのではないかというリスクに対する答えだったということは忘れないでいただきたい」などの懸念が示されていた(議事録)。
 デジタル庁が提出した法改正の資料(11頁 下図)でも、「新たに追加されるマイナンバー利用事務や情報連携の状況について事後監視のあり方についても検討が必要か。」との記載がされているが、「事後監視」についての説明はされていない。個人情報保護の役割を果たせていないことがマイナンバー違憲訴訟で指摘されている個人情報保護委員会に、監視を委ねることはできない。
 そもそも「どこまでマイナンバーによるひも付けが広がってしまうのか」との不安に対して法律で明確に制限するための規定であり、「事後監視」すれば済む話ではない。

「マイナンバー法の改正事項」(2022年11月29日第7回WG資料)

●最高裁判決からも許されない改正案 

 この改正案が閣議決定された2日後の3月9日、最高裁は全国8カ所で争われているマイナンバー制度を憲法違反として利用差止等を求めた訴訟のうち、九州・仙台・名古屋訴訟を先行して棄却する判決を下した。大阪訴訟は最高裁に上告中であり、東京・神奈川・金沢訴訟はまだ高裁判決も出ていない段階での異例の最高裁判決だった。
 最高裁判決は争点であった憲法13条のプライバシー権について、15年前(2008年3月6日)の住基ネット最高裁判決と同じく「みだりに第三者に開示又は公表されない自由」と解し、情報化の進展に対応した自己情報コントロール権を認めなかった。また指摘してきた現実に起きている問題事例(いらないネットリーフ12参照)を検証せずに、法の規定をなぞるだけで漏洩や目的外利用等の「危険性は極めて低い」と判断するなど不当な判決だった。
 しかしこの最高裁判決でも、具体的な法制度や実際に使用されるシステムの内容次第では、芋づる式に外部に流出したり、不当なデータマッチングによって、個人情報がみだりに第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得ると認め、番号法が利用範囲を社会保障・税・災害対策に限定し、提供を制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ認めていること等を、合憲理由の一つとしていることに注視しなければならない。
 政府が番号法改正で行おうとしているのは、これら個人情報保護措置をなし崩しにすることであり、この最高裁判決に照らしても認められるものではない。

2023年3月9日最高裁判決 第1(抜粋)
第1 2(2)個人番号及びその利用範囲イ(抜粋)
「番号利用法は・・・(利用することができる)上記一定の事務の範囲を、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定している。」(3頁)
第1 2(3)特定個人情報の提供に関する規制(抜粋)
「番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し(同法19条)、その禁止が解除される例外事由を同条各号で規定している。」(9頁)

2023年3月9日最高裁判決 第2 1(2)(抜粋)
「・・・前記第1の2(2)イのとおり、番号利用法は、個人番号の利用範囲について、社会保障、税、災害対策及びこれらに類する分野の法令又は条例で定められた事務に限定することで、個人番号によって検索及び管理がされることになる個人情報を限定するとともに、特定個人情報について目的外利用が許容される例外事由を一般法よりも厳格に規定している。
 さらに、前記第1の2(3) 及び(5)イのとおり、番号利用法は、特定個人情報の提供を原則として禁止し、制限列挙した例外事由に該当する場合にのみ、その提供を認めるとともに、上記例外事由に該当する場合を除いて他人に対する個人番号の提供の求めや特定個人情報の収集又は保管を禁止するほか、必要な範囲を超えた特定個人情報ファイルの作成を禁止している。
 以上によれば、番号利用法に基づく特定個人情報の利用、提供等は、上記の正当な行政目的の範囲内で行われているということができる。」(9頁)

2023年3月9日最高裁判決 第2 3(抜粋)
「もっとも、特定個人情報の中には、個人の所得や社会保障の受給歴等の秘匿性の高い情報が多数含まれることになるところ、理論上は、対象者識別機能を有する個人番号を利用してこれらの情報の集約や突合を行い、個人の分析をすることが可能であるため、具体的な法制度や実際に使用されるシステムの内容次第では、これらの情報が芋づる式に外部に流出することや、不当なデータマッチング、すなわち、行政機関等が番号利用法上許される範囲を超えて他の行政機関等から特定の個人に係る複数の特定個人情報の提供を受けるなどしてこれらを突合することにより、特定個人情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じ得るものである。
 しかし、番号利用法は、前記第1の2(2)イ及び(3)のとおり、個人番号の利用や特定個人情報の提供について厳格な規制を行うことに加えて、前記第1の2(5) 及び(6)のとおり、特定個人情報の管理について、特定個人情報の漏えい等を防止し、特定個人情報を安全かつ適正に管理するための種々の規制を行うこととしており、・・・・」(10頁)

健康保険証廃止反対!
400名超で緊急院内集会

 10月13日に河野デジタル大臣が2024年秋に健康保険証を廃止を目指すことを表明したことに対して、11月17日12時30分から14時まで衆議院第ニ議員会館で、「保険証廃止反対!オンライン資格確認・マイナンバーカード強制反対!」緊急院内集会が開催された。
 200名超が会場を埋めつくしたほか、ライブ配信での視聴者を合わせ400名を超える参加者となった。
 当日の模様は、以下で見ることができる。
 ▼zenrorenweb⇒こちら
 ▼Movie Iwj(INDEPENDENT WEB JOURNAL)⇒こちら
 また、当日の資料はこちらからダウンロードできる。

