自衛隊靖国参拝の深淵

辻子実

【マスコミ報道】
2024年1月9日の<自衛隊員の靖国集団参拝問題>に関して、私が知る限り、『しんぶん赤旗』が10日付で報じた「陸自幹部ら靖国参拝・官用車使い 憲法の政教分離に抵触か」が最初だと思います(マスコミの報道日付はデジタル版によります)。

その後、各マスコミが追っかけて報道することになります。

「社説」でも、『朝日新聞』(1月13日)、『毎日新聞』(1月13日)、『琉球新報』(1月13日)、『しんぶん赤旗』(1月14日)、『高知新聞』(1月16日)、『産経新聞』(1月16日)、『新潟日報』(1月17日)、『京都新聞』(1月17日)、『信濃毎日新聞』(1月19日)、『北海道新聞』(1月21日)、『河北新報』(1月24日)、佐賀(共同・1月29日)、朝日(1月30日)、社会新報(2月1日)そして、『世界日報』(1月17日)までもが取り上げていますが、なぜか、読売はとりあげていません。

その中で『毎日新聞』は12日に「スーツ姿、敬礼、公用車… 記者が見た陸自幹部らの靖国参拝」との記事をアップして当日の動きを詳細に報じていますので一部紹介したいと思います。

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靖国神社の境内にはこの日の午後3時過ぎ、幹部の到着に備える男性たちの姿があった。集合場所の到着殿の近くにある休憩室ではコートを着用した3~4人がベンチに座り、境内の地図などが記載された資料に目を通していた。参道に立つ男性たちは「誰の担当で来た?」「○○課長です。そっちは?」などと言葉を交わしていた。

同じころ、靖国神社から約1.5キロ離れた新宿・市ケ谷の防衛省。男性たちが中枢庁舎A棟から同神社に徒歩で向かった。うち1人は手に持った紙袋から破魔矢がはみ出していた。3時20分過ぎ、車寄せでは副委員長の上野和士・装備計画部長(陸将補)が黒い乗用車に、委員長の小林弘樹・陸上幕僚副長(陸将)がシルバーのワゴン車に乗り込んだのが確認できた。いずれも公用車だった。

靖国神社に幹部たちが到着し始めた。南門の前に立つマスクを着用した案内・誘導係の男性が静かに会釈した。境内には他にも要員が配置され、幹部たちの姿に気付くとさっと敬礼し、到着殿の入り口まで誘導した。

3時半過ぎ、上野氏、副委員長の田中仁朗・監察官(陸将補)が、付き添いの男性とともに南門をくぐった。さらにシルバーのワゴン車から、小林氏が降りてきた。案内係の男性は小林氏に深く頭を下げているように見えた。

『毎日新聞』(1月12日)

幹部たちは、拝殿の前に建つ鳥居(中門鳥居)に向かって一礼した後、到着殿に入った。新春のにぎわいを見せる境内。自衛官の制服でなく、スーツ姿でまばらに歩く幹部たちに気を留める参拝客はいなかった。

関係者によると、参拝の流れをまとめた実施計画では、小林氏が到着殿の控室で「航空事故調査委員会 委員長」の肩書で記帳し、本殿で代表して玉串を奉納した後、全員で神道式の作法で拝礼するとされていたが、内部の様子は分からなかった。

幹部たちが到着殿に入ると、案内・誘導に当たった男性6人が休憩室付近で談笑しながら待機。上野氏と田中氏が帰りに乗車するタクシー2台が到着すると、運転手を案内してUターンさせ、すぐに乗り込めるよう準備した。

午後4時過ぎ、小林氏を先頭に幹部たちが到着殿から出てきた。案内・誘導役の男性たちは横一列に並んで、歩いて公用車に向かう小林氏や上野氏らのタクシーを見送った。

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添付の図は記者が作成したものでしょう、一目瞭然の親切な図です。

ここまで詳細に当日の集団参拝行動を追っていながら、アップされたのが12日です。デスクが、10日の段階ではニュース性がないと判断したのかもしれません。

しかしマスコミの姿勢を批判することが私の意図ではありません。私がもし当日、現場にいたとしても、飽きもせず時間休私的(集団)参拝方式か。で終わっていたと思います。マスコミ、特に毎日の継続した取材力には、敬意を表したいと思います。

私たちが、自衛官の靖国・護国神社参拝問題をどこまで、追及し続けてきたのかが問われていると思います。それにしても、『毎日新聞』が「前年も同様の実施計画 先例踏襲か」(1月20日)と、報じていますので、今回の現場取材の詳細度を読むと、誰かがマスコミに良心的リークをしていたのかもしれません。

