英王室像を追い求めて——皇室情報の発信強化

中嶋啓明

だいぶ古い話から書き起こしたい。

秋篠宮が昨年11月、誕生日を前にした“記者会見”モドキで語った「皇室の情報発信」をめぐる見解だ。秋篠宮はまず、次のように話した。

「皇室の情報発信も、正確な情報をタイムリーに出していくということが必要である。/宮内庁がSNSなどを使って広報の強化をするという報道もあったけれども、SNSである情報を知って、更に詳しく知りたい人は、WEBサイトの方を見る。そういう構図を宮内庁も考えているのではないか。/(バッシング報道に反論するための基準作りの必要性について)宮内庁の関係者と話をした。実際にある記事をサンプルに、どれくらい事実と異なることが書かれているかというのを自分でやってみたが、かなりの労力を費やさないといけないことがよく分かった。基準を作ってそれに対して意見を言うということは、なかなか難しい。引き続き検討していく課題だ」(()内は筆者補足)。

さらに秋篠宮は、「宮内庁が間接的に天皇・皇族の考えを説明するのか、天皇・皇族が直接的に発信するのか」との記者側からの関連質問を受けて「やはり間接的でない方がストレートに伝わる」と答えたうえで、「宮内庁のホームページ、イコール皇室のホームページなのか、宮内庁という一つの役所が皇室のことを発信しているのか、その辺りの位置付けも今後、検討していく必要がある」と主張。皇族が自らアカウントを持ってSNSで発信する可能性について「おそらく私はやらない」と断りながらも「もちろんあり得る」と述べた。

こうしたやり取りから分かるのは、秋篠宮をはじめ皇室の人間たちは、何かと宮内庁関係者ら事務方のケツを引っ叩いては、皇室情報の統制を図ろうと四苦八苦しているのだろうということだ。

この間の眞子スキャンダルから秋篠宮発言に至る一連の事態を受けて、宮内庁は皇室情報の発信力強化に向け、具体的に動き出した。

柱は、2023年度予算案に盛り込んだ広報室の新設。やはり、そうか。眞子の結婚スキャンダルは、このために仕掛けられていたんだ、などという“陰謀論”はさておき、天皇制維持勢力にとって今回の策は、統合力に大きな翳りをもたらしている現状からの“反転攻勢”に向けた窮余の一手なのだろう。

年末から年明けにかけてメディアは“右”も“左”も一様に、大きな紙面、時間を割いて宮内庁のこの一手を伝え、論評した。

例えば『東京新聞』。12月26日付の朝刊に『皇室の正確な情報 積極広報手探り/眞子さんの結婚巡る「誹謗中傷」契機に/SNSなど検討、「炎上」懸念の声も』と掲げた記事は、成城大教授・森暢平に「『正しい』情報を発しても、受け取る方が『正しく』受け取るとは限らない」と語らせるなどして「狙い通りの効果を得られるかは未知数だ」と伝えている。

あるいは『産経新聞』。1月7日に「皇室の情報 発信強化/反論より伝わりやすさ重視」と題した記事では、「宮内庁は逐一反論するよりも、皇室のご活動を知ってもらうことで誤解や憶測によるバッシング抑止につなげようと、発信強化に着手する考えだ」と、宮内庁の意図を解説。脇につけた伊藤弘一郎署名のサイド記事は『国民との「相互理解」一助に/宮内庁大きな転換』との見出しで『「正確な情報」を限定的に、会見やホームページで公表することで良しとしてきた宮内庁の情報発信は、大きな転換を迎えることになる』と評し、「皇室と国民の紐帯(ちゅうたい)は相互の理解や信頼、敬愛で成り立つ。(略)情報発信がその結びつきを再考する一助となることを期待したい」と、今まで以上に積極的でなりふり構わぬ皇室・宮内庁のPR戦略を後押しした。

『朝日新聞』が多田晃子の署名で報じたのは、1月1日元旦(!)の紙面。一面(!!)で『皇室 ネット発信強化へ/活動内容手厚く「中傷」減らす狙い』と打ち、しかも国際面にまでサイド記事を展開した(!!!)。サイド記事の「英王室 SNS先駆け/公務・家族 インスタやユーチューブで」は、王室や王族自身がSNSで積極的に発信する欧州や中東などの王室の活動を紹介。「理解や親しみ喚起 リスクも」と掲げて名古屋大准教授の河西秀哉に「情報発信の中身と頻度によっては、過度な情報操作につながり、自由な報道や発言の抑制につながる恐れもある。発信する側が気をつけるのはもちろん、受け取る側も互いに成熟していかなければならない」と説教させている。なんと傲慢な!

インターネット、SNSの時代だ。スキャンダルをも厭わない自由な活動を追い求める以上、日本の皇室が、広報戦略でもイギリスをはじめとした欧州など海外の王室のやり方を猿真似し、後追いせざるを得なくなるのは当然の成り行きだろう。

それにしてもショボい。鳴り物入りで代替わりを果たした徳仁・雅子天皇制の売りの一つがSNSの活用とは。もう一つの売りとして視野に入れているであろう女性天皇制の実現も、男系主義者たちのガンバリのおかげ(笑)で、まだまだ先行きの見通しは明るくない。

天皇制が理想像の一つとしている英王室は今、前女王エリザベスからの代替わりを経ても相変わらず、中心メンバーによるスキャンダルに揺れている。現国王の次男で王位継承者の一人ヘンリーは、アフガニスタンでの軍務中に自分が行ったタリバン兵士らの殺害を自伝の中で自慢げに暴露し、物議をかもしているという(共同通信1月7日配信)

折しも岸田政権は、一層の軍事力強化のため、大幅に増税する方針を打ち出した。

イギリス型王制への転換を追い求めながらも追いつききれない日本の天皇制は今後、軍事や戦争との“距離”を、SNSなども活用しながら、どのように仮装、偽装、隠蔽していくのか、注意深く見ていかなければと思う。

*初出:「今月の天皇報道」『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信』no.212,2023.02

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