 院内集会では、保団連(保険医団体連合会)住江会長の挨拶のあと、各団体から
・共通番号いらないネットより、健康保険証廃止とオンライン資格確認等システム原則義務化の経過と内容からみた問題点
・東京土建一般労働組合社会保障対策部より、健康保険証廃止で想定される影響
・東京高齢期運動連絡会より、国会審議もなしに高齢者に使いづらいシステムがつくられること
・東京保険医協会より、オンライン資格確認等システム導入義務化の問題点
・神奈川県保険医協会より、一連の計画であるオンライン資格確認の原則義務化とマイナ保険証の実質義務化の、撤回運動の意義と取り組み
・マイナンバー違憲訴訟全国弁護団より、マイナ保険証の強制は番号法に違反し、所持を義務化する法改正は憲法違反13条になることやマイナンバーカードの危険性
についてなどの発言があった。
 また立憲民主党や共産党の国会議員から、保険証廃止やオンライン資格確認義務化に反対してともに闘うとの挨拶があった。

●マイナ保険証とオンライン資格確認原則義務化の経過

 共通番号いらないネットからは、健康保険証廃止とオンライン資格確認等システム原則義務化の経過と内容をまとめた資料(20221117.pdf⇒こちらからダウンロードできます)を示しながら、経過から見えるマイナ保険証の疑問・問題を指摘した。
 今年の4月にオンライン資格確認システムを使うと患者の負担が増える加算を導入して大きな批判を浴びて以降、政府のやっていることは二転三転し迷走している。2兆円の予算をかけたマイナポイントでもマイナンバーカードやマイナ保険証の普及が政府が期待したほど進んでいないにもかかわらず、それを反省し計画を見直すのではなく、逆に来年3月の医療機関へのオンライン資格確認システムの原則義務化と2024年秋の健康保険証廃止を打ち出し、強引にマイナンバーカードを普及させようとしているのが10月13日の河野大臣記者会見だ。

●説明もできない乱暴な廃止方針

 6月に閣議決定した「骨太の方針」(32頁)では、2024年度中は保険証発行の選択制の導入を目指し、オンライン資格確認の導入状況等を踏まえ保険証の原則廃止を目指す、ただし加入者から申請があれば保険証は交付されると明記していたにもかかわらず、それをわずか4カ月で変更した理由も説明していない。
 実施のための細部を検討せずに保険証廃止だけ決める乱暴な方針で、これがデジタル庁のやり方だ。デジタル庁の担当者は「廃止に向けた詳細は今後検討する」「廃止の期限を決めないとPDCAを進められない。日本政府らしくないかもしれないが、アジャイルの観点で2024年秋に廃止する方針を決めた」と説明しているそうだ。デジタル庁はこのような「アジャイル・ガバナンス原則」を構造改革のためのデジタル原則の一つとして、規制改革・行政改革を進めようとしている(⇒こちら)。

●メリットを感じないマイナ保険証

 河野大臣も岸田首相も「マイナンバーカードの取得の徹底」を言うが、番号法で申請は任意で所持は自由なマイナンバーカードの取得を、なにを根拠に「徹底」させようとしているのか。
 「マイナンバーカードはデジタル社会のパスポート」と繰り返しているが、それはどういうことか。持っていないと生活できなくなる社会をつくろうとしているのか。2021年のデジタル法改革で平井元デジタル大臣が、「デジタル社会は多様な幸せを実現する社会で、マイナンバーカードを活用しない生活様式を否定するものではない」と答弁していたのは嘘だったのか。
 マイナカードへの「一本化」で利便性が向上すると言っているが、一本化にデメリットを感じる人の選択は認めないのか。
 マイナ保険証で患者はよりよい医療を受けられるメリットがあると言うが、政府の調査でもマイナ保険証を申請した人の88%はマイナポイント欲しさで、メリットは感じていない。特定健診情報の閲覧同意は、1年たってもマイナ保険証を持っている人の1割となっている(社会保障審議会医療保険部会2022年10月28日資料3の利用状況より算出)。

●マイナカードを持ち歩くのは危険

 政府は私たちの感じるマイナンバーカードへの不安は「漠然とした不安」だと言う(10月13日官房長官発言等)。法に定めのない個人番号の提供・利用等を禁止しながら、「番号を知られても危険はない」などと言い出している。
 しかしマイナンバーの付番が間違ったり(こちらの3頁)、マイナ保険証でも使う電子証明書が複数搭載されマイナポイントが複数付与される事件(こちら)が起きており、マイナ保険証は大丈夫なのか。
 マイナカードと暗証番号がセットになるとマイナンバーで管理するあらゆる個人情報(「わたしの情報」)が漏洩することを認めながら、政府はそれは暗証番号の管理が悪いからと言っている(詳しくはこちら)。しかし16桁を含む4種類の暗証番号など覚えられず、メモしてカードと一緒に持ち歩いて被害を受けても自己責任だといえるか。マイナポータルの利用規約は、被害が出ても自己責任で利用者はデジタル庁にいかなる責任も負担させないと規定している。暗証番号を記憶する自信がなければ、マイナンバーカードを持ち歩かない方がいい。

マイナポータル利用規約
第3条 システム利用者は、自己の責任と判断に基づき本システムを利用し、本システムの利用に伴って生じる以下の情報及び利用者フォルダを適切に管理するものとし、デジタル庁に対しいかなる責任も負担させないものとします。
一 やりとり履歴
二 わたしの情報
三 お知らせ
四 手続の検索・電子申請
五 その他、システム利用者が閲覧、取得し管理している電子情報

