2021年度JCA-NET総会議案書(抄)

下記の議案書は、総会で採択されたものです。
議案書に対して、総会において出された意見、提案等で採択されたものを最後に
掲載してあります。

総会日程
2021年6月27日(日)14時から16時
開催方法
オンライン
_________________________

2020年度総会 議案書(抄)
(2021/6/27)

JCA-NET理事会
_________________________

Table of Contents
_________________

1 最近の情勢について
.. 1.1 デジタル関連法案とデジタル庁の創設
.. 1.2 新型コロナ感染症パンデミックに伴う、ネット状況の変化と社会的格差の露呈
.. 1.3 まとめ
2 JCA-NETの2020年度の活動
.. 2.1 時系列での活動概要
.. 2.2 オンライン会議室を設置
.. 2.3 メーリングリストを無料化
.. 2.4 活動の成果と課題
3 2021年度活動方針案
.. 3.1 今年もオンラインでのコミュニケーションをサポートします
.. 3.2 商用サービスへのオルタナティブの提案を―オープンソースへの取り組み
.. 3.3 監視社会化に対抗する運動
..... 3.3.1 デジタル庁問題への取り組み
..... 3.3.2 AIと生体認証問題
..... 3.3.3 暗号規制問題
..... 3.3.4 ネットの遮断やプラットフォーム企業による検閲問題
..... 3.3.5 ポストコロナ、ポストオリンピックへの警戒を
.. 3.4 JCA-NETセミナーおよび日常活動について
..... 3.4.1 毎月のセミナーを充実させる
..... 3.4.2 JCA-NETサービスが「宝の持ち腐れ」にならないために
..... 3.4.3 国際連帯の活動
..... 3.4.4 会員のネット関連のサポート
..... 3.4.5 会員拡大の取り組み
..... 3.4.6 理事会のジェンダーアンバランス問題の解消
4 予算・決算(略)
5 理事、監事の改選(略)
.. 5.1 理事立候補者プロフィール
.. 5.2 監事立候補者
6 規約改正に向けて(略)

1 最近の情勢について
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1.1 デジタル関連法案とデジタル庁の創設
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2021年5月、通常国会において、いわゆる「デジタル改革関連法案」(以下デジ
タル監視6法案と呼ぶ)が成立し、9月にはデジタル庁が設置されることになっ
た。

デジタル監視6法・デジタル庁は、昨年9月の菅政権誕生から急ピッチに展開し
てきた。政府省庁を横断した組織の再編は、民間で先行している情報通信イン
フラのデジタル化を通じた組織転換(いわゆるデジタル・トランスフォーメー
ション、DX)である。この間の政府の主要な関心は、省庁を横断したデータの
活用とともに、民間データの活用、政府データの民間での活用など、もっぱら
個人データの活用にのみ関心が向けられてきた。こうしたデータ活用の中心に、
マイナンバーによる個人データの統合的な管理と相互利用が位置づけられてい
る。

安倍政権下でのSociety5.0政策などで打ち出されてきた、5Gの普及、ビッグデー
タの中央・自治体での活用、AIやIoTを駆使した行政サービスや民間資本の活
用の路線が、デジタル関連法案・デジタル庁によって一気に制度的な具体化へ
と進むことになる。

こうして、個人情報を政治や営利目的で自由に活用できる法的政策的経済的な
条件が揃う一方で、個人や団体のプライバシーの権利や言論・表現の自由、検
閲されない権利などが置き去りにされる結果となっている。

JCA-NETは、市民団体共同声明「基地訴訟原告団の個人情報の民間への提供策
動許さない!市民のプライバシー、個人情報を侵害するデジタル監視6法案の制
定に反対します」に賛同し私たちの基本的な市民的自由の基盤をなす諸権利が
ないがしろにされてきたことに危惧を表明してきた。

とくに、JCA-NETとしては、他の市民運動団体が取り組めていない課題として、
政府による暗号規制の危険性に注目して「暗号規制に反対します―日本政府は
『エンドツーエンド暗号化及び公共の安全に関するインターナショナル・ステー
トメント』から撤退を!!」を独自に公表した。日本政府は、2020年10月11日に
発出された「エンドツーエンド暗号化及び公共の安全に関するインターナショ
ナル・ステートメント」(以下「ステートメント」と呼ぶ)に、英国、米国、オー
ストラリア、ニュージーランド、カナダ、インドとともに署名したことへの批
判である。

デジタル庁と官民一体となったDX、マイナンバーの普及に伴う問題は2021年度
により一層深刻な事態になりかねない。ひきつづき、コミュニケーションの権
利のための運動に力を注ぎたい。

