【書評コラム】8.15 終戦の日に与ふる書
今こそ向き合う、私たちの平和と人権
歴史の闇と「見えない傷」をひも解く2冊を紹介します。
8月15日の「終戦の日」は、過去の戦争の惨禍を振り返るだけでなく、戦前の国家体制がもたらした支配の仕組みや、今なお地続きにある現代の課題を問い直す大切な節目です。
今回は、私たちの身近な生活や人権、そして今も家庭や社会のなかに突き刺さっている「戦争の爪痕」を浮き彫りにする、2冊の重要な書籍をご紹介します。国家の制度という「仕組み」と、人々の心という「内面」の両面から、戦争が残した害悪について一緒に考えてみませんか。
1.『戸籍の日本史』
戦前、人民の管理や侵略・支配の道具として機能した国家の仕組みを、現代の私たちの最も身近にある「戸籍」という制度から見つめ直すための一冊です。
2.『ルポ 戦争トラウマ 日本兵たちの心の傷にいま向き合う』
戦場での戦闘が終わってもなお、何世代にもわたって家庭内や社会を傷つけ続けている「見えない戦争被害(心の傷)」の現実に切り込む一冊です。
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2026.08.08
1.『戸籍の日本史』
著者 遠藤正敬
2025年10月12日・株式会社集英社インターナショナル発行、1090円+税
ISBN978-4-7976-8162-8 C0230
◆ 部落解放同盟の綱領と「差別システムとしての戸籍」
部落解放同盟は、その綱領で『⑦身分意識の強化につながる天皇制および天皇の政治的利用への反対と戸籍制度などの人権を侵害する法や制度の改廃』を掲げ、戸籍は天皇制と並び、身分(憲法14条の表現では「門地」)による差別システムであり、廃止すべき対象である事を明言している。
◆ 知られざる戸籍の成り立ちと、私の一冊の出会い
しかし、世間一般には戸籍がどうして作られたのか、他国にはほぼ存在しない制度である事は余り知られていない。私もフリーター時代に買った『フォー ビギナーズ 戸籍』(1981年10月25日・現代書館発行、文:佐藤文明・イラスト:貝原浩)を読むまでは、その差別性、天皇制や家制度との絡みを能くは知らなかった。(楽しく分かりやすいお薦め本)
◆ 戸籍の害悪への「ささやかな抵抗」と私の分籍体験
戸籍が部落差別の身元調査に使われる事は知っていても、転居に際し住民票と共に本籍を移したり、「分籍」する事で、戸籍のもたらす害悪にささやかな抵抗が出来る事も知らなかった。(83年に定職に就き、國=信州に置きっ放しだった住民票を大阪に移す時、戸籍も分籍して大阪に移した)
◆ 人権の視点から考える書籍の広がりと、著者・遠藤正敬氏
戸籍について参考になる書籍はこの後も様々出版された。最近では23年に反差別国際運動が編集・発行し、解放出版社から発売された『「戸籍」人権の視点から考える』(二宮周平他著)がある。この執筆者の一人が今回紹介する『戸籍の日本史』の著者・遠藤正敬である。
◆ 薩長維新政府が作り出した「人民支配の根幹」としての戸籍
さて書名は『日本史』であり、古代の「戸籍」(=庚午年籍)や江戸時代の「人別帳」にも触れているが、メインとして論じられるのは薩長維新政府が作り出した「國體」(=「家制度」「近代天皇制」)による人民支配の根幹としての「戸籍」である。
◆ 内国植民地化と戸籍が演じた役割(アイヌモシリと琉球王国)
なればこそ、その犯罪は『六章 創り出された「日本人」』から始まらざるを得ない。北のAynu-mosir、南の琉球王國への侵略・内国植民地化にも軍事力と共に戸籍も役割を演じた。この章には「戸籍に押し込められるアイヌ」「かくして琉球人は「日本人」になった」との見出しが登場する。
◆ 国内に生み出された「無戸籍問題」と「差別の温床」