●失敗したマイナカード普及策

 政府は来年3月までに全国民にマイナンバーカードを所持させオンライン資格確認システムを利用させるという方針を2019年6月に決めて突き進んできたが、「2024年秋を目指す」と表明したことはその方針が達成できなかったことを認めるものであり、方針そのものを見直すべきだ。
 いま政府は私たちの不安や疑問を聞く力もなく、説明責任も果たさないまま暴走している。このような暴走に対しては、私たちマイナンバー制度に反対している者だけではなく、今までマイナンバー制度を推進していた有識者からも、疑問や批判の声が上がり始めている。この暴走の行き着く先は、命と健康と人権が脅かされる監視社会だ。そのような社会を作らないために、健康保険証の廃止・オンライン資格確認の義務化・マイナンバーカードの押しつけを止めさせなければならない。

マイナ保険証はやっぱり危険
デジタル庁回答のごまかし(1)

●命を人質にマイナカード普及を図る政府

 デジタル庁は11月8日、「よくある質問:健康保険証との一体化に関する質問について」をサイトに掲載した(⇒こちら)。河野デジタル大臣によれば、10月13日の記者会見で「2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」と発表して以降、約5千件の質問や不安がデジタル庁のサイトに殺到しているために、代表的な7件の質問に答えたそうだ。
 連日メディアでも取り上げられ、多くの芸能人も発言するなど関心が高まっている。国民皆保険制度の日本で、健康保険証がなくなるということは生命にかかわる大問題であり、関心が集まるのは当然だ。にも関わらず、政府が曖昧な説明に終始していることでますます不安が強まるとともに、命を人質にマイナンバーカードの普及を図ろうとする政府への怒りも広がっている。
 11月17日には、保険証廃止反対!オンライン資格確認・マイナンバーカード強制反対!緊急院内集会が、衆議院第2議員会館多目的会議室で行われる(⇒詳しくはこちら)。

 松野官房長官は10月13日午後の記者会見で、情報流出が怖いといった国民の「漠然とした不安」を払拭するため、カードの安全性についてしっかり広報していくと答えている。しかしマイナ保険証の危険性は「漠然とした不安」ではない。いままで政府が説明してきたマイナンバー制度の危険性を翻して、安全神話をまき散らしても市民の信頼は得られない。

●「マイナンバーカードの取得は任意」と明言

 デジタル庁のQ1では、「マイナンバーカードの取得は任意だと思っていましたが、必ず作らなければいけないのでしょうか」の問いに、「マイナンバーカードは、国民の申請に基づき交付されるものであり、この点を変更するものではありません。また、今までと変わりなく保険診療を受けることができます。」と明言している。
 10月13日の記者会見以降「マイナカード事実上の義務化」などと報じられ、マイナカードを所持しないと保険診療が受けられなくなるかのような世論づくりがされている。市区町村の窓口には「義務になるなら今のうちに」とばかりにマイナカードの申請が増えているそうだ。「義務化」と誤解して振り回されるのはやめよう。

 このような報道がされる原因は、政府の意図的に曖昧な説明にある。河野デジタル大臣は10月13日の記者会見で、記者の再三の「カード所持の義務化なのか」の質問に、「しっかり取得していただくのが大事」「ご理解をいただけるように、しっかり広報していきたい」など、はぐらかした答えに終始した。その一方で、保険証廃止のためにはマイナカードの取得の徹底が必要とも説明していた。申請は任意で所持は自由であるマイナカードの取得を、なぜ「徹底」などと言えるのか、説明もなかった。
 Q1では「紛失など例外的な事情により、手元にマイナンバーカードがない方々が保険診療等を受ける際の手続については、今後、関係府省と、別途検討を進めてまいります」と書いているが、マイナカードの所持は任意であり、持たない理由は自由だ。あたかも「紛失など例外的な事情」がなければマイナカードを所持するのが当たり前であるかのような説明は、取得義務はないとの説明と矛盾する。

●マイナカード所持は義務ではない

 改めて述べるまでもないが、番号法第16条の二では個人番号カード(マイナンバーカード)は「政令で定めるところにより、住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき」発行されることになっており、政令で住所地市町村長は申請者に出頭を求めて個人番号カードを交付することになっている。申請するかしないかは、個人の自由だ。
 総務省は経済財政諮問会議の国と地方のシステムワーキング・グループ(2019年3月15日第17回)で、「取得を義務付けるべきではないか」の問いに「マイナンバーカードは、本人の協力のもと、対面での厳格な本人確認を経て発行される必要があるが、カード取得を義務付ければ、この本人の協力を強要することとなり、手法として適当でない。」と答え、その考えは今も変わらないとしている。
 公務員へのカード取得強要が社会問題になったときにも、総務省は取得は義務なのかの問いに「マイナンバーカードは、本人の意思で申請するものであり、(公務員に限らず)取得義務は課されておらず、取得を強制するものではない」(総務省自治行政局公務員部福利課の令和元年9月20日付「地方公務員等のマイナンバーカードの一斉取得の推進に関するQ&A」)と説明していた。

