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以下はAPCのウエッブサイトの記事の翻訳です。2025年9月にAPC加盟団体がマレーシア・クアラルンプールでハイブリッドイベント「デジタル権利アジア太平洋集会(DRAPAC)」を開催しました。この記事はこのDRPACに参加した団体への取材をもとにして執筆されました。残念ながらJCA-NETはDRAPACに参加できませんでした。日本では、アジア諸国の草の根のインターネットに関わる団体の活動状況についての情報がほとんど得られていません。JCA-NETが加盟しているAPC(進歩的コミュニケーション協会)には多くのアジアの団体が加盟しています。JCA-NETとしてもできるだけこうしたアジアのインターネットに関わる人権やコミュニケーションの権利運動の団体の動向を紹介していきたいと考えています。(としまる、JCA-NET理事)
アジア太平洋の声:希望が手の届かないところにあると感じる時、デジタルの権利を前進させるには何が必要か?
Débora Prado、Cho、Red Tani
2025年9月10日 | 2025年9月11日更新

アルゴリズムの外へ踏み出す APC at DRAPAC 2025 写真:レッド・タニ
アジア太平洋地域でデジタルの権利を推進するには何が必要か?権威主義的な政府や紛争が横行する状況下では、テクノロジーが事態を悪化させる中心的な役割を果たすことが多く、この地域でのデジタルの権利推進は大きな障害に直面している。それでも市民社会組織は活動を続ける理由を見出し続け、希望となる基盤さえ見出している。
2025年8月、APC加盟団体がマレーシア・クアラルンプールで開催したハイブリッドイベント「デジタル権利アジア太平洋集会(DRAPAC)」に、複数のAPC加盟団体が集結した。DRAPACはデジタル権利擁護者、人権活動家、ジャーナリスト、アーティスト、技術者、そして周縁化されたコミュニティの人々を結びつける場であり、まさにデジタルの権利の推進へのコミットメントによって結束している。
この地域集会を機に、私たちは加盟団体に「何が希望を与えるか」「どんな変化を望むか」「どう共に行動できるか」を尋ねた。インドネシア、インド、ミャンマー、フィリピン、台湾、韓国の10団体からの回答には一貫したメッセージがあった。集団行動の構築とつながりの維持が不可欠だという。社会的・ジェンダー的・環境的正義を損なうのではなく推進するテクノロジーを育む全ての人々に向け、彼らの洞察から得られた重要な示唆を以下に記す。
希望が見えにくい時
「地域的に見ると、正直言ってデジタルの権利状況はあまり良くないと思う」と語るのは、ミャンマーと東南アジアの人権活動家、ジャーナリスト、政治活動家を支援するExile Hubのユッカだ。「問題の一端は、人々が徐々に広がる権威主義にどれほど脆弱かにあると思う」と彼女は説明する。権威主義の台頭と、国家権力がデジタルツールを悪用する実態を指摘しつつ、人々とその権利を守る組織が、国家権力と同等の有効性を発揮する手段を持てればと願う。
それでもユッカは、自分たちの活動や支援対象者、例えばExile Hubが運営するレジデンシーに参加する人々の中に希望を見出している。「前回のレジデンシーでは、カレンニ州向けの分散型デジタルIDの解決策を考案した人や、無国籍者向けのIDソリューションを開発した人がいました」と彼女は語り、こう付け加えた。
「政府の参加に依存しない点こそが希望なのです。つまり、IDや身分証明は国家の認可なしに現実のものとなり得ます。政府に認められなくとも、人間として実在し得るのです」
困難な時代において、ユッカはネットワークが意識を広げる力も信じている。彼女は次のように説明する。
「人々が互いに語り合い、目の前の世界だけではない広い世界があることに気づくことが本当に重要だと思う。そして、より大きなコミュニティの一員として活動していると感じること自体が、世界や地域で何が起こっているのかへの意識を高める助けになるのです。」
