もくじ

ILO(国際労働機関)の基準やEU労働指令を解説します

第1回 「ディーセントワークとは」

規制緩和の流れの中で、「普通に人間らしく働く」という当たり前の願いですら闘いとらなければならない、そんな時代になっています。そこで、「国際的な労働基準はどうなっているのか」をテーマに、今号から「人間らしく働く」というシリーズを連載します。主に取り上げたいと思っているのは、ILO(国際労働機関)基準やEU労働指令などです。「ILO175号パートタイム労働条約の早期批准を!」などと、よく集会などで出てくる条約や勧告について、内容をちゃんと掴んでいきたいと思います。

まず前提として、「人間らしく働く」というのはどのように表現されていのでしょうか。第1回目は、最近よく耳にするようになった「ディーセント・ワーク」を取り上げます。

「デーセント」は「まともな」という意味ですが、「ディーセント・ワーク」となると「人間らしい仕事」になります。「人間らしい仕事」は、仕事があることが基本ですが、その仕事は、権利、社会保護、社会保障、社会対話などが確保されていて、自由と平等、働く人々の生活の安全保障がある(経済社会安全保障)ということです。すなわち、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事のことです。

ディーセント・ワークは、人々の最も自然で日常的な願いです。「仕事」というのも広く捉えられていて、報酬を得て働くことばかりではなく、育児や介護などのような報酬が支払われないことが多い仕事(アンペイド・ワーク)も含みます。また、インフォーマル経済での仕事や協同労働など様々な働き方を含むとしています。

大部分の人にとって、「仕事の意義」とは、生活維持のために貴重で、かつ唯一の手段であり、基本的な生存のニーズを満たす必須の手段でもあります。そればかりではなく、人々が自己のアイデンティティを自分自身や周囲に確認させる活動であり、「人生の意義=生きがい」を見いだすものでもあります。

仕事から得られる収入や満足は、個人の問題を超え、家族の幸せや社会の安定に関係します。人は、仕事というレンズを通して、人々の動きを敏感に感じます。つまるところ、仕事は、「人間の存在の根幹に関わる意義を持っている」という事になります。

今まで書いてきたことは、実は、ILOの作ったパンフレットからの抜粋なのです。女性にも、男性にも、すべての人々にディーセント・ワークの機会確保を保障していくことが、ILOの活動全体の目標とされているのです。

このようなディーセント・ワークの考え方は、日本の現実からかけ離れている部分もありますが、この考え方にある「人間らしい仕事」こそ、国際労働基準という言うときのグローバルスタンダードであるのです。

なにわユニオン52号(2006.4)より

第2回 「パートタイム労働(ILO175号条約)」

ILO175号条約

この条約は、1994年にILO総会で採択され、パートタイム労働者の均等待遇を定めている。日本は批准しておらず、ナショナルセンターの連合などが、政府に批准するよう要求している。現在、この条約を批准しているのは10カ国で、イタリア、オランダ、スウェーデン、フィンランドなど、EU諸国が多い。

1.条約の目的

パートタイム労働者の労働条件が、比較可能なフルタイム労働者と少なくとも同等になるよう保護すると同時に、保護が確保されたパートタイム労働者の活用促進を目的とする。

2.パートタイム労働者の定義

条約は、パートタイム労働者を「通常の労働時間が比較可能なフルタイム労働者より短い労働者」と定義する。「比較可能なフルタイム労働者」とは、当該パートタイム労働者と雇用関係が同一形態であり、類似(同一)するタイプの労働や職業に従事し、同じ事業所、または企業、業種で雇用されている者とされている。対象はすべてのパートタイマーである。ただし、関係する代表的労使団体との協議の上、条約の適用が相当規模の特別な問題を生じる場合には、特定の労働者や事業所への適用を除外することが出来る。

3.均等待遇

条約では、団結権、団体交渉権、労働者代表として行動する権利や、労働安全衛生、雇用や職業の差別禁止といった基本的な権利を、フルタイム労働者と同様にパートタイム労働者にも保護すること、基本給、職業活動に基づく法定社会保障制度、母性保護、雇用の終了、年次有給休暇と有休公休日、疾病休暇などに関し、フルタイム労働者と同等の条件を与えること、さらに、フルタイム・パートタイム間の自発的な相互転換に向けた措置を取ることなどを求めています。