1.2 新型コロナ感染症パンデミックに伴う、ネット状況の変化と社会的格差の露呈
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

新型コロナの世界規模での感染拡大のなかで、外出自粛やロックダウン、緊急
事態の発令などを通じて、人々のネット利用環境が大きく変化した。

第一に、いわゆるリモートワークの普及によって、プライベートな空間が「職
場」に変貌することになり、結果としてプライバイシーの権利がより脆弱になっ
た。企業による労働者の労働へのリモートによる監視は、パソコンの作業を逐
一記録したり、オンライン会議での態度などをAIによって評価するなど様々な
「勤怠管理」のテクノロジーが一気に普及した。これにIoTのような技術も絡
んで、プライバシー空間が次第に侵食される事態が生み出されてしまった。こ
の事態は、ポストコロナにおいても後戻りすることなく持続してしまう可能性
が高い。

第二に、コロナ接触アプリの導入のように、位置情報や医療情報などプライバ
シー情報をより安易に収集分析したり、行動予測するなどの技術への警戒感が
薄れ、これらのデータがどのように蓄積され利用されるのかについての検証も
十分になされないまま政府などの利用が健康や安全を名目に進展している。オ
リンピックを契機に、生体認証技術の導入やサイバーテロ対策を理由とするネッ
トへの監視強化が進む一方で、これらの技術を規制する政策や法制度、あるい
は技術文化が立ち後れている。

第三に、労働運動や市民運動がこれまであたりまえに行なってきた会議や集会
の場が奪われるなかで、ZOOMをはじめとするオンライン会議システムが急速に
普及し、これが新たな運動の基盤をなすようになった。しかし、実空間で確保
できていた集会の匿名性がオンラインで確保されているかどうかへの関心が持
ちにくく、ネットを駆使した社会運動が目にみえないところで監視され、時に
は民間企業による検閲(Facebookやtwitterなどによるアカウント停止など)が
起きたりもしている。またLine一社だけでも年間3000件近くの警察などからの
個人情報提供の要請があるように、捜査機関からの情報収集も活発になってい
るにもかかわらず、こうした事態への社会運動側の対策が必ずしも十分ではな
い。

