マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (10)

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 いらないネットでは、マイナ保険証の仕組みである「オンライン資格確認等システム」の問題を考える学習会を行っている。
 第1回は2025年4月24日午後に院内集会として、「マイナ保険証と「医療DX」を考える」をテーマに、東京保険医協会の吉田章さんを講師に行った(資料等はこちら)。
 第2回は2025年5月27日午後に院内集会として、「医療データの共有とプライバシー保護を考える」をテーマに、福岡県弁護士会の武藤糾明弁護士を講師に行った(資料はこちら)。
 次回は9月26日夜、「マイナ保険証のトラブルはなぜ続くのか?」をテーマに、神奈川保険医協会の藤田倫成医療情報部長を講師に、かながわ県民センターで行う(案内はこちら)。

 保団連(全国保険医団体連合会)が5月8日に発表した、昨年12月2日の健康保険証新規交付終了後のマイナ保険証の状況では、調査した全国約9000の医療機関の9割でトラブルが続いている(こちら参照)。
 トラブルとしてはカードリーダー(CR)の不良・エラーもあり、電子証明書の更新時期に伴う有効期限切れも増加しているが、正しい資格情報や窓口負担の表示がされないというトラブルが相変わらず多い。中には、政府が解消したと説明する他人の情報のひも付けも発生している(下図)。
 厚労省はオンライン資格確認等システムの導入目的として、直近の正しい資格情報が確認できて期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求が削減されるという説明をしてきたが、2021年10月に本格運用開始して4年たってもその目的が達成できていないという深刻な事態だ。

 正しい資格情報が表示できない原因は、さまざまある。たとえば会計検査院は、勤務先等⇒保険者⇒オンライン資格確認等システムの間の保険資格変更の連絡のタイムラグによる資格表示の遅延を指摘していた(2024/5/15「マイナンバー制度における地方公共団体による情報照会の実施状況について」58頁~)。また自治体から送った情報の誤りも報じられている(2025/8/5新潟日報)。
 このうち、氏名・住所が●(黒丸)で表示されるトラブルについて、厚労省は2025年8月28日の社会保障審議会医療保険部会で「黒丸文字の解消に向けた対応」を明らかにした。
 この原因は市区町村の戸籍や住民記録で、コンピュータが標準で扱える文字以外の「外字」が使われている場合に、情報連携先でその文字が扱えないと黒丸で表示されるということで発生している。サイトウの「サイ」やワタナベの「ナベ」などは、何十種類もの外字があり、オンライン資格確認等システムの画面では●で表示される。
 厚労省は「黒丸表記のままでもレセプト請求が可能」なので問題はないと説明をしてきたが、医療機関は窓口で「●藤」と表示されてサイトウさんかコンドウさんかわからないのでは困るので、改めてマイナカードを職員が目視して確認することになる。

 8月28日の医療保険部会資料2によれば、医療保険者等向け中間サーバーに登録されている1.2 億件の加入者情報のうち、約550万件(4.4%)の加入者の氏名で黒丸になる文字が含まれている。その中には保険者で独自に使用しているユーザー外字もある。
 厚労省は今回、市区町村の外字については自治体システムの標準化のなかで文字についても標準化が進むことと併せて中間サーバーで扱える文字を広げつつ、保険者で登録している外字を標準文字に置き換えることで、黒丸で表示される文字を縮小させていくという対応方針を示している(下図)。それにより「令和8年度中を目途に、大多数の文字の「●」表示の解消を目指す」という方針だ。
 早くてもあと1年以上は解消せず、そのあとも完全には解消しない。

