反靖国~その過去・現在・未来~(21)

土方美雄

靖国神社の「過去」~戦後、その公的復権への動き~ その11

引き続き、当時の新聞記事からの抜粋によって、靖国神社への、首相等の公式参拝実現に向けた、様々な動きを、追っていきます。

▪️靖国参拝で政府見解「私人としての行動」(『朝日』1978/10/17)

安倍(晋太郎)官房長官は17日の参院内閣委員会で、福田首相が8月15日の終戦記念日に靖国神社を参拝し、「内閣総理大臣」の肩書きつき記帳をするなど公人としての参拝は憲法違反の疑いがあると問題になっていた靖国神社参拝問題について、「閣僚は地位の重みから公私の使い分けは困難であるとの主張があるが、神社、仏閣等への参拝は宗教心の現れとしてすぐれて私的な性格を有するものであり、私人としての行動と見るべきものと考える」との政府統一見解を明らかにした。

これは、参拝直後の8月17日の同委員会で野田哲氏(社会)が三木内閣当時私人としての判断基準として「記帳には公職の肩書きをつけないなどをあげており、これらの基準を逸脱するものだ」として政府の統一見解を求めていた。

安倍長官が17日示した新しい統一見解では、①特に政府の行事として参拝を実施することが決定された場合②玉ぐし料等の経費を公費で支出する、の二点を公人の判断基準としてあげ、「これらの需要がない限りは私人の立場での行動と見るべきものと考える」とこれまでの見解を拡大する新たな判断基準を明らかにした。

▪️大平首相、伊勢の神宮に初詣(『神社新報』1979/01/15)

大平内閣総理大臣は正月4日、渡辺農相、三原総理府総務長官、上村環境庁長官らとともに伊勢入り、内外宮に正式参拝した。大平首相が無教会派のクリスチャンであることから、「参拝すべきでない」と主張する一部プロテスタントの動きなどもあって旧年末いらい注目されてゐたものだが、大平首相はモーニング姿で両正殿の御垣内に参入、柏手をうったあと深々と拝礼、新装なった内宮の神楽殿では神楽を奉納した。

そのあとの神宮司庁での恒例の記者会見で、まず参拝の感想を求められた首相は、

「日本には仕事を始める場合、神社仏閣にお参りし、おはらひをしてもらって敬虔な気持ちになる敢行がある。厳密な宗教的教義を離れた国民的慣行で、宗教的な対立抗争が穏やかなわが国で普及してゐる慣行だ。私も日本人の一人として、素直な気持ちでそれに従って参拝した」と、新春恒例の首相の神宮参拝の意義を声明してゐた。

▪️大平首相が靖国参拝(『朝日』1979/04/21)

大平首相は21日午前、春季例大祭が行われている東京・九段の靖国神社に参拝した。首相就任後、靖国神社に参拝するのは初めて。

例大祭中に現職首相が参拝することは恒例化しており、今回も「私人」としての参拝である、と首相らは強調している。しかし、直前になって東条英機元首相等十四人の「A級戦犯」が合祀されていることが明るみに出たほか、首相がクリスチャンであることから、とくに注目され、キリスト教関係団体や、社会党など野党は「憲法に定められた政教分離の原則に違反し、靖国神社の国家護持の道を開く」と強く中止を求めていた。

首相参拝はこうした反対の声を押し切って行われたが、今回も、「私人」としての参拝としながらも、「警備上の理由」で公用車を使用、記帳も「内閣総理大臣」の肩書きで行われた。

この朝首相は、私邸を出る際「神社で何を祈るのか」との記者団の質問に「諸君にいわなきゃならんのか。心の中のことまで」と不きげんな表情を見せた。

▪️国会議員大挙して靖国参拝(『東京』1981/04/22)

閣僚を含む自民の200人/国家護持への布石か
自民党衆参両院議員を中心に組織する「みんなで靖国神社を参拝する国会議員の会」(竹下登会長)のメンバー約200人が22日午前、靖国神社を集団参拝した。靖国神社の春季例大祭に合わせたもので、国会議員の集団参拝は、これが初めて。鈴木首相は、一足早く21日「私人」として靖国神社を参拝しているが、社会党などの野党側は、一連の動きに靖国神社国家護持への布石とみて警戒を強めている。

「国会議員の会」は、参院議員の村上正邦、戸塚進也、板垣正各氏が発起人となり3月18日、結成された。自民党国会議員の約7割に当たる309人(衆院百92人、参院117人)と、野党からは新自由クラブの山口敏夫幹事長の計310人が参加。

閣僚などによる靖国神社公式参拝への環境づくりがねらいで、春秋の例大祭と8月15日の終戦記念日に集団参拝するほか、8月15日の「戦没者慰霊の日」制定を目指す活動方針を打ち出している。

午前10時前、バスと乗用車に分乗して靖国神社に到着した一行は、記帳をすませたあと同10時すぎに始まった春季例大祭式典に参列。玉ぐしをささげて参拝した。集団参拝には、一般国会議員とともに伊東外相、中曽根行管庁長官、河本経企庁長官、斉藤建設相、田中文相、藤尾労相、中川科技庁長官らの閣僚も顔を見せた。

以下、次号。

*引用文の漢数字は本文横書きのため読みやすさを考慮し英数字に変換しました。

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