1.3 まとめ
~~~~~~~~~~

以上のように、マクロの情勢からすると、急速な監視社会化の進展と歯止めの
かからないプライバシー侵害技術の開発とこれを正当化する政治的経済的な枠
組が強化され、世論もこれにながされるような事態があり、ミクロの情勢から
すると、人々の私生活や労働現場、社会活動の全体が批判的な社会運動を抑制・
抑圧するような方向に徐々に向いつつある。この意味で、残念ながら、決して
明るい年だったとはとうてい言えなかった。

2 JCA-NETの2020年度の活動
=========================

2.1 時系列での活動概要
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

●2021年3月10日(水) 13:00 以降Jitsi-01を試行・実験用に移行ライブストリー
ミングの実装などを実現。

●JCA-NET理事会声明:暗号規制に反対します―日本政府は「エンドツーエン
ド暗号化及び公共の安全に関するインターナショナル・ステートメント」から
撤退を!!

2020年10月11日に発出された「エンドツーエンド暗号化及び公共の安全に関す
るインターナショナル・ステートメント」(以下「ステートメント」と呼ぶ)に、
英国、米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、インドとともに署
名した。私たちは以下の理由から、このステートメントに反対します。理由は、
憲法21条で定められた「通信の秘密」条項に明確に違反すること、暗号化の意
義を強調する一方で、例外的に法執行機関などが読取・利用できるように暗号
化を弱体化させる技術の導入をIT業界に要求するという矛盾した内容になって
いることなど。

●2021年3月のJCA-NETセミナーセミナー1 個人情報取得の実態を自分で調べる
3月20日(土) 15時〜17時ころセミナー2 Linuxを使う。コマンドライン入門+情
報交換3月23日(火)19時〜21時ころセミナー3 Jitsi-meet使い方セミナー3月27
日(土)15時〜17時ころ

●JCA-NETセミナー2月(1)セミナー1 :テーマ:ブラウザを見直す。2月21日
(日)15時から17時

(2)セミナー2:テーマ:なぜ暗号規制に反対するのか(暗号はなぜ大切なのか)
2月24日(水)19時から21時(3)セミナー3:テーマ:jitsi-meetの使い方(入門か
ら実践まで) 2月27日(土)15時から17時オンラインで実施

●JCA-NETセミナー1月
- セミナー(1) オンライン会議システムJitsi-meetの使い方
- セミナー(2)オンライン会議システムの主催者向けセミナー
- セミナー(3)ブラウザのプライバシーを見直す

●[members 180] JCA-NET理事会から年頭のごあいさつと今年の抱負

●(会員告知)仮想通貨を要求する日本語の脅迫メールについて

●JCA-NET12月セミナー(1)暗号が大変だ!!―暗号の政府管理強化と反対運動の
国際動向について日時 12月26日(土) 15時から17時ころまで(2)Linuxの「デス
クトップ環境」を探検する+Linux相談会日時 12月28日(月) 19時から21時ころ
まで

●JCA-NET11月のセミナー(1)セミナー1 Linux入門―WindowsやMacだけじゃな
い第三の選択肢を! 11月26(木)時間 19時からオンラインで(2)セミナー2 オー
プンソースのLibreOfficeを使って文書作り、チラシ作りからプレゼンまでやっ
てみる11月29(日)時間 15時からオンラインで

●JCA-NETセミナー追加開催(10月31日) 25日に参加できなかった皆様のご参加
をお待ちしています。25日に参加された方の再度の参加も可能です。10月31日
(土)14時から17時政府のデジタル政策と私たちのコミュニケーションの権利の
動向

●JCA-NET10月セミナー10月25日(日)政府のデジタル政策と私たちのコミュニ
ケーションの権利の動向

●(告知)注意喚起:総務省を偽装したなりすましメールに注意してください
2020年10月15日

●JCA-NET10月のセミナー(その1)はじめてのJitsi-meet (その2) 政府のデジ
タル政策と私たちのコミュニケー ションの権利の動向

●JCA-NETサーバのソフト更新に伴うサービス停止(5日、12日)

●集会(賛同)10月11日(日):小笠原みどりさん講演会 「新型コロナと監視社会」

●9月のJCA-NETセミナー2020/09/18(金) 「Nextcloudを使いこなす」

●8月 JCA-NETの月例セミナー日時 8月28日(金) 19時からオンラインオンライ
ンでプライバシーを守るための基本を工夫する

●[members 155] JCA-NET理事会からオンライン会議室Jiti-meetサーバー環境
改善についてのお知らせ。jitsi-01.jca.apc.orgの不具合が著しいことからサー
バーを移転

●7月28日 JCA-NET総会

●[members 147] JCA-NETのオンライン会議室の状態把握でご協力お願い(21日
19時から)不具合などの調査のための協力依頼

●6月のJCA-NETセミナー6月25日(木)19時からオンライン会議主催者向けセミ
ナー6月27日(土)15時から17時;jitsi-meetを初めて使う方のための入門セミ
ナー6月27日(土)18時から19時半:Jitsi-meetの相談セミナー

●(注意喚起)JCA-NET理事会:JCA-NETのメール管理を偽装したなりすましメー
ル に注意してくださいJCA-NET理事会2020年6月13日

●JCA-NET5月のセミナー(1)Jitsi-meetの利用がまったく初めての方。5月24日