●マイナカードの所持は「必須」ではない

 マイナンバーカードは法令で定められた事務でマイナンバーの提供を受ける際に、成り済まし犯罪防止のために義務付けられている本人確認の措置の手段として作られた。番号法16条本人確認の措置で「提供をする者から個人番号カードの提示を受けることその他その者が本人であることを確認するための措置として政令で定める措置をとらなければならない」となっているように、その他の方法(例えば運転免許証+通知カード)も認めており所持は必須ではない。
 マイナンバー制度の設計にかかわった石井夏生利中央大教授は、朝日新聞のインタビューでその趣旨をこう説明している。

 「もともとマイナンバー制度をつくるときにカードがなくてもいいように制度をつくっています。カードの取得を制度運用の条件にすると、取得しない人が制度から漏れてしまい、国民全員に割り振られる番号制度の趣旨を実現できなくなります。また、個人情報保護の面でも国民からの不安がぬぐえないと考えられていました。さらに、カードをつくるには、本人確認のために行政の窓口に来てもらう必要もあります。そういったもろもろの事情があり、カードを必須にはしませんでした」
 「ですので義務化に動くとなると、取得を任意としていた前提が崩れることになります。カードは必須ではないと言っていたのに変えてしまうわけですから」

 番号法制定の際の国会答弁でも、担当の甘利大臣はマイナンバーカードについて、自分自身を証明することの必要性というのはそれを持っている本人の利便性にかかわることであり、国としてこれを持っていなければけしからぬとか、罰するとか、そういうものではありませんと答えていた
 マイナンバーカードの所持を全ての人に「徹底」するということは、マイナンバー制度の前提を根本から変えることを意味する。なぜ全ての人が所持する必要があるのか、政府は説明していない。

●マイナカードはデジタル社会のパスポート?!

 岸田首相や河野大臣は、マイナカードはデジタル社会のパスポートだとか入り口だとか繰り返している。どうやら政府の目指すデジタル社会は、国内版パスポート=マイナカードを持ち歩かないと生活できなくなる社会のようだ。
 2021年のデジタル改革6法の国会審議で平井元デジタル担当大臣は、デジタル改革関連法案が描く社会像は、デジタルの活用によって国民の一人一人のニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会であり、誰一人取り残さない人に優しいデジタル化だ、と説明し、「デジタル社会に参画することは国民の義務ではない」「マイナンバーカードを始めデジタルを全く活用しない生活様式を否定しているものではありません」「個人がデジタル機器を利用しない生活様式や選択も当然尊重されるもの・・・・・・国民にデジタル化を迫るものではない」などと答えていた。
 しかし岸田政権の目指しているのは、国民にデジタル化を迫り、デジタル機器を利用しない選択は許さず、マイナンバーカードを活用しない生活様式を否定する社会のようだ。マイナカードを所持しない人を排除しようとする社会のどこが「誰一人取り残さない 人に優しいデジタル化」なのか。デジタル監視は嫌だというニーズは選べず、自己情報をコントロールできるという幸せは実現されない社会だ。
 マイナカードを国内版パスポートにすることで何を企んでいるのか、政府はまず明らかにすべきだ。

 

9/9 午後 個人情報保護条例改正への具体的取組事項を学ぶ

【拡散希望】9/9 個人情報保護条例改正への具体的取組事項を学ぶ
 ・法改正の簡単な経過
 ・条例改正について自治体への具体的要望事項

とうとう、来年2023年4月には、全国の個人情報保護条例が改正(廃止)され、国の個人情報保護法に統一・標準化された条例がスタートすることになっています。
それによって、各自治体の歴史と実情に沿った立法背景が消えてしまうだけでな く、住民の個人情報保護という使命が霞んでしまう、そんな危機を迎えています。
それに対抗したいと考えますが、法改正の資料も、条例改正に伴う「ガイドライ ン」にしても、あまりに大部で、しかも、広範な基礎知識がないと読みこなせないものとなっています。
かと言って、座視するわけにはいかない!
そこで、残された時間で、何をすべきか。
議会に、自治体に何を要求すれば良いのか、具体的に学びます。

参加対象者は、議員(元職・新人含む)や市民、(改正に関わる)自治体担当者(今回のメールを転送なさってあげて下さい) を想定しています。

事前に下記要望事項に、目を通しておくことをお勧めします。
「個人情報保護条例改正にあたっての自治体への要望事項」(全8頁)
http://www.bango-iranai.net/news/pdf/326-20220728SuggestionOfNecessary.pdf

★2022年9月9日(金) 午後1半〜4時
会場:東京都杉並区議会 第二委員会室
※オンライン会議(50名以上参加可能)
質疑の時間は、小一時間を予定しています。

◎講師:原田富弘(せたがや市民講座)

◎申込・お問合せ先:奥山たえこ 杉並区議会議員・無所属(090-9147-8383)
okuyama@suginami-kugikai.jp  (添付ファイル不可)

※申込方法:9月7日午後9時まで、上記奥山のメールに以下を送ってください。
・タイトル「9/9 条例改正勉強会申込みます」
・本文に、
   あなたの ”メールアドレス”。よければ、「●●議会」など、添えて下さい。
・9月8日午後5時までに、会議の URL をメールします(万一届かない場合は催促して下さい)。
以上

【参考】共通番号いらないネットの関連サイト
◇地方自治と住民の個人情報を守る個人情報保護条例改正を⇒こちら
◇個人情報保護条例改悪にいかに抗するか-先行事例をもとに考える⇒こちら
◇統合された個人情報保護法の問題点を考える市民の集い⇒こちら
◇住民の個人情報を守ってきた条例がリセットされようとしています⇒こちら
◇市民集会 個人情報保護条例がなくなる?─自治体からの抵抗は可能か⇒こちら