日本では、パートというだけで、フルタイム労働者と大きな待遇の格差があり、「現代の身分差別」とも言えるものである。このような不当なパート労働者への差別を鑑みても、均等待遇や相互転換権などを明記するこの条約を今すぐ批准するべきである。

なにわユニオン53号(2006.6)より

第3回 「8時間労働(ILO1号条約)」

ILO1号条約

工業的企業に於ける労働時間を1日8時間かつ1週48時間に制限する条約

日本の批准状況

未批准

概要

家内労働者を除いた工業におけるすべての労働時間は1日8時間、1週48時間を超えてはならないと決めた条約。

例外規定があり、たとえば、監督の立場にある物、秘密の事務に従事している者については適されない。さらに、団体協約締結や、交替労働、不可抗力などの場合には、3週間の労働時間の平均が1日8時間、1週48時間を越えない限り、特定日に8時間以上働かせるとか、特定週に48時間を越えるなどは許される。
超過時間について支払われる賃金率は普通の賃金率の1.25倍を下回ってはならない。
この条約は、特に日本に対しては、いわゆる特殊国条項を定め、1週の最長労働時間を一般の工業では57時間、生糸工業では60時間とすることをゆるしている。商業及び事務所に関しては、1930年に採択された労働時間(商業・事務所)条約(第30号)がある。

未批准の理由

「我が国では36協定で超勤ができることになっており、第1号の趣旨とはやや違う。」(森川労働課長 参・予分二 昭和47.4.26)また、「時間外労働の限度を公の機関が定めるべきとしている点、変形労働時間の限度について、労働基準法との相違がある」。

なにわユニオン54号(2006.8)より

第4回 「有給休暇(ILO132号条約)」

ILO132号条約

年次有給休暇に関する条約

日本の批准状況

未批准

概要

海員を除くすべての被用者に適用されるが、農業労働者については選択批准ができる。

労働者は1年勤務につき3労働週(5日制なら15日、6日制なら18日)の年次有給休暇の権利をもつ。休暇は原則として継続したものでなければならないが、事情により分割を認めることもできる。ただし、その場合でも分割された一部は連続2労働週を下らないものとされる。

休暇給与は先払いとし、祝日や慣習上の休日は年次有給休暇の一部として数えてはならない。また、病気やけがによる欠勤日は、一定の条件下で年休の一部として数えないことができる。有給休暇を受ける資格取得のための最低勤務期間は6ヶ月を超えてはならない。休暇を取る時期は、原則として使用者が当該被用者またはその代表者と協議してきめることとする。

条約はこの他に、雇用終了時に、有給休暇を受けていない勤務期間に比例する有給休暇、それに代わる補償またはそれに相当する休暇権を受けること、休暇権の放棄等は国内事情において適当である場合は禁止または無効とすること、休暇中の有償活動について特別の規則を定めることができることなどを規定する。

「ゆっくり休みたい」という願いとは逆に、年次有給休暇の取得率が下がり続けているのが現実です。なぜ年休を取れないのか。「有給休暇が取得しにくい理由」をみると、「休みの間仕事を引き継いでくれる人がいない」、「仕事の量が多すぎて、休んでいる余裕がない」となっています。

仕事が忙しくて年休も自由に取れない実態は、労働基準法で保障された権利への重大な侵害です。日本の休暇は、欧米と比べても貧弱です。ヨーロッパ諸国は年4~6週間の長期休暇が確立しており、休暇を保障するのは企業の責任です。

1936年に人民戦線政府の下で2週間のバカンス制度ができたフランスは、81年には自由時間省を設立し、休暇を4週間から五週間に延長しました。イタリアは憲法で年休を保障し「この権利は放棄することができない」と明記しています。

年休の総放棄日数は、年間4億日にのぼるといわれます。年休を完全に取れば代替雇用などで148万人の雇用創出効果があり、余暇の消費増などによる経済波及効果は約12兆円にのぼると試算されています(自由時間デザイン協会など)。

