土方美雄
初めてのヤスクニ・レポート その3
引き続き、前号よりの、続きです。
公式参拝への道を拓く
ここで「追悼の日」制定から8・15に至る経過を、簡単にふり返っておくことにしたい。「追悼の日」=「英霊の日」の構想は、もともと「英霊にこたえる会」が靖国公式参拝の実現と並ぶ最重要課題としてかかげてきたものである。それが81年の7月以降、なぜ急に政治の焦点に浮上してきたのか--日本遺族会と共に同会を支える中核的存在である神社本庁の機関紙『神社新報』はこの点を次のように説明している。
「(この『日』の成立は)靖国神社への首相の公式参拝をもとめる運動の中から生じてきたもの。政治的にこれを実現させるためには8月15日を『戦没者追悼の日』と決定した方が政府が公式参拝を実施するために有利だ、との自民党側の意見からつけ加えられて出てきたのが、この『日』の問題であった。
この日を正式に国民をあげて戦没英霊を追悼する日に制定すれば、首相の靖国神社参拝はじめ他の行動はおのずから『公的』な性格になるし、万一、首相が8月15日の参拝を『公的』資格にもとづくものと言明しなくても、自動的に『公式参拝』になる、というのが党側の『英霊にこたえる会』への説得であった」(82年3月1日付)
「英霊にこたえる会」はこの年、「8・15までに公式参拝を実現させよう」との目標を定め、3月ごろから重点的な活動を行ってきた。自民党政調会内閣部会内に設けられた「靖国問題に関する小委員会」(三原朝雄委員長)の初会合が7月10日に決まると、同4日には国会付近に「公式参拝実現推進本部」を設置、鈴木首相に対し公式参拝の実現を求める国会議員の署名を自民党議員の約80%にあたる340名、民社党4名の計344名分も集めるなど、積極的な活動を展開する。
7月10日の靖国小委員会ではこれを受け手、①8月15日を「戦没者慰霊のための正式記念日」として閣議決定する②靖国神社への首相・閣僚の公式参拝--の二点を決議するが、「こたえる会」側の強い要求もあり、同16日の靖国小委員会と内閣部会との合同会議では先の①と②の順序がひっくり返り、28日の自民党の最終議決機関である総務会決定でまた元に戻るというギクシャクの末、30日に党4役が鈴木首相に対し、正式に申し入れを行うのである。
その回答は、①「追悼の日」については実現をはかる方向で有識者らの審議会で検討する、②については福田内閣以来の政府方針(政府の公式参拝として行わない、玉串料を公費から支出しない)を踏襲する--というものであった。②については「こたえる会」側を激怒させ、鈴木首相はおかげで「このような無神経な首相の参拝は却って英霊の嘉みとしないところである」とまでこきおろされることになるが、①については8月14日、当時の中山総理府長官の私的な諮問機関として「戦没者追悼の日に関する懇談会」を発足させることを決定、江藤淳・曽野綾子をはじめ7名の「有識者」による懇談会を9月25日からスタートさせる。
この懇談会は宗教者をはじめ、各界の反対意見に初めからまったく耳を貸さず、82年の3月25日、政府方針に沿った最終報告書を田辺総務長官に提出、政府はこれを受けて4月13日、これまた一方的に閣議決定を強行するという非民主的な手続きのもと、8月15日が「戦没者を追悼し平和を祈念する日」という長ったらしい名前で呼ばれることになるのである。「日」の制定の裏には、先の『神社新報』のあけすけな告白にもあるように、「追悼の日」の設定は文字通り、公式参拝への大きな突破口になるといったヨミがあったのだ。
常識的な額なら公費を使っても
「靖国神社に公式参拝を、今年こそ!」--これは7月15日に開かれた「英霊にこたえる会」主催の「靖国神社公式参拝実現要求全国総決起大会」のメインスローガンであるが、7月15日に宮沢官房長官が「公私の区別を今年はいわない」との方針を明らかにするに至る経過をすこし追ってみよう。
7月1日、「英霊にこたえる議員協議会」(「英霊にこたえる会」の結成に呼応して78年に創立、会員約300名)の総会が自民党本部内で開かれる。「党執行部は政府の決断実行のため、直ちに適切な措置をとれ」と決議。翌2日、長谷川会長以下幹部六名が宮沢長官、そして鈴木首相に面会した。首相は「いつもの通り参拝する。皆さんの気持ちはよくわかった。すこし考えさせて欲しい」と答えたという。
6日、今度は「英霊にこたえる会」の幹部数名が宮沢長官と面会。長官は「参拝は心の問題。人々に判断してもらうことで、公人か私人かということをいちいち答える必要はないと思う」と答える。
翌7日、「英霊にこたえる会」の主催で、「靖国神社公式参拝実現要求全国総決起大会」(於九段会館)が開かれ、1250名が結集。井本会長が「『戦没者追悼の日』は去る4月13日閣議決定をみた。その最初の8月15日がまもなくくる。この機会をとらえて是非とも公式参拝を実現、さらには国家護持を達成していきたい」と挨拶した。
以下主な発言を抜き出すと、初村労相は「今度こそ総理に腹を固めてもらう」。「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の橋本幹事長は「われわれは8・15を国の記念日にしてもらうことが目標だったわけではない。国の記念日に公の行事として靖国神社に参拝してもらうためにこそ『日』を決定してもらったハズだ」。伊藤日本遺族会副会長は「もうわれわれは辛抱しきれない限界にきた」。
正午からは会場を自民党本部内に移し、約600名が「実現要求第二集会」を開催。2時過ぎ、井本会長以下代表8名が鈴木首相と面会した。「私人とか公人とか聞かれても、答えません。気持ちはわかっているから、それでいいでしょう」とややぶっきら棒に鈴木首相は答えたという。
以下、次号。