地方自治を認めず
個人情報保護を後退させる
条例改正パブリックコメント

●2月28日までガイドライン案等の意見募集

 個人情報保護委員会は、2022年1月28日から2月28日まで、2021年5月の個人情報保護法改正による自治体の個人情報保護条例改正のためのガイドライン案などのパブリックコメントを行っている(意見募集はこちら)。来年3月までに、すべての自治体が条例改正を迫られている。
 この個人情報保護委員会のガイドライン案などは、共通番号いらないネットの「地方自治体のみなさまへ 個人情報保護を引き下げないでください」アピールにあるように、自治体が住民情報を守るために長年取り組んできた個人情報の取得・利用・提供等の制限や有識者・住民代表の参加する審議会によるチェックなどの条例の規定を、来年4月以降は「許容されない」として「リセット」(平井前デジタル大臣国会答弁)しようしている。
 目的は社会全体のデジタル化に対応した「保護とデータ流通の両立」と称する住民情報の利活用推進であり、「国際的な制度調和」と「成長戦略への整合」を図ろうとするものだ(こちら参照)。

●保護を後退させ、地方自治を破壊し、国会を無視

 この個人情報保護委員会の姿勢は、日弁連の「地方自治と個人情報保護の観点から個人情報保護条例の画一化に反対する意見書」(2021年11月16日) が指摘するように、個人情報保護を後退させ、デジタル社会におけるリスクを増大させるだけでなく、条例制定権を不当に制約し憲法の地方自治の本旨を否定するものだ。
 さらに法改正時に、国会が「地方公共団体が、その地域の特性に照らし必要な事項について・・・条例を制定する場合には、地方自治の本旨に基づき、最大限尊重すること」と附帯決議しているという立法府の意思も無視するものだ。
 個人情報保護委員会は、ガイドライン案を撤回すべきだ。
 パブコメに「個人情報保護を後退させるな、地方自治(条例制定権)を守れ」の声を届けよう。

●「技術的助言」だが従わないと法違反!?

 このガイドラインは、 普通地方公共団体に適用される部分については、地方自治法第245条の4第1項の「技術的な助言」だが、「ただし、本ガイドラインの中で、「しなければならない」、「してはならない」及び「許容されない」と記述している事項については、地方公共団体の機関及び地方独立行政法人についても、これらに従わなかった場合、法違反と判断される可能性がある。」と書いている( 1 本ガイドラインの目的 )。
 「技術的な助言」とは一般になじみのない用語だが、行政ではよく使われる。2000年の地方分権一括法により国と地方が対等な関係になったことに伴い、自治事務について国が法律の解釈や運用について自治体に示すものの、自治体を拘束しないものだ。
 それを従わなければ法違反、と言う根拠は何なのか。法違反なのは、このガイドラインではないか。かつて総務大臣は、技術的助言の範囲を越えて規範性を持つとか拘束性を持つようなものを出したとすれば違法だ、と答弁していた

  このガイドライン案にはさまざまな問題があるが、重要な論点として次の点を見ていきたい。
 ●個人情報保護審議会への諮問を不当に制約
 ●法改正の趣旨も超える保護委員会の強圧的姿勢
 ●センシティブな要配慮個人情報の保護が後退
 ●個人情報の「収集」を規制しない国の法律
 ●条例の画一的な国基準化は憲法違反の疑いも
 ●オンライン結合制限廃止によりリスクが高まる
 ●課題山積の国基準化 「共通ルール」の見直しを

●個人情報保護審議会への諮問を不当に制約

 多くの自治体の個人情報保護条例では審議会を設置して、行政の個人情報の利用をチェックしてきた。名称や構成員や開催状況等はさまざまだが 、住民の自治体行政に対する信頼を支えてきた。国にはマイナンバー利用事務での「特定個人情報保護評価」を除けばこのようなチェックの仕組みはなく、国の個人情報保護の遅れを象徴している。
 日弁連の意見書は、審議会の意義について次のように述べている。

 審議会に個人情報保護に関する重要な政策(個人情報保護条例の改正等)について諮問したり,個人情報保護条例の規定に基づき,要配慮個人情報の取扱い,目的外利用・提供,オンライン結合,本人外収集等原則として禁止とする事項について審議会への諮問を経て例外的に認めることができるようにしたりすることにより,地方公共団体における個人情報保護と行政運営上の利活用の必要性とを調整してきた。
 また,審議会は,審議過程で原案を修正させたり,運用上の留意点を指摘したりするなどして,適切な運用に寄与してきた。併せて審議会には専門家に加え住民の代表が加わるところもあり,また議論の過程を公表することで,個人情報を取り扱う政策についての住民参加や情報公開を果たしてきた。(7頁)

 この重要な審議会への諮問を、改正個人情報保護法では限定する規定をしている。

第129条(地方公共団体に置く審議会等への諮問)
 地方公共団体の機関は、条例で定めるところにより、第三章第三節(※地方公共団体の施策)の施策を講ずる場合その他の場合において、個人情報の適正な取扱いを確保するため専門的な知見に基づく意見を聴くことが特に必要であると認めるときは、審議会その他の合議制の機関に諮問することができる。

 この法律も問題だが、個人情報保護委員会のガイドライン案(56頁~ 9‐4 地方公共団体に置く審議会等への諮問)は、さらに法律にない制限をつけている。

 「特に必要な場合」とは、個人情報保護制度の運用やその在り方についてサイバーセキュリティに関する知見等の専門的知見を有する者の意見も踏まえた審議が必要であると合理的に判断される場合をいう。
 この点、個人情報の取得、利用、提供、オンライン結合等について、類型的に審議会等への諮問を要件とする条例を定めてはならない
 令和 3 年改正法では、社会全体のデジタル化に対応した個人情報の保護とデータ流通の両立の要請を踏まえて、地方公共団体の個人情報保護制度についても、法の規律を適用して解釈を委員会が一元的に担う仕組みが確立されたところ、地方公共団体の機関において、個別の事案の法に照らした適否の判断について審議会等への諮問を行うことは、法の規律と解釈の一元化という令和3年改正法の趣旨に反するものである。

 なにを「専門的知見」とするかは自治体が判断することで、「サイバーセキュリティに関する知見」には限定されない。個人情報保護委員会も例示だとしている。問題は個人情報の取得、利用、提供等について、類型的な審議会等への諮問を認めないという点だ。審議会の審議内容の大部分は取得・利用・提供の判断だ。日弁連の意見書が指摘している審議会の果たしている役割は、単にガイドラインに照らして判断すれば済むような矮小なものではなく、個人情報保護の後退は明らかだ。

