付番義務付けは見送られたが、
問題だらけの預貯金口座付番案

●預貯金口座へのマイナンバー付番の案が提示

 11月27日、デジタル・ガバメント閣僚会議のマイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ第5回に、預貯金口座付番についての内閣官房の案が示された。メディアが口座へのマイナンバーひも付けの義務化は見送りと報じているように、国民が番号を金融機関に告知する義務は規定しないとしている。
 口座への付番義務付けなどできないことは、私たちもこのブログや10月24日の学習会などで指摘してきたし、メディアも指摘し、政府の事務方トップの向井治紀番号制度推進室長も11月4日にマイナンバー・口座ひもづけ「義務化へ罰則は無理筋」と講演していた。
 義務付けについては、自民党PT提言は政府に全口座への付番義務づけの検討を求め、高市前総務大臣は振り込み用の一人一口座の付番義務づけを主張するなど、自民党内でも意見が分かれていたが、自民党の義務化への執念をとりあえず断念させたのは世論の勝利だ。

●問題だらけの内閣官房の口座付番案

この会議の配布資料は
 資料1: 内閣官房説明資料(PDF/1,033KB)
 資料2: 事務局説明資料(非公表)
となっており、なぜか「事務局説明資料」が非公開だ。 公開されている内閣官房の資料が「イメージ」であることを考えると、具体的な制度設計が煮詰まっていないと思われるが、内閣官房説明資料をみるかぎりでも問題だらけで、義務化されなかったからよかったでは済まない。

 今回政府がやろうとしているのは、国民が自らの判断で、公金受取のための口座登録と、保有する口座へのマイナンバー付番の同意を行うことにより、
(1)様々な給付金を、簡単 な手続で受け取れるようにする
(2)災害時・相続時に、通帳を紛失したり、口座がわからなくても、口座の所在を確認できるようにする
ことだ。

そのための制度として
(1)マイナンバー付きの公金受取口座を国に登録する制度を創設する。
(2)相続の発生や災害に備え 、あらかじめ口座へのマイナンバーの付番の同意を得たうえで、預金保険機構が、本人の既にマイナンバー付番された口座以外の口座に付番する サービスを創設する 。
(3)相続発生時、災害時に、本人がマイナンバーを提示すれば 、マイナンバーで付番しておいた口座の所在を確認できる制度を創設する。
としている。

          図はすべて内閣官房説明資料より

●給付遅れは振込口座情報の申告のためか?

 制度をつくる理由として内閣官房説明資料では
「今般の新型コロナウィルス対策の給付金においては、個人が振込口座情報を申告する必要があったため、申請者や、確認作業を行う職員の負担となり、迅速な給付のボトルネックとなった。また、マイナンバーを利用することができず、照合作業が非効率なものとなった。」
と、振込口座申告が迅速な給付のボトルネックになったと説明している。

 しかし一人10万円の特別定額給付金の給付の混乱の主要な原因
1)マイナンバーカードが普及せず、電子証明書やマイナポータルが知られていない中での、安易なオンライン申請の推奨
2)2016年のマイナンバーカード交付などたびたびトラブルを起こしている地方公共団体情報システム機構のシステムの準備不足
3)現場の事務を知らない内閣府が急ごしらえで作ったオンライン申請システムによる市町村の過重な事務負担
だった。

 政府も2020年7月17日閣議決定の「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、特別定額給付金の課題として
「申請だけでなく給付に至るまでの手続全体のデジタル化、マイナンバーの活用に係る制度的制約、マイナンバーカードの普及等の課題がある。
 また、デジタル対応が可能となっているにもかかわらず、実運用するための準備不足や、対面・書面を前提とした行政運営により、デジタルが活用されず、迅速な給付等に支障が出たケースもある。」(5頁)
と述べていて、振込口座の申告のことは特に書いていない。

●マイナンバーを利用できず非効率になったのか?