(日)午後 3時から5時(2)4月のセミナーに参加された方。あるいはすでに
jitsi-meetの経験をおもちの方

●[members 140] Jitsi-meetのサーバ追加の告知

●[members 138] (重要)JCA-NETから、なりすましメールへの注意喚起JCA-NET
を名乗るなりすましメールへの注意を喚起

●JCA-NET4月のセミナー「オンライン会議システムjitsi-meetを使います!!」
4月16日(木)午後7時から9時4月22日(水)午後7時から9時

●[members 135] 4/12 JCA-NETお知らせ(オンライン会議システムのご案内)
jitsi-meetの設置案内

●[members 134] 4/7 (members)JCA-NETからのお知らせ(オンライン会議シス
テムについて)
- Zoomの問題点
- 電子フロンティア財団の記事から
- Hacker Newsの記事から
- CNetの記事から

●(賛同)ミャンマー政府に対する共同声明)運輸通信省による221のウェブサイ
トをブロックするように4つの電気通信サービスプロバイダーに対して出され
た命令に関するデジタル権利組織その他の市民社会組織による共同声明

2.2 オンライン会議室を設置
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

JCA-NETは独自に、Jitsi-meetというオンライン会議室を設置した。無料で誰
もが使えることで、パンデミックのなかでの会合の代替的な選択肢として、提
供している。すでにZOOMをはじめとして商用サービスがあるなかで、私たちが
オープンソースで開発が進められてきたJitsiを選択したのは、なによりも、
JCA-NETが管理しているサーバで運用することができ、利用者の個人情報を収
集するなどのリスクがない環境を提供できると判断したからだ。ZOOMのように
100人規模の集会は無理だが、20人程度の会議であれば十分活用できると思う。
下記が会議室の入口になる。

https://jitsi.jca.apc.org/
https://jitsi-01.jca.apc.org/

会議室はJCA-NETの趣旨に沿うことを原則として使える。特に事前の申し込み
などは不要。上記のURLにアクセスして会議室を設置することができる。

設置方法や使い方がわかない場合など、昨年もグループや個人の方から、個別
に使い方の相談などを受けてきた。また、会議開催のためのサポートも行なっ
てきた。今年もこうしたサポート活動を継続する。

2.3 メーリングリストを無料化
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JCA-NETの会員の方であれば、JCA-NETサービスとして、追加の料金なしで、い
くつでもメーリングリストを設置できるようにした。メーリングリストは、グ
ループの情報交換だけでなく、いわゆるメールマガジンとしての配信としても
使うことができる。ブログと連動させて使うことで情報発信の効果も期待でき
る。SNSが主流になりつつあるなかで、ある程度まとまったテキストやデータ
をやりとりする上で、メーリングリストはまだ有効な発信手段だ。

2.4 活動の成果と課題
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

Jitsi-meetを導入して、積極的に活用するように努力し、オンラインでのセミ
ナーを定期的に開催してきた。参加者は10名から30名弱程度で、安定してきて
はいる。

セミナーのテーマによっては、いわゆる学習会的な要素の強いものもあるが、
他方で、実際に、パソコンやネットの環境やライフスタイルを変えることによっ
て始めて効果があらわれる課題もあり、後者のように実際に自分の環境を変え
ることまでサポートしたり参加者皆で協力するような体制までは作れていない。
今後の課題としては、会員相互の協力をどのように作りあげていくか、がひと
つの課題になると思われる。

3 2021年度活動方針案
====================

3.1 今年もオンラインでのコミュニケーションをサポートします
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今年もまだCOVID-19の流行は収まる気配がなく、日々の活動の困難もまだ続い
ている。そうしたなかで、コロナの濃厚接触者追跡アプリのようにITの技術に
過剰に頼る傾向や、プライバシーの権利や労働者の権利への配慮もなしに企業
や政府が「テレワーク」を推奨したり、デジタルデバイドへの対策もなく学校
の授業がオンラインに移行するなど、これまでにない急速なネットへの依存が
進む一方で、多くの人々は自分の個人情報をコントロールできない状態に置か
れかねない事態になっている。

JCA-NETは創設から20年になり、設立当初からの多くの会員にとっては、現在
のネット環境に適応することは容易ではない状況にもなっている。高齢化した
世代にとって、ネット環境を自由に駆使することは難しいものであり続けてい
る。ネット環境は年齢、性別によって特異な格差がみられる。60代以上のパソ
コン保有率は他の世代よりも高く、20代の若者のパソコン離れが著しいのが最
近の特徴だが、だからといって高齢者のパソコンやネットのスキルが高いとい
うわけではない。。他方でジェンダー格差はどの世代をとっても女性のパソコ
ン保有率は男性より低くなっており、女性の自立的な情報発信の基礎的な条件
が極めて脆弱だ。([https://webtan.impress.co.jp/n/2019/09/17/33951])

JCA-NETもまた、会員の高齢化の状態にあるが、そうだからこそ高齢者による