個人情報保護条例が
なくなっていいのか

7月18日個人情報保護条例改悪に抗する学習会

 2021年5月の個人情報保護法改正により、全ての自治体が2023年3月までに個人情報保護条例を「国基準」に見直すことを求められている。個人情報保護委員会は2022年4月20日に改正のガイドライン、4月28日にQ&Aと事務対応ガイドを公表し、現在各自治体で検討が進んでいる(都内市区町村については漢人都議の調査参照。かながわ市民オンブズマンの調査はこちら)。
 共通番号いらないネットでは7月18日(月)午後1時30分から文京シビックセンター4階シルバーホールで、個人情報保護と地方自治を守るために自治体はどのような取り組みができるか考える学習会を行う(集会案内はこちら)。

●個人情報保護条例の「改正」でなく「廃止」に

 条例改正というが、政府が求めているのは個人情報保護条例を廃止し、個人情報保護法の「施行条例」に作り替えることだ。4月28日に公表された「個人情報の保護に関する法律についてのQ&A(行政機関等編)」では、改正後の条例を「(個人情報保護)法施行条例」とよんでいる。2021年6月の自治体向け説明会で示した「条文イメージ」のように、条例に規定するのは手数料など法を執行するための手続的なことにかぎり、半世紀にわたって自治体が国に先行して住民情報を保護するために培ってきた個人情報保護制度は「リセット」されようとしている。その目的は「活発化する官民や地域の枠を超えたデータ利活用に対応するため」だ(ガイドライン74頁)。

 共通番号いらないネットでは、2022年1月25日「地方自治体のみなさまへ 個人情報保護を引き下げないでください」を発表(こちら)し、自治体から個人情報保護を守る取り組みを訴えた。4月1日には共謀罪NO! 実行委員会と「秘密保護法」廃止へ! 実行委員会の主催で、統合された個人情報保護法の問題点を考える市民の集いが開催された(資料や集会ビデオはこちら)。日弁連は2021年11月16日、「地方自治と個人情報保護の観点から個人情報保護条例の画一化に反対する意見書」を発表している。
 このブログでも法改正後の個人情報保護委員会の対応に対して「地方自治は「許容されない」?!個人情報保護委員会の条例対応」(こちら)と批判し、2022年1月28日から2月28日まで行われたガイドライン等の意見募集に対して、「地方自治を認めず個人情報保護を後退させる条例改正パブリックコメント」(こちら)で問題点を指摘してきたが、残念ながらまったく意見はガイドラインに取り入れられなかった(意見募集結果はこちら)。

●個人情報保護と地方自治が問われている

 個人情報保護委員会が「法施行条例」で規定を求めている「委任規定」は、開示等請求の手数料と匿名加工情報利用の手数料だけだ。
 また条例で定めることを「許容」するのも、「条例要配慮個人情報」の内容、個人情報取扱事務登録簿の作成・公表、開示請求等の手続や不開示情報の範囲、専門的な知見に基づく意見を聴くことが特に必要があると認めるときの審議会等への諮問で、それについても制限を付けている。
 その他認めるとするのは、自治体の内部的な手続の規定だ。
 従来の条例が定めてきた個人情報の収集・利用・提供・保管・廃棄等の規制については、個人情報保護法に規定のない個人情報保護やデータ流通に直接影響を与えるような事項(例:オンライン結合に特別の制限を設ける規定、個人情報の取得を本人からの直接取得に限定する規定)や、法と重複する内容を条例で定めることは「許容されない」とする(ガイドライン74頁)。

 憲法で規定する地方自治の本旨に基づき、自治体には条例の自主制定権がある。国も「我が国の個人情報保護法制は、地方公共団体の先導的な取組によりその基盤が築かれてきた」(「個人情報保護制度の見直しに関する最終報告案」2020年12月32頁)と述べているように、個人情報保護制度は自治体の創意工夫によって発展してきた。
 自治体の創意工夫を否定することは、個人情報保護の水準を低下させその発展を阻害し、住民と自治体との信頼関係を損なう。そればかりでなく、個人情報保護法制を突破口に地方自治そのものが破壊されていくのではないか、との懸念が専門家に広がっている。

●分かれつつある?自治体の検討状況

 個人情報保護法改正にあたって国会は、地方公共団体が条例を制定する場合には地方自治の本旨に基づき最大限尊重することを求める附帯決議をしていた。しかし個人情報保護委員会が立法府の意思に反して従来の保護措置を条例に残すことは「許容されない」という姿勢を崩さないために、自治体の対応は国から指示された手続的な「法施行条例」に変えるか、従来からの保護水準を維持するための工夫を検討するか、分かれつつあるようだ。

 後者では、たとえば1976年に「電算条例」をいち早く制定してその後の個人情報保護条例の原型を作った世田谷区は、次の3つの基本方針に沿って新たな個人情報保護制度を構築しようとしている。

1 世田谷区はこれまで実施してきた、区民の個人情報保護に係る先進的かつ丁寧な保護施策を維持・発展させるよう努めること。
2 区が扱う個人情報は、原則、区民が情報主体であることを十分に意識し、今後は一層、その実効性を担保しうる運用上の工夫に努めること。
3 行政への区民参加・区民監視の制度として審議会制度が有効であることを確認し、情報公開・個人情報保護審議会を今後も十分に機能させていくこと。