 また今回の内閣官房説明資料では、
「マイナンバーを利用することができず、照合作業が非効率なものとなった。」
と書いているが、上記「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、デジタル対応が可能となっているにもかかわらず、準備不足等でデジタルが活用されず迅速な給付等に支障が出たと、自治体の「デジタル対応」の遅れに責任転嫁するようなことを書いている。

 これは具体的には、オンライン申請に使う電子証明書のシリアル番号によって照合作業を可能にしたのに対応できなかった自治体がある、ということだ(「住民行政の窓」(日本加除出版)2020年7月号 内閣官房番号制度担当室笹野参事官の「マイナポータルを通じた特別定額給付金のオンライン申請について」参照)。
  このような個人識別特定に電子証明書のシリアル番号を使うことには疑義があるが、マイナンバーを利用できなかったから照合作業が非効率になったという内閣官房説明資料は、この説明とも矛盾する。

 問題の原因を正しく認識(反省)しなければ、間違った対策になる。

●どこで口座ひも付け情報を管理するのか

 マイナンバー付きの公金受取口座を国に登録する制度を創設するということだが、どこがどのようにマイナンバーと口座情報のひも付けデータを管理するのか。
 公金受取口座の登録の仕組みについて、内閣官房説明資料では下図だけを示しているが、マイナポータルのところに公金受取口座情報となっている。 向井番号制度推進室長は11月4日の講演で「マイナポータルに登録をしてもらう」と言っている。マイナポータルを使って登録するだけなのか、マイナポータルで口座情報を管理するのか、まったく意味が異なる。制度設計が不明だ。

 マイナポータルはセキュリティ上の理由もあり、表示した情報は利用者参照後に自動的に消去するなどあくまで一時的な個人情報の置き場とされている( 「情報提供等記録開示システムの運営に関する事務全項目評価書 」p.7-9(2015年5月個人情報保護委員会Webサイトで公開、現在は更新されこの図は載っていない)参照 )。
 もしマイナポータルで公金受取口座情報を継続的に記録することになると、マイナンバーの制度設計の大きな変更になり、マイナンバー制度の危険性が増大する。

●どうやって登録口座情報を更新し利用するか?

 さらにいらないネットの10月24日学習会でも論議されたように、
・最新の口座登録情報へメンテナンスをどの機関がどのように行うか
・登録口座情報と本人が申請書に記載した口座情報が異なる場合、かえって余計な照合事務が増える
などの課題がある。

 現在、休眠口座も含むが一人平均10口座くらい持っている。そのどれを公金振込先口座とするかは、さまざまな事情による。年金等の振込口座と普段使いの口座を分けている人も多いだろうし、この夏のドコモ口座による預貯金の流出事件を受けて、リスク分散のために口座を分けた人もいるだろう。 給与振込手数料軽減のために、転職するたびに勤務先から口座を指定されて開設している人もいる。
 振込先口座は常に変わると思わなければならず、 「一生ものの口座を登録する」(高市前総務大臣発言)などということはできない。最新の振込先口座を確認し更新していないと、誤った給付につながる。メンテナンスの仕組みが重要だ。

 また今回の内閣官房案のように多目的に使おうとすると、各給付で指定している口座のどれを「公金受取口座」として登録するかが問題だ。 公金受取口座を一本化すると、リスク分散ができなくなるなど日常生活に支障がでる場合もある。
 また緊急時給付金の申請に記載した口座と、公金受取口座が相違した場合、かえってその照合・確認に時間がかかることになる。事務の円滑化にも誤入力の 減少にもならない。

●口座情報だけでなく、さまざまな個人情報を照合

 内閣官房説明資料の2頁の図では、 緊急時給付金はじめ幅広い公金を番号(マイナンバー)利用事務として、給付金等の申請の際に情報提供ネットワークシステムを介して所得、世帯、各種資格、各種給付実績などの個人情報を国や自治体から提供することになっている。
 マイナンバーにしろ電子証明書のシリアル番号にしろ、個人を特定するもので世帯情報はわからない。今回の特別定額給付金のような世帯単位の給付では使えない代物だ。そのため世帯関係などの確認のために、給付金等を申請するたびに情報提供ネットワークシステムを使って個人情報が提供され、個人情報を丸裸にすることが計画されている。