●法改正の趣旨も超える保護委員会の強圧的姿勢

 個人情報保護委員会は、このような不当な制限の根拠を「改正法の趣旨」によるとしている。
 しかし法改正の基となった有識者会議や政府のタスクフォースによる「個人情報保護制度の見直しに関する最終報告」(2021.12)では、「法制化後は、法律による共通ルールについて国がガイドライン等を示し、地方公共団体等はこれに基づきあらかじめ定型的な事例について運用ルールを決めておくことにより、個別の個人情報の取扱いの判断に際して審議会等に意見を聴く必要性は大きく減少するものと考えられる。」(40頁)と、自治体が定型的な運用ルールを決めることは認めている。
 それだけでなく「条例で、審議会等の役割として、個人情報保護制度の運用についての調査審議やその在り方についての意見具申の役割を規定している例も多く見られるが、このような役割は今後も求められる」と、審議会の役割を評価している。

 また政府の立法担当者も、審議会への諮問は自治体の内部手続であり否定されないが、共通ルールを定め個人情報保護委員会が解釈することになり諮問の必要性は低下するので、改めて諮問の必要性を精査するように、と以下のように解説している(「一問一答令和3年改正個人情報保護法」2021.11.25商事法務 Q55への回答)。地方自治の本旨をふまえれば、自治体の判断に委ねるのは当然だ。個人情報保護委員会の強圧的姿勢は際立っている。

1 審議会への諮問は、地方公共団体の機関の間で行われる内部手続であり、改正法の施行後も、地方公共団体の長等が、意思決定に際して審議会等の意見を聴くこと自体は否定されません
2 その一方、Q54で述べたような理由から、改正法の施行後は、地方公共団体の長等が個別の個人情報の取扱いについて審議会等に諮問する必要性は低下するものと考えられます。
 それにもかかわらず、地方公共団体の長等が、従来の慣行を単純に踏襲し、本来必要ない場面で審議会等に諮問する事態が頻発するとすれば、改正法全体の趣旨に照らし、望ましくないとも考えられます
3 そこで、第129条は、「地方公共団体の機関は・・・特に必要であると認めるときは、審議会その他の合議制の機関に諮問することができる」と規定し、地方公共団体に対し、改正法全体の趣旨を踏まえ、審議会等への諮問の必要性を改めて精査することを求めています。

●センシティブな要配慮個人情報の保護が後退

 多量の住民情報を管理する自治体にとって、機微性の高いセンシティブ個人情報の保護は特に重要になる。多くの自治体の条例では、思想信条や差別偏見につながる個人情報は収集を原則禁止し、法令の定めや審議会の意見を聞いて必要があると判断したときだけ収集する扱いをしてきた。
 国は自治体に数十年遅れて2015年の個人情報保護法改正ではじめて、不当な差別や偏見が生じないよう特に配慮を要する個人情報について「要配慮個人情報」を新設し、取得は本人同意を得ることを義務化した。

「改正個人情報保護法について」(2016.11.28個人情報保護委員会)

 自治体のセンシティブ個人情報の対象は、法が定める「要配慮個人情報」と重なるところもあるが、自治体ごとの長い個人情報保護の検討の歴史のなかで様々な規定がされており、違いも少なくない。
 それをふまえて改正個人情報保護法は第60条5で「条例要配慮個人情報」を新設した。法で定める要配慮個人情報を除き、「地域の特性その他の事情に応じて、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして地方公共団体が条例で定める記述等が含まれる個人情報」とされている。ただ条例要配慮個人情報は、条例を定めた地方公共団体等が保有する個人情報にのみ適用される。
 法案の検討過程では、条例要配慮個人情報の対象を、国の行政機関では保有することが想定されない自治体の施策にかかわる個人情報として「LGBTに関する事項」「生活保護の受給」「一定の地域の出身である事実」等を想定していたが (「最終報告」40頁) 、法律でもガイドラインでも「地域の特性」と「その他の事情」とされ特に限定はしていない。ただガイドライン案では、条例に規定する場合は委員会に事前に相談することが望ましいとしている(4‐2‐6 条例要配慮個人情報)。自治体が必要と認める対象は規定すべきだ。

 問題はガイドライン案が、要配慮個人情報も条例要配慮個人情報についても、「法に基づく規律を超えて地方公共団体による取得や提供等に関する固有のルールを付加したり、個人情報取扱事業者等における取扱いに固有のルールを設けることは、法の趣旨に照らしできない。」としていることだ。
 個人情報保護委員会のQ&A案では、 Q3-2-1でその理由をこう説明している。

 法では、要配慮個人情報の取得について特別の規定を設けていませんが、個人情報全般について、その保有は法令(条例を含む。)の定める所掌事務又は業務の遂行に必要な場合に限定することとされており(法第 61 条第 1 項)、要配慮個人情報の取得が可能となる範囲は、要配慮個人情報の取得制限規定による場合と、実質的に同様となっており、法律の規律と重複するこのような規定を法施行条例で設けることは許容されません。 

 しかしこのQ&A案のように、国は要配慮個人情報の取得について特別の規制をしていない。収集制限を見ても、法律と条例は「重複」していない。
 日弁連意見書は、国の行政機関も速やかに要配慮個人情報についての取扱規制を導入することこそが必要であり、にもかかわらず要配慮個人情報の取得や提供等に関する独自の規律を地方公共団体には許されないとすると、これまでの地方公共団体や民間事業者における取組の実績を否定することとなり、要配慮個人情報を規定する意義を大きく損ない、個人情報保護の後退をもたらすことは明白であると指摘している(6頁)。

●個人情報の「収集」を規制しない国の法律

 多くの自治体の条例では、個人情報の収集について、利用目的を明らかにして本人から直接収集することを原則とし、例外として本人以外からの収集を、本人の同意がある場合や緊急の場合、本人から収集できない場合、審議会が認めた時などに限定してきた。自分の情報の扱いを自分がコントロールするためには、本人が情報を収集されていることを知り、その目的を知ることが出発点になるからだ。
 また要配慮個人情報でみたように、自治体の条例は収集禁止事項を定めて特に扱いに注意している。さらに自治体によっては、業務に必要な情報を適法に本人から収集する場合でも、収集する情報は必要最小限に限定するよう規定している。これはとかく行政機関が個人情報を集めたがることに対して、収集情報の精査を求めるもので、GDPR(EU一般データ保護規則)がデータ保護バイデザインの原則から、 特に個人データの取扱いの最小化などを求めている(前文78項)ことを先取りするような規定だ。

 一方、国の個人情報保護法には、行政機関による個人情報の収集を規制する考えがない。条例が国基準化すると個人情報保護法が自治体に適用され、いままでの自治体の条例は「リセット」され収集規制がなくなる。
 改正個人情報保護法で行政機関等における個人情報等の取扱いとして規定しているのは、以下のようなことだ。
 第61条(個人情報の保有の制限等)で、保有する場合は法令の定める所掌事務又は業務を遂行するため必要な場合に限り、かつその利用目的をできる限り特定し、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて保有してはならないとする。しかし行政機関等が「変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲」で(本人が知らないまま)利用目的を変更できる。
 第62条(利用目的の明示)では、本人から直接書面(電磁的記録を含む)に記録された当該本人の個人情報を取得するときは、本人に利用目的を明示することになっているが、そもそも本人からの収集原則がなく、第三者から利用目的を本人が知らないまま収集される。
 第63条(不適正な利用の禁止)で、違法又は不当な行為を助長し又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない、第64条(適正な取得)で、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならないなど、当たり前のことを規定している。国がこのような方法で個人情報を収集・利用しかねないから規定しているのかもしれないが、必要なのは合法的・適正な手段であっても収集・利用を自己情報コントロール権を保障するためにどう規制するかだ。
 このような法律が適用されれば、自治体の個人情報保護の後退は明らかだ。