8月28日社保審医療保険部会資料2より

 オンライン資格確認等システムは2021年3月から試行運用(本格運用前のテストとして開始したプレ運用)、2021年10月20日に本格運用を開始した。試行運用中は「医療機関等からのレセプト請求等に係る運用は従来どおりの取扱い」だが、本格運用後は「オンライン資格確認等システム上の情報を原則正しいと判断する」(こちら参照)。実際には医療機関は古い情報や誤った負担額が表示されたりしていて、健康保険証で確認してきた。
 厚労省は医療保険者(協会けんぽ、健保組合、共済組合、市区町村等)に対して、医療機関から保険証提示など従来の方法により請求されたレセプト(診療報酬請求)と、医療保険者等向け中間サーバー等に登録した資格情報とが誤っている場合も、そのまま請求手続きするよう求めている。しかし両方の情報が不一致の場合は不一致事例を厚労省が集め、その原因を探り解決していかなくては、いつまでも正確な表示はされない。

 情報連携では、正しい情報が表示されるのが大前提だ。オンライン資格確認等システムはその前提条件を満たしていない。厚労省は医療DXと称する医療・健康・介護情報の共有をオンライン資格確認等システムを基盤に進めようとしており、情報表示の正確性はさらに重要になる。
 マイナンバー制度の情報連携である情報提供ネットワークシステムでは、新規に連携する事務については試行期間を設けて、その間は情報提供NWSで表示される情報と従来の紙の添付書類の両方を確認し、両者に齟齬(そご)があれば総務省や関係機関に連絡して齟齬が生じた原因を解決し、解決してから本格運用(情報提供NWSの情報だけで事務処理)に移行することになっている(下図)。
 オンライン資格確認等システムの現状は「試行」状態といわざるをえない。システムの表示と健康保険証などの書類の両方を確認して、齟齬がある場合は厚労省に連絡し、厚労省が集約して原因を解明し解決すべきだ。本格運用(システムの情報だけで判断)はその解決後であり、齟齬がある間はシステムと健康保険証の併用を続けるべきだ。 

 平成29年度社会保障・税番号制度担当者説明会資料2-1より



 

マイナ保険証を押し付けるな!健康保険証をなくすな!! (9)

 厚労省は8月22日、7月分のマイナ保険証の利用状況(こちら)や利用登録解除件数(こちら)を公表した。
 7月のマイナ保険証の利用率は31.43%で、6月分から0.79%の微増だ。昨年12月に「マイナ保険証を基本とする仕組み」への移行後、毎月1%前後しか増えていない(12月25.42%⇒1月25.42%⇒2月26.62%⇒3月27.26%⇒4月28.65%⇒5月29.30%⇒6月30.64%⇒7月31.43%)。こんな状況で、12月に健康保険証使用を終了することは許されない。
 一方、7月のマイナ保険証の利用登録解除は28,863件で、前月より2倍以上増加した。昨年11月以降の合計が152,866件に達している(11月13,147件+12月32,067件+1月13,212件+2月10,724件+3月15,082件+4月14,593件+5月12,915件+6月12,263件+7月28,863件)。利用に比べ件数は少ないが、政府も保険者も解除申請を積極的に周知せず、マスコミもほとんど触れない中で、解除が増加していることは注目すべきだ。
 7月末には後期高齢者医療証や7割の市区町村の国保保険証が利用期限を迎えた。8月以降の利用率等がどう推移するかが、健康保険証の存続を左右する。マイナ保険証は使わず、健康保険証や資格確認書を使おう。

保団連解説動画(こちらクリック)

 保団連が最新の(7月末までの)情報に基づいて、分かりやすい27分間の解説動画をユーチューブに公開している。
 動画を見て、マイナ保険証を登録している方は、利用登録解除を加入している保険者(協会けんぽ、健保組合、共済組合、市区町村など)に申請しよう。

 デジタル庁は8月22日からマイナンバーカードと内蔵の電子証明書の更新について、サンリオのキャラクターを使ったCM放映を始めた。
 今年は、2016年1月のマイナンバーカード交付開始から10年目、マイナポイント第1弾から5年目にあたり、大量のカード本体(10年周期)や電子証明書(5年周期)の更新が発生する。マイナ保険証は電子証明書を利用しており、更新しないとマイナ保険証は使えなくなる。
 厚労省は、電子証明書の有効期限が切れても3カ月間は、保険資格確認に限定してマイナ保険証を利用可能にしているが、その3カ月間に更新されない場合は、資格確認書を職権交付(申請なく交付)するとしている(下図)。マイナ保険証の利用登録解除をしなくても、電子証明書を更新しなければ資格確認書を使って受診できるようになる。
 なお電子証明書が使えなくなっても、マイナンバーカードを顔写真付き身分証明書として使うことは可能だ。