  いまでも情報連携の対象事務として法定されている手当や生活保護等の給付要件確認のために情報提供ネットワークシステムの利用は可能だが、情報提供ネットワークシステムでは、一件一件照会先機関と照会事務を入力して提供を受けることになる。
 特別定額給付金のような短期集中で大量の事務を処理する真っ最中に、いちいち情報提供ネットワークシステムに照会する作業をしていては、さらに事務が遅れる(パンクする)ことになる。

●金融機関に「国民に番号の提供を求める義務」

 内閣官房説明資料の3頁の図にあるように、「国民が番号を金融機関に告知する義務」は規定しないことになっている。

 ただ現在は
「金融機関はガイドライン(全銀協作成)により、番号の取得に向けて、預貯金口座付番の案内を行うことが期待されているものの、対応は各金融機関の判断に委ねられている。」
のが、新たに
「金融機関が口座開設時等に国民に番号の提供を求める義務を規定する」
に変わる。
 現在でも金融機関窓口でのマイナンバー提供についてのトラブルが絶えないが、金融機関側に提供を求める義務を規定することで確実にマイナンバー提供の圧力は強まり、トラブルは増加する。

●業務拡大する預金保険機構の悪用をどう防ぐか?

 内閣官房説明資料では預金保険機構の機能を拡大し
・金融機関やマイナポータルにマイナンバーを登録すると、預金保険機構を介してその他の金融機関の口座にも付番 (3頁図)
・相続時に金融機関で法定相続人の確認とマイナンバーカードによる本人確認をすると、預金保険機構が各金融機関に口座があるかを調べてマイナポータルで回答(下図)
となっている。

 11月28日の朝日新聞では、
「預金保険機構が各金融機関に同一人物の口座がないかを探し、マイナンバーとひもづける。同機構は金融機関の破綻(はたん)時に、口座情報を集めて名寄せする仕事などを担っているが、法律で業務範囲を広げる方向だ。」
と報じているが、同一人物かどうかをどうやって調べ確認するのか不明だ。
 誤って別人を認識したり、同一人物を別人に認識したり、ということをどうやって防ぐのか。そもそも氏名、住所、生年月日等の照合では正確に同一人物か確認できないから、というのがマイナンバー付番の理由であり、これでは矛盾している。

 このように金融機関口座データを集約する機関になる預金保険機構は、サイトを見ると、金融機関破綻時の預金者保護(ペイオフ)だけでなく、不良債権回収・責任追及や特定回収困難債権の買取り、休眠預金等活用法などの仕事もしている。
 金融機関破綻時の預金者保護については、2015年番号利用拡大法で預金保険機構がマイナンバーを利用可能になっているが、それはペイオフ時にマイナンバーを付番してある口座の名寄せのためだ。
 預金保険機構の業務が拡大すると、不良債権回収など目的外に口座情報の照会などを不正利用することをどうやって防止するのか、あらたな口座付番の危険性が生まれる。

●給付のための口座はどうあるべきか

 振込口座の確認は、特別定額給付金の迅速な給付に手間取った主要な原因ではないが、中にはオンライン申請でも郵送申請でも口座記載内容と資料の不整合が原因になったケースもあった。
 共通番号いらないネットは、マイナンバー制度に反対するさまざまな個人・団体のゆるやかな連絡会で、給付方法の代案を示すような集まりではないが、 10月24日学習会での議論を紹介する。

 迅速に給付したというアメリカ等と同様に給付するためには、企業が源泉徴収-年末調整を行う 日本の仕組みをやめて、アメリカ等と同様に皆が確定申告するようにして、国税当局が還付金口座を把握していればできる(10月24日学習会の山崎資料)。
 しかしそうすると企業にやらせている税の事務を国税庁・税務署がやらなければいけなくなるため、政府はやろうとしない。

