自由を謳歌する天皇、皇族像へ——眞子スキャンダルが狙うもの

中嶋啓明

眞子の結婚話が、〝急進展〟を見せている。

9月16日、共同通信が次のような記事を配信した。

「秋篠宮家の長女眞子さま(29)との結婚の調整が進む小室圭さん(29)が、滞在先の米国から近く帰国する意向を示していることが16日、関係者への取材で分かった。宮内庁は2人の記者会見などを検討している。/眞子さまと小室さんは、10月にも婚姻届を提出する方向で準備が進んでおり、宮内庁が正式発表する予定。約3年ぶりとなる小室さんの帰国後、2人で心境を説明するとみられる。」

9月21日、日テレNEWS24は「小室圭さん 来週早々にも日本に帰国へ」と題して「小室さんは、帰国後、新型コロナウイルスの2週間の隔離期間を経て、眞子さまとともに記者会見にのぞむものとみられます」報じ、続けて「これに先立ち、宮内庁は、近く正式に(中略)結婚を発表する見通しです」と伝えた。

本紙が出るころには、もう結婚話は終わっているかもしれない。

始まりは9月1日の『読売新聞』朝刊だった。1面トップに6段もの大きさの横見出しで「眞子さま年内結婚」。リードはこうだ。

「秋篠宮家の長女眞子さま(29)が婚約の内定している小室圭さん(29)と年内に結婚されることが複数の関係者への取材でわかった。婚約や結婚の儀式は行わない方向で調整されている。儀式を行わずに結婚されれば、戦後の皇室で初めてなる。」

これを皮切りに、新聞各紙、テレビ各局は、溜まっていたうっ憤を晴らすかのように一斉に、「年内結婚」で足並みをそろえた大量の記事を乱舞させた。

『朝日新聞』は1日夕刊に「眞子さま・小室さん結婚へ/年内で調整」と掲げた。この業界では通常、抜かれた記事を追いかけるきは姑息にも、少し扱いを小さくするものだが、この記事は『読売』と同じ1面トップ。縦見出しではあるが、7段ものスペースを割いた。

その他、同日夕刊で『毎日新聞』は1面左肩に4段見出しで「眞子さま 年内に結婚」。『日本経済新聞』も同様に1面左肩の4段見出し「眞子さま、年内結婚へ」。『東京新聞』は、他紙に比べ扱いは小さいが、左肩に横3段「眞子さま年内結婚へ」だ。

東京圏で夕刊を出していない『産経新聞』は翌2日朝刊で「眞子さま 年内ご結婚へ」。抜かれて右翼メディアとしての“矜持”を傷つけられたからなのか、横5段のスペースを取りながらも、その位置は1面の左肩。否、「抜かれたから」なんかでは、なかろう。読者層の多くが男系主義者であろう『産経』だ。今回の結婚話を手放しでは歓迎していないとの姿勢を読者にアピールしなければならなかったのではないか。

眞子の結婚が近いとの情報はなにも、『読売』の独走だったわけではない。かなり前から様々なメディアで散々に報じられてきていた。特に女性週刊誌では毎号、この話題で持ちきりだった。例えば——、

『週刊女性』の8月31日号。「眞子さまNYで〝共働き生活〟本誌だけが知る!小室圭さんとの結婚問題「今秋決着の全容」」と題する記事が載っている。『女性自身』も同日号で「秋篠宮さま 眞子さま・小室母子へ11月絶縁宣言! 「NY移住計画 黒幕は佳代さん」」。これらの雑誌が店頭に並ぶ発売日は、発行日の2週間前の同月17日だ。『女性セブン』8月19−26日号のタイトルは「電撃決着 眞子さま追放婚 五輪後渡米「日本にはもう戻れない」」だった。

『サンデー毎日』の8月15−22日号には「小室圭さん米国略奪婚で秋篠宮さまの怒り」。

近々結婚して米国に移住するとの話は公然の“秘密”だった。

すでに7月30日には共同通信が、「小室圭さん(29)が、米ニューヨーク州の法律事務所への就職を検討していることが30日、関係者への取材で分かった」と報じていた。

7月前半の段階では、「小室圭さんと眞子さま「破談」へ——それも「皇室の苦難」の始まりかもしれない」との見出しが躍っていた時期もある(『週刊ポスト』7月16−23日号)。

水面下での暗闘が激化していたのか。男系派が盛んに、自分たちにとって都合よく解釈できる「関係者」とやらの情報をリークし、必死に最後のあがきを繰り広げていたであろう様子が想像できる。

この間、8月7日には共同通信が「安定的な皇位継承策を議論する政府の有識者会議(座長・清家篤元慶応義塾長)は、天皇の子や孫に当たる内親王ら女性皇族が婚姻後も皇室に残る案に関し、配偶者と子どもは当面、皇族としない方向で意見集約に入った。(略)自民党内の保守派や世論の反発に配慮し、配偶者や子どもへの皇籍付与は将来的な課題と位置付ける」と報じた。「有識者会議が7月9日に開いた第9会合の議事録によると、意見を述べた全メンバーが「当面、配偶者と子どもは皇族としないのが現実的」との見解でほぼ一致した」と伝えており、7月9日時点ですでに、結婚を前提に話を進める方向へ、議論が誘導されていたことが分かる。

女性皇族への皇籍付与案は、結婚容認に向け、世論のガス抜きを図るための観測気球でもあった。

その後の自民党の総裁選では、皇位継承策が論戦のテーマの一つに上がっていると言われている。最有力候補とされる河野太郎は、頑迷固陋な男系主義者ではないらしい。

コロナ禍、五輪、菅政権の退場と総裁選、その後の解散・総選挙……。

ゴールは最初から決まっていたのかもしれない。天皇制権力の中枢は、皇位継承問題と密接に絡む話で、折々の政治、社会情勢を見極めながら、慎重に道筋を探ってきていたのだ。

男系派の反発を最小限に抑えながら、神の裔としてのアイデンティティから〝解放〟し、スキャンダルも辞さず、海外セレブのような生活を繰り広げることのできるヨーロッパ型、英国型の王室を展望する。

民衆統合の力を多少犠牲にしても、政治的にも経済的にも自由を謳歌できる天皇、皇族像を模索する。そんな狙いが、眞子の結婚スキャンダルの過程からも透けて見える。

*初出:「今月の天皇報道」『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信」no.203, 2021. 9

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