〈統一教会〉と自民党・民間右翼の歴史的関係 −−『毎日新聞』の文鮮明発言録調査集計記事(1/31)を手がかりに

天野恵一

1月31日の『毎日新聞』は「旧統一教会教祖発言録」調査の「独自集計」記事が1面と3面の大特集。タイトルは「中曽根も工作表劇」、「日本首相1330回言及、最多639回」である。

「世界平和統一家庭連合う(旧統一教会)の創始者、文鮮明(ムンソンミョン)氏が信者に説教した約53年分の内容を韓国語で収めた発言録全615巻で、日本の歴代首相への言及が計133回あり、このうち最も多かったのは中曽根康弘氏で、次に多かったのは岸信介だった。毎日新聞が全巻約20万ページに及ぶ文書を調べ、独自に集計した」。

「……文氏が1989年に行った説教で、安倍晋太郎元外相を会長(当時)とする『安倍派』(清和会)を中心に国会議員との関係強化を図るよう語っていたことが、発言録の翻訳で既に判明している。そして今回の集計で、文氏が日本政界に近づく足掛かりにした安倍氏の祖父・岸氏や父・晋太郎のほかに、中曽根氏を政界工作の重要なターゲットにしていた姿が浮き彫りになった」。

この「文鮮明先生マルスム(御言・みことば)選集」(日本の天皇におきかえれば「お言葉・オコトバ」集でありかつての「勅語」集である)のなかの対象とした政治家は「1945年当時に首相だった吉田茂氏から現職の岸田文雄までの歴代首相31人に加え、首相経験がないものの特に教団との深い関係が指摘される晋太郎氏も含めた計32人とした。/集計の結果、中曽根氏への言及は693回で突出して多く、2位岸氏の188回を大きく上回った。3位は首相就任を果たせなかった晋太郎氏の180回。4位は清和会を創設した福田赳夫氏の139回で、上位に入った3人の首相経験者と晋太郎氏の多さが際立った。/5位から8位までは、文氏の生前にそれぞれ政界に影響力を保った小泉純一郎氏(84回)、田中角栄氏(40回)、佐藤英作氏(40回)、竹下登氏(35回)が続いた。当時、短期の1次政権(2006年9月〜07年9月)だった安倍氏は34回の9位だった。一方で岸田氏や旧民主党政権え首相を務めた鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田佳彦氏らは検索に引っかからなかった」。

すでに主に鈴木エイトや有田芳生といった、闘うジャーナリストの手によって、詳細に明らかにされてきている「自民党と統一教会」の闇の深い深い関係が、あらためて、文鮮明「お言葉」集の統計的データ分析によって、キチンと示されたわけである。

この文発言録については、すでに『週刊現代』での分析があった。「『昭和天皇をこの手で暗殺する』『対馬は韓国の領土』。統一教会文鮮明『日本憎悪』の凄まじい未公開語録」である。こちらの方は、文の日本・天皇憎悪の「凄まじ」さにスポットをあてた記事であった。その記事は、以下のように結ばれていた。

「『御言選集』で記録されているような思想を根底に持った人物が創設した宗教団体が、自民党と深い関係を築き、政治に食い込んでいたことを、日本国民は改めて認識する必要があるだろう」。

単に自民党だけではない。自民党の「草の根」大衆運動を支えてきたのは、神道(天皇絶対)主義右翼、「日本会議」グループであることは公然たる事実である。そしてこの「改憲」を軸とする右翼運動の一角を、〈統一教会〉が支え続けてきたのも明白な事実である。こうした共闘は何故、どのように可能であったのか? この点も歴史的に検証されなければなるまい。

『毎日新聞』(1月31日)の記事は、政治学者御厨貴の長いコメントで、締められている。呆れたその結びは、こうである。

「上位に並んだのは、岸信介さんら清和会(現安倍派)に連なる人です。憲法改正に賛成し、戦後のマッカーサー(連合国最高司令官)が主導した改革を否定して『日本を取り戻す』と考えた政治家たちが、旧統一教会の支援を受けていました。/大平正芳さんや宮澤喜一さんら宏池会(現岸田派)出身の首相は下位の方です。旧統一教会との深い関係は自民党全体に及んでいなかったとも言えます』

自民党と統一教会の関係をキチンと調べることを拒否し続けている岸田首相は、選挙をめぐる深い関係が明白になっている殺された安倍元首相との関係も、「死んでいるから不可能」と平然と、ふざけた対応をしてみせた。

この「みくりや」発言も、記事が浮き彫りにした事実を見えにくくするための、権力の御用知識人らしい、トボけた政治操作のことばである。

歴代の自民党政権の首相(それは自民党の党首〈トップリーダー〉だろう)が、これだけゾロゾロ出てくれば、党(政策)全体と深々と関係していたと考えるしかないではないか(深い関係は「タカ派」中心であり、関係しなかった大物政治家も何人もいるだろう、というはなしであるにすぎまい)。

問われているのは自民党全体である。この政治権力を握り続けた政権党の戦後史のトータルな批判的検証が不可欠であるという事実だ。

そして問われているのは自民党全体の政治責任である。この記事(データ分析)は、あらためて、この事実をこそ突きつけているのだ。こんなコメンテーターを使うな。「記事」が泣く。

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