なにわユニオン55号(2006.11)より

第5回 「EU労働時間指令とワーク・ライフ・バランス」

厚生労働省は昨年12月、労働法制見直しついての最終報告案を労働政策審議会に提出し、早ければ今年の通常国会での成立をもくろんでいます。労働契約法の新設など幅広い見直しが行われていますが、ここでは労働時間規制の見直しについてふれたいと思います。

厚労省案では年収(経営団体は年収400万円以上を主張=民間全労働者4490万人の45%にあたると推定される)など一定条件を満たした労働者を1日8時間労働の労働時間規制の対象外とする「日本版エグゼンプション」の導入です。

これは長時間労働を助長し、過労死、過労自殺、精神疾患の増加をもたらすのは明らかです。それでは、経営団体が参考にしたという欧州連合(EU)のEU労働時間指令ではどうなっているのでしょうか。

EUは労働時間を生命や健康にかかわる安全衛生の問題ととらえています。EUでも改定論議が行われていますが、むしろ規制強化に向かっています。

ここでは、EU労働時間指令の概要や改定論議の様子を紹介します。

概要

指令の主な内容は以下の通り。

  1. 24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与
  2. 6時間を超える労働日につき休憩時間を付与(付与条件は加盟国の国内法や労使協定で規定)
  3. 7日毎に最低連続24時間の週休及び11時間(1日の休息期間)の休息期間を付与
  4. 1週間の労働時間について、時間外労働を含め、平均週48時間以内の上限を設定(算定期間は4カ月)
  5. 最低4週間の年次有給休暇を付与

また、週48時間労働の特例規定(オプト・アウト)を設け、使用者があらかじめ労働者個人の同意を得ている場合には、4カ月平均週48時間を超えて労働させることができるとした(イギリス、マルタなどが活用)。

欧州委員会は2004年9月、労働時間指令の改正案を発表した。主な内容は以下の3点である。

  1. 週48時間労働制の適用除外要件の厳格化
  2. 待機時間に関する新定義の導入
  3. 代償休息期間の付与期限の設定

労働時間の上限規制については、現行指令の特例規定で労働者個人の同意があれば可能とされている適用除外を、中央・地方・産業別労使の団体協約等による合意が必要とした。ただし、労働組合や従業員代表組織がなく団体交渉が行われていない事業所については、労働者個人の同意のみで可能とされた。

また、労働者個人の同意には、以下のような厳格な条件が課せられた。

  1. 書面によること
  2. 労働契約締結時や試用期間中の同意は無効
  3. 適用除外の有効65時間を超えて労働させてはならないこと
  4. 使用者は労働者の勤務時間を記録し、監督当局の要請により開示する義務があること

2005年5月、欧州議会(European Parliament)は、欧州委員会の労働時間指令改正案に関する第1読会において討議を行い、いくつかの修正を加えた改正案を5月11日に採択した。主な修正点は、以下の通り。

  1. 週48時間労働制(時間外労働を含む)の特例規定(オプト・アウト)を3年間で徐々に廃止
  2. 「不活性待機時間」は労働時間に算入
  3. 週48時間労働制の算定期間を4カ月から1年に延長する際の条件をより詳細に規定

なにわユニオン56号(2007.1)より

第6回 「同一価値労働に同一賃金を(ILO100号条約)」

ILO100号条約 同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約

日本批准(1967年)

ILO90号勧告 同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する勧告

日本未批准

概要

1951年に採択されたこの条約では、「同一価値」の労働に対しては性別による区別なく「同等の報酬」を与えなければならないと定めています。また、条約を補足するために同時採択された勧告では、実施方法についての詳細な指針が示され、職務分析、職業指導、雇用相談、職業訓練、職業紹介、福祉・社会サービス、一般の理解の促進、調査など、各国政府のとるべき措置を示していますが、日本は勧告を批准していません。
今年2月13日にパート労働法が国会に提出されましたが、「雇用管理区分差別」が相変わらず続いてしまう危惧を抱かせる内容です。その反面、男女賃金差別に対し10号条約の原則を主張し続けてきた屋嘉比さん(おんな労働組合)の闘争が、京ガス倒産反対闘争の中で勝利的解決を迎えました。この節目の時期にもう一度、この条約の意義を考えてみたいと思います。