ネットへのアクセスの権利を保障する活動は重要になっている。会員のネット
アクセスをサポートできるような体制を維持したい。

3.2 商用サービスへのオルタナティブの提案を―オープンソースへの取り組み
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

コミュニケーションは私たちの基本的な権利であって、金儲けの手段であった
り、検閲や監視の対象にされるべきものではない。この点にできるかぎり配慮
しつつ、商用サービスだけではない別の選択肢を積極的に提案し,実際に活用
できるような活動を今後も続けていきたい。

巨大多国籍IT資本がネットの情報通信サービスのプラットフォーム企業として
絶大な力を発揮しつつある。市民運動・社会運動にとって必須の情報発信のツー
ルになりつつあるSNSもFacebook、Twitter、Lineなどの商用サービスで占めら
れ、Gmailなど無料のメールサービスの利用も少くない。動画投稿やライブ配
信であればYoutubeに頼らざるをえない。

本来コミュニケーションは、直接の対面であれ遠距離であれ、人々が社会生活
を送る上で必須の条件であって、生存権でもあり、基本的人権の一部をなすも
のだ。しかも、こうしたプラットフォーム企業が独自の判断によって、コンテ
ンツを検閲したり、あるいは収集した膨大なビッグデータをスポンサー企業や
政府などに提供するといった問題が起きている。その結果として、反政府運動
の情報発信が妨害されたり、活動家が監視されるといった深刻な事態が起きて
いる。また、データのやりとりについても、マイクロソフト社のWord、Excel、
Powepointなどが事実上の標準として通用し、特定の企業のソフトウェアへの
依存に疑問が提起されることすらなくなってきた。

コミュニケーションの権利をその原則に立ち返って再構築することが必要になっ
ている。そのためには、主流になっている商用サービスに対するオルタナティ
ブの選択肢を提起することが非常に重要になっている。具体的に、Google、
Facebook、Twitter、Microsoftなどのサービスからの脱却を市民運動・社会運
動に提起できるような具体的な提案をしてゆくことが必要である。少なくとも、
オープンソースの意義とは何なのか、どのようなオルタナティブがあるのか、
どうすれば利用できるのか、などについては具体的に候補になるものを提案す
ることなどの活動を進めていく必要がある。

JCA-NETとしては、昨年から。jitsi-meetを導入して、商用オンラン会議とは
異なる選択肢を提案してきた。またNextClowdもオープンソースである。オー
プンソースにはデメチットもあるが、私たちが開発から利用まで、その主体に
なりうる条件が確保されているという点では、プロプライエタリな商用ソフト
ウェアにはない優位性がある。商用サービスの便利さと同じ土俵で競うのでは
なく、オルタナティブを提案することに注力したい。

同時に、ネット依存の社会がもたらす私たちのプライバシーや情報発信の自由
を侵害しかねない政策やビジネスの動向にも注視し、必要なアクションを起す
ことができるようにしたい。

- ネットのユーザー一人一人のセキュリティへの対策は非常に重要になってき
ている。そのために必要な情報の提供や具体的なスキルを支援すること。

- 具体的にオープンソースのオルタナティブを提案し、実際に利用できるよう
な実践的なセミナーを充実させること。

- 政府や企業の政策などに対して必要な批判や問題提起をプライバシー団体な
どとも協力して行動すること。

3.3 監視社会化に対抗する運動
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

3.3.1 デジタル庁問題への取り組み
--------------------------------

9月に発足するデジタル庁によって実際にどのような問題が生じるのかを注視
する必要がある。特に、官民一体となった個人データの利活用がデジタル庁設
置の重要な目標になっている。

デジタル庁に関連する問題は多岐にわたる。AI、5G、ビッグデータの利用など
社会全体のテクノロジーの開発そのものに内包されている営利優先、あるいは
国策優先によってひきおこされる個人や集団の自由の権利(表現の自由、思想・
信条の自由、結社の自由、通信の秘密など)の侵害が、私生活、学校教育、労
働現場、公共空間など様々な場所において、横断的に現象するようになってお
り、しかもこれが、マイナンバーの官民利用推進のように、利便性を口実とし
て、行政の施策や企業のビジネスチャンスと連動するようになっている。

個人情報やプライバシーをめぐって起きうる事態を先取りして、これに歯止め
をかけられるように、監視社会に反対する運動を担っている諸団体とも連携し
ながら、取り組みをすすめたい。

3.3.2 AIと生体認証問題
----------------------

世界規模で生体認証技術そのものを禁止する運動が起きつつある。生体認証は、
個人を特定する究極の技術であり、生体情報はいったん取得されてしまえば一
生ついてまわることになる。およそ100年におよぶ人間の一生のあいだ確実に
自分の生体情報を保護できるような法制度も政治制度も未だに存在しない。こ
の意味でも技術開発をさせないことが現在の唯一の選択肢である。JCA-NETも
禁止運動に署名し、参加を表明した。他方で、日本国内では生体認証技術の利
用はほぼ野放し状態にある。日本国内での生体認証問題への関心を喚起すると
ともに、生体認証技術の開発、製造、販売、利用を禁止する運動を展開する。

AIについては、ビッグデータを元にしたAIによる自動認識機能が社会の偏見を
反映して差別を助長する危険性があることが指摘されている。人間と違ってAI