  急ぎ問われているのはコロナ禍での今後の緊急の給付(あるかわからないが)の仕方であり、であれば市区町村が特別定額給付金と同様の給付を行うのが現実的だ。そうすると特別定額給付金の給付のときに使用した口座情報を、一定期間(コロナ禍が落ち着くまで)限定で市区町村に登録し、再度の給付の際の確認資料にする、という方法が考えられる。マイナンバーとのひも付けは必要ない。
 特別定額給付金の際も、受取口座が住民税等の引落しや児童手当等の受給に現に使用している口座であれば、市町村がすでに口座情報を把握しているので挙証資料として口座の写しを添付しなくていいことになっていた

 重要なのは、誰に何を給付するかという制度設計だ。ひとり親世帯臨時特別給付金などでは、すでに対象者も口座もわかっているので本人申請不要で給付されている(コロナ禍で収入が減少したなどの人は申請)。
 何にでも使える給付口座の登録をと考えると、結局、中途半端で使えない口座になってしまう。

●石川県の給付金詐欺事件の全貌を明らかに

 給付の仕組みの検討にあたって、重要なことが何点かある。
 まず7月に明らかになった、 石川県能登町で発生した特別定額給付金のオンライン申請の詐欺事件の詳細を公表し、再発防止策を明らかにすることだ。
 このブログの
 (1)マイナンバーカードを使った オンライン申請でなりすまし
 (2)オンライン申請システムの不備が、なりすましの原因?
で、当時明らかになった情報で事件の概要を紹介してきた。
 続報として11月25日に金沢地裁で懲役2年6月、執行猶予4年の判決が言い渡されたことを、NHKニュース毎日新聞が報じている

 すでに裁判になり捜査中ではないのに、国も町もこの事件について公表していない。なぜ成り済まし申請で給付が可能だったのか、申請システム(マイナポータル)にどのような欠陥があったのか、その詳細を明らかにし再発防止策が公表されないかぎり、ふたたび同様にオンライン申請をすることなど許されない。

●困窮している人に給付できる仕組みに

 特別定額給付金のもっとも重大な問題は、給付が「遅かった」ことではなく、もっとも困窮している人たちに給付できなかったことだ。住民登録が給付要件とされたために、自治体の努力で柔軟な扱いがされたとはいえ、最終的に住民登録がない「ホームレス」の人等が給付を受けられなかった。
 また世帯単位の給付にこだわったため、DV被害者等を危険に晒した。個人単位の給付でなければならない。
 これらの問題の解決策こそ、国は真っ先に検討すべきだ。

 マイナンバー制度は、住民登録-住基ネットを基礎に作られている。政府のデジタル化方針で、マイナンバーの申請やマイナンバーカードの所持が給付の要件になれば、ますます給付から排除されていく人が出てくる。マイナンバー制度は「真に手を差しのべるべき者」を見つけ出して給付を充実するという名目ではじまったが、むしろ選別・排除の道具になりかねない。

●システムづくりには現場の知恵を

 特別定額給付金のオンライン申請を中止する市町村が相次いだ中で、マイナンバーカードを使わずに電子申請ができる「郵送ハイブリッド」と呼ぶ方式を工夫した兵庫県加古川市の事例が話題になったように、給付事務の実際のわからない国の役人が考えるより、実務のわかる自治体の創意工夫に学んだ方が効果的だ。
 加古川市のシステムはサイボウズの『kintone』により作られたとのことだが、サイボウズの青野慶久代表取締役は
「加古川市が上手くいったのは、担当職員の方が、申請する人がどこで間違える可能性が高いのかを、あらかじめ把握していたことだと思います。・・・現場の担当者の方が、ユーザーの目線に立ってシステムを作る、これが最も大事なんだと思います」
指摘している
 特別定額給付金は、マイナンバーカードを普及させる思惑により、4月20日に給付が決定し5月1日からオンライン申請を受け付けるという無理な日程を強いられた。システム作りをした内閣府を責めるのは酷な面があるが、この轍をくりかえさないよう、現場が作業しやすい仕組みを考えるべきだ。

●内閣官房案での法案提出はやめよ!