今回のパート労働法の改訂案の中では、(1)職務同一短時間労働者、(2)期間の定めのない雇用、(3)人材活用の仕組み・運用などが同じ、という3つの高いハードルをクリアしたパート労働者の差別的取扱い(「正社員化」ではない)を禁止しているのみです。同一事業所に同じ職務の正社員がいなかったり、パート労働者の職務が正社員と異なったりする状態が広く見られる日本の現状とは、あまりにかけ離れた内容です。この要件にかかるパート労働者は、多く見積もっても「わずか数%」と言われています。

労働基準法第四条(男女同一賃金の原則)でも、「女性であることを理由として」賃金差別をしてはならないとされていますが、職種・資格・雇用形態・就業形態の違いで賃金格差が如実に表れるのが日本の現状です。昨年の男女雇用機会均等法の改訂でも問題になったのがこの「雇用管理区分差別」です。雇用管理区分が異なれば、男女差別があるかどうかを検討する対象にはならない、つまり、異なる雇用形態・就業形態を理由に差別是正の対象から外されるということです。ILO100号条約では、「同じ仕事」ではなく「同一価値労働」に対して「同等の報酬」を謳っています。会社でなくてはならない仕事を任されていても雇用管理区分によって差別されてしまっては、せっかく批准しているILO100号条約の原則がほとんど実施されません。

2003年には、ILO条約勧告適用専門家委員会は、日本の状況について、パート労働者の大半が女性であり、パート労働者の報酬水準が低いことが男女の賃金格差全体に悪影響を及ぼすと報告しました。また、パート労働者は正規労働者と類似・同一の業務を行っている場合が多く、100号条約下での報酬水準とは、性別・雇用形態に基づくのではなく、「遂行する職務に基づく客観的な職務評価」によって比較されるべきだとしました。「同一価値労働同一賃金原則」とは、職種・職務が異なっても、職務が同等・類似(つまり「同価値」)であれば、労働者に同一の賃金を支払うことを求める原則です。例えば、カナダ・オンタリオ州では、「知識・技能」、「精神的・肉体的負荷」、「責任」、「労働環境」の四要素を法で定めるなど、同一価値労働同一賃金を実践する「職務評価制度」を整備しています。残念なことに、日本において職務の客観的に評価する制度はほとんど導入されていません。「雇用管理区分」という差別を是正し、均等待遇を実現するには、平等な賃金システムを構築していくためには、同一価値労働の普及と、その評価制度の導入を進めることが不可欠です。

1985年に男女雇用機会均等法が制定されてから20年がたちました。一般労働者(常用労働者)で男女間の賃金格差は縮小しましたが、パート労働者を含む全労働者の賃金格差はむしろ拡大していると言われています。有期雇用で働く人は、賃金だけではなく細切れ雇用にも悩まされています。この100号条約は、「人らしく働く」シリーズ第二回でも取り上げたILO175号条約(パートタイム労働条約)とともに、日本の雇用管理区分差別を打ち破っていく二つの大きな力と言えるでしょう。

なにわユニオン57号(2007.4)より

第7回「ILO(国際労働機関)の活動と日本の対応について」

国際労働機関(ILO)

ILOは、1919年ベルサイユ条約によって国際連盟と共に誕生しました。第一次世界大戦後、国際的に協調して労働者の権利を保護するべきだという考えの下で設立されました。ILO憲章は、「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」という原則が謳われています。第二次大戦後1946年に、新たに設立された国際連合と協定を結んだ最初の専門機関となります。ILOの活動は、1日8時間労働、母性保護、児童労働に関する法律、さらに職場の安全など労働者の労働者の労働条件や生活水準の改善に大きな影響を与えています。

フィラデルフィア宣言(1944年)

  • 労働は商品ではない。
  • 表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。
  • 一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。
  • すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条 件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ。

ILO新宣言(1998年)