韓国の団体「Open Net」のオ・キョンミにとって、この地域への具体的な願いを口にするのは難しい。権威主義国家が自らの権力を縮小する意思を持たず、その権力を動員して人々を殺害するだろうと知っているからだ。「ただ、彼らが今すぐいなくなってほしいだけなのです」と彼女は打ち明ける。 それでも、希望の種を蒔く活動を行う余地はある。彼女は、フェミニストやLGBTQIA+の人々といった標的とされる集団とその権利の保護と、表現の自由とのバランスを取ることは可能だと指摘する。「一般市民の表現の自由を抑圧する代わりに、最近は政治家や権力者、大きな声を持つ者たちをどう規制するかに焦点を当てています。つまり…彼らのヘイトスピーチを抑えるんです」と彼女は語る。
同様に、台湾のOpen Culture Foundation(OCF)に所属するJin Tuも希望について語るのに苦慮しながら語る。「この質問に答えるのは難しいです。今は多くの課題や、もっと努力すべき点があるから」。しかし彼女の仕事は、特にトレーニングセッションで支援によって人々が確実に変化している姿を見るたびに、希望を信じる理由を自覚する。
彼女はAPC内のネットワークの一員であることにも感謝している。「人々をつなぎ、互いを知る機会を与えること自体に大きな意義があります。例えば各政府のデジタルの権利への対応を知ることだけでも、大きな意義があります」と説明する。「地域全体の状況を深く理解すれば、アドボカシー活動において協力したり支え合ったりする方法を考え始められます」
グラスを半分満たされた状態と見る
DRAPACのホスト組織であるEngageMediaのPhet Sayoは、今の状態はグラスを半分だけ満たされた状態にある、という視点を与えてくれた。反対勢力の台頭や国家と企業の連携強化にもかかわらず、賞賛できる重要な成果は依然として存在する。
「データガバナンスに関する問題を焦点化させるという点で私達は勝利しました。オープンテクノロジーを焦点化させる点でも勝利しました。プラットフォームの責任追及に関する問題を焦点化させる点でも勝利したのです」と彼は述べる。
現在の状況において市民社会が果たすべき役割は大きいと強調しつつ、彼はデジタルの権利を推進するために問題を戦略的に再構築することの重要性を信じている。例えば、消費者の権利やデータ保護といった対立を招きにくい切り口を用いることで、自由や検閲、監視に関する議論を開くことができる。「例えばベトナムでは、インターネットの自由や表現の自由について直接話すことは難しいですが、消費者保護については話題にできます。東南アジアではオンライン詐欺が深刻だからです。これは彼らが実際に取り組みたいテーマです。」
フィリピンに拠点を置くAPC加盟団体「Foundation for Media Alternatives(FMA)」のJamael Jacobは、企業や政府の「人権」に関する言説と、実際の業務・製品・サービス・ビジネスモデルにおける実践との乖離を指摘する。「もっと真剣に受け止めてほしい」とジェイコブは述べ、こう付け加えた。「私たちにも、実際に何か行動を起こそうとする意思…行動を起こし、デジタルの権利を擁護し、政府と民間セクターの双方に圧力をかける意思があると信じています」。彼は、この活動を推進するために新たな参加者や組織が登場していることに希望を見出している。
まだ世の中には、自分がやってることや、その理由を気にかけてくれる人々がいる。それが私に希望を与えてくれるのです。
インド:検閲へのレジスタンス、労働者の擁護、説明責任の要求
インドについては、Internet Freedom Foundation(IFF)のApar Guptaが、同国の放送法案が表現の自由に及ぼすリスクについてインフルエンサーやクリエイターに情報を提供し、彼らを動員して法案に反対するよう働きかけていると述べた。同時に、国内でデジタルの権利に取り組む組織が増え、より多くのリソースが投入されることを望む、と語った。
新たに生じる問題によって影響を受けるグループを動員することは、インドを拠点とする別のAPCメンバー団体「Point of View(POV)」が重点とする活動でもある。最近ではファクトチェッカーとコンテンツモデレーター双方と、それぞれ別々に協議の場をもった。「コンテンツモデレーターたちは組織化を進め、互いが知りあうようになりました。組合結成を推進し、データ労働者グループ内でより強力な労働運動を構築する勢いがあります」とPOVのGarima Agrawalは説明し、これを必要な動きだと指摘する。一方、ファクトチェッカーについては「極めて不安定な環境下にあると思うが、多くの圧力、資金難、全体的な不確実性にもかかわらず、情報整合性のためにこの極めて重要な仕事を続けているという事実が、私に希望を与えてくれています」と語る。"