そして旧来の「日本人=sisam=やまとんちゅ」内部の問題も当然取り上げられる。「八章 戦前の「無戸籍」問題」には「スラム街」「サンカ」「的ヶ浜事件」が、「九章 差別の温床」には「「族称」記載」「婚外子差別」が見出しに登場する。
◆ 「大日本帝国」の対外侵略・植民地支配と戸籍の関係
そして「一〇章 「大日本帝国」の戸籍」では対外侵略・植民地化と戸籍の関係が樺太・朝鮮・臺灣・「滿洲」でどうだったか検討される。
◆ 「民主化」の網をすり抜け、戦後も生き残った家制度
アジア・太平洋戦争の日本帝国主義敗戦は「戸籍解体」の絶好のチャンスだったのだが、「一一章 国破れて「家」あり」と記されるように戸籍は「民主化」の網をすり抜けてしまった。
◆ 現代の多様な声と、これからの「戸籍解体」の可能性
だが今また「戸籍解体」可能性が高くなって来ている。結婚一つとっても国籍を超えた結婚、同性婚、別姓婚、と従来の「家制度」に縛られない人々の声が大きくなって来ている。
◆ 結び:戸籍に管理されず、息苦しさを感じない社会へ
「終章 戸籍がなくても生きていける」は『民主主義国家が採るべき政策として肝要なことは、』『人々が戸籍に管理されることに息苦しさを感じることなく生きられるような社会を柔軟に実現していくことである。』と結んでいる。
(píngyě)
2.『ルポ 戦争トラウマ 日本兵たちの心の傷にいま向き合う』
筆者:後藤遼太、大久保 真紀
朝日新書 ISBN-10 : 4022953217 ISBN-13 : 978-4022953216
◆ 元日本兵の子や孫が語り始めた「虐待の連鎖」という問題
元日本兵の子や孫がようやく語り始めたことがあります。長年にわたり、父親の暴力に苦しめられ続け、ふと気付くと自分も家族に同じようなことをしてしまったと。「虐待は連鎖する」──近年虐待やDVをめぐっていわれています。親による暴力が何世代にも渡って受け継がれていくという問題です。
◆ 社会に持ち帰られたPTSDと、戦後も続く凄惨な暴力
戦争で過酷な体験をした元日本兵たちが、そのトラウマを家族や社会に持ち帰り、PTSD(心的外傷後ストレス症)に苦しみ、家族に対する凄惨な暴力を加え続けるということが世代を超えて続いています。原爆被害、沖縄戦をはじめ過酷な戦争体験が今日も苦しみ続ける人々が存在します。
◆ 世代を超えて人の心を傷つけ続ける「終わらない戦闘」
戦争は人の身体だけでなく、心を深く傷つけていた。戦闘が終わっても、世代を超えて人を傷つけつづけています。未だに子供に対する虐待事件が続きます。
◆ 桑原征平さんの告白と、父親の「陣中日記」が明かす真実
インタビューが載るフリーアナウンサーの桑原征平さんの家族も父親の凄惨な暴力におびえる日々が続き、母は「戦争で死んでしまった兵隊やその家族は可哀想や」「生きて復員した兵士も、その家族も地獄や、戦争いうのは、生きるも死ぬも地獄や」と言っていたそうです。母親の死後、陸軍兵士として中国で従軍した父親の「陣中日記」を発見、2014年ラジオで「これが戦争だ!親父の陣中日記」というコーナーが約8ヶ月間放送されました。憎み続けた父親による暴力の訳が腑に落ちたと言います。
◆ 結び:過去と誠実に向き合い、真の意味で戦争を終わらせるために
現代を生きる私たちこそ、過去を無きものにしないで、誠実に向き合うことこそが、真の意味で戦争を終わらせ、再び起こさせない道だと思います。
(moutain)
編集後記
戦争は、かつて生きた人々の命を奪っただけでなく、現代を生きる私たちの制度や心、家族のあり方にまで暗い影を落とし続けています。この終戦の日をきっかけに、誰もが大切にされる平和な社会と労働環境を築くため、足元にある歴史と人権について一歩深く考えてみましょう。
(なにわユニオン・書評コラム)


