向こうの“焦り”に捉われず、さらに「天皇はいらない」の声を  ——早くも頓挫した与野党全体会議

中嶋啓明

皇族数の確保策をめぐり、衆参両院の与野党各党各派の代表者による全体会議が5月17日から再開されたが、協議は開始早々に方針転換を迫られた。

当初、協議をリードする衆院議長の額賀福志郎は、週1回のペースで会合を開き、6月23日に会期末を迎える今通常国会中に各党の意見を集約して「立法府としての総意」を取りまとめる意向を示していた。

だが、翌週の23日に開かれた会合では、早くも週1回開催の方針撤回に追い込まれた。与野党の代表が一堂に会して議論し集約するという当初の方針を放棄し、議長が個別に各党から見解を聞き取ることにしたというのだ。

2017年6月、前天皇明仁の退位を正当化するための特例法が成立した際、国会は付帯決議で、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」や「女性宮家の創設」等について、早期に検討し報告するよう政府に求めた。それを受けて政府が設置した有識者会議は21年12月、皇位継承策を先送りした上で、皇族数確保を「喫緊の課題」と強調し、①女性皇族は婚姻後も皇族の身分を保持する②養子縁組による旧皇族の男系男子の皇族復帰を認める—の2つの案を主な柱として検討するよう求める報告書を出した。

与野党の全体会議は、この報告書をベースに22年1月、当時の衆院議長細田博之が、各党各派の代表者に議論を要請したのが始まりだ。

長年、付帯決議の要請は棚ざらしにされ、その後も遅々として進まなかった議論が一転、急激に歩みを早めるかに思われた矢先の方針転換だった。

この間、メディアは、天皇制をめぐる社会的な関心をさらに調達しようと、様々なキャンペーンを強めている。『毎日新聞』は総合面に日替わりの連載企画欄を設け、健康や投資などと並んで、皇室モノの特集記事が必ず掲載されるようになった。『週刊現在』は、「皇室内緒和」とロゴに掲げたPR記事を毎週、載せている。佳子に焦点を当てた連載が始まるなど、女性週刊誌を中心に女性皇族の結婚相手探しは相変わらず喧しい。

そんな中での、議論頓挫だった。

『朝日新聞』は5月27日、夕刊1面のコラム「素粒子」で唐突に皇位継承問題を取り上げた。書き出しはこう——、

「さぼり続けた末に出してきたのは世論とかけ離れた案。いえ皇位継承の話。男系男子の呪縛。」
「さぼり続け」ていたのは自民党。中でも男系主義者たちが、皇位継承論議を遅らせている戦犯だと糾弾する。

「素粒子」子は女系・女性天皇容認論者なのだろう。遅々として進まなかった皇位継承論議を、よほど腹に据えかねる思いで見ていたようだ。

有識者会議が「皇位継承策」を先送りした際、女性・女系天皇を容認する側から批判が相次いだ。先送りの背景に男系主義者への配慮があると。

例えば『東京新聞』21年12月27日社説「皇位継承策/論点『先送り』するとは」は、こう書いていた。

「この最終報告だと世論の多くが理解を示す女性天皇・女系天皇論を事実上封じ得る。男系男子主義の保守層に配慮した内容としか思えない」。

一方、男系派の牙城『産経新聞』は21年12月23日の社説「主張」で「皇統を守る法整備へ進め」とタイトルに掲げ、報告書を高く評価。「(有識者会議報告書は)物足りなさは残るが、喫緊の課題としてまとめた皇族数確保策が、安定的な男系継承に資する点が重要だ」と、「女性宮家」の検討を先送りさせたことに安堵し、退位特例法の付帯決議の地平から、失地回復どころか、それ以上の成果を得たと喜んでいた。

この間の男系派の巻き返しはすさまじい。

『産経』は2回の与野党全体会議を経た5月27日、「結論の先送りは許されぬ」と「主張」に掲げ、「さまざまな条件を付け、結論が先延ばしになっても構わない姿勢」の立憲民主党にイラつきながらも「合意形成に協力」しろと強気に迫っている。

少なくない男系派を抱える立民の底を見透かし、秋波を送るのだ。

今後の展開を占うに当たり、鍵を握るのは元首相の野田佳彦だとの見方を、毎日新聞論説委員の野口武則が示している(『週刊エコノミスト』5月21日号)。

野田佳彦は、『文藝春秋』4月号に寄せた「悠仁さまと愛子さまに新しい選択肢を/皇室問題で国論が二分しないために」との論稿で、有識者会議報告書に対する立憲民主党の見解として論点整理をまとめる際、否定的だった①案をあえて検討課題として残し、賛否を明らかにしなかった経緯を明らかにしている。

野口武則はこれを紹介。格闘技好きである野田佳彦が、『文藝春秋』で退位特例法時の与野党の“攻防”をプロレスに例えて説明していることに触れ、「プロレスのだいご味は技の応酬である。野田氏は自民が繰り出す『男系男子復帰』を受け止める一方、自民に何を突きつけるのか。(略)意見に隔たりがあっても、お互いが妥協し、合意形成する努力と技術が政治家には求められる」と主張している。野口佳彦が期待しながら匂わせるのは、女性・女系天皇容認論の進展だ。

野田は5月23日に行われた2回目の与野党協議の場で、配偶者と子を皇族にしないとする主張を厳しく批判したようだ。だが、これもプロレスまがいの“八百長”的政治なのか。

男系派の巻き返しに対し、女性・女系派も、主要メディアがしきりに醸成しようと躍起になる愛子天皇待望気運の高まりを力に、さらなる攻勢に撃って出る構えだ。

自民党の裏金問題などで、政局の動きは予断を許さない状況が続いている。皇位継承、皇族確保の議論も、影響を受けざるを得ないだろう。

皇位継承者払底の状況は変わらず、結婚による女性皇族の皇室離れも、いよいよ目前に迫っている。

向こう側の“焦り”に捉われることなく、今後も「天皇(制)はいらない」の声を強めていきたい。

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