アグラワルはまた、APCネットワークを地域を越えた人々との間で同様の問題を考える場としてあることを強調し、例としてOur Voices, Our Futures(OVOF)プロジェクトを挙げ、「こうした場は、グローバルな共同行動を構築する上で本当に重要なのです」と述べた。
国内の別の加盟団体であるDigital Empowerment Foundation(DEF)は、ARISE(Accountability and Responsibility in South’s Ecosystems)コミュニティと連携し、プラットフォームの責任追及を提唱している。ARISEは、特にグローバル・サウス諸国を中心に、少なくとも50団体からなるネットワークを形成している。DEFのMaitri Singhによれば、市民社会組織の活動は政府にプラットフォームの責任をより真剣に受け止めさせる圧力をかけ、少なくともインドの3州で法案に影響を与え始めている。彼女はまた他の取り組みを紹介し、デジタル包摂とコミュニティエンパワーメントにおける20年にわたる活動を称える場であるThe Museum of Digital Societyの存在を特に強調した。
草の根からの接続性
インドネシアでは、Common Roomがジャカルタで開催したマルチステークホルダー会議が高く評価された。これは「意味ある接続性」に関する全国協議の一環で、政府、学界、民間セクター、多数のパートナー組織が集まった。APCとRhizomaticaが主導するLocal Networks(LocNet)イニシアチブ、アジア社会起業研究所(ISEA)をはじめ、APCネットワーク内外の多くの組織との共同事業だ。
この会議は、コミュニティ中心の接続性という観点を構築する長い道のりの一環であり、地域住民の声こそが人々の生活にとって真に意味ある接続性なのだ、という定義を可能にしようとするものだ。「私たちはその点でゼロから始めたが、今やこのような地域イベントで他国やパートナーからの認知が高まっている」とCommon RoomのTisha Ameliaは述べた。彼女の願いは、コミュニティ中心の意義ある接続性が「インドネシア国内および地域により広く普及すること」にある。
コミュニティ中心の接続性イニシアチブは、ISEAの活動でも重要な位置を占めている。同組織は地域で新たなアプローチを主導している。既存の社会企業を支援し、接続性の提供を活動に取り入れることで、地域コミュニティと経済運営の双方に利益をもたらすというものだ。「昨年、私たちはAPCとのプロジェクトでこのモデルを開始しました。現在、4つの社会企業が実践中であり、より多くの企業がこうした模倣するようになることを願っています」とISEAのCathy Tiongsonは説明する。
過去数年間でこの分野の基盤を固めた同組織は、現在、地域活動にジェンダーの視点を効果的に統合する取り組みを進めている。「インドネシアとフィリピンのパートナー組織のプログラムやポリシーにジェンダーの視点を確実に組み込むという点で、私たちはより貢献できると考えています」とティオンソンは断言する。「既にいくつかのモジュールや学習セッションを開発しており、関心も集まっています。例えばインドネシアでは、昨年開催された連帯サークルのおかげで、活動に参加する女性の数が増加しています」と、社会企業におけるジェンダー統合について彼女は付け加えた。
今後の展望
希望の光が見えにくい状況下で、APCメンバーが指摘するのは、新たなテクノロジーでは提供できない価値――人間関係の力だ。彼らの声は資源を共有することの必要性を明確に示しており、それは資金面だけでなく、人々・知識・成功事例までを含むべきだと理解されている。
検閲へのレジスタンス、説明責任の回復、コミュニティの連携、労働者の擁護など、デジタルの権利には集団的行動、持続的な協力、資源、そして人々の連携が必要である。
これらのインタビューはChoとRed Taniが2025年8月に実施し、記事はデボラ・プラドが執筆した。
出典:https://www.apc.org/en/news/voices-asia-pacific-what-does-it-take-advan…