●条例の画一的な国基準化は憲法違反の疑いも

 個人情報保護委員会のガイドライン案では、法に規定されていない「本人からの収集原則」などを条例に規定することは「許容されない」としている。

 個人情報保護やデータ流通について直接影響を与えるような事項であって、法に委任規定が置かれていないもの(例:オンライン結合に特別の制限を設ける規定、個人情報の取得を本人からの直接取得に限定する規定)について、条例で独自の規定を定めることは許容されない。 (11 条例との関係)

 法にない規定を条例で定めることは許容されないというのは、上乗せ条例の否定であり自治体の条例制定権を侵害する。個人情報保護の後退だけでなく、地方自治も損なう。日弁連の意見書は、次のように憲法違反の疑いを指摘している。

  憲法は,地方自治の本旨を規定し(第92条),地方公共団体に条例制定権を保障している(第94条)。・・・ 法律により,既にある地方公共団体の個人情報保護制度を強制的に画一化することは,地方自治法の上記諸規定に反するにとどまらず,憲法の保障する地方自治の本旨を否定し,条例制定権を不当に制約するものであって,憲法違反の疑いが強い
 したがって,改正法を合憲的に解釈するためには,地方公共団体の個人情報保護制度を国と同レベルのものに画一化するものではないという解釈運用がなされる必要がある。(9-10頁)

オンライン結合制限規定の廃止でリスクが高まる

 ガイドライン案は、オンライン結合に特別の制限を設ける規定について、条例で独自の規定を定めることは許容されないとしている (11 条例との関係) 。
 大部分の自治体の条例は、コンピュータを自治体の外部と回線結合することを制限する規定をしている。
 もともとは市区町村のコンピュータを反対の強い国民総背番号制にはつなげないと住民に約束して、市区町村内でコンピュータ化を推進しようという規定だった。たとえば条例制定を検討した杉並区の有識者会議の答申(1978年3月1日)では、「国民総背番号制に反対するという意味からも、国や地の地方公共団体との結合はしない、ということを基本にすえる必要がある」としていた。
 その後コンピュータ利用が進み、法令の定めがある場合や審議会が承認した場合は回線結合を認めるようになっており、オンライン結合する際の安全性やプライバシー保護の事前チェックの役割が大きくなっている。日弁連意見書は個人情報保護委員会の姿勢を「オンライン化における安全性の確保という課題を軽視するもの」と指摘し、以下のようにその必要性を述べている。

 オンライン化における安全性の確保はデジタル社会を成立させるための基盤であり,原則禁止はそのような基盤に資する制度である。
 デジタル社会を進める上でどのような規制が望ましいかは検討及び改善し続けるべき課題であり,地方公共団体がオンライン結合について規制を設けることを全面的に禁止することは,これまでの地方公共団体の実績を否定し,デジタル社会におけるリスクを増大させ,個人情報保護の後退をもたらすものである(6頁)。

 国でも行政機関等の間の情報連携を目的としたマイナンバー制度では「特定個人情報保護評価制度」を作り、マイナンバー利用事務については事前チェックを義務づけているが、その他の事務では第三者のチェックなしに利用を進めている。国の個人情報保護の遅れを象徴しており、自治体を見習ってマイナンバー利用事務以外も事前チェックの制度をつくるべきだ。
 個人情報保護法改正の立法担当者は、次のようにオンライン結合を制限する規定が不要である理由を述べている。

1 オンライン結合制限規定の趣旨は、情報管理の安全性を確保する点にあると考えられますが、近年の情報通信技術の進展を踏まえると、情報管理の安全性の水準がオンラインであるかオフラインであるかで決まると考えることに合理的な理由は見出せなくなっています。
2 民間部門においては、情報管理の効率性を実現する観点から、機微性の高い情報についても十分なセキュリティ対策を採りつつクラウドサービス等の積極的な活用を図ることが一般化しており、公的部門においてもこれと異なる考え方を採る理由はないと考えられます。
3 このため、改正後の公的部門の共通ルールでは、オンライン結合制限規定は設けておらず、情報管理の安全性は、安全管理措置義務の遵守を通じて、オンライン・オフラインを問わず、図ることとしています。
一問一答令和3年改正個人情報保護法」 55頁

 しかしオンラインで自治体の外部とつながることは、自らの自治体の中での情報連携や文書での連携とは異なるリスクがあり、オンラインでつながることのチェックの重要性は変わらない。
 昨年12月28日には、総務省の有識者会議「デジタル時代における住民基本台帳制度のあり方に関する検討会」が、DV等被害者の支援措置を外部との情報連携で共有する仕組みがなく、加害者への漏洩の懸念が払拭できないとする報告書を発表している(報告書15頁)。
 またクラウドサービス利用についても、政府はガバメント・クラウド上に国や自治体の情報システムを共同化していく方針で、昨年10月にアマゾン・ウェブ・サービスとグーグル・クラウド・プラットフォームの利用を決定していたが、今年2月には機密情報の海外流出を防ぐため、機密性の高い情報の管理は国産クラウドを採用する方針を決めた、と報じられている(2022.2.7読売オンライン)。報道が事実なら、住民情報や医療・教育などの機密性の高い個人情報をガバメントクラウドで運用するのは漏洩のリスクがあることになる。住民情報の安全管理責任を負っている自治体が、自らクラウド利用をチェックすることを否定する理由はない。
 なおガイドライン案も、「単なる内部の手続に関する規律にすぎない事項など、個人情報保護やデータ流通に直接影響を与えない事項については、条例で独自の規定を置くことも考えられる。」と述べている( 11 条例との関係 )。自治体の創意工夫が求められる。

