JCA-NETは、下記のパブリックコメントを提出しました。


「子供の性被害防止プラン(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)2022(仮称)」(案)(以下プランと呼ぶ)p.1〜2に下記の記述がある。

「2021 年9月に開催されたG7内務・安全担当大臣会合においては、オンライン上の児童の性的搾取等に対する強い問題意識を背景に、各国から、児童の性的搾取等対策に係る認識、課題及び具体的な取組についての発表があり、成果文書が取りまとめられた。同成果文書においては、児童の性的搾取等は国境を越え、爆発的な規模で発生し続けており、児童の心身に有害な影響を及ぼす犯罪であって、グローバルな対応が必要であることが確認された。また、同成果文書の確実な履行と産業界がその役割の一翼を担うことなどもうたわれている。」

G7内務大臣会合で具体的に何が「成果文書」としてまとめられたのか具体的な記述がなく、何を意図しているのか不明瞭である。私たちは、上記の箇所には、成果文書の下記の箇所が含まれると理解している。(訳は意見提出者による)

「我々は、テロリズムや児童虐待などの重大な犯罪の捜査・訴追に不可欠な通信コンテンツへの合法的なアクセスを厳格に管理するために協力する。
我々は、市民の安全を守るために、インターネット技術企業と協力してこれを行う。我々は、インターネット技術企業に対して、この責任を認識し、行動することを求める。
我々は、国際人権法を含む既存の国際的および国内的な法的義務、および関連するコミットメントに基づき、我々の既存の国内規制枠組みの中でさらなる規制を検討する際に、それぞれのアプローチを共有することを目指す。」(G7 London interior commitments 22〜24段落)

そして付属文書2においてより具体的な提案がなされている。
「我々は、企業がエンド・ツー・エンドの暗号化と並行して児童の性的搾取や虐待を特定し報告することを可能にするソリューションを推進するイノベーションを共同で呼びかける。この共通の目的を達成するために、様々な基金や各国のイニシアティブがあることを認識する。」(20段落)

また、プランの下記の各項目「外国捜査機関との連携と国際捜査共助の充実」 「子供の性被害防止プラン(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)2022(仮称)」に係る国際的な情報発信」「国際的取組への参画を通じた国際連携の強化及び国際社会への情報発信の推進」「『オンラインの児童性的搾取撲滅のための WePROTECT 世界連携』への参画」なども上記のG7内務・安全担当大臣会合の成果文書等を前提にしたものであると理解している。

WePROTECTについてもプランは「『オンラインの児童性的搾取撲滅のための WePROTECT 世界連携』に参画し、世界各国との情報交換を促進するなど国際的な連携を強化するとともに、我が国における官民一体となった取組について積極的に情報発信」(p.9)するなど抽象的な文言によって具体的な政策を明示していない。WePROTECTは、先のG7内務大臣会合同様、繰り返しエンド・ツー・エンド暗号化を批判している。(Global Threat Assessment 2019参照)しかし、WePROTECTによるエンド・ツー・エンド暗号化批判は、通信の秘密を侵害しかねない主張であり、暗号化技術がもたらす脆弱な人々の安全を確保する側面を無視した公平性を欠くものであり、受け入れがたいものである。

プランの基本的なスタンスは、子どもの性的搾取対策のために、私たちの通信の秘密の根幹をなすエンド・ツー・エンド暗号化の弱体化を事実上提言していることになるのではないかと判断している。暗号化に対して政府が法あるいは業界の自主規制によって事実上の弱体化を図ることは、通信の秘密、セキュリティ、プライバシー、そして人権の観点から許されない。また、こうした暗号への規制によって子どもの性的搾取の問題が解決するどころか、むしろ社会的に脆弱な立場に置かれている人々をより大きなリスクに晒すことも各国の人権団体、国際的な人権団体や、サイバーセキュリティに取り組む団体が繰り返し指摘してきたところである。

以上から、私たちは、プランの上記のG7内務大臣会合やWePROTECTに言及した箇所を削除すべきであり、明示的であるかどうかに関わらず、通信の秘密を侵害しかねない暗号に対する規制をもたらすような一切の政策的な含意をプランから排除するように求める。

なお私たちはすでに下記の声明を発出し、また国際的な暗号規制に反対する人権団体と共同で声明などを発出している。ぜひ参考にしていただきたい。

(JCA-NET声明)暗号規制に反対します―日本政府は「エンドツーエンド暗号化及び公共の安全に関するインターナショナル・ステートメント」から撤退を!!
https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/node/104

専門家が政府の反暗号化キャンペーンに異議(JCA-NETも共同署名者)
https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/node/168

Re: 虐待とネグレクイトをなくすためのインタラクティブ・テクノロジー2022年法(EARN IT Act)」への反対意見(JCA-NETも共同署名者)
https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/node/169

Safer Internet Day 世界暗号化連合運営委員会の声明(JCA-NETも連合の加盟団体)
https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/node/170