は憲法や法律の理念を理解することはできない。他方で、国会などの立法府は
AIなどの技術の仕様について審議できる組織にはなっておらず、現状では政府
や民間企業がほぼ自らの利害に沿った開発を行なうことが可能になっている。
その結果としてプライバシーの権利や人権への配慮は後回しになる。こうした
事態に対してコミュニケーションの権利の観点から政府・民間の動きに歯止め
をかけるような活動を展開する。

3.3.3 暗号規制問題
------------------

日本政府は昨年10月に、米国政府など英語圏5ヶ国とインドと共同で「エンド
ツーエンド暗号化及び公共の安全に関するインターナショナル・ステートメン
ト」を出し、暗号規制の必要を主張した。この共同声明では、強固な暗号の必
要を認める一方で、各国政府が暗号を解読できるような技術的な仕様を組み込
むことを要求している。他方でEUにおいてもテロ対策などを口実に暗号規制の
動きが活発だ。今年度はこうした動きが具体的な法制度や政策に盛り込まれか
ねない状況にあり、各国のプライバシー団体とも暗号規制に警戒を強めている。
JCA-NETは、今年3月に暗号規制反対の声明を出した。今年は、更に、暗号規制
が具体化しないようにより一層政府などの動きを注視するとともに、インター
ネットのユーザに対して暗号によるセキュリティ、プライバシーの保護の重要
性と具体的な暗号利用のノウハウを身につけられるような取り組みが必要であ
ろう。

3.3.4 ネットの遮断やプラットフォーム企業による検閲問題
------------------------------------------------------

ここ数年の傾向として、言論・表現への検閲が政府によるものから、Facebook
やTwitterなどのSNS大手企業によるアカウント停止などへと移行しつつあると
いう問題が深刻化しつつある。パレスチナの運動、ミャンマーの反政府運動、
中国の反政府運動などにこうした多国籍企業が介入し、自社の判断で検閲を行
使することがあたりまえになった。本来検閲は裁判所の命令によってのみ可能
になるような権利領域の問題であったのが、今ではむしろ政府などの意向を受
けて事実上企業の裁量に委ねられる事態になっている。

他方で途上国では、政権によってネットが遮断され、選挙運動に深刻な影響が
及ぶようなケースも多くみられている。ネットもまた各国政府の管理下におか
れ、プラットフォーム企業が政府と連携して「合法的」に検閲に加担するとい
う構図が、次第に一般化しつつある。

日本国内ではネット遮断という措置はまだみられないものの、SNSのアカウン
ト停止などは頻繁に報告されている。日本ではこうしたアカウント停止の問題
への関心はまだ低い。また、他方で、ヘイトスピーチやフェイクニュースに対
する対抗的な情報発信も強いとはいえない。JCA-NETとしては会員の情報発信
をより一層サポートすることや、国内外の人権団体や社会運動団体とも連携し
ながら、検閲との闘い、遮断された人々への支援などできる限りの活動を展開
したい。

3.3.5 ポストコロナ、ポストオリンピックへの警戒を
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コロナ対策としての接触追跡アプリの導入、オリンピックを契機としたテロ対
策や感染対策を名目とした監視の強化が事実上進行している。こうした対策は、
コロナが終息し、オリンピックが終了した後にも継続すると思われる。その結
果として私たちのコミュニケーションの権利はより一層侵害された状態が日常
生活になり、これに慣れてしまう危険性に直面している。

参考
Access Now、軍事クーデターによるミャンマーのインターネット停止を非
難[https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/node/101]
JCA-NET理事会声明:暗号規制に反対します―日本政府は「エンドツーエンド暗
号化及び公共の安全に関するインターナショナル・ステートメント」から撤退
を!!
[https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/node/105]
市民団体共同声明「基地訴訟原告団の個人情報の民間への提供策動許さない!市
民のプライバシー、個人情報を侵害するデジタル監視6法案の制定に反対します」
[https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/node/110]
2020年度情報セキュリティの倫理と脅威に対する意識調査【脅威編】報告書
ー2021年3月 独立行政法人情報処理推進機構
[https://www.ipa.go.jp/security/economics/ishikichousa2020.html]

3.4 JCA-NETセミナーおよび日常活動について
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

3.4.1 毎月のセミナーを充実させる
--------------------------------

2020年度に毎月開催したJCA-NETセミナーを今年度も継続する。内容としては、
月2回程度として、ネットのセキュリティや技術的なノウハウなどを中心とし
たセミナーとネットをめぐる政策や政治的社会的文化的なテーマを扱うセミナー
で構成されてきた。セミナーが単なる勉強会に終ることなく、各自のネット環
境のありかたやライフスタイルを変えるきっかけになることが重要である。と
くに、ネットのセキュリティやプライバシーへの対処については、「学ぶ」こ
とだけではなく、自分が実際に使っているパソコンなどの環境を変える必要が
あり、そのためには、セミナーとその後のフォローアップを組合せることや、