【処分の甘さ】
防衛省は1月26日、行政文書を作成し、公用車を使い、22人もの自衛隊員が集団で参拝したにも関わらず、参拝は強制ではなく個人の自由意思に基づく私的参拝と判断し、小林弘樹・陸上幕僚副長(陸将)ら3人が参拝に公用車を使用したことについては、不適切だったとして訓戒。監督が不十分だったとして陸自トップの森下泰臣・陸上幕僚長ら6人を注意や口頭注意という軽度の処分で幕引きをはかっています。

【靖国神社と自衛隊】
靖国神社社報『靖國』2023年8月号では、元陸上幕僚長の火箱が、靖国神社崇敬者総代に就任したことを報じています。

彼は、日本会議の機関紙『日本の息吹』2023年8月号の「今月の言葉」に「国家の慰霊追悼施設としての靖国神社の復活を願う」という一文を寄稿し、「自衛官の戦死に備えて靖国神社を国家の『慰霊顕彰施設』」として「復活」させ…自衛隊は国内法的には軍隊ではなく、「旧軍人と自衛官では国家の処遇、国民の意識が格段に違う」などとして、「近い将来国を守るため戦死する自衛官が生起する可能性は否定できない。我が国は一命を捧げる覚悟のある自衛官たちの処遇にどう応えるつもりなのか」と問いつつ、「筆者ならば靖国神社に祀ってほしい」として、「国家の慰霊顕彰施設」としての靖国神社を復活させ、「一命を捧げた」自衛官を「祀れるようにする制度の構築が急がれる」と主張している人物です。

自衛隊と靖国神社の関係に関して、社報『靖國』2023年11月には、元陸上幕僚長・岩田清文による「自衛官は靖國に祀られるのか」と題する論文も掲載しています。今まで、靖国神社は天皇の軍隊である「皇軍」の戦没者しか合祀しない建前を堅持していましたが、このような論文を社報に掲載したという事は、いつでも自衛官合祀に舵を切る姿勢の表明ではないかと思います。

田母神俊雄は、12日にtwitterで、「陸幕副長ら数十人が集団で靖国参拝したことが悪い事をしたかのように報道されている。宗教施設の部隊参拝を禁じた事務次官通達に違反する可能性があるだとか。防衛省で誰がそんなことを言っているのか。靖国神社が宗教施設か。バカなことを言うな。英霊を祀る靖国神社に自衛官がお参りできないというだけで自衛隊は精神的に瓦解する。反日はそれを狙っている。内局も自らの存在意義のために反日に手を貸すのか」と、つぶやいています。

今回の自衛官部隊参拝の「実施計画」では、参拝の目的として「陸上自衛隊航空事故調査委員会として、航空事故・不安全事項等の絶無に向けた意識を高揚させる」と記されているとのことですが、靖国神社の本質は、天皇の命令による戦争行為を無条件に賛美する事であり、後に続くものを鼓舞することに、その存在価値があるのであって、安全祈願するところではないです。

『産経新聞』は12日に産経らしく「陸自幹部らの靖国参拝巡り「時代遅れの通達こそ見直すべき 自民・山田宏氏」というインタビュー記事を掲載し、半世紀前の1974年に出された通達の見直しを訴える。国のために尊い命をささげられた英霊を、自衛官が参拝するのは当たり前だ。50年前の時代遅れの通達を見直さず、放っておいたことが問題だ。もちろん参拝の強制はあってはならない。ただ、隊員が自由意思に基づいて皆で参拝することは、現通達からも問題ないと考える。世界の常識だ。と言わせています。

右派弁護士を代表する西の徳永信一弁護士、かたや東の髙池勝彦弁護士は「次官通達に違反したといわれます。そもそも政教分離の憲法解釈は間違いだと思います。加えて最高裁でも取り上げる目的効果基準によれば、英霊を祀る施設に自衛官が行くことは何ら問題とはならないはずです」と言っていますが、集団部隊参拝、公用車使用、参拝の流れや注意事項をまとめた実施計画が行政文書として作成されている経緯をみれば、目的効果基準をまったく理解しない暴論を展開しています。

30日には、木原稔防衛相が部隊参拝禁じた通達を「必要に応じて改正すべき」と、産経と同じ論調で改悪に言及しています。

【防衛大学生による「東京行進」】
防衛大学生による「東京行進」と呼ばれるものが、1961年から毎年11月最後か12月頭の土日かけて行われています。

『靖國』798号(2022年1月)より

神奈川県横須賀市の校舎から私服で出発し、靖国神社まで68kmを歩いて行進。先ずは千鳥ヶ淵戦没者墓苑に行って、靖国神社駐車場に待機しているバス内で制服に着替え、隊列を整えて参拝するようです。

