SNSを活用した宣伝強化  政治的自由の拡大もくろむ

中嶋啓明

宮内庁が、SNSを活用した宣伝強化に乗り出した。写真共有アプリ「インスタグラム」にアカウントを開設、4月1日から投稿を始めた。何年も前から様々なメディアが、インターネットやSNSの活用を盛んに提言し続けていた。それがやっとその緒に就いた。現代天皇制の演出を仕掛ける“プロデューサー”は、この取り組みもまた例に漏れず、大々的に報道。PR活動のPRに余念がない。

宮内庁の発表を受けてメディア各社が「皇室情報 インスタ発信へ/宮内庁 来月から」(『産経新聞』3月26日朝刊)などと宣伝を始めると、4月に入って「宮内庁SNS「解禁」/写真・映像「拡散」に慎重な歴史/インスタ開始 2日で57万人フォロー」(『毎日新聞』4月4日朝刊)、「皇室広報 令和スタイル/インスタフォロワー75万突破/中傷対策 道半ば」(『読売新聞』同8日付夕刊)と、相次いで“検証”記事を載せ、“手ごたえ”を誇ってみせた。

『毎日』記事は、リードで曰く——、

「行政機関の多くがSNS(ネット交流サービス)での情報発信を進める中でも利用を見合わせてきたが、ようやく一歩を踏み出した。なぜ、これほどまでに慎重だったのか。」

ついでに『読売』も——、

「皇室情報の発信強化のため広報室が新設されて1年。ホームページ(HP)の刷新も進むが、SNSを通じた中傷への対策など『皇室を守る広報』の実現は道半ばだ。」

『読売』によると、初日に35万人だったフォロワー数は、「首相官邸の約29万人を上回り」、8日現在で75万人と「スウェーデン王室の63万人を超え」、「宮内庁幹部」は「国民の関心の高さがうかがえる」と自賛、「頬を緩ませ」ているらしい。

4月20日付の『女性セブン』によると、4日、皇居では新任外国大使の「信任状奉呈式」が行われたが、その際、東京駅から皇居に向かう並木道には、大使を乗せた馬車列を見ようと多くの人が集まったそうで、「インスタグラムの告知を見て知り、集まった人が多かった」と“皇室記者”に語らせている。

宮内庁がSNSの活用に踏み出した背景には、秋篠宮の長女眞子の結婚をめぐり、SNS上などで中傷が相次いだことにあるという。この間、メディアは一貫して宮内庁の“無策”ぶりをあげつらい、PR強化の必要性を声高に主張し続けてきた。

眞子の結婚相手側に金銭トラブルがあることが表面化したのは2017年12月。以降「雑誌やSNSでバッシングが相次」ぎ(『読売』)、宮内庁が広報室を新設したのは昨年4月。いくら尻を叩いてもなかなか言うことを聞かず、「慎重」な姿勢を示し続けていた宮内庁に、プロデューサーは業を煮やしていたのだ。7年越しの後押しの末「ようやく一歩を踏み出した」ことに、ひとまずほっと一安心といったところだろう。

しかし、まだまだ。プロデューサーとしては、こんなとことで満足しているわけにはいかない。英王室のインスタグラムのフォロワー数は1340万人らしい(『読売』)。これに対し宮内庁のそれは本稿執筆の22日現在、103万人。ケタが違う。

懸念もある。『女性セブン』のタイトルは「美智子さま 「SNS拒絶」の心眼/依存や誹謗中傷に抱かれるご懸念」。記事は、「SNSの功罪」を「認識されているはず」の美智子は「懸念が払拭されない以上、SNSは拒絶」するだろうと憶測。「さまざまな情報を勘案して慎重に判断されるのが、美智子さまの心眼なのです」と、ゴマを擦りスリしながら、「懸念」の現実化に責任逃れの予防線を張る。

日本のように、オベンチャラまみれのメディアに囲まれた情報の閉鎖空間を飛び出し、世界の目に晒されれば、今まで以上に批判、非難、誹謗、中傷に見舞われることは避けられない。「住まいの御所や宮邸で各界の尽力者をもてなしたり、研究に励んだりする様子が大きなニュースになることは少ない」(『毎日』)などと大嘘で塗り固め、「権威」保持に余念のない「マスコミ仕掛けの天皇制」の底の浅さは容易に見破られる。「権威」低下どころではない。「やがて象徴天皇制の揺らぎに結びつく」(『女性セブン』)ことが、最大の懸念だろう。

インスタグラムを運営する米IT大手のメタ(Meta、旧フェイスブック)もまた、いろいろといわくつきのようだ。米国では、「SNSの中毒性が、青少年の健康に害を与えるのを放置した」としてほとんどの州の司法長官から訴えられている。19日付の『産経』(!)はオピニオン欄に「やってはいけないフェイスブック」と掲げ、詐欺広告への対応を怠っていると糾弾する “コラムニスト” 乾正人の投稿を掲載。「ザッカーバーグ氏らMeta首脳陣は(略)日本人をなめている」と罵らせた。こんな騒動を最も嫌うらしい天皇制が、多様にあるSNSのうちから、なぜメタのインスタグラムを選んだのか。ネットやSNS事情に疎い私には分からない。

最近、ちょっと気になったことがある。『朝日新聞』の紙面で、天皇、皇族の動静を伝える短信のベタ記事を見ることが減ったように思う。SNS利用への参画など、PR戦略の変化、動向が関係しているのだろうか。

メディアは「皇室の方々の真摯(しんし)な姿を直接国民に伝えることで正しい理解を広げる」と「宮内庁幹部」に語らせる(『読売』)など、今回の取り組みの“意義”を強調する。だが、情報公開の後進国日本の中でも、ひときわ御簾の奥に隠されているのが、皇室だ。開示請求してもスミ塗りどころではない。意思決定過程などを記録する行政文書自体が作成されておらず、「不存在」と回答を受けることが常態なのだ。そんな現状を棚に上げて、「淡々とした地道な日々も知ってもらいたい」(『毎日』)など、おこがましいにもほどがある。

そもそもこうしたPR活動自体が、天皇らには憲法上、許されていない。天皇制は、今後も様々な面で英国など欧州王室を後追いし、さらなる政治活動の自由獲得に向けた画策を続けていくだろう。警戒を怠るわけにはいかない。

*初出:「今月の天皇報道」『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信』no.217,2024.05.21

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