同じテーマであっても繰り返し実施することなどが重要だ。

回数とテーマはセミナーの講師などとのかねあいもあるので、可能なかぎり多
様な講師などによる開催ができることが好ましい。会員のなかにもセミナーの
講師などを担える人たちもおり、こうした人たちの協力を得ることも大切な課
題である。

同時にセミナーは会員や会員以外のネットのコミュニケーション問題に関心の
ある人たちが直接議論する機会でもあり、コミュニティを作ることも目指すべ
き課題になるだろう。

3.4.2 JCA-NETサービスが「宝の持ち腐れ」にならないために
-------------------------------------------------------

JCA-NETは、様々なサービスを提供している。インターネットの基本サービス
は、SNSをのぞけば、メール、メーリングリスト、オンライン会議、クラウド
などほぼ網羅できるようになっているが、会員の実際の利用は必ずしも活発と
はいえない。メーリングリストは活発に利用されているが、JCA-NETにアカウ
ントがありながら、無料の商用サービスを利用している会員も少なくないと思
われる。実際の利用状況については調査をしていないが、Nextcloudやブログ
などウエッブページの開設など、有効活用してもらえる余地がまだ多く残され
ている。

とはいえ、多くの会員にとっては新たな仕組みを習得することは容易ではない。
この点で、会員相互のサポートや理事会によるサポートの体制を充実させる必
要がある。マニュアルやQ&Aの充実は最低限取り組むべき課題である。

3.4.3 国際連帯の活動
--------------------

昨年JCA-NETはGlobal Encryption Coalitionに参加し、いくつかの国際的な運
動との連携にも努力してきた。今年は、世界規模で政府による暗号規制が本格
化しそうな気配である。9月にG7のG7内務・安全保障担当大臣会合があり、日
本も暗号規制のリーダーシップをとろうとしている。こうした動きに日本国内
で対応する運動がまだ確立していない。暗号化やネットのセキュリティ、巨大
IT企業によるサービス独占に対抗するオープンソースなどによるオルタナティ
ブの運動など、国際的な連携や情報共有が必要な分野が増えている。

これに加えて、上述したようにインターネットの遮断や検閲も広がりをみせて
おり、国際的な運動によって当事国のネットユーザーや人権団体などを支援す
る必要性も増している。こうした事態に、出来る限りの支援をしてゆくことが、
同時に、近い将来日本国内でも生じるであろう同様の権利侵害的な政策や立法
への国際的な対抗の運動をつくりだす上でも必要になるだろう。

これまでもAPCとの連携があったが、この連携を深める意味でも、APCによる情
報発信を日本国内に紹介する活動や日本の活動の海外への紹介などにも注力す
る必要がある。

3.4.4 会員のネット関連のサポート
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JCA-NETの会員のインターネットアクセスについては、POEMによるサポートの
他、サーバーの管理などに関わらない日常的なソフトウェアの使い方や
Jitsi-meet、Nextcloudの使い方などについては理事会においても可能なかぎ
り対応してきた。こうしたサポートは、今後も継続する必要がある。また、サ
ポートで得られた知見を有効に活用して、同じような問題に直面している会員
に対しても情報を提供し、また、会員による相互扶助の体制もゆくゆくは確立
する必要がある。

3.4.5 会員拡大の取り組み
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2020年度の会員動向は、退会と新規会員数がほぼ同数となったが、長期的な傾
向としては、漸減の状態に変りはない。(2020年度のJCA-NET入会者数9名、退
会者数8名)新規会員を獲得することによって、会費収入増加によって、可能な
るサービスの幅も増えうるので、可能な限り会員獲得の努力を継続したい。
2020年度にはまとまった会員獲得キャンペーンを実施できなかった。2021年度
にはキャンペーンが可能になるよう努力する。

3.4.6 理事会のジェンダーアンバランス問題の解消
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現在の理事会の構成は、高齢化する会員を反映して年齢が高くなっているだけ
でなく、全員が男性という極めて深刻なジェンダーアンバランス状態になって
いる。

インターネットやコミュニケーションの権利運動にとってジェンダー問題は最
優先課題のひとつともいえるものだが、JCA-NETでは十分取り組めていない点
は、反省すべき点であるだけでなく、具体的にJCA-NETの活動に参加してもら
える女性の会員を募りつつ、ジェンダー問題への取り組みを強化できるような
工夫が今年度の運動として欠かせないものになっている。

ちなみにAPCは、ジェンダー問題に非常に熱心に取り組んでおり、ジェンダー
問題のサイトGender and ICTsを設置している。
[https://www.apc.org/en/topic/gender-and-icts-0]出版Gendered impact of
COVID-19 on women in Kibera
[https://www.apc.org/en/pubs/gendered-impact-covid-19-women-kibera]
Gender justice and the right to freedom of opinion and expression
[https://www.apc.org/en/pubs/gender-justice-and-right-freedom-opinion-an…]