 今後のスケジュールは、2020年度(2021年度?)に法案を提出して、2021~2022年度に施行準備をして、2021年度から緊急時の給付事務へのマイナンバー利用開始を想定し、2022年度途中から口座登録を開始するとしている。この工程では、当面しているコロナ禍での給付には間に合わない。
 このような案で仕組みを作れば、ますます現場は混乱させられる。預貯金口座にマイナンバーを付番するという思惑に振り回されずに、現実的な給付の仕組みを考えるべきだ。

11/21 集会資料
2020.11.21なんでもデジタル庁ですすめていいの? ナンバー制度の際限なき拡大に反対する集会

<a href=”https://www.homepage-tukurikata.com/hp/link.html“>集会の案内URLは、以下です。</a> 2、3日中に、簡単な報告をアップします。

以下、pdf が2枚あるものは、サムネイルの方をクリックすると、大きく開きます(DLも可能)。1枚のものは、その場で開きます。

報告者

●1)報告 宮崎俊郎:デジタル庁構想下のマイナンバー制度の拡大に反対する

201121_DeditalCYO_Miyazaki

●2)報告 吉田章:医療のデジタル化の狙いは何か

201121_IryouDedital_nerai_Yosida

●3)報告 外山喜久男:教育のデジタル化の狙いは何か 

●4)報告 原田富弘:自治体の個人情報保護条例の共通ルール化


● 4)学習会資料:自治体の個人情報保護条例の共通ルール化

●5)報告 井上和彦:訴訟の進行状況

201121_SuitSchedule_Inoue

お金で釣らなければ普及しない「マイナンバーカード」って何?

●マイナンバーカードの普及に躍起の政府

 誕生した菅政権が最重要課題として、デジタル庁を新設しマイナンバーカードの普及促進を一気呵成に進めることを表明したことで、マイナンバーカードの普及と利活用が焦点になっている。

 武田総務大臣は10月27日の閣議後記者会見で、都道府県知事と市区町村長宛てに、マイナンバーカードの普及拡大に向けた一層の取組を要請する大臣書簡を送ったことを発表した。12月にはカードの未取得者8000万人程度にQRコード付きの交付申請書を改めて送ることが報じられている
 書簡では「申請促進」と「交付体制の強化」の両面から取組を強化するため、政府の広報や未取得者へのQRコード付き交付申請書の個別送付に呼応して、商業施設等での出張申請受付や申請サポートを積極的に実施すること、申請数の倍増を前提に交付窓口や人員の増強や土日交付の更なる実施を行うための市町村の交付円滑化計画の改訂などを要請したとのことだ。

 さらに10月30日の総務大臣閣議後記者会見では、各種団体や民間企業などに更なる普及を働きかけるべく、副大臣、政務官、事務方による「マイナンバーカード普及促進チーム」が発足し、各種団体や企業などに直接訪問するなどの取組を推進するとしている。
 この取組を報じた共同通信には1日で200件以上のコメントが寄せられているが、ほとんどが政府の取組を批判するものだった。いわく「運転免許証や保険証と一体化したらこわくて持ち歩けない」「セキュリティが万全と言う金融機関の個人情報でさえじゃじゃ漏れの今、秘密漏洩があった時に誰が責任をとるか」「支配欲と悪意による管理社会に活用されるだけ、国民はわかっている」「政府が行うデジタルは不具合続きで信用が置けない」「カード普及にいくら税金使ったのか、費用対効果を公表して」「作成するメリットが無いので作らないだけ」「携帯電話を買う際に身分証明にマイナンバーカード出したけど断られた」「裏面のマイナンバー表示をやめてほしい。そうしないと持って歩けない」「カード1枚の発行に4ヶ月もかかってはどうしようもありません」「住基カード持ってた、二の舞になりそう」「無理矢理作らせようとする姿勢に引いてしまい余計に作りたくなくなる」「なぜ企業に依頼するのか? 国民は企業の奴隷ではない」等々。

