世襲議員(首相)と世襲象徴天皇制の関係 --自民党総裁選を通して考える

天野恵一

岸田文雄の後任を決める自民党総裁選、この「統一教会」(カルト)と「裏金」にまみれた政権政党の総裁(首相)が誰におちつこうが、どんな希望も見えない「選挙」。それでもマスコミは重大事とばかりに、大騒ぎ。本当にウンザリであった。出馬がなんと8人であったこの選挙は、9月27日に世襲議員石破茂におちついた(岸田世襲首相から石破世襲首相へのリレーである)。

ただ、9月11日の『東京新聞』「こちら特報部」のコーナーの「自民党総裁選挙 目立つ世襲--『特権』漬かって政治改革できる?」には注目した。

「12日の告示に向けて活気づく自民党総裁選。ただ顔ぶれをみれば出馬表明した8人のうち5人は世襲議員」。「1993年の政治改革で導入した小選挙区制の狙いは『政党中心の政治』『二大政党による政権交代可能な政治構造』。手本にした英国のように、政党が候補者の選挙区を決めれば世襲はなくなるはずだったが、結果的に政党は強力な権限を持たず『小選挙区で当選し続けた議員は、その選挙区の「殿」になる。そして「殿」の後には「若殿」を、と逆に世襲の流れが強くなってしまった』と伊藤氏は嘆く」(この伊藤氏とはジャーナリストの伊藤惇夫である)。

この世襲政治の毒が回った体制を「2015年体制」と金子勝はネーミングした(金子によれば、安倍政権による、「集団的自衛権」を認め、憲法9条の平和主義を最終的に壊した「安全保障関連法案」の成立(2019年9月)をもって作り出された体制)。金子勝の『裏金国家--日本を襲う「2015年体制」の呪縛』(朝日新書、2024年9月30日)も、こうシャープに切り込んでいる。

「『2015年体制』とは、裏金による地方政治支配を基盤にし、その利益共同体の基盤を守るために東京生まれ東京育ちのエセ地方議員である世襲議員を担ぐことでできている。そして『2015年体制』は、劣化した世襲政治家でも国会議員として生き残れる仕組を作り上げる必要性から生まれたのである」。

「『世襲』というのは、公正な選択基準はなく家柄とか縁故という『私的』な基準なので、公的立場にありながら周囲では極めて『私的』な人間関係が形成される。それゆえ民主主義という政治原理とは相反することがある。時には三代目世襲は絶対的支配者のように振る舞うのを好む、そのために、周囲できちんとした意見をする者を排除する。2014年〜15年以来、内閣人事局で忖度官僚だらけにし、放送法解釈変更で批判的な司会者やコメンテーターを徹底的に排除し、日本学術会議の任命拒否や国立大学法人法『改正』で大学や科学者の自治を壊すのである。/さらに行けば、自分のご機嫌をとる者をひいきにし、主として金銭関係や許認可関係などの『利益』が与えられる」。

まだまだ紹介したいがそれでは私の論ずべきメイン・テーマに行きつかないので、ここまでで、紹介はストップ。気になる読者は、安倍晋三長期政権が残した負の遺産のトータルな構造に鋭くメスを入れた、本書を直接手にしてください。

私のここで論ずべきテーマは、象徴天皇制すなわち「世襲国家」という大問題である。

世襲議員だらけという負の制度への批判は、マスコミでも話題にされ続けてきたとはいえる。しかし、それと象徴天皇制との関係が論じられたことは、ほぼない。天皇制批判はほぼタブーとなっている現在のマスコミに、それを期待しても虚しいというしかあるまい。

さて、戦後の日本国憲法の第二条には、このように書かれている。

「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」

「日本国の象徴であり国民統合の象徴」と第一条で規定している国の「象徴天皇」は「世襲」されなければならないと憲法が規定しているのである。この憲法が〈世襲原理〉をうたいあげているという大問題にストレートに緻密かつ批判的に切り込んだ憲法学者(学説)は、ほとんどない。

その例外的な主張を、ここで一つ紹介する。

奥平康弘は、対談新書でこう主張している。

「つまり簡単にいうと、問題の核心に世襲制と象徴という一般市民の世界には存在しないけったいなものが、天皇制には決定的要素としてはめ込まれている。そのことが問題を胚胎させているということです。世襲制と象徴というある意味で厄介なものが成り立つ天皇制という制度を僕たちの祖父母や親が呑んじゃった。一般人民には世襲制という、それ自体差別的・非合理なものは、もはやないわけです。そして何よりも象徴天皇でしょう。天皇というのは国民の中に入り込んじゃいけないわけです。天皇というのは国民的存在から言うと離れてある存在で、一歩上にいる憧れであると。憧れであるためにはいろんな装置が必要なんです。国民の中に入り込んで同じように生活していたのであれば、この人だけを飛び抜けて象徴にするわけにはいかないのです。/このように奇妙と言うしかない世界を憲法が作ってしまった。憲法の大原則、つまり平等でなくてはならないとか自由でなくてはいけないといった大原則たる磁石が働かない制度(領域)、特別な磁場を作ってしまった。憲法自体が、差別的で非合理的で国民から遊離したものをつくってしまった。この変な制度を……」(『憲法対話』、平凡社新書、2000年)。

この非合理で差別的な「世襲」象徴天皇制(国家)には自民党の「世襲政治」こそがふさわしい。

この点こそが私たちが、今こそ批判的に考え抜かなければならない大問題なのではないか!

初出:「スペース21」(第144号、2024年10月)

 

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