「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」(ILO新宣言)では、あらゆる形態の強制労働の禁止に向けた活動、児童労働の効果的な廃絶、雇用・職業における差別の排除に向けた活動を加盟国に求めます。そして、全加盟国は、関連する条約批准の有無に関わらず、宣言に含まれる基本的原則を尊重する義務があることを強調します。

概要

ILOの最も重要な機能の一つは、国際基準を設定する条約及び勧告(一覧)を、三者構成(使用者・労働者・政府)の国際労働総会で採択することです。条約は加盟国の批准によってその規定の実施を義務づける拘束力を生じます。勧告は、政策、立法、慣行の指針となります。

05年8月現在で、ILOには、185の条約と195の勧告があります。しかし、日本の批准している条約数は47にすぎず、全条約のうち約4分の1、ヨーロッパ諸国のおよそ半分にしかなりません。日本は特に、労働時間や雇用形態に関する条約を批准しない傾向があります。労働者の労働条件の向上より、大企業保護の傾向にあるのではないでしょうか。この傾向は、フリーター、パート、派遣社員といった非正規労働者の権利保護や賃金格差改善に消極的なところにも現れています。

こうした日本の現状に対して、2003年のILO条約勧告適用専門家委員会は、日本政府に対する「意見」のなかで、ILO第100号条約(「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」)がパートタイマーを含むすべての労働者に適用されることを確認した上で、「パート労働者は明らかに正規労働者と類似あるいは同一の業務を行っている場合が多いことに注目」し、「報酬水準は、労働者の性別あるいは雇用契約上の身分に基づいて決められるのではなく、遂行する職務に基づく客観的な職務評価によって比較されるべきである」と勧告していますが、日本政府はこの勧告を無視しています。
非正規雇用の増加、賃金格差の増大、ワーキングプア生活保護以下の暮らしをしている人が、日本の全世帯のおよそ10分の1、400万世帯とも、それ以上とも言われています。この問題に危機意識を持って行動すべき時期にきているのではないでしょうか。

なにわユニオン58号(2007.6)より

第8回「(番外編)研究会・講座から報告」

研究会「職場の人権」 月例研究会 「ごり押しされる成果主義」

7月21日(土) 報告:宮崎 徹さん(化学一般関西地方本部書記長)

阪井清二さん(私鉄「連帯する会」代表世話人)

コメンテーター:岩佐卓也さん(神戸大学教員)

宮崎さん、阪井さんから、それぞれ、化学産業における事例、私鉄における事例報告を受けました。岩佐さんからは、「成果主義の同行とその矛盾」と題して、成果主義の動向とその定義の説明、および、年齢給・勤続給の廃止・縮小、格付け制度の再編、業績の反映などの実態の報告などを受けました。さらに、成果主義導入の困難な点を学問的な見地から問題提起していただきました。

日本においては、高度成長を成し遂げ、バブル経済前に置いても、「日本的経営」が手本として研究された者ですが、日本社会のダイナミズムである「タテ社会」の論理を無視して、日本的成果主義は序列化されていきました。それに対して、労働運動はどのように対抗していくべきなのでしょうか?

(なにわユニオン60号(2007.9)より)

大阪労働者弁護団 基礎講座 「労働中のトラブル 労災・過労死」

9月12日(水) 講師:丹羽雅雄さん(弁護士)

最近、生活習慣病とされる、心筋梗塞などの「心疾患」、脳梗塞などの「脳血管疾患」による死亡が増加し、国民の死亡者の3割を占めるに至っています。これらの脳・心臓疾患は日常生活による諸要因や遺伝等による要因により徐々に増悪して発症するものですが、仕事が主な原因で発症する場合もあり、これらを「過労死」と呼ばれます。

厚生労働省は、これまで脳・心臓疾患の労災認定に当たって、主として発症前1週間程度の期間における業務量、業務内容等を中心に業務の過重性を評価してきましたが、平成13年12月、長期間にわたる疲労の蓄積についても業務による明らかな過重負荷として考慮することとし、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」(「脳・心臓疾患の認定基準」)を改正しました。