●低迷が続いたマイナンバーカードの交付

 2016年1月に交付が始まったマイナンバーカードは、 番号通知カードと一緒に申請書が送られて申請しなければいけないと誤解されたためもあり、当初は2016年3月までに約1千万枚の申請があった。
 そのため申請しても受け取りにこない住民も多く、2017年9月2018年2月に横浜市で保管していた交付前のマイナンバーカードの紛失事件が発覚し、総務省は督促しても90日受け取りにこないカードは廃棄する通知を2017年10月18日に出す状態だった(新型コロナ流行で扱いは修正)。
 その後は毎月20~30万枚程度の交付と低迷していた。低迷の理由は内閣府の世論調査によれば、取得する必要が感じられなかったことと個人情報の漏えいや紛失・盗難の心配が大きい。

●行き詰まっていたマイナンバーカードの普及策

 政府はマイナンバーカードを使った証明書類のコンビニ交付や子育て事務の電子申請を利便性の目玉として、マイナンバーカードを普及させようとしてきた。しかしどちらも普及は頭打ちになっている。

  コンビニのマルチコピー機で証明書(住民票の写し、印鑑登録証明、税、戸籍等)を交付できる市町村は、政府が財政支援を続けても2020年11月1日現在で761市区町村と半分にも満たない。費用対効果が疑問視されているためだ。
 比較的普及した都市部の市区町村では、コンビニ交付の代わりに従来あった証明書自動交付機が撤去された結果、逆に役所の窓口に来所する住民が増えて「進む証明書交付機の撤去 進まぬ個人番号カード交付 窓口混み「本末転倒」」(東京新聞2018年12月28日朝刊)という状態になった。

 自動交付機を廃止して不便にすることで、コンビニ交付に移行させてマイナンバーカードを取得せざるをえないようにしようという、「利便性向上」とは逆行する政策だ。
 子育て事務の電子申請も普及が広がらない(「新型コロナ危機に便乗してデジタル変革推進の骨太方針」の「 ●対面業務は、住民と行政の貴重な接点 」参照)。

●2023年3月までにほとんどの住民がカード所持!?

   デジタル・ガバメント閣僚会議
   (2019年9月3日第5回資料1

 普及に焦る政府は、2019年6月4日のデジタル・ガバメント閣僚会議で「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」を決定した。
 2023年3月までにほとんどの住民のカード保有を目指して、マイナポイントとマイナンバーカードの健康保険証利用を中心にマイナンバーカードの普及を図ろうとしている。
 そのために公務員に2020年3月までにマイナンバーカードを申請するよう強く迫ったり、自治体に「交付円滑化計画」の策定を求めたりしてきた。しかし2020年3月末でも交付枚数2033万枚、交付率16%に低迷し、公務員の申請・取得率も国家公務員が58.2%、地方公務員一般職が34.8%にとどまっていた。

●お金がらみで増えるマイナンバーカードの交付

 そんなマイナンバーカードの交付が、最近増加している。
 総務省は2020年3月から、毎月1日時点の交付状況を公表している(右図参照)。申請から交付まで1ヶ月以上かかることを考慮すると、5月1日開始の特別定額給付金のオンライン申請と7月1日開始のマイナポイント申込みが、申請増加の理由であることがわかる。

 27億円の税金を使って連日テレビでマイナポイントやマイナンバーカードのCMが流されている。10月下旬には新聞折り込み広告で、マイナンバーカード交付申請書付きのマイナポイントチラシまで配布している。なりふり構わずに5000円を餌に普及させようとしている。
 しかし10月1日現在のマイナンバーカードの交付率は20.5%、交付枚数は26,105,646枚にとどまる。来年3月末に利用終了のマイナポイントは、4000万人分の予算にもかかわらず10月25日までに約800万人しか申し込んでいない。いずれも政府の目標には、遠く及ばない。

●マイナンバーカードは何のために作られたか?