2022年1月の『靖国』798号にも、「夜間行軍」として紹介記事が掲載されています。

帰途は、バスにて帰校するのが一応のスタイルらしいのですが、有志だから政教分離に抵触しないとの主張のようですが、有志だからと、集団制服参拝問題をスルーして良いのでしょうか。

北海道護国神社(旭川平和委員会)

【自衛隊師団)が護国神社の問題】
師団がある北海道護国神社では、このような光景見られます。

『東京新聞』は、1月20日付で「自衛隊員が集団で神社参拝、宮古島でも『通達違反』の疑い 20人が公用車のマイクロバスなど使用」と報じています。地方における自衛隊集団参拝の問題が表面化されました。

他の護国神社でも、同様なことが行われている可能性があります。
時間給を取っていれば、制服での集団昇殿参拝が無条件で許されるのでしょうか。あってはならいことです。

【なぜ、自衛隊は靖国合祀に拘るのか】
私は、『反天ジャーナル』【2023年12月5日】栗原俊雄『勲章 知られざる素顔 』の中で、「金鵄勲章が復古されなくても、靖国神社合祀という『実につまらぬようなものですけれども、言うに言われない効用がある。第一に金がかからない』(武者小路公共)効果を恐れます」と書きましたが、まさに田母神は靖国神社の存在は「自衛隊は精神的に瓦解する」か、否かに関わる問題であると指摘しているのです。

天皇に戦争責任が及ぶ大元帥陛下の「開戦の詔書」が、今後、出されることはないでしょう。

自衛官の靖国合祀が実現した暁には、「勅使の参向」をもって、天皇が認められた。故に「聖戦」である論が起きるのではないでしょうか。そして何より、靖国合祀の歴史が私たちに教えてくれているのは、「英霊」が出たとされた戦場は、南京大虐殺の例を挙げるまでも無く、どんなに国際法に違反しようが全て聖戦であり、どんなに愚かな作戦が遂行され無駄な死者が積み上げられようが上官の責任論にならない、実に軍隊にとって理想的なシステムなのです。

【抗議声明】
2024年1月13日日本キリスト教会大会靖国神社問題特別委員会は、いち早く岸田内閣総理大臣と木原防衛大臣宛てに「靖国神社に集団で参拝した陸上自衛隊幹部の罷免および自衛官の処分を求めます」の抗議の意思を明らかにしています。18日には、日本バプテスト連盟 靖国神社問題特別委員会が「陸上自衛隊による集団参拝に抗議し、再発の防止を求めます」声明を、25日には靖国神社国営化阻止キリスト者グループ委員会が「陸上幕僚副長外陸上自衛隊幹部隊員等が、集団で靖国神社に参拝したことに対する抗議声明」、27日には真宗遺族会が「陸上自衛隊の幹部らが集団で靖国参拝したことに対し、私たち戦没者遺族は、防衛省、陸上自衛隊に対し、満腔の怒りをもって抗議」、「紀元節」と「天皇誕生日奉祝」に反対する2.11&2.22 連続行動も「自衛隊幹部の靖国神社参拝に抗議する」、29日には政教分離の侵害を監視する全国会議違が「憲である自衛隊の靖国神社集団参拝を直ちに取りやめてください」と表明しています。

【私たちは闘ってきたか】
私は、靖国神社の春秋例大祭で、制服自衛官の姿を垣間に見たことがありますが、「またかよ」とは思っていたのですが、抗議行動を起こすまでには至りませんでした。

今回の集団参拝は、到着殿という来賓玄関が使われていることからも自衛隊から靖国神社に申し出て、公務時間を使って詳細な詰めを事前に靖国神社と行ったのでしょう。そうでなければ分単位の「実施計画」ができるわけがありません。

石原都知事の8.15靖国参拝違憲訴訟を起こした時、石原は公用車を使っていましたが、都庁から文京区の東京都戦没者追悼式に参列した後、都庁に帰る途中に靖国神社に参拝するとい姑息な手段をとっていましたが、今回は、明確に靖国神社参拝のみを目的に運用されたわけですから政教分離違反は免れないでしょう。

今回の事をきっかけに右派陣営の中からは、憲法改正、政教分離弾力運用の声が挙がり始めています。自衛官として、時間休私的(集団)参拝であれば問題ないとの認識を持たせてしまった私たちの中にもある「慣れ」を、今回の事をきっかけに、特に地方における自衛隊と護国神社の闇などを含め各地から抗議声明など、あらゆる機会、方法を使って靖国と自衛隊の関係を暴き、楔を打ち込む必要があると思います。

2024年1月31日

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