醜聞も呑み込む(?)天皇制の再編

中嶋啓明

コロナ禍で動きを封じられ、話題作りに困る中、こんなスキャンダル話でも、メディア頼りの天皇制にとってはありがたいことなのだろうか。

眞子の結婚相手とされる男性家族の金銭スキャンダルだ。

男性の母親が、元婚約者から400万円に上る借金をしていながら、その返済を渋っていると報道されているものだ。この間、メディアはこの話題を引っ張り続け、大騒ぎを繰り広げている。

今月8日には、長い間沈黙を保ってきていた男性が、長文の釈明文書を発表した。

これをメディアは、大々的に取り上げた。週刊誌だけではない。テレビも、そして主流メディアの在京大手紙もだ。

例えば『毎日新聞』は翌9日の朝刊社会面に、横5段もの大きな主見出しで記事を載せた。『小室さん「話し合い頓挫」/金銭トラブル24㌻改めて説明/眞子さまとの結婚「思いに変わりない」』と。記事には、男性が発表した文書の要旨まで載せている。

『産経新聞』は第二社会面に3段の見出しで『小室さん、文書で「トラブル」詳述/眞子さまとの結婚「思い変わらず」』と掲げ、「眞子さまと小室圭さんのご結婚をめぐる経緯」と題した一連の経緯表を掲載。別の紙面に文書の要旨を載せた。

『小室さん 金銭問題「話し合い頓挫」/眞子さまとの結婚「変わらず」/文書公表』と掲げた『東京新聞』は、男性の顔写真付きだ。

『朝日新聞』は2日後の11日、朝刊第二社会面に『小室さん 文書28枚の意図は/金銭トラブル「誤った情報訂正」』と横4段で掲げた。

杉浦達郎記者は記事のリードで「28枚にも及ぶ内容や意図は。結婚の行方は。関係者の話を交え探った」とうたった。だが、「結婚が今後どう進むのかは流動的だ」と書かざるを得ないように、記事は一連の経緯をあらためておさらいした域を超えていない。女性週刊誌等で読まされるような内容だ。

在京大手紙はこれまで、この問題を大きく取り上げることには慎重だった。

この間、天皇制はこのスキャンダルで、これまでにないほど好感度を下げてきている。ネットを中心に週刊誌をはじめ、表のメディアにまで広がった非難、批判の声は、眞子に向かうだけにとどまらない。眞子の奔放さを制御できていないとして、秋篠宮に対する落胆、蔑視、揶揄等々が噴出。天皇制そのものにも、そうした冷ややかな視線を向けることをためらわないような雰囲気も、以前よりは広がっているように感じる。

スキャンダルまみれも辞さない天皇制。海の向こうでは、英王室が、故ダイアナの息子のヘンリーとその妻メーガンの振る舞いをめぐって、かなり大きく揺れている。天皇制も「開かれた王室」の大先輩、英王室の後を追っている。だが、それは民衆統合の力に直に影響を及ぼす。天皇制の存在価値が問われ、存続が脅かされかねない。

今、天皇制は何を狙っているのか。

そんな中でも、メディアは民衆の脳髄に、天皇制の存在意義を、それとなく刷り込むことを忘れてはいない。

眞子は14日、赤坂御用地の秋篠宮邸でオンラインで「進講」を受けた。それを伝えるメディアの記事には「金銭トラブルを説明する文書を8日に公表してから初めての公務」(共同通信)との一文が、さりげなくつけられる。こうしたパフォーマンスが天皇、皇族に求められる「公務」であることは、メディアにとってすでに、疑うことを許さない大前提なのだ。

そして、こうした“情報”を付け加えることで、メディア業界が言う「ニュース・ヴァリュー」は上がる。こうした“付加価値”の存在で、少し大きなニュースとして記事にすることができるのだ。

皇室が中枢メンバーのスキャンダルで揺れる中、最大の支持基盤である神社本庁も、その足下を揺るがしかねない不祥事に見舞われている。

その一つが、上層部の不正を指摘する東京地裁の判決だ。神社本庁の不動産取引をめぐり、幹部の背任を内部告発したために、解雇などの処分を受けた元幹部2人が地位確認を求めていた裁判で3月18日、2人の請求を全面的に認める判決が出た。不正が指摘された不動産取引は、神社本庁の総長の田中恆清や、その政治団体の神道政治連盟の打田文博会長が中心になって進めたものだった。

神社本庁は、男系派の牙城でもある。

小室文書が公表されたのと同じ日、皇位継承策を議論する政府の有識者会議の第2回が開かれた。会議では、皇室制度や歴史の「専門家」から意見聴取したという。「専門家」とやらは、男系男子継承派と女系天皇容認派からそれぞれ人選。これまでに言い尽くされた双方の主張が、ここでも繰り返された。会議が単なるアリバイでしかないことは明らかだ。

にもかかわらず、これまた新聞各紙は、会議の記事に大きなスペースを割いた。

「皇位継承の在り方聴取/女性宮家や女系天皇」『読売』(9日朝刊)、「女性天皇 賛否割れる/女系拡大 反対・慎重多数」『東京』(同)等々と。

主流メディアは、『産経』を除いてほぼ女系容認だ。

眞子の結婚スキャンダル、神社本庁の揺らぎ等々……。天皇制は、これらの動向をどう呑み込んで今後、どう再編されていくのか、注視したい。

*初出:「今月の天皇報道」『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信」no.200, 2021.5

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