「朝鮮高校」無償化排除との闘い

佐野通夫

2010年度から実施された高校授業料無償化措置(2014年から「高等学校等就学支援金制度」)は、第2次安倍政権成立直後の2013年に文部科学省令が改正され、2010年から適用への申請がなされていた朝鮮高校を除外した。「無償化」実施から今日まで13年以上にわたって朝鮮高校生には適用されていない。2019年10月1日実施の「幼保無償化」からも朝鮮幼稚園やブラジル人学校などの外国人幼稚園が排除された。また、コロナ対策の一環である「学生支援緊急給付金」の制度からも朝鮮大学校が排除された。「幼保無償化」については、様々な批判と要求から、2021年度、文科省が「地域における小学校就学前の子どもを対象とした多様な集団活動事業の利用支援」の制度を設けたが、市町村などが必要と認めなければ支給対象とならないことから同じ施設に通う子どもでも居住地により支援の対象にならないという不平等で問題の多い制度となっている。

このような日本政府の朝鮮学園に対する不当な差別は、ただちに是正されなければならない。そして、この問題の背景には過去の日本の植民地支配とその無反省を見なければならない。

大日本帝国憲法下で「臣民の三大義務」とされた教育であるが、大日本帝国憲法には、教育についての記載はない。教育に関する事項は、法律(国会)が関与しない天皇の勅令と官僚による命令によって支配された。さらに植民地は議会自体が存在し得ない大日本帝国憲法の適用外の地域であった。植民地朝鮮における教育制度は、勅令である「朝鮮教育令」の下、官僚組織である朝鮮総督府による命令によって形作られた。その目的は日本人と差をつけた短い教育年限で、日本語を話し、日本人の下で働く植民地人を養成するものであり、教育用語は日本語であった。

このため、植民地下在日朝鮮人の教育にも、
・低い就学率
・学校に行っても朝鮮人であることの否定(これは通名使用に見られるように現在に継続している)
という2つの特徴を見ることができる。

この「臣民の義務」という教育観は、日本国憲法によって「教育を受ける権利」に変わったはずであるが、日本国政府はこの「すべて国民は」を日本国籍を有する者だけの権利と解し、政府の定めた学校への就学のみが「教育を受けること」としている。

1945年8月解放を迎えた植民地末期には 200万人の在日朝鮮人がいた。このうち、すぐに帰国できない人々が65万人おり、朝鮮人は人間としての尊厳を取り戻すために、1945年10月から各地で国語講習所を開設した。1946年9月には、525校に4万4000人が学んでいた。しかし、1947年4月12日、文部省は学校教育局長通達を発し、在日朝鮮人は日本国籍を有しているとして、在日朝鮮人児童は日本の学校に就学する義務があるとした。日本国籍を有しているとされながら、参政権をはじめとする国籍に付随する諸権利については認められていない。また、5月2日、最後の勅令として出された「外国人登録令」においては、「台湾人……及び朝鮮人は、この勅令の適用については、当分の間、これを外国人とみなす」とされた。

さらに1948年1月24日、文部省は学校閉鎖を通達し、4月24日、「阪神教育闘争」が闘われ、4月26日には、金太一少年が射殺されている。1949年10月には、朝鮮学校閉鎖が命じられ「朝鮮人子弟の義務教育はこれを公立学校において行う」とされた。その3年後、1952年4月28日、サンフランシスコ講和条約発効の日からは「朝鮮人及び台湾人は、内地に在住している者を含めてすべて日本国籍を喪失する」として、朝鮮人の教育を「恩恵」とした。

1965年、日韓条約発効後は、2つの文部事務次官通達をもって、朝鮮人独自の教育を否定し、都道府県知事に朝鮮学校の各種学校認可をしないように求めた。しかし、1975年、すべての朝鮮学校が各種学校認可を得、90年代に入ってのスポーツ大会参加など、朝鮮学校は社会の認知を得る。

そこで、冒頭に述べた「高校無償化」からの朝鮮学校が始まり、続いて、東京都を含む地方自治体の補助金停止がなされる。2016年3月29日、文科大臣は「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について(通知)」を発出し、65年通達とは異なり、これに従って補助金停止をする自治体が続出した。

このような日本政府の朝鮮学園に対する不当な差別は、日本社会の中にヘイトスピーチ、ヘイトクライムを引き起こす要因となっている。

21年8月30日には在日朝鮮人が集住するウトロ地区に放火する事件が起こった(22年8月30日、懲役4年の実刑判決)。同人は21年7月には愛知県名古屋市内の民団施設と、隣接する学校にも火をつけている。

22年9月9日には、東京朝鮮高級学校に通う生徒が多く利用する赤羽駅埼京線ホームに「朝鮮人コロス会」という落書が同校3年生によって発見され、関係者が抗議に行く9月30日まで放置された。10月4日には、はるか超高度を飛んで日本の領空は通過していない朝鮮民主主義人民共和国のミサイル試射に対し、日本政府はJアラートを発し、テレビ各局は番組を変更して長時間の一斉報道を行なった。その結果、8日までの間に、6つの学校(東京中高、長野初中、四日市初中、神戸高、四国初中、九州中高)に対し、11件の暴行、脅迫事件(暴行1件、脅迫および暴言4件、抗議および迷惑電話6件)が発生した。例えば10月4日の朝には、神戸朝高へ「日本で法が整備されたらお前らの施設を破壊したる」という脅迫電話があり、10月4日18時45分ころには、埼京線車内で東京朝高中級部生徒が50代とみられる男性に「おまえ、朝鮮学校の生徒だろ」と声をかけられ、「答えろよ!」と生徒の足をふみつけながら、「日本にミサイルを飛ばすような国が高校無償化とか言ってんじゃねーよ」などと威嚇された。車内には当然多くの大人がいたが、誰も止めろと言って生徒を守る人はいなかった。

日本社会には朝鮮人社会に対する根強い差別意識がはびこり、日朝・日韓の関係に大きな影を落としてる。国内における差別撤廃と植民地支配から引き起こされてきた差別意識の払拭が求めらる。

 

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