また、仕事に関するストレスにより精神障害を発病したり、自殺をしたりする人が増加していますが、これらの精神障害に係る業務上外の判断をするため、平成11年9月に、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(「精神障害等の判断指針」)が示されました。

(なにわユニオン61号(2007.10)より)

第9回「時間外労働(残業)」

労働基準法では、労働時間は1日8時間、1週40時間と決まっています。これを越えて働かせることは、労働基準法違反となります。そこで、この原則を超えて時間外労働を使用者が求めるときには、手続きが定められています。

それが「36協定」と言われているもので、使用者は、労働者の過半数で組織する労働組合、あるいは、労働者の過半数を代表する者と書面による協定を結んで、労働基準監督署に届け出なければ、時間外労働や休日労働をさせることはできません。

労働基準法第36条に定められていることから、この協定書のことを「36協定」と言うのです。時間外労働を行ったときは、使用者は割増賃金を支払うことが義務づけられています。

時間外労働等の割増賃金率

時間外労働(1日8時間、週40時間以上の労働) 通常賃金の25%以上増し
深夜労働(午後10時から午前5時までの労働) 通常賃金の25%以上増し
休日労働(週1日の定例休日の労働) 通常賃金の25%以上増し

 

条件が重なった場合の割増賃金率

深夜時間の時間外労働 通常賃金の50%以上増し(25%+25%)
休日の深夜労働 通常賃金の60%以上増し(25%+35%)
休日の時間外労働 通常賃金の60%以上増し(25%+35%)

 

サービス残業が横行していますが、それはもってのほか。手続きがちゃんとされているかチェックし、残業代の支払いを求めましょう。応じない場合、組合での交渉の他、労働基準監督署に申告することができます。さかのぼって請求する場合、民事的には賃金請求権の時効は2年間になります。もし、裁判になれば未払いの割増賃金と同額の付加金を請求できます。

(参考文献) 布施直春・著小さな会社の労働基準法と就業規則」 ナツメ社
脇田 滋・著「派遣社員の悩みQ&A」 学習の友社

(なにわユニオン61号(2007.10)より)

第10回「労働契約法」

1. 賃金受け渡しの関係にある「使用者」と「労働者」

2007年11月28日、参議院で労働契約法が可決・成立しました。

労働契約法成立前は、1つの取引先のみと取り引きする個人事業主や、労働基準法で適用除外とされている家事使用人(家政婦)をも保護する法律になるのではないかと言われていましたが、残念ながら、賃金の支払い・受け取りという関係のある「使用人」と「労働者」がこの法律の適用となり、弱小個人事業主についての明文化はありませんでした。

事実上雇用関係と見える個人については、法律の準用という形で主張していくことになりますが、今後の動向によって、労働局や司法の場でどう判断されていくのか、見ていくことになります。また、家事使用人については、賃金受け渡しが有るということで、労働契約法は適用されるでしょう。

【適用の除外】国家公務員、地方公務員、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、「使用者」と「労働者」の関係だとしても、適用は受けません。

2.労使は対等

労働者と会社は(使用者)対等の立場を保持して、契約を締結しなければなりません。労働基準法に違反するような条件での契約は、無効になります。また、就業実態に即したものでなければなりません。労働契約の成立は、使用者と労働者が合意した時点ということになります。

3.労働契約と就業規則の関係

使用者が、労働者に対し、就業規則を周知していた場合には、その就業規則に労働条件が定められているならば、その就業規則のの内容は労働契約になります。もちろん、労使間で合意した労働契約があれば、その内容に従います。ただし、就業規則内の労働条件より労働者に不利になるものは無効になります。

使用者が労働者と合意がない場合、労働条件の不利益変更となる就業規則の変更をしてはならない、というのが原則です。例外として、変更の必要性、内容の相当性、労働組合との交渉などが合理的であるときは、不利益変更も可能になります。労働条件を不利益変更されないためには、『労働契約の内容は、就業規則の変更によっては変更されない労働条件である』と合意しておくことです。