 また1990年に都道府県で最初に個人情報保護条例を制定した神奈川県は、情報公開・個人情報保護審議会で次のように法とガイドラインなどを詳細に検討しながら、対応を探っており参考になる。ただ後述するように公表された最新のO&Aの記載には、若干変化があることに注意が必要だ。

*検討経過(こちら
*法と条例の相違点と対応の方向性(こちら
*目的外利用・提供について(こちら
*要配慮個人情報の取扱い制限について(こちらこちら
*「条例要配慮個人情報」について(こちら
*個人情報の本人収集の原則について(こちら
*電磁的方法による提供(こちら
*審議会への諮問案件について(こちら
*個人情報ファイル簿及び個人情報事務登録簿(こちら
*保有個人情報の訂正請求及び利用訂正請求に係る開示請求前置主義(こちら
*開示決定等の期限(こちら
*費用負担(保有個人情報の開示請求に係る手数料(「開示手数料」)等)(こちら
*行政機関等匿名加工情報等の情報公開条例上の取扱いについて(こちら
*行政機関等匿名加工情報の利用に関する手数料の徴収について(こちら
*個人情報保護審査会規則の条例化等について(こちら
*改正個人情報保護法と神奈川県個人情報保護条例の対比(法律順条例順
*答申(2022年5月30日)(こちら

●「可能な」自治体の対応を考える

 住民情報は、住民が法律の規定やサービスを受けるために自治体に提供した情報であり、民間事業者の利用を目的とするものではない。自治体には住民情報の管理責任があり、まず考えるべきは情報主体である住民の意思であり、利活用ではない。
 地方分権のもとでは、法令の解釈について国と自治体は対等だ。住民に信頼される行政のためには、必要とあれば法の規定を超える個人情報保護委員会の統制は拒む姿勢が必要だ。
 とはいえ現実の国と地方の力関係では、国(個人情報保護委員会)の解釈を拒むことは首長の覚悟が必要だろう。しかしそこまで構えなくても、4月28日に個人情報保護委員会が公表した「個人情報の保護に関する法律についてのQ&A(行政機関等編)」では、批判を意識してか若干ガイドラインより工夫の余地のある解釈を示している。保護水準を低下させないための工夫が求められる。Q&Aのいくつかを紹介する(太字、改行は引用者)。

●自治体の審議会への諮問について

 ガイドラインでは、自治体の個人情報保護審議会等への諮問について、「個人情報の取得、利用、提供、オンライン結合等について、類型的に審議会等への諮問を要件とする条例を定めてはならない」(70頁)としている。この点について「Q&A」(23頁)では、「諮問」ができないとしているだけで、審議会が自発的に調査・審議・意見陳述することはかまわないとしている。

Q7-1-3 法施行条例において、 審議会等が諮問に基づかずに行う調査、審議又は意見陳述に関する規定を設けることは可能か。
A7-1-3 法第129条は審議会等に対して地方公共団体の機関が行う諮問について規定するものであり、地方公共団体が附属機関等として設置する 審議会等が自発的に行う調査、審議又は意見陳述を妨げるものではありません
 ただし、地方公共団体が調査等を受けることを事実上の要件としたり、審議会の意見を尊重することを義務として定めるような法施行条例の規定を設けることはできない点に留意する必要があります。(令和 4 年 4 月追加)

 いくつかの自治体の検討では、個人情報の取得等の諮問ができないので「事後報告」にする対策を出しているが、「事後」である必要はない。従来の諮問の代わりに事前に審議会に「報告」し、審議会自らが必要と判断したら調査・審議し意見陳述し、首長の判断で進めていくことは許容されている。諮問より行政に対する「拘束力」は低下するだろうが、識者や住民による行政の第三者チェックや、その結果の住民への公表、審議結果により個人情報保護のあり方について意見を提出することは可能だ。審議会や首長の自発的な姿勢が、より問われることになる。

●個人情報保護法以外の諮問は可能

 審議会の審議事項の中には、マイナンバー法に基づく特定個人情報保護評価の第三者点検がある。一般的には第三者点検は個人情報保護委員会が行うが、自治体については30万人以上の特定個人情報ファイルなどを対象に個人情報保護審議会等が行っている。Q&Aでこのような個人情報保護法以外の法令に基づく意見聴取は、従来どおり可能であることが明記された。
 また自治体によっては、たとえば住民基本台帳法に基づいて住基ネットの利用状況を審議会にはかっているところがあるが、こういう役割は今後も変わりない。

Q7-1-1 法第 129 条で規定する「個人情報の適正な取扱いを確保するため専門的な知見に基づく意見を聴くことが特に必要があると認めるとき」とは具体的にどのような場面を想定しているのか。
A7-1-1 ・・・・・・なお、いわゆる「オンライン結合制限」や目的外利用制限などに関する規律として、個別案件における個人情報の取扱いについて、類型的に審議会等への諮問を行うべき旨を法施行条例で定めることは認められません。
 一方で、特定個人情報保護評価に関する規則(平成26年特定個人情報保護委員会規則第1号)第7条第4項に基づき審議会等に意見を聴く場合等、法第129条の規定に関わらず、個人情報保護法以外の法令に基づき、審議会等に対し意見を聴くことは妨げられません。(令和4年4月追加)

●匿名加工情報の提供も審議会に諮問可能

 2021年の個人情報保護法改正で、自治体も事業者からの求めがあれば住民情報を匿名加工し提供する制度が追加されたが、附則により当面は都道府県と政令指定都市に制度の実施が義務づけされ、その他の市区町村が制度を行うかは任意で判断することになっている。
 この提供の可否の基準について、審議会に諮問することも認められている。