(マイナンバー概要資料2015年11月版

 そもそもマイナンバーカード(個人番号カード)は、「番号の付番」と「情報連携」とともにマイナンバー制度に不可欠な「本人確認」の仕組みとして作られた。
 政府はアメリカの社会保障番号などのように番号の記入だけで手続きを可能にすると、他人が成りすまして口座を作ったり還付金を詐取したりする事件が多発すると説明し、マイナンバーの記入の際には成りすましを防ぐため、本人確認(身元確認と番号確認)の書類の提示が番号法第16条で義務化された。
 マイナンバーカードはその本人確認用に作られた(番号法逐条解説34~37頁参照)が、本人確認は通知カード+免許証など他の書類でもできるので、マイナンバーカードがなくても支障はなく、すべての住民に保有させる必要はない。

 ところが政府は、デジタル化推進のためにマイナンバーカードを普及させようと、通知カードの発行を2020年5月25日に廃止し「個人番号通知書」の送付に変えた。「個人番号通知書」は番号確認の書類としては使えない。これも利便性を低下させることで、マイナンバーカードの取得を強いる政策だ。
 なおすでに所持している通知カードは、氏名や住所等の変更がなければそのまま番号確認書類として使い続けることができる

●本来の目的と違うマイナンバーカードの利用拡大

 今、菅政権がデジタル化の要としてマイナンバーカードの普及促進を一気に進めようとしているのは、この本来の目的であるマイナンバー記入の際の「本人確認」とは違う利用のためだ。

 マイナンバー概要資料(内閣府・内閣官房)2020年5月版より

  この説明図のうち顔写真付き身分証以外の利用拡大は、すべてマイナンバーカードのICチップ(半導体集積回路)に内蔵されている公的個人認証制度の電子証明書(の発行番号=シリアル番号)を、マイナンバーの代わりに個人の識別特定に利用するものだ。
 マイナンバー制度を作ったときの説明とはまったく違う利用拡大が進められているが、その仕組みはあまり周知されていない。

 5月に一人10万円の特別定額給付金のオンライン申請が話題になるまでは、マイナンバーカードの電子証明書といわれても、税申告でe-Taxを利用している人以外は何のことかわからなかったのではないか。
 マイナンバーカードの取得理由の大部分は、上記内閣府の世論調査を見ても「顔写真付き身分証明書が必要」「会社や役所からマイナンバーの提示を求められたから」で、電子証明書の利用とは関係なかった。

●公的個人認証サービスの「電子証明書」って何?

 公的個人認証とは簡単に言うと電子的な印鑑登録・印鑑証明の仕組みで、一人一つの電子証明書を発行することで電子署名を行い 、本人であることの認証と改ざんの防止をする仕組みだ。
 2002年12月に住基ネットの利用拡大とともに「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律」が成立し、2004年1月29日から公的個人認証サービス (JPKI)が始まった。
  電子証明書の失効情報を住基ネットから提供し、電子証明書の格納を住基カード・マイナンバーカードに限定することで、住基ネットと密接に関係づけられているが、住基ネットと公的個人認証制度は別の制度だ。当初は別の組織が管理していたが、マイナンバー制度の開始とともに今は両方とも地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が管理している(地方公共団体情報システム機構パンフレット参照)。

  電子証明書の有効期間は5年間(発行日から5回目の誕生日まで)で、原則10年間のマイナンバーカードの有効期間と異なる。2016年1月からマイナンバーカードの交付が始まっているため、今年2020年から電子証明書の更新が始まっている。そのタイミングで特別定額給付金のオンライン申請を実施したために、さらに混乱を招いた。
 なお電子証明書をマイナンバーカードに入れるかどうかは選択できる。電子証明書の悪用が心配なら、申請の際に電子証明書不要の欄にチェックを入れると電子証明書は内蔵されず、「顔写真付き身分証明書」としてだけ使うことができる。電子証明書は、必要になれば後から追加で内蔵できる。

●マイナンバー制度開始で利用者証明用が新設

 もともとは電子申請の際の本人証明と改ざん防止に使う「署名用電子証明書」だったが、マイナンバー法の成立とともに公的個人認証法が改正され、民間利用が可能になるとともに、新たにネットでログインする際などに本人であることの証明のみに使う「利用者証明用電子証明書」が新設された。