●課題山積の国基準化 「共通ルール」の見直しを

 その他、条例の「国基準化」には、課題が多い。たとえば
▼議会は独自に個人情報の取扱を定める必要
 多くの条例は自治体の議会も対象に含むが、個人情報保護法では議会は対象外となっている。ガイドライン案(4‐1‐1)も、議会は「個人の権利利益の保護という観点からは、自律的な対応のもと個人情報の適切な取扱いが行われることが望ましい。」としており、取り扱いの整備が必要だ。
▼行政機関等匿名加工情報の扱い
 法改正により自治体も匿名加工情報の提案募集を実施しなければならない(ガイドライン案  8 行政機関等匿名加工情報の提供等)。しかし運用が難しい制度で、国でも2017年から開始して実績は1件しかなかったことが国会で明らかになった。当分の間、都道府県・政令指定都市のみに適用され、その他は任意で提案募集可能(附則第7条)とされており、できるだけ運用状況を見てから対応した方がいい。
▼死者に関する情報の扱い
 条例の中には、個人情報の中に死者の個人情報も含めているものがある。個人情報保護法では、個人情報を生存する個人に関する情報としているため、ガイドライン案では「 死者に関する情報を条例で「個人情報」に含めることはできない。ただし、死者に関する情報が同時に遺族等の生存する個人に関する情報でもある場合には、当該生存する個人に関する情報として法の保護の対象となる。」としている(4‐2‐1 個人情報)。
 ただ「最終報告」では「地方公共団体において、別途、個人情報とは別のものとして、死者に関する情報の保護についての規定を設け、必要な保護を図ることは考えられる。」としており(41頁)、保護水準を低下させない工夫を検討すべきだ。
▼個人情報ファイル簿の作成
 多くの自治体では、個人情報の取り扱いを住民に明らかにするため、事務単位で「個人情報登録簿」を作成し公表している。一方、個人情報保護法ではファイル単位の「個人情報ファイル簿」の作成を義務づけている。
 条例の国基準化により自治体も「個人情報ファイル簿」の作成が義務づけられるが、引き続き「個人情報登録簿」も併用して利用するかは自治体の判断に委ねられている(ガイドライン案 6‐2 個人情報ファイル簿の作成及び公表)。
 しかし自治体にとっては新たに「個人情報ファイル簿」を作成するのは、かなりの事務負担となる。
▼開示・訂正・利用中止請求
 行政機関等については、個人情報保護法は幅広い不開示情報を定めているが、それが自治体にも適用されることで、現行の運用が後退する虞れがある。また法では、訂正・中止請求の前に開示請求が必要になる。開示を受けられるまで訂正・中止請求できない。条例では、開示請求なしに訂正・中止請求できるところが多く、手続きに時間がかかることになる。
 さらに問題なのは、開示等の請求者に本人・法定代理人に加え任意代理人も認めていることだ。自治体の現場では、本人と「利益相反」する代理人からの開示請求や虐待ケースの加害者と思われる代理人からの請求など、運用に課題を抱えて苦慮している(詳しくは「2021年改正自治体職員のための個人情報保護法解説」183頁~参照(第一法規2021.11宇賀克也・宍戸常寿・高野祥一)

 その他にも多くの課題がある。自治体の条例を踏まえて「共通ルール」を定めるのではなく、国の行政機関個人情報保護法のルールを自治体に押しつけたために、個人情報保護の低下や事務負担などが心配される。長年にわたり住民の個人情報を守ってきた条例が、拙速な改正により混乱する虞れもある。
 国は、国会が「全国に適用されるべき事項については、個人情報保護法令の見直しを検討すること」と附帯決議していることを受け止め、再検討すべきだ。

検討過程の問題については当ブログの、「地方自治は「許容されない」?! 個人情報保護委員会の条例対応」を参照してください。

個人情報保護条例の画一化・国基準化に関する資料は、こちらに収録されています。

誰も取り残さないサイバー監視
サイバー警察局・特捜隊新設!

 警察庁にサイバー警察局を新設する警察法の一部を改正する法律案が、2022年1月28日国会に提出された。国の機関である警察庁の関東管区警察局に全国を管轄するサイバー特別捜査隊を新設し、重大サイバー事案の捜査を行う法案だ。近々審議入りが予定されている(法案概要はこちら)。

追記:2022.2.25(3箇所)

サイバー警察局を新設する警察法改悪案を廃案に!
       3・1院内集会
日時:2022年3月1日(火)12時~13時30分  
会場:衆議院第1議員会館  第1会議室
主催:
警察法改悪反対・サーバー局新設反対2・6実行委員会
  連絡先:小倉利丸(070-5553-5495)
  メール :no-cyberpolice.techcenter@aleeas.com
  詳しくは実行委員会のサイト

サイバー警察局・サイバー特別捜査隊の創設に反対する
  学者・弁護士共同声明   こちらをご覧ください

●(声明)警察法改悪反対、サイバー警察局新設反対

  私たちが日常利用している電子メール、SNSなどによるコミュニケーションを高度な技術力を駆使して捜査対象に据え、戦前の国家警察の反省から生まれた自治体警察の枠組が骨抜きにされようとしているが、個人情報の保護措置は示されていない。
 警察法改悪反対・サイバー局新設反対2・6市民集会の実行委員会は、2月14日反対声明を発表した。声明への賛同を呼びかけている(2.6市民集会の資料等はこちら)。

●政府のデジタル化強要で拡大するサイバー犯罪

 2022年2月10日警察庁は、「令和3年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(速報版) 」を公表した。ランサムウェアによる被害が拡大し、国内の医療機関が標的となり市民生活に重大な影響を及ぼす事案が発生しているとしている。
 政府は昨年5月デジタル改革関連6法を成立させ、行政手続等を原則オンライン化し、全住民にマイナンバーカードを所持させ、誰一人取り残さずデジタル手続の利用を強要しようとしている。住民の個人情報を守ってきた個人情報保護条例の「リセット」や規制緩和によって、個人情報の利活用を推進しようとしている。 昨年10月の「デジタルの日」では「#デジタルを贈ろう」をテーマに、「祖父母にタブレット端末を贈ろう、子どもとプログラミング教室に行こう」などと呼びかけていた。デジタル庁によって国・地方の行政機関の情報を共有できるように標準化し、医療・教育など準公共分野のデジタル化を迫る「重点計画」を昨年12月に決定した。

  そのような中、昨年10月に徳島県つるぎ町立半田病院がランサムウェア攻撃を受け、システムが長期にダウンする被害が発生した医療機関を狙ったサイバー攻撃が多発している。昨年10月に運用開始した「健康保険証とマイナンバーカードの一体化」では、医療機関は健康保険情報を管理するオンライン資格確認等システムへの常時接続が必要になる。多くの医院はセキュリティに不安を抱き、利用機関は1割と低迷しているが(2022年2月6日時点、運用開始施設数11.7%)、政府は2023年3月末までに全ての医療機関で利用するよう迫っている。
 デジタルに不慣れな人や機関を強引にサイバー空間に参入させれば、サイバー犯罪の増加は避けられない。それを理由に「誰も取り残さないサイバーセキュリティ」戦略により市民監視を強化しようとするのがサイバー警察・特捜隊だ。サイバー犯罪の増加を市民や機関の「リテラシー不足」に責任転嫁する「なんでもデジタル化」政策の見直しこそ必要だ。

   サイバーセキュリティ戦略2021概要

●諜報活動と犯罪捜査の境が崩れ市民監視が拡大

 サイバー警察局・特捜隊の新設は、海外からのサイバー攻撃集団に対する国際共同捜査をその必要性の一つとしている。
  2021年9月28日に閣議決定された「サイバーセキュリティ戦略」は、2014年制定のサイバーセキュリティ基本法に基づく3回目の戦略だが、初めてサイバー攻撃の脅威国として中国・ロシア・北朝鮮を名指しし、「同盟国・同志国」と連携した安全保障の観点からの取組強化を求め話題になった。
 サイバー警察局もこのような安全保障戦略の中で、サイバー監視の国際共同オペレーションを進めていこうとしている。サイバーセキュリティ政策会議報告書は、関係国等と連携したサイバー空間の安全確保として、サイバー隊が国の捜査機関として前面に立ち、戦略的に国際捜査を推進すると述べている(30頁)。