Q6-1-2 地方公共団体の機関が法第 114 条第 1 項の規定に基づき法第 112 条第 1 項の提案の審査を行う場合において、法第 129 条の規定により、審議会等に対して諮問を行うべき旨を法施行条例で定めることは許容されるか。
A6-1-2 法第 114 条第 1 項各号に定める基準については、委員会においてその解釈を示すものですが、同項第 4 号の「事業が新たな産業の創出又は活力ある経済社会若しくは豊かな国民生活の実現に資するものであること」についての審査に当たり参照する基準の策定のために、必要な専門的知見を有する有識者に対して意見聴取を行うことは妨げられるものではなく、法第129条の規定により、法施行条例に定めを置いて、当該基準について専門的知見を有する委員で構成される審議会等に対して諮問することも妨げられません
 なお、この場合であっても、法第 114 条第 1 項第 4 号の適合の有無の判断は「行政機関の長等」が行うものであり、審議会等が実質的な判断を行うことはできないことに留意する必要があります。(令和 4 年 4 月追加)

●開示請求しなくても訂正請求等は可能

 個人情報の訂正等請求について、個人情報保護法では開示請求をして開示決定をうけた個人情報について訂正等請求を認めているが、多くの条例では開示請求をしなくても誤り等がわかれば請求を認めている。開示請求を前提とすると訂正のための負担が増え、開示決定まで訂正請求ができないなどの不都合が指摘されていた。
 Q&Aでは開示請求をせずに訂正請求・利用停止請求を認める条例を定めてもよいとされた。

Q5-8-2 法は、訂正請求や利用停止請求の対象となる保有個人情報について、本人が法の開示決定に基づき開示を受けたもの又は法第 88 条第 1 項の他の法令の規定により開示を受けたものに限っているところ(法第90条第1項及び第98条第1項)、法施行条例で規定することにより、本人が開示を受けていない保有個人情報についても訂正請求や利用停止請求の対象とすることはできるか
A5-8-2 法は、対象となる保有個人情報の範囲を明確にし、訂正請求及び利用停止請求の制度の安定的運用を図るため、これらの制度について開示を受けた保有個人情報を対象としています。
 他方、法第108条は、訂正及び利用停止の手続に関する事項について、法第5章第4節の規定に反しない限り、条例で必要な規定を定めることができることとしているところ、開示を受けていない保有個人情報について訂正請求及び利用停止請求の対象とすることは、これらの請求の前提となる手続に関するものであり、訂正及び利用停止の手続に関する事項に含まれるため、訂正請求や利用停止請求の制度の運用に支障が生じない限りにおいて、そのような法施行条例を規定することは妨げられません。(令和 4 年 4 月追加)

●利益相反する代理人からの開示請求

 虐待で保護している子の加害者である親が、居場所などを探るために法定代理人として子の情報の開示請求をすることへの対応に、自治体は苦慮している。また今回の法改正で、任意代理人による請求も認められたが、本人の意思に反した請求が行われることが危惧され、自治体ではこれら不当な請求を防ぐための措置を必要としている。
 Q&Aでは請求に応じるかについて、必要に応じて本人の意思の確認を条例に規定することが認められている。

Q5-3-1 未成年者とその法定代理人との利益相反が生じるような場合があり得るところ、未成年者の法定代理人による開示請求について、本人の意思を確認することはできるか。また、一律に本人の同意を証する書類の提出を義務付ける法施行条例の規定を設けることはできるか。
A5-3-1 法定代理人は、任意代理人とは異なり、本人のために代理行為を行う義務はっても、代理行為に本人の同意は要しないため、本人の意思と独立して開示請求を行うことができます。
 法第108条は、開示の手続に関する事項について、法第 5 章第 4 節の規定に反しない限り、条例で必要な規定を定めることができることとしていますが、未成年者の法定代理人による開示請求について、一律に本人の同意を証する書類の提出を義務付けることは、実質的に任意代理のみを認めて法定代理を認めないこととなり、開示請求権について法に定めの無い制限を課すものであって開示の手続に関する事項であるとはいえず、そのような規定を法施行条例で定めることは認められません
 もっとも、開示請求に係る保有個人情報について、当該保有個人情報を法定代理人に開示することにより本人の生命、健康、生活又は財産を害するおそれがある情報(法第78条第1項第1号に規定する不開示情報)に該当する場合もあるところ、同号該当性の判断に当たって、必要に応じて本人の意思を確認することは妨げられません。(令和 4 年 4 月更新)

Q5-3-3 任意代理人からの開示請求について、本人の意思を特に確認する必要があるときに、本人に対して確認書を送付し、返信をもって本人の意思を確認する手続をとることはできるか。また、これを認める法施行条例の規定を設けることはできるか。
A5-3-3 任意代理人による請求の場合は、法定代理人による請求の場合と異なり本人から委任を受けていることが要件となります。そのため、なりすまし等による開示等請求制度の悪用を防止する観点から、任意代理人の資格を確認することは重要であり、必要に応じて本人に対して確認書を送付し、その返信をもって本人の意思を確認することは妨げられません。また、法第108条に規定する開示の手続に関する事項としてこれを認める法施行条例の規定を設けることも妨げられません。(令和 4 年 4 月更新)

