SNSで狙う政治的自由

中嶋啓明

皇室メンバーのコロナ・ワクチンの接種が始まった。

6月1日夕刊の『読売新聞』によると、同日午前、常陸宮夫妻と故寛仁の妻信子がそれぞれ皇居内の宮内庁病院で接種を受けたという。

その後の報道によると、この日は午後になって明仁や美智子らも接種を受け、計6人の皇室メンバーがワクチン接種を済ませたらしい。

明仁と美智子は、宮内庁病院での接種ではなく、現居住先の仙洞仮御所で受けたようだ。

宮内庁病院は、皇居という限られた“聖域”の中にあり、関係者の紹介なしで受診することはできない。「一般」の民衆には近づくことさえ不可能だ。

これぞまさに「上級国民」というべきだろう(あ、皇室の面々は「国民」ではないから「雲上人」か)。

民衆は日々、コロナの情報に右往左往させられ、ワクチン接種を受けることのできる医療機関は限られている。往診の医師による接種など問題外で、予約を取ることに日々、四苦八苦している。独り暮らしで外出もままならない高齢者や障がい者は少なからずいるが、そんな「下級国民」の接種は容易ではない。野宿者はなおさらだろう。

知人の福祉関係者は、インターネットが使えず、電話も自由にかけることができない、そんな人たち代わって、本来業務の合間に予約取りの作業に時間を費やしていた。しかし代行できるのは数人分だけで、それ以外は手が回らないという。

万が一、感染、発症しても、治療、入院先の確保さえ難しい状況は、いまだに改善されないまま続いている。

そんな「下級国民」に比べ、雲の上の人々は、なんと恵まれているのか。

先の『読売』は、「宮内庁は、皇族方の接種について国民と同じ接種順位で行う方針を示している」と書いている。

しかも、それは天皇徳仁らのありがたい思し召しであると、週刊誌などでは報じられていた。

一時期、自治体の首長や議員ら政治家、大手企業のトップらが優先して接種を受けていたことが盛んに報じられ、「上級国民だ」と揶揄、非難されていた。だがそんなふうに、皇室メンバーの接種に批判的な視線が向けられることは絶対と言っていいほどない。ことさらに批判的でないとしても、その恵まれた「上級国民」としてのありようが、そのまま淡々と報じられることさえ全くない。それどころか逆にそれを覆い隠し、あたかも「国民と同じ」であるかのような印象操作のために躍起になるのが主流メディアの天皇報道だ。

アホらしい!!

一方、この間、そうした大手主流メディアでさえ無視することができないほどに天皇制が、眞子の結婚スキャンダルなどを契機に、統合力に陰りを見せてきているのも間違いない。

極右月刊誌『WiLL』7月号は『国民の心が天皇家から離れだした』とタイトルに掲げた〝論考〟を載せた。

書いたのは櫻井秀勲。長年、『女性自身』で編集長を務めたという。

タイトルだけからでも、天皇制護持勢力が抱いている危機感が感じられる。

コロナ禍が統合力の陰りに追い打ちをかけ、眞子のスキャンダルではネットでも評判は散々なようだ。

そんな中、5月23日の『読売』は、「言論」面での1ページ特集「あすへの考」で「天皇制」を取り上げた。

メインタイトルに「皇室の将来像 議論怠るな」と掲げた記事は、「英国など立憲君主制の国々の事情に詳しい」という関東学院大学教授・君塚直隆のインタビューをまとめたものだ。

「これからの日本の象徴天皇制はいかにあるべきか──。(中略)皇族の活動に関する広報の不足など、改革すべきポイントは幾つもある。そう主張する気鋭の論客に、いま取り組むべき課題は何かを語ってもらった。」

そうリードに書く記事で君塚は、「宮内庁の広報活動は不十分」だと強調したうえで、「宮内庁とは別に皇室のホームページがあるべきだし、皇族がSNSで折々の活動について発信してもいいはず」と主張している。

君塚は、5月31日に開かれた皇位継承策を議論する政府の有識者会議に出席。女系天皇も容認すべきだと訴えた。君塚は以前、『産経新聞』を舞台に、西欧の王室の歴史を紹介する連載を続け、『産経』御用達の“知識人”としても名を売ってきた。だが、『産経』は、主流メディア中で唯一、男系維持に固執する新聞だ。『産経』も使い方に困るのではないか。一方、『読売』は、在京大手紙の中でももっとも早くから、女性天皇容認の路線を取ってきた。『読売』は今後も君塚を重宝していくのだろう。

「皇族がSNSで発信してもいい」。天皇、皇族はこれまで以上に、ヴァーチャル・リアリティの世界での活動を追求していくのだろうが、それがどれほど統合力の維持、向上に寄与するのか、未知数だ。“政治的”言動を封じられながらのネット活動で、どれほど“神の末裔”としてのアイデンティティを保てるのか、不安要素はあるだろう。ただ、少なくとも、SNS発信が、皇室メンバーのさらなる「自由」の獲得につながるであろうことは間違いない。

今、メディアは、ワクチン接種を煽動しながら、コロナに対する恐怖意識の希釈に力を入れ始めているように感じる。政府は、圧倒的な民衆の反発もどこ吹く風、東京五輪の開催を強行しようとしている。

いずれ近いうちに、「喉元過ぎれば」の社会的雰囲気がメディアによって醸成され、〝コロナ禍を克服した人類の英知〟が称え挙げられる中、今まで以上の政治的自由と権限、権威を手にした天皇、皇族が、これ見よがしにしゃしゃり出てくるのではないかと、私は危惧している。

*初出:「今月の天皇報道」『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信」no.201, 2021. 6

カテゴリー: メディア批評, 基礎情報 パーマリンク