「公的個人認証サービスの民間拡大について」(2014年3月27日総務省資料)より

●電子証明書のシリアル番号の脱法的利用

 問題は、電子証明書の管理のための発行番号(シリアル番号)を、個人を識別特定するコードとして転用しようとしていることだ。政府の説明資料(下図)を読むと、マイナンバーは法令で利用が規制されているので、その代わりに利用が限定されず幅広く使える電子証明書の発行番号を使おう、という「脱法的意図」が感じられる。
 マイナンバー制度の元となった「社会保障・税番号大綱」では、「公的個人認証サービスの電子証明書のシリアル番号について、住民票コードと同様の告知要求制限を設けることとし、当該シリアル番号の告知要求制限の具体的な方法その他の保護措置についても引き続き検討していく」(47頁)となっていたが、保護措置も明らかでないまま利用が拡大している。
 このような利用拡大をされると、不安が募るばかりだ。

   マイナンバー概要資料2020年5月版より

 電子証明書の発行番号は、5年毎に電子証明書を更新すると変わるため、そのままでは個人の生涯にわたる追跡管理には使えない。そのため発行番号を世代管理して追跡可能にする仕組みを、地方公共団体情報システム機構が「利用者証明用電子証明書の新旧シリアル番号の紐づけサービス」 として提供している(「オンライン資格確認等システムに関する運用等の整理案(概要)(令和元年6月版)」109~110頁参照)。
 詳しくは若干説明が古くなっているが、 2016年7月13日に行われた共通番号いらないネットの学習会 「マイナンバー(共通番号) 不安だらけの情報連携」の
 6 公的個人認証・個人番号カードを使った情報連携
 7 公的個人認証を使った情報連携の問題点
を参照してほしい。

●「マイナンバーとカードの混同」キャンペーンの危険性

マイナンバー概要資料2020年5月版26頁

 政府は盛んに「マイナンバーとマイナンバーカードの混同」を問題にしている。
 その意図は、説明(右図)に滲み出ているように、「マイナンバーのことは怖くても、マイナンバーカードは怖がらずに取得してほしい」ということだ。
 しかしそう宣伝する政府が、マイナンバーカードの電子証明書の発行番号をマイナンバーの代わりに個人識別に使うという「混同」をしている。この混同をカモフラージュしたいというのが、キャンペーンの意図だろう。

●マイナンバーカードは安全ではない

 マイナンバーカードの「危険性」については、共通番号いらないネットのリーフレットNo8の2頁で、
 ・落としても大丈夫?
   マイナンバーの漏えいは防げない!
 ・個人情報は盗まれない?
   紛失・盗難で個人情報が丸見えに!
 ・なりすまし詐欺はできない?
   すでに他人の不正取得や偽造が発生!
 ・住民サービスのためのカード?
   常時携帯させて住民管理に利用!  
などを指摘している。

 政府は「マイナンバーカードの安全性は万全」と宣伝しているが、「マイナンバーを見られても悪用は困難」と、困難だというだけで「悪用できない」とは言っていない。
 政府の担当者は、マイナンバーそのものが他人に知られても「直ちに」被害は受けないが、マイナンバーを多くの人が知ってしまう状態になるとプロファイリングの危険性があるから提供を制限している、と説明してきた。(たとえばマイナンバーカードの保険証利用を審議した2019年5月9日第198回国会参議院厚生労働委員会での 向井治紀内閣官房内閣審議官の説明)

 マイナンバーカードの不正取得や偽造の発生例やマイナポータルから個人情報が漏えいする危険性については、7月9日のスタッフブログ「マイナンバーカードを使った オンライン申請でなりすまし」で紹介した。
 政府は「なりすましはできません」と言うが、すでにマイナンバーカードを使って他人になりすまして、銀行口座を作ったりオンライン申請で特別定額給付金を詐取する事件が発生しているのだ。
 お金で利益誘導しなければ普及しないようでは、マイナンバーカードの制度設計は失敗している。

※2020年11月8日追記