4.使用者の権利の乱用

客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の乱用として懲戒や解雇処分は無効になります。

必要性、対象労働者の選定などにおいて、権利の乱用したものと認められる場合は、出向命令は無効になります。

やむを得ない事由がある場合でなければ、期間中の解雇はできません。また、とても短い期間で労働契約を結び、契約更新を反復するようなことがないように配慮しなければなりません。これは、契約期間を短くすることで、解約したいときにすぐ解約できるような労働契約の締結を避けるために定められました。

(なにわユニオン62号(2008.1)より)

第11回「最低賃金法」

1. 最低賃金法とは

賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公止な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的として制定された法律です。最低賃金には、「地域別最低賃金」と「産業別最低賃金」の2種類があり、経営者は、この金額以上の賃金を支払わなければならず、これ以下の賃金を定めた労働契約はその部分について無効となります。

2.最低賃金法の改正

「最低賃金法の一部を改正する法律」が第168回国会で成立し、平成19年12月5日に公布されました(平成19年法律第」29号)。最低賃金法改正法は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされており、改正法施行のための政省令の改正や改正内容の周知に要する期間を考慮した上で、今後、施行日を決定することとしています。日本の(地域別)最低賃金は、生活保護水準より低いうえに、地域によっても格差があります。最高でも時給719円(東京)、最低は610円(青森など)。フルタイムで働いても月収10~12万円台にしかなりません。全労働者の平均賃金の約30%しかなく、50%程度あるヨーロッパと比べて大違いです。

3.労働ビックバンと最低賃金

今回の改正案作成に際しては、長時間労働を抑制しながら働き方の多様化に対応するためとして、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会に諮問した法律案要綱では、1.時間外労働の割増賃金率引上げ等、2.年次有給休暇の見直し、3.「自己管理型労働制」の導人、4.企画業務型裁量労働制の見直しの4点が盛り込まれていました。

中でも、時間外労働に対する割増賃金率の引上げ等と、一定の要件を満たすホワイトカラー労働者を労働時間規制の対象外とする「自己管理型労働制」(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)の導大はセットで考えられていましたが、「自己管理型労働制」に関しては、既に裁量労働制といった柔軟な働き方を可能とする制度が存在していること、長時間労働を助長する恐れがあること等から労働側の反対が根強く、改正案への盛り込みが見送られました。

(なにわユニオン63号(2008.4)より)

第12回「時間外長時間労働」

一日は太古以来、24時間です。又、どんな人も一日これ以上多くの時間を持つことは出来ません。単純に一日24時間を3等分すると労働時間、睡眠時間、余暇時間となるわけで労働基準法が一日の労働時間が8時間としているのもうなずけます。

しかしながら、いま職場の実態はどうでしょうか。サービス残業は当たり前といわんばかりの風潮がまかり通っているのではないでしょうか。僅かな手当を支給される代わりに長時間労働を余儀なくされている労働者がほとんどです。使用者側は僅かな手当を出すだけで労働者が長時間労働をしてくれるわけですからこんな都合の良い話はありません。

どの企業でもバブル崩壊以来、人員削減が押し進められた結果、労働者一人当りの仕事量が飛躍的に増加、またインターネット、電子メールの爆発的な普及がそれに輪を掛けています。使用者側に問題があるのは明らかですが、労働者も時間外長時間労働することが自身の仕事に対するプライドと勘違いしていないでしょうか。また、使用者側が労働者にそう思わすようにしむけている風潮もあるかもしれません。

日本マクドナルドなどの「名ばかり管理職問題」はその典型的なケースでしょう。帰宅時間は夜10時、11時、食事、入浴をすますと就寝時刻は12時を過ぎてしまいます。12時過ぎに就寝するのでは快適な睡眠をを取りにくく、次の日の体調に大きな影響を与えると言われています。また、土日、休日も働きずめでは心身とも疲労しないほうがおかしい位です。現にいま、職場に鬱病が広がっています。

自分の健康は自分で守らなければなりません。労災が適用されてからでは遅すぎます。長時間時間外労働がどうしても必要なら36協定の締結、遵守はもちろんですが、36協定の締結は使用者側が労働者に長時間時間外をさせるための免罪符ではありません。「人らしく働く」ために、一日の労働時間は8時間であることの意味をいま考えなおす必要があるのではないでしょうか。限られた一日24時間を有意義に過ごすためにも。