 しかし国際刑事警察機構の元サイバーセキュリティ総局長である中谷昇氏が、中国によるデータ収集疑惑とともにNSA(アメリカ国家安全保障局)元職員のスノーデン氏が暴露したアメリカ政府機関による「同盟国」も含む世界的な通信傍受を例に、日本は「(中国・アメリカ)両国のデータ収集対象国となっている可能性は極めて高い、と考えておくのが妥当であろう」と近著(「超入門デジタルセキュリティ」講談社α新書156頁)で指摘されているように、中露北の脅威に偏したサイバー監視は誤りだ。
 安全保障戦略に基づく諜報活動(インテリジェンス)と犯罪捜査という法執行が、サイバー警察局ができることにより重なっていくことに対する懸念は、 警察庁サイバーセキュリティ政策会議でも委員から指摘されていた(第1回8-9頁)。警察庁は、指摘のような懸念が存在することは認識しており国民に誤解が生じないように丁寧に説明を行っていく必要がある、と応じているが説明はない。
 公共空間化したサイバー空間全体を俯瞰した、市民生活の大量監視システムを作らせてはならない。

●警察情報システムが警察庁の共通基盤に一元化

 サイバー警察局新設により、分散していた警察庁内のリソースを一元化し「刑事部門、生活安全部門、交通部門、警備部門など既存の警察部門と連携し、 警察組織全体でサイバー空間・実空間の両者にわたり隙間なく脅威に対処」(警察庁サイバーセキュリティ政策会議令和3年度報告書21頁)しようとしている。
 今国会には、マイナンバーカードと運転免許証を一体化する道路交通法改正案も提出予定だ。2021年12月24日閣議決定の 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、 マイナンバーカードと運転免許証との一体化の実現として、「令和6年度(2024年度)末にマイナンバーカードとの一体化を開始する。これに先立ち、警察庁及び都道府県警察の運転免許の管理等を行うシステムを令和6年度(2024年度)末までに警察庁が整備する共通基盤(警察共通基盤)上に集約する」(46頁)とされていた。警察業務のデジタル化(93頁)では、警察情報管理システムを警察共通基盤上に順次共通化・集約化するとなっている。
 「警察庁デジタル・ガバメント中長期計画」は、 主な取組を運転免許業務及び警察情報管理システムの合理化・高度化としている。警察庁・都道府県警察が個別にシステム整備をしデータ標準化がされず連携しにくい現在の警察情報管理システムを、警察庁が共通基盤を整備し、他のシステムとの連携も含めた警察情報管理システム全体の合理化・高度化に取り組むとしていた。
 そのためのアクセンチュアによる「2020年度警察情報管理システムの合理化・高度化に関する調査研究業務調査報告書」では、下図のようにまず運転者管理と相談業務等の一元管理システムを作るが、将来的にはこれら9業務以外も集約する予定とされている(4頁)。

 またこの共通基盤システム上では警察庁及び各都道府県警察のデータはそれぞれ区別された状態で管理し、自都道府県警察以外のデータを許可なく参照及び更新できない仕組みにするが、「ただし、全国共有が可能なデータや警察庁への送受信が必要なデータについては、 警察庁が管理するデータとして一元的に集約を行う」(アクセンチュア報告書5頁)となっている。この具体的なシステムは、報告書では不明だ。

 サイバー警察局は、都道府県警察が捜査など法執行を行うという原則を超えて、国の機関である警察庁がはじめて捜査権限を持つ。それとともに、本来別々の目的で収集され目的外利用・提供をすべきでない都道府県警察の管理する刑事部門の捜査情報、生活安全部門の相談情報、交通部門の運転免許等の情報、警備部門の治安情報を、市民生活の大量監視に利用可能にしようとしている。

●警察保有の個人情報の保護とシステムの透明化を

 今年1月18日名古屋地裁は、無罪となったあとも再犯のおそれなど具体的な必要性を示さないまま指紋やDNA型、顔写真などを警察が保管し続けることを認めず、データの抹消を命じる判決を下した。

 2月21日岐阜地裁は、大垣市の風力発電所建設問題で、県警が収集した住民の氏名、住所、学歴、病歴、活動歴などの個人情報を、中部電力の子会社シーテックに提供したことを違法として損害賠償を命じる判決を下した。収集の違法性を認めない不十分な判決だが、提供については要保護性の高い情報を積極的・意図的に提供しており悪質とまで批判している。(裁判経過については、大垣警察市民監視違憲訴訟の勝利をめざす「もの言う」自由を守る会サイトを)
 警察の個人情報の保管に対しても提供に対しても、厳しい司法の判断が示されている。このような状態でサイバー監視のために警察の保有する個人情報を共有する「警察共通基盤」が作られようとしている。


 マイナンバー違憲差止訴訟では、 番号法が刑事事件捜査等にもマイナンバーで管理する個人情報の提供を認め、警察が必要と認めれば保管・利用でき、個人情報保護委員会の監督が及ばず捜査機関による濫用を防止できないことの合憲性が争点の一つになっているが、捜査名目による個人番号の利用についての 国側の 主張は変遷し曖昧な説明に終始している。
 2021年5月の個人情報保護法改正により、捜査機関が保有する捜査情報に含まれる個人情報の取扱いも個人情報保護委員会の監視対象になったが、国に甘く地方自治体や民間事業者に厳しい今の個人情報保護委員会の姿勢では、捜査機関への監視はまったく期待できない。法律上も個人情報保護委員会と他の行政機関とは上下の指揮命令関係にはないからとして、個人情報保護委員会が他の行政機関に対して法的拘束力のある命令は行えず、民間事業者には拒否すると罰則のある立入検査ができるのに、行政機関に対しては罰則のない実地検査しかできないと国会で答弁されている。これでも「高度の独立性を有する第三者機関」なのか。

 警察における個人情報の取扱いが法的に規制されず、システムも透明性を欠いており、基本的人権の保障が不十分なまま情報が共有され、市民生活の大量監視が防げないサイバー警察局・サイバー特捜隊を新設すべきではない。

またやるのかマイナポイント(3)
危険なマイナポイントとカード

●マイナンバーカードの危険性は「誤解」か

 政府はマイナポイントやマイナンバーカードについて、安全性を強調している。デジタル庁の担当者は、マイナンバー制度やカードが安全ではないという誤解を払拭すると語っているようだ
 しかしマイナンバーカードの危険性は誤解ではない。共通番号いらないネットでは、リーフレットNo8などでマイナンバーカードの危険性を指摘してきた。政府の説明は、自ら語ってきた危険性も曖昧な表現でごまかしながら、なんとかマイナンバーカードを普及させようとするものでしかない。
 このようなことを続けるかぎり、市民のマイナンバー制度に対する不信は払拭されないだろう。そればかりか、このような政府の姿勢はマイナンバー制度の危険性を一層増大させる。リスクを隠すことは最大のリスクだ。

●国に情報が知られないシステムだから安心?