厚労省資料より

 厚労省は2025年9月19日から、スマートフォン(スマホ)でのマイナ保険証の読み取りを開始予定だ(厚労省サイト参照)。政府は2025年12月1日の健康保険証利用終了に向けて、低迷するマイナ保険証の利用率を上げる効果を期待しているようだが、むしろ医療現場では新たなトラブル要因になりかねない。
 一部の顔認証カードリーダーを除いて、そのままではスマホの読み取りができないので、スマホ読み取り用のカードリーダーを新たに接続しなければならない。その購入費用の半額補助(上限7000円)を開始したばかりで、当面、利用可能な医療機関は一部になる。厚労省も「2025年9月19日から、準備の整った医療機関・薬局で順次利用できます」と説明している。
 また「スマートフォンで初めて受診する医療機関・薬局では、実物のマイナンバーカードもあわせてご持参」するよう求めている。利用の前には、受付に設置された顔認証付きカードリーダーを操作して本人認証を行う必要がある。

 医療機関窓口では、スマホだけを持参した患者に利用できないことを詫びたり、操作の問い合わせに説明したりすることが起きるだろう。
 実際、厚労省が一部の医療機関で7月から行った実証実験では、患者からは「スマホの最初の設定が難しかった」「スマホをかざす場所や端末の操作方法がわからなかった」などの声が、医療機関職員からは「来院前にマイナンバーカードのスマートフォンへの追加を終えてから受付で利用してほしい」「マイナンバーカードのスマートフォンへの追加に必要な署名用電子証明書のパスワードが分からず利用を断念される方がいた」「顔認証付きCR の操作をせずにいきなりスマホをかざす方が多い」などの意見が報告されている(8月28日社保審医療保険部会資料2)。
 厚労省は「スマホ利用に当たっての必要な事前準備や留意点について周知を図っていく」というが、周知は容易ではない

 厚労省の実証実験では、スマホの機種変更時等のセキュリティ面の不安も患者から指摘されている。
 iPhoneとAndroidでは電子証明書の搭載の仕方が違うが、Androidの場合、単にスマホを初期化しただけでは電子証明書は残ってしまう。デジタル庁も次のように注意している(「Androidスマホ用電子証明書を登録しているスマートフォンの利用をやめるときの手続」)。

スマホ用電子証明書の失効について
 法律上、機種変更や下取・売却、廃棄、故障などによって、スマホ用電子証明書を登録しているスマートフォンの利用をやめるときは、利用者ご自身で電子証明書を失効させることが義務づけられています。
 スマホ用電子証明書を登録しているスマートフォンから失効手続を行うことによって、電子証明書が失効し、スマートフォン内の関連データも削除されます。
 適切に電子証明書の失効手続が行われていない場合、スマートフォン内にスマホ用電子証明書が残ってしまいます。(スマートフォンの端末初期化では削除されません。)

 デジタル庁は「仮に残っていても、スマートフォンを適切に管理、又はパスワードを知られていなければ、悪用はされません」と書いている。しかし電子証明書はオンラインでの実印と印鑑登録に相当するものであり、万が一にも不正利用されると大変だ。パスワードが覚えられないからと、メモ代わりにスマホで撮影していないか。
 厚労省はマイナンバーカードを持ち歩くことへの不安がマイナ保険証の利用率を低迷させる一因として、スマホで利用できるようにするとマイナンバーカードを持ち歩かなくても済むので利用が増加すると期待しているようだ。しかし、個人情報満載のスマホに電子証明書を搭載して持ち歩く方が危険ではないか。