2021年RightsConにおいてもAPC主催点共催のジェンダー関連のフォーラムが複
数企画されている。
- Co-creating a feminist internet: Discourse and solutions to online
violence and hatred
- Reflections on digital gender-based violence in the context of
COVID-19
- Gender and knowledge participation: Mapping efforts at equity
こうした状況のなかでJCA-NETの立ち後れは深刻である。何としてもこの課題
に取り組む必要を痛感する。

4 予算・決算(略)

5 理事、監事の改選
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5.1 理事立候補者プロフィール(略)

6 規約改正に向けて(略)

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総会において提案され、了承された事項

(1) APC関連報告(浜田理事)

APCは現在世界中に 58 の会員組織をもち、情報市民運動のグローバル・ネッ
トワーク組織として活動している。

2020年10月、オンラインで理事選挙が行なわれ、下記の7名が選出された。

1.Leandro Navarro - Pangea, Spain, Europe – board chair
2.Bishakha Datta - Point of View, India, Asia-Pacific
3.Julián Casasbuenas - Colnodo, Colombia, LAC
4.Sylvie Siyam - PROTEGE QV, Cameroon, Africa
5.Pavel Antonov -
BlueLink.net
, Bulgaria, Europe
6.Oona Castro - Nupef, Brazil, LAC
7.Sol Luca de Tena - Zenzeleni NPC, South Africa, Africa

【戦略的優先事項】

現在の活動の優先事項として「戦略的優先事項 2020-2023」下記の6項目を定め
ている。

成果目標1: APC ネットワーク内外のコミュニティの共同の力を変革的な行動の
ために発揮する。

成果目標2: 排除、差別、不平等の影響を受けている人々が彼らの必要を満たす
ためにインターネットとデジタル技術を活用できるようにする。

成果目標3: 女性と多様なセクシュアリティとジェンダーをもつ人々が、彼らの
生活の現実を反映し、それに対応するインターネットとデジタル技術の形成に参
加できるようにする。

成果目標4: 特に差別や抑圧に直面している人々が、デジタル技術を通じて、オ
ンラインとオフラインの両方であらゆる人権を行使するために、より大きな力と
自律性を持つようになる。

成果目標5: インターネットが、包括的で透明性があり、民主的で説明責任のあ
る方法で、地球公共財として認識され、管理される。

成果目標 6: APCの集団行動と活動により、環境の正義と地球の保全に貢献し、
インターネット、デジタル技術、デジタル経済が環境に与える負の影響を軽減す
る。

【プロジェクト】

以下のプロジェクトが活発に活動している。

All Women Count: Take Back the Tech!

【最近の主な活動】

2021年4月
Global Internet Society Watch 2020 発行。
Technology, the environment and a sustainable world: Responses from
the global South

2021年6月
国連人権理事会(HRC47)の第47回定期会合に参加。
 パレスチナ人に対するデジタル権利侵害の劇的な増加(JCA-NETに日本語訳あ
り)

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(2)総会参加者からの議案書への意見

議案書に「団体のプライバシー」が個人のプライバシーとともに併記されてい
る件について、「団体のプライバシーは、もし主張されたら、企業秘密がそれ
にあたるとされます。基本、個人のプライバシー権の侵害の集合ではないです
か?」との意見が出され、この点について議案書提案者から、この意見を受け
いれる旨の発言があった。

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(3)議案書に掲載されていない取り組み事項についての意見

「学校等へのChromebookの強制配布や、団体企業等でのteamsの強制が実際に
起こっています。懸念すべき状況です。
AIと人権については、人種差別撤廃委員会の一般的勧告36号が近年出され、国
際的にも懸念が示されました。重要な国際基準が出ているので、触れておいた
ほうが良いのではないでしょうか?」

この二点についても、取り組むべき事項として確認されました。なおGIGAスクー
ル問題については6月のJCA-NETセミナーにおいても取り上げられたことが報告
されました。

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(4)議案書の活動方針案のなかで特に注目された論点
議案書にジェンダーの問題が盛り込まれました。とくに、理事会のジェンダー
アンバランス(女性理事の不在)は極めて深刻であるという認識が共有され、具
体的な解決のための取り組みをすべきことが意見として出されました。

以上