 政府のマイナポイントのサイトでは、「マイナポイントを利用することにより、国に自分の氏名や住所等の個人情報が知られてしまうことはありません。 」「このシステムを通じて総務省や民間企業にマイナンバーが渡ることはなく、キャッシュレス決済サービスで取り扱う個人情報やお買い物情報についても、国が管理、保持できない仕組みとなっています。」と説明している。
 またやるのかマイナポイント(2)で書いたように、マイナポイントは総務省が設置し自治体が運用協議会を作る「マイキープラットフォーム」で、一人一つのマイキーIDとマイナンバーカード内蔵の電子証明書のシリアル番号とをひも付けて管理されている。法的な根拠はなく、当然、個人を特定識別し利用状況を管理できる。
 政府の説明は「マイナンバーは使っていない」というだけのことで、法律で利用が規制されているマイナンバーの代わりに、法律で規制のないマイキーIDと電子証明書のシリアル番号で管理するという、ある意味もっと危ない仕組みだ。「個人情報やお買い物情報」の管理についても、なんの法的規制もない。
 国は下図のように、法律で利用が限定されているマイナンバーの代わり、民間も含め幅広く利用が可能な電子証明書のシリアル番号を、個人の識別・追跡に利用を勧めるという「脱法マイナンバー」的な利用を推進してきた。
  ちなみにマイナンバーも電子証明書のシリアル番号も、生成・管理しているのは地方公共団体情報システム機構(J-LIS)だ。2021年5月に成立したデジタル改革関連法により、J-LISはいままでの地方自治体の共同管理法人から国と地方の共同管理になり、国の関与が強化されている。

    マイナンバー概要資料平成20年5月版より

●マイナンバーを知られることは危険

  マイナポイントのサイト は「 マイナンバーを知られても、他人は悪用できません」などと、無責任な情報をばらまいている。悪用できないなら、なぜマイナンバーの取扱いを厳しく規制しているのか。その規制を守るために事業者も行政機関も自治体も、大変な努力と費用を払っている。「個人番号が悪用され、又は漏えいした場合、個人情報の不正な追跡・突合が行われ、個人の権利利益の侵害を招きかねない。」(個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」)からではないのか。
 マイナンバーを利用する手続で「マイナンバーだけで悪用できない仕組み」と説明しているが、マイナンバーだけが漏洩するということはない。かならずマイナンバーと個人情報が付いた「特定個人情報」が漏洩する。日本弁護士連合会は、その危険性を次のように指摘している。

 個人番号カードの裏面に記載されている個人番号は、悉皆性、唯一無二性を持ち、原則生涯不変の個人識別情報である。・・・・・個人番号が不正利用されれば、個人データが名寄せされデータマッチング(プロファイリング)されてしまう危険がある。・・・・・個人番号カードを携帯して利用できるとすることで、厳重に管理されるべき個人番号が第三者に知られる危険が大いに高まる(日弁連2021年5月7日「個人番号カード(マイナンバーカード)普及策の抜本的な見直しを求める意見書」

 「特定個人情報」が知られることの危険性は、マイナンバー制度を中心になって推進してきた向井治紀内閣官房内閣審議官(現デジタル庁参与)も、マイナンバーをいろんな人が知るとプロファイリングの危険性があるから提供を制限している、と国会で説明していた。(2019年5月9日第198回国会参議院厚生労働委員会での説明)

「マイナンバーが個人の名前とかではなくて番号であるがために非常に大量処理しやすいと。したがって、Aさんのマイナンバーをいろんな人が持っているという状態に、合法であれ違法であれ、そういう状態になってしまうとプロファイリングの危険性がございますので、そういうコンピューター処理にならないような状態にするために、大量の、何といいますか、マイナンバーがいろんな人がたくさん知っているという状態にはなってはいけない。 」

 プロファイリングの危険性というのは、たとえばいずれもマイナンバーの利用事務である世帯情報と年金情報と介護保険情報が漏洩した場合、個々の漏洩によるプライバシー侵害に止まらず、個人を正確・迅速に名寄せできるマイナンバーを使って漏洩した個人情報を結合することにより、犯罪者集団が「単身で年金が多い認知症の高齢者」という悪徳商法や振り込め詐欺の対象にしやすい「カモのリスト」を容易に生成できるという危険だ。
 漏洩した個人情報が増えるほど、危険性は加速度的に増大し、被害が出てから止めるのは困難になる。だから私たちは「共通番号」に反対している。

●分散管理だから個人情報はまとめて漏れない?

 マイナポイントのサイト は、マイナンバー制度では情報を「一元管理」する特定の共通データベースを作らないので、そこからまとめて情報が漏れることはないと説明している。
 「一元管理」と「分散管理」というのは国の常套文句だが、国が「一元管理」と言っているのは、個人情報を共通データベースという一カ所に集約するということだ(下図)。何十年前のコンピュータ化の初期ならともかく、今どき一カ所に集約する非効率なデータベースをつくることは、現実にはない。無意味な対比だ。
  個々の行政機関などで分散管理している個人情報を、必要に応じて照会し結合することができるのがマイナンバー制度であり、その情報照会-情報提供を「一元的に管理」する仕組みとして、総務省-デジタル庁が管理する情報提供ネットワークシステムが作られている。

●マイナポータルですべての特定個人情報がわかる

 この仕組みからマイナポータルによって、マイナンバーを付番して行政機関等で管理する個人情報をすべて知ることができる。下図がマイナポータルから取得できる個人情報の主なもので、いずれもプライバシー性の高い情報だ。
 個人情報保護のためには必要な仕組みだが、悪用されるとこれらの個人情報が<だだ漏れ>する危険がある。

デジタル時代における住民基本台帳制度のあり方に関する検討会2021.7.19有識者部会資料2

 かつて向井治紀内閣官房内閣審議官(現デジタル庁参与) も、マイナポータル(旧マイ・ポータル)は極めて危険度が高いと説明していた。

「マイ・ポータルというのは極めて危険度が高いです。逆に言うと自分の情報を全部見ることができてしまうというのは極めて危険度が高いので、そういう意味では代理をする場合でも、やはり一定の非常に高いセキュリティー、あるいは厳格な要件を設けざるを得ないと思っています。(番号制度シンポジウムin鳥取(平成23年11月25日)【議事録】45頁 )