なにわユニオン64号(2008.6)より

第13回「児童労働」

職場での暴力が増えている世界において、その最も脆弱な犠牲者は児童である。これが、児童に対する暴力に関する国連事務総長報告の一部として作成されたILO の新しい調査報告の結論である。

暴力は労働が児童に与える影響の中で、見落とされている一つの側面である。数字によるデータはほとんどないが、先進国でも開発途上国でも、この現象の増加を示す証拠がある。これが、この度新たに発表された、職場における児童に対する暴力に関する国連調査報告の結論である。2億人以上の世界の児童労働者の多くは、日常化した暴力を経験しているが、約1億人の合法的に雇用された青少年も影響を受けていると、本報告書は指摘する。職場での暴力について知られるものの多くは、先進国での成人労働者の調査から得られた情報であるが、児童は大人よりも小さく、発育の途上にあり、成人に頼っているため、職場内暴力に弱いことを報告書は示す。すべての児童労働者の中で、少女のほうが性的暴力や障害に弱い。

職場における児童に対する暴力で最もよくある形態は、身体的暴力、心理的暴力、言葉による暴力、性的暴力である。働く児童が経験する暴力は、怒鳴り声、言葉による暴力、セクハラ、ひどいときは強姦、殺人などを伴う身体的な蛮行の集団的職場文化の一部となっていることが多い。

最も極端な事例は、売春、ポルノ、ポルノショップにおける18歳以下の児童の搾取である。多数の人身売買被害者を含む強制労働及び債務労働に従事する570万人の児童の多くは、家事使用人として働き、記録に出てこない数百万人の児童と同様、絶えず暴力の危険にさらされている。

安全でない労働環境にある児童も危険な状態にある。2004年において、世界の働く児童の60%以上が、健康・安全規則が緩やかであるか存在しないガラス工場、鉱山、農園農業その他の職場にいると考えられる。

職場での児童に対する暴力に対応するためには、広範な対策が必要である。こうした問題は、生計、人権、労働、保健と安全、法律の執行という問題として取り組む必要があり、まず最初に、未成年児童の職場への参入を防ぐ努力から始めなければならない。

重要な出発点は、法律の中であれ外であれ、組織体となっている職場であれインフオーマル経済であれ、「働く児童に対する暴力は絶対に認めないという政策」でなければならない。(World of Work 2006年6月12日発行 第58号より )

なにわユニオン66号(2008.12)より

第14回「労働契約法2」

解雇は労働者に経済的・精神的に深刻な影響を与えることは言うまでもありません。労働基準法が解雇に関する規制を設けているのもこのような理由からです。解雇無効を訴えて闘った労働者・労働組合の歴史があり、今では「解雇が濫用に該当する場合には無効である」という考え方が主になっており、判例でもこの考え方は確立してきた。このような判例法理を整理した法律として、「労働契約法」が施行されて1年余りが経った(2008年3月1日)。労働基準法のような罰則はなく、労働基準監督署による指導などもないので、どれだけの実効性があるのかは疑問です。しかし、同法を根拠に解雇無効を要求して団体交渉に臨む場面も多くなっています。

それでは、労働契約法には何が書いてあるのか復習。わずか 19 条しかない法律なのでぜひ一読はしておきましよう。かいつまんで見てみます。

労働契約法第3条第2項

労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。 →「均等」でなく「均衡」というのはなんともあいまいな表現ですが、雇用形態による差別取り扱いに対しては闘いの根拠になります。

労働契約法第8条

労働者及び使用者は、その合意により労働契約の内容である労働条件を変更することができる。 →つまり合意なしに勝手に労働条件を変更することはできない。

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 →「合理的な理由」「社会通念上」というのは判例に依ることになりますが、終身雇用が「成果主義」「能力主義」へとシフトされるのを座して見ているだけだと、「合理的な理由」「社会通念」も企業に都合の良いように変質してしまいます。判例も幾多の闘いの成果の積み重ねであると同時に、不断の闘いによって守り抜かなければならないものです 。

なにわユニオン69号(2009.6)より