中嶋啓明
10月27日、トランプ米大統領が訪日し、天皇徳仁と会見した。トランプが徳仁に会ったのは、徳仁が天皇位を継いだ2019年以来。メディアは数日前から、「6年ぶりだ」と大騒ぎし、「天皇陛下と会見 調整/米大統領/27日来日時」(『読売新聞』10月21日付夕刊)、「トランプ氏、27日来日/天皇陛下と会見へ」(『日本経済新聞』22日付夕刊)、「6年半ぶり 陛下と会見へ」(『読売』27日付夕刊)とカウントダウンを繰り広げた。
そしてトランプ訪日を伝えた翌28日の朝刊各紙は、握手する2人の写真を一面に載せるなど、会談の様子を大きく報じた。
「陛下からは大谷選手の活躍を話題に出し、前回の面会時にトランプ氏から贈られたビオラを時々弾いていることを明かした。トランプ氏は陛下に『ぜひアメリカに来てほしい』と伝えるなど和やかな懇談だったという。」(『毎日新聞』)
メディアは、会見を終えて皇居を後にする際のトランプの言葉に一斉に飛びついた。
「会見後、陛下とともに車寄せに姿を見せたトランプ氏は記者団に、陛下について『グレートマン』とアピールする場面もあった。」(『朝日新聞』)等々……。
社交辞令にすぎない互いのゴマすり、オベンチャラを、何の躊躇もなくそのまま垂れ流す提灯記事の数々。
徳仁は2019年5月、現上皇明仁の跡を継いで天皇位に就いた。その直後、徳仁は雅子とともに、「国賓」として訪日したトランプ夫妻と会見、宮中晩餐会を「主催」した。
先の『読売』27日夕刊の前触れ記事は、「天皇制に質問 ■ 趣味で歓談」とのサブタイトルで当時の様子を振り返ったものだ。
「同庁元幹部によるとトランプ氏は陛下に敬意と礼節を持って接し、皇居・宮殿を『素晴らしい』とたたえ、『日本の文化が大好きです』と語った。(略)当日夜の宮中晩餐会では、(略)陛下は趣味の山登りについて話され、トランプ氏は米国の自動車レースについて語り、打ち解けた雰囲気だったという。」云々……
当時の新聞を繰ってみた。
2019年5月27日の『朝日』の夕刊には「両陛下、大統領夫妻と会見/前日の相撲観戦 話題に」との見出しの記事が、一面に載っている。天皇の代替わりのほか、トランプが前日、相撲を観戦したことなどが話題になったとの記事だ。
記事は、徳仁、雅子が皇居でトランプを迎えたときの様子で締めくくっている。
「宮殿の南車寄せでは両陛下が迎えた。車から降りたトランプ氏は一度立ち止まり、小さく会釈。にこやかに『Nice to meet you』と話し、両陛下と握手を交わした。」
同じ夕刊の社会面では「お二人(徳仁、雅子)はホストとして贈り物の選定から宮中晩餐会の準備まで気をくばる一方、宮内庁もスムーズに接遇できるよう従来の手順を変更。『令和流』のもてなしがうかがえる内容となった」(()内は引用者)と宮中晩餐会を総括した。
問題意識の欠けらもない。ワンパターンな提灯ぶりは、6年を経ても変わることはない。
トランプは9月中旬、「国賓」として英国を訪れた。英国訪問を直前に控えた9月16日、『毎日新聞』は夕刊に「『王室カード』で関係強化狙う/トランプ氏 16日から国賓で再訪英」と掲げる前触れ記事を載せている。記事にはこうある。
「トランプ氏は、母親が英北部スコットランド出身で『王室好き』とされる。英側としては、華やかな王室儀礼というソフトパワーを使って厚遇することで対米関係の強化につなげ、関税交渉での譲歩などを引き出す狙いがある。」
露骨な「王室の政治利用」。指摘は、“分析”と呼ぶのが恥ずかしくなるほど、あまりに当たり前の“分析”だ。
ただ、トランプが「王室好き」という言説には、眉に唾をつけない訳にはいかない。
元毎日新聞記者で、成城大教授の森暢平は、米国立公文書館で見つけたという文書をもとに2006年、「新資料にみる昭和天皇・ニクソン会談」との論文をまとめている。
論文で森は、「『皇室に愛着を持つニクソン』というイメージは、現在まで引き継がれている」と述べる。論文によると、そうしたイメージは、副大統領だったニクソンが1953年11月、「国賓」として訪日した際の様子などを引き合いに、当局とメディアが一体となって作り上げていったもののようだ。72年には衆院内閣委で当時の宮内庁長官・宇佐美毅が、裕仁、良子の「歓待」を受けたニクソンが「大へん喜んで」いたと述べている。
だが森は、「皇居を訪問した1953年の思い出があまりよくなかった」のではないかと推測する。根拠は、ホワイトハウスの秘密録音システムで自動録音された「ニクソン秘密テープ」の記録。この中で、ニクソンは訪日を「pain in the ass」(面倒)と表現しているという。
論文には、こんなことも紹介されている。
「インガソル国務副長官からフォード大統領に宛てた『天皇訪問』という文書(1975年9月29日起草)の中に次のような一説があった。/『訪米を成功させることによって、緊密な米日関係に対する日本大衆の広い支持をはぐくみ、今後の重要な成果を生むことになる両政府間協力の基礎を強めることができる。訪米の成功を保証する我々の戦略は、天皇が通常日本で受けているのと同様な尊厳と威厳で天皇を遇すること、日本との関係が重要であることを示唆するような大統領の個人的なジェスチャーを天皇に対して示すこと、そして、訪米の広報的な側面に特に注意を払うことである』」
こうした事実から森は「皇室に親近感を持っていた大統領という従来のイメージは、ニクソン政権のPR戦略によって作られたものである」と結論付けている。
「ディール」を口癖にするトランプだ。徳仁に対する「敬意と礼節を持っ」た対応など、造作もないことだろう。
キツネとタヌキの化かし合い。否、欧州各国の「王室利用」なら、“対等”な関係間で「ディール」を成立させるための「化かし合い」の一手かもしれない。だが、対米従属を強めるばかりの日本にとって皇室は、さらなる忠誠心を表すための道具以上のモノではない。
トランプへの首相高市の媚びへつらいぶりには、心底あきれる。あまりに卑屈な態度に、日本「国民」のナショナリスティックな心性を完全に掘り崩すことになるのではと、いらぬ心配までしてしまう。
自尊感情をくすぐってナショナリズムを掻き立てる。対米従属という「恥部」から目を逸らさせるためのイチジクの葉。それが天皇であり、メディアの天皇報道なのだ。犯罪的というほかない。