●マイナポータルからの漏洩を防ぐのは自己責任

 マイナポータルは、マイナンバーカードと暗証番号によりアクセスする。カードと暗証番号を取得されてしまうと、他人が成り済ましてアクセスすることは可能であり国はリスクの軽視ではないか、と国会で指摘されたことがある
 マイナンバーカードの暗証番号は、6~16桁一つと4桁3つの計4種を設定する必要がある(下図)。4桁3種は同じでもよいと国は説明しているが(セキュリティ上は分けた方がいいに決まっている)、いずれにせよ記憶しておくのは大変で、番号をメモして持ち歩き、一緒に紛失・盗難することになりがちだ。手続きのために他人に預けることもあるかもしれない。
 それに対して政府(吉川浩民総務大臣官房審議官)は、「そもそも、成り済まし防止のための暗証番号というものは、マイナンバーカードとは別に適切に保管していただくことが前提でございます」と答えていた。仮にマイナンバーカードとともに暗証番号が漏えいしても、24時間365日体制のコールセンターに連絡すればカード機能の一時停止の措置を行うことが可能とも説明している。つまり暗証番号をマイナンバーカードと一緒に持ち歩いたり、すぐに連絡をしない本人の問題だ、というわけだ。
 しかし政府がマイナンバーカードの悪用は困難とか個人情報が漏れることはないとか宣伝している状態では、市民は紛失のリスクを認識できない。それで自己責任というのは、責任転嫁だ。

    マイナンバー概要資料平成20年5月版より

2.6サイバー局新設と
警察法改悪に反対する市民集会

【2022.2.8 発言者レジメへのリンクを追記

●サイバー警察局新設の警察法改正案国会提出

 2022年1月28日、警察法の一部を改正する法律案が閣議決定され、国会に提出された。警察庁にサイバー警察局を新設し、関東管区警察局に全国を管轄するサイバー特別捜査隊を新設する法案だ。
 「誰一人取り残さない」デジタル改革により、すべての人がデジタルによる手続を強いられようとしている。その結果うまれる社会の不正アクセスに対する脆弱性を、「誰も取り残さない」監視の強化によって対処しようとするものだ。
 戦後日本の警察は、戦前戦中の教訓から国家警察を解体し、自治体警察で犯罪捜査を行ってきた。捜査権限があるのは都道府県警察(東京は警視庁)で、国の行政機関である警察庁はその調整をしてきた。今回の法改正で、初めて警察庁が「重大サイバー事案」の捜査など法執行を直接行うことになる大改革だ。

●マイナンバーカードに運転免許一体化法案も

 今国会には、マイナンバーカードに運転免許情報を一体化する道路交通法改正案も提案予定だ。2024年度末に一体化を開始するためということで、警察庁が 警察情報管理システムを「警察共通基盤」上に順次共通化・集約化し、警察庁と都道府県警察のシステム間の連携強化を図ろうとしている。当面は運転免許情報や相談情報を「共通基盤」に一元的に集約するが、将来的には他の業務も集約していくことを予定している。

「デジタル社会の形成に関する重点計画」
         (2021年12月24日閣議決定)
(4)マイナンバーカードの普及及び利用の推進
 ② マイナンバーカードと運転免許証との一体化の実現
 令和6年度(2024年度)末にマイナンバーカードとの一体化を開始する。これに先立ち、警察庁及び都道府県警察の運転免許の管理等を行うシステムを令和6年度(2024年度)末までに警察庁が整備する共通基盤(警察共通基盤)上に集約する。(46頁)

国や地方公共団体の手続等の更なるデジタル化に関する具体的な施策
 ② 警察業務のデジタル化
 警察情報管理システムを、警察共通基盤上に順次共通化・集約化しつつ、更なる警察業務のデジタル化を通じて、国民の利便性の向上や負担軽減を図るとともに、行政手続の処理の 効率化と警察情報管理システムの整備・維持に係るコスト削減を図るため、以下の取組を行う。
・運転者管理システムは、令和5年(2023年)1月に警察共通基盤上で一部の都道府県警察において運用を開始し、令和6年度(2024年度)末までには全都道府県警察において運用を開始する。(93頁)    (以下略)

 法制度的にもシステム的にも、警察が大きく変わろうとしている。それが市民生活に何をもたらすか検証し、法改正に反対する集会が行われる。主催者の呼びかけを掲載する。 

https://www.jca.apc.org/shiminren/wp-content/uploads/2022/01/image.png

◆日時:2022年2月6日 14時 (開場:13時30分)
◆会場:文京シビックセンター 4階シルバーホール
 ○アクセス 地下鉄 丸の内線・後楽園駅/三田線・春日駅
 地図:https://www.city.bunkyo.lg.jp/shisetsu/civiccenter/civic.html
●オンライン配信も予定しています。
 https://vimeo.com/event/1709950
◆集会サイト
  https://www.jca.apc.org/shiminren/?page_id=472
●参加費:500円
●オンライン参加の方は以下の振込口座に参加費を振り込んでください。集会終了後一週間ぐらいを目安に振り込んでもらえると助かります。
  振込口座番号 00120-1-90490
  加入者名 盗聴法に反対する市民連絡会
  通信欄に「2.6集会参加費」と明記してください
●会場に来られる場合は、新型コロナ感染予防のため、マスクの着用をお願いします。
●主催:2・6集会実行委員会
・連絡先: 盗聴法に反対する市民連絡会
      hantocho-shiminren@tuta.io
 JCA-NET 070-5553-5495(小倉)

<発言者>
  【2022.2.8発言レジメ追記 クリックすると開きます】
サイバー局新設で市民社会の何が変わる?
 中森圭子(盗聴法に反対する市民連絡会)
デジタル改革と運転免許証・マイナンバーカード一体化
 原田富弘(共通番号いらないネット)
「自衛隊サイバー防衛隊」は何をやろうとしているのか
 木元茂夫(すべての基地に「No!」を・ファイト神奈川)
警察の治安弾圧-治安管理・治安弾圧の現状と課題
 安藤裕子(破防法・組対法に反対する共同行動)
スーパーシティ/スマートシティで進む監視と管理
 内田聖子(NPO法人アジア太平洋資料センター<PARC>共同代表)
ほか

  警察庁は新たに「サイバー局」を設置する大幅な組織改革を打ち出しています。サイバー局の新設に伴って、これまで都道府県が担っていた犯罪捜査に対して、国(警察庁)が自ら捜査権限をもつサイバー犯罪対応の専門部隊も新設されます。こうした組織再編は、国内のサイバー犯罪対策だけでなく、海外の捜査機関との連携の強化も意図してのことといわれています。
 すでに2022年度の概算要求で、必要な組織再編や人員などが計上されています。国直轄の捜査機関や局の新設などは、警察法の「改正」が必要となる重要な問題であり、関連する法案などが通常国会に上程されることになります。
 私たちは、警察庁が国直轄の捜査機関を新設することには絶対反対です。インターネットをはじめとする「サイバー」空間は、集会、結社、言論など表現の自由の空間であり、また通信の秘密は憲法で保障された私たちの基本的人権の一部です。「サイバー局」は基本的人権によって保障されたコミュニケーションの権利を掘り崩すことになります。私たちは、捜査機関による私たちのコミュニケーションへの監視・介入を許す警察法の改悪には絶対反対です。
 警察法の改悪とサイバー局の新設は、この間政権が強引に推し進めてきたデジタル監視社会化の一環です。デジタル庁やサイバー関連の法・制度改悪、マイナンバーのなしくずし的な利用拡大、自治体レベルでの強引な「デジタル」化、子どもをターゲットにしたデジタル管理教育、自衛隊のサイバー戦争関連部隊の増強など、改憲とも連動した動きであることを見逃すわけにはいきません。本集会では、これらがもたらす新たな監視社会体制について、様々な角度から、問題点を探り、サイバー局新設と警察法改悪反対のアクションの第一歩にしたいと考えています。

● 警察法の一部を改正する法律案

 改正案は、警察庁のサイトに掲載されている。
   要綱(63KB)
  案文・理由(118KB)
  新旧対照表(164KB)
  参照条文(180KB)
  参考資料(112KB) ※以下の概要図

        警察法改正案概要

またやるのかマイナポイント(2)
法的根拠のない危うい利用

●そもそもマイナンバーカードって何?