●条例要配慮個人情報の規定について

 自治体の裁量をほとんど認めない法改正の中で、唯一自治体の判断を「尊重」したのが、条例要配慮個人情報の新設だ。「個人情報保護制度の見直しに関する最終報告」(40頁)では、次のようにその必要を述べている。

「(5)条例で定める独自の保護措置
3.例えば、地方公共団体等がそれぞれの施策に際して保有することが想定される情報で、その取扱いに特に配慮が必要と考えられるものとして「LGBTに関する事項」「生活保護の受給」「一定の地域の出身である事実」等が考えられるが、これらは、国の行政機関では保有することが想定されず、行個法・行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律施行令(平成15年政令第548号。以下「行個令」という)の「要配慮個人情報」には含まれていないものである。
 また、将来においても、地方公共団体等において新たな施策が展開され、その実施に伴い保有する個人情報が、行個法・行個令の「要配慮個人情報」には規定されていないものの、その取扱いには、「要配慮個人情報」と同様に特に配慮が必要な個人情報である場合も想定される。
 こうした個人情報について、不当な差別、偏見等のおそれが生じ得る情報として、地方公共団体が条例により「要配慮個人情報」に追加できることとすることが適当である。 」

 要配慮個人情報は2015年の個人情報保護法改正により新設された。不当な差別・偏見等のおそれが生じ得る情報として下記の個人情報を「要配慮個人情報」とし、取得の際は本人同意を得ることを義務化した。しかし行政機関については、取得に特別の規定は設けられていない。個人情報ファイル簿に要配慮個人情報であることを記載することや、要配慮個人情報の漏えい等が発生したときに個人情報保護委員会への報告などを求めているだけだ。
 一方多くの自治体は、条例でセンシティブ(機微)個人情報の取得を原則禁止し、審議会の意見を聞くなどを条件に例外的に取得可能にしている。またコンピュータへの記録を禁止している条例もある。

改正個人情報保護法について」2016年11月28日 個人情報保護委員会事務局

 多くの個人情報を扱う自治体は、(条例)要配慮個人情報の取扱いの規制の継続を望んでいたが、ガイドライン4‐2‐6は「条例要配慮個人情報について、法に基づく規律を超えて地方公共団体による取得や提供等に関する固有のルールを付加したり、個人情報取扱事業者等における取扱いに固有のルールを設けることは、法の趣旨に照らしできない」(16頁)と認めていない。
 Q&Aも同様だが、ただ行政内部の安全管理体制構築にあたり要配慮個人情報の取扱いを勘案することは考えられるとしている。

Q3-2-1 要配慮個人情報の取得制限を法施行条例で規定することは可能か。
A3-2-1 要配慮個人情報の取得を制限することは、行政機関等において要配慮個人情報の取扱いについて特別の制限を設けていない法の規律に抵触する規律を定めるものであり、個人情報保護やデータ流通について直接影響をあたえる事項に当たります。一方で、法はこのような規律を定めることについて委任規定を置いていません。よって、要配慮個人情報の取得制限を法施行条例で規定することは認められません
 他方、法は、行政機関等における要配慮個人情報の取得について特別の規定を設けていませんが、行政機関等において取り扱う個人情報全般について、その保有は法令(条例を含む。)の定める所掌事務又は業務の遂行に必要な場合に限定することとし(法第 61 条第1項)、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を保有してはならないこととしている(同条第 2 項)ほか、法第 63 条(不適正な利用の禁止)、法第 64 条(適正な取得)等の定めを置いており、要配慮個人情報の取扱いに当たってもこれらの規定を遵守する必要があります
 また、行政機関の長等の安全管理措置義務(法第 66 条)に関しても、求められる安全管理措置の内容は、保有個人情報の漏えい等が生じた場合本人が被る権利利益の侵害の大きさを考慮し、保有個人情報の取扱い状況(取り扱う保有個人情報の性質及び量を含む。)等に起因するリスクに応じて、必要かつ適切な内容とする必要があり、行政機関内部における安全管理体制の構築に当たって、取り扱う保有個人情報が要配慮個人情報に当たることを勘案することは考えられます。(令和 4 年 4 月追加)

 自治体の検討の中では、条例要配慮個人情報を定めても取得など取扱いが規制できないので規定する意味が乏しいと、規定に消極的な議論が多いようだ。しかし取得段階でのチェックができなくなるのであれば、取得後の扱いについての安全管理体制を整備することで、条例要配慮個人情報を定めることの意義はある。前述のように改正法の中で唯一自治体の裁量を尊重した規定であり、将来も考えれば自治体は積極的な規定を考えるべきではないか。

●法施行条例でなく個人情報保護条例を

 Q&Aでは条例と法との関係について、次のように条例に理念規定を設けることを認めている。

Q9-1-1 地方公共団体が定める法施行条例において、基本理念や事業者・市民の責務についての規定を設けることは可能か。
A9-1-1 法の目的や規範に反することがなく、また、事業者や市民の権利義務に実体的な影響を与えることがない限りにおいて、法施行条例上に独自の理念規定を設けることは妨げられません。(令和 4 年 4 月追加)

 実体的な影響を与える規定はできなくても、単なる手続き的な「法施行条例」ではなく、自治体としてどのように住民情報を保護しようとしているのか、その主体的な姿勢を示すことは重要だ。
 まずは名称を「個人情報保護法施行条例」ではなく「個人情報保護条例」とし、自治体としての個人情報保護に向けた理念を規定することを訴えたい。