 連日のテレビCMや新聞の一面広告などで、政府は「そろそろ、あなたもマイナンバーカード」などとマイナンバーカードの宣伝普及に躍起だ。
 そもそもマイナンバーカード(番号法の正式名称は「個人番号カード」)は、マイナンバーを記入・提出する際に番号だけで本人確認するとアメリカ等のように成り済まし詐欺が横行するのを防ぐための本人確認を目的に作られた。
 あわせて内蔵するICチップに券面情報やオンライン申請等に使う電子証明書を記録するとともに、条例や政令で定めた事務にICチップの空き容量を使用できると説明していた(電子証明書は記録しないことも可能)。法律に規定された利用は下図のようなものだ。
 マイナンバーカード以外の本人確認手段もあり(たとえば番号通知カードと運転免許証)、全住民に所持させる必要はなく希望者が申請するカードだ。それが2019年6月の「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」により、2023年3月までに全住民に所持させる強引な普及策が進められている。

    マイナンバー概要資料(2015年2月版より

「マイナンバーカードはデジタル社会の基盤」!?

 いま、マイナンバーカードの役割は、当初の目的から大きく広がり変化している(下図参照)。岸田首相はマイナポイント予算2兆円は無駄だと問われて、マイナンバーカードはこれから社会全体のデジタル化を進める上でインフラ基盤となる大切な存在であり、利便性を高めることによって是非普及をし社会全体のデジタル化をしっかり進めていきたい、と国会答弁していた。
 しかしこれらの利用拡大は法律の根拠があいまいなものが多く、市民がマイナンバーカードに不気味さを感じるのは当然だ。マイナンバーカードがなければ行政サービスが受けられないようなデジタル社会を作るべきではない。宣伝に血道をあげるまえにどういう利用をするのか、そのリスクへの対応をどう措置するのか、法律で明確にすべきだ。

    マイナンバー概要資料(2020年5月版より

●マイナポイントを管理する仕組みは?

 たとえばマイナポイントは、総務省が作り2017年9月から運用開始しているマイキープラットフォームの、「自治体ポイント管理クラウド」で管理している。マイキープラットフォームは「マイキーID」という一人一つの番号で管理するデータベースで、マイナポイントの申請=マイキーIDの設定だ。
 マイナポイントだけでなく自治体の図書館など公共施設の利用者カード、学習講座などの受講者カード、健康体操やボランティア事業などへの参加記録なども、マイキーIDにひも付けて管理するようになっており、たとえば図書館カードとして32自治体で利用されている
 マイキープラットフォームの利用にはマイナンバーカードが必要で、内蔵のICチップに記録されている「電子証明書」の発行番号(シリアル番号)とマイキーID、そして利用する各事業の利用者番号をひも付けて管理することで、マイナンバーカードをカードリーダーにかざせば本人識別しデータ管理できるようになっている(下図参照、JPKIとは公的個人認証サービス)。

      マイキープラットフォーム構想の概要

●法律に根拠のない危ないマイナポイント

 マイナポイントを管理するマイキープラットフォームは、マイナンバーを使用しないため番号法上の利用事務にはなっておらず、番号法に利用の規制は書かれていない。管理している個人情報について、図書の貸出し履歴や物品の購入履歴等の情報は保有できないと説明されているが、法的な担保はなく行政の姿勢次第だ。
 マイキーID設定時に利用者との契約もなく、情報がどう管理され提供されるか、利用者にはわからない。地方自治体によってマイキープラットフォーム運用協議会が作られているが、「マイキープラットフォーム及び自治体ポイント管理クラウド利用規約」にも個人情報の保護について何の記載もない。
 2019年1月に Tカードなどのポイントカードの情報が知らないうちに警察に提供されていたことが報じられ問題になったように、マイキープラットフォームの利用情報は重要な個人情報だ。
 漏洩や提供だけでなく、自治体が利用情報を住民のプロファイリングに使う虞れもある。中国でポイントサービス等の利用情報を使って、個人を信用システムでランクづけしようとしているのは有名な話だ。マイナポイントも目的は「官民共同利用型キャッシュレス決済基盤」を作ることだ(下図参照)。

「マイナポイント」を活用した消費活性化策について( 2019年9月30日 総務省 マイナポイント施策推進室 )

●マイナポイントの仕組みは合憲か?

 国はマイナンバー制度への「国民の懸念」を防ぐために、住基ネット最高裁合憲判決(平成20年3月6日)を踏まえた個人情報保護措置を講じるとしていた(下図参照)。この「懸念」について、マイナンバー違憲差止・東京訴訟で国は、「主観的な不安感」ではなく客観的な危険性だが個人情報保護措置により具体的危険性ではない、と弁護団の求釈明に対して回答していた。
 この住基ネット最高裁判決では、住基ネットを違憲とした大阪高裁判決(平成18年11月30日)が、カード(住基カード)の利用を住基ネットの具体的危険の一つと判断したことに対して、以下のように否定して合憲とした。

 (大阪高裁判決は)住民が住基カードを用いて行政サービスを受けた場合,行政機関のコンピュータに残った記録を住民票コードで名寄せすることが可能であることなどを根拠として,住基ネットにより,個々の住民の多くのプライバシー情報が住民票コードを付されてデータマッチングされ,本人の予期しないときに予期しない範囲で行政機関に保有され,利用される具体的な危険が生じていると判示する。 しかし・・・・・
  システム上,住基カード内に記録された住民票コード等の本人確認情報が行政サービスを提供した行政機関のコンピュータに残る仕組みになっているというような事情はうかがわれない。・・・・・(判決文12頁)

 マイナポイントの個人情報を管理するマイキープラットフォームでは、マイナンバーカードを使った個人データをマイキーIDや電子証明書の発行番号(シリアル番号)を使って名寄せ(データマッチング)することができる。その危険性を防ぐ法的な規定もない。これで合憲と言えるのだろうか?

マイナンバー概要資料( 内閣官房社会保障改革担当室 )平成26年2月版