暗号化はジェンダーに基づく暴力に対抗する支援にとって不可欠だ

暗号化はジェンダーに基づく暴力に対抗する支援にとって不可欠だ
Chayn 2025年9月25日

暗号化とオンライン上のジェンダーに基づく暴力に関する概要

暗号化をめぐる議論は、しばしばオンライン上の安全とセキュリティのトレードオフとして捉えられ、特に法執行機関や子どもの保護の擁護者らは、暗号化が子どもの搾取のような犯罪の検知や防止を妨げると主張している。この議論には政策立案者、法執行機関、被害者支援団体、市民社会、人身取引や虐待のサバイバー、ソーシャルメディアプラットフォーム、さらには有名人までもが巻き込まれている。

その核心にあるのがエンド・ツー・エンド暗号化だ。これは、メッセージングサービス自体でさえも、私的な通信の内容にアクセスしたり解読したりできないことを保証する。暗号化が捜査を複雑化させる可能性はあるが、問題は「警察に犯罪阻止を頼る被害者」と「プライバシー保護を主張する人権活動家」の対立として描かれがちだ。

この緊張関係は子どもの虐待の文脈で特に顕著になる。子どもの権利団体の一部は、虐待素材の流通を抑制するためエンド・ツー・エンド暗号化の禁止を要求している。

この枠組みは、女性、性的少数者、ジェンダーマイノリティ、そして子ども自身の権利・安全・尊厳を守る上で暗号化が果たす重要な役割を見落としている。

現行の政策論議に対し、私たちはそのオンライン上のジェンダーに基づく暴力(GBV)対策における政策・テクノロジー介入が、女性とジェンダーマイノリティの人権・市民的自由を保障し、暗号化技術を通じてプライバシー・セキュリティ・表現の自由が保護されねばならないと主張する。

本ブログでは、デジタル時代における女性の権利推進に向けた私たちのアプローチの四つの核心的側面に焦点を当てる:子どもの安全強化のためのテクノロジー支援策、オンライン上での子どもの保護戦略、暗号化システム内での効果的なコンテンツモデレーション、そして女性と社会サービス介入の保護手段としての暗号化の保持である。

第一に、私たちはオンライン上の女性の権利に対して保護主義的アプローチではなく、人権中心のアプローチを主張する。第二に、暗号化が女性、ジェンダー・性的少数者、リスクの高いコミュニティの少女・若者を含む全ての人権を保障・保護する事実を強調する。第三に、革新的なコンテンツモデレーションを含むオンライン上のジェンダーに基づく暴力へのテクノロジー支援型解決策は、「バックドア」暗号化導入案よりも効果的かつ人権尊重的な道筋を提供すると論じる。最後に、エンド・ツー・エンドの暗号化システムにおけるコンテンツモデレーションの手法を概説し、システム変更はメタデータの増加を避け、機能改善を通じてユーザーを力づけるべきだと再確認する。我々は暗号化を破り、特に親密なパートナーによる暴力(IPV)や子どもの性的虐待の被害者/サバイバーを含む全ユーザーの人権を脅かす介入に反対し続ける。

暗号化は全ての人権を守る

暗号化はジェンダーに基づく暴力や子どもの性的虐待の被害者/サバイバーを含む全ての人を保護する。

プライバシー、安全、表現の自由、意見の自由、情報へのアクセスといった人権は、暗号化が広く利用される核心的な動機である。これらの権利は世界人権宣言(UDHR)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)、その他多くの国家・地域・国際的な権利文書で定義されている。私たちはこの権利、その相互関係、そして暗号化がそれらの実現をどう支えるかを要約する。

UDHRでは、プライバシー権が第12条で「何人も、その私生活、家族、住居又は通信に対する恣意的干渉、並びにその名誉及び信用に対する攻撃を受けない」と定義されている。ICCPRも第17条でプライバシーを保護している。この権利は国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によってさらに明確化され、暗号化の弱体化がオンライン上のプライバシーと表現の自由の両方を脅かす懸念が示されている。OHCHRは次のように記している。

「国家による暗号化テクノロジーや匿名化ツールへのアクセス制限の繰り返される試みは、同様に通信やその他のオンライン活動の安全性と機密性を脅かすものである。」 一部の国は暗号化通信への強制的なバックドア設置を要求し、暗号化通信サービス提供者に暗号鍵の引き渡しを要件として、あるいは暗号化メッセージングや仮想プライベートネットワーク(VPN)、匿名化ネットワークを含む特定の安全な通信アプリケーションを禁止・遮断している。暗号化と匿名性は、個人やグループが恣意的かつ違法な干渉や攻撃を受けずに意見を保持し表現の自由を行使できるオンライン上のプライバシー領域を提供する。暗号化と匿名化ツールは、迫害やハラスメントに直面する人権活動家、市民社会、ジャーナリスト、内部告発者、政治的反体制派を含む世界中で広く利用されている。これらを弱体化させることは、全てのユーザーのプライバシーを危険に晒し、国家だけでなく犯罪ネットワークを含む非国家アクターによる違法な干渉に晒すことになる。このような広範かつ無差別な影響は、比例性の原則と相容れない。

暗号化は、人権活動家、LGBTQ+の人々、虐待状況にある女性など、危険にさらされているコミュニティにとって不可欠である。 暗号化は彼らの安全に対する権利を保護し、監視や報復を恐れることなく、意思疎通や支援を求めることを可能にする。ユネスコ(機械翻訳版)と進歩的コミュニケーション協会(APC)(日本語)が共に強調しているように、暗号化は単なる技術的ツールではなく、人権を保障する基盤であり、プライバシーを保護し、表現の自由、意見表明の自由、結社の自由、情報へのアクセスといった自由を支える土台となる。

暗号化は、ICCPR(市民的及び政治的権利に関する国際規約)の第19条(訳注1)で保護される情報への権利と表現の自由を可能にする。 暗号化がなければ、監視や検閲の脅威が人々、特に健康、セクシュアリティ、政治的異議といったデリケートな問題に関する情報を求める人々を沈黙させる恐れがある。 元国連特別報告者デイビッド・ケイが強調したように、暗号化と匿名性はオンライン上でこれらの権利を保護するために不可欠である。

これらの権利は相互に関連している。暗号化を弱体化させることは、単にプライバシーを損なうだけでなく、権利のエコシステム全体を弱体化させる。よく言われるように、誰も隠すものなどない——隠す必要が生じるまでは。安全な空間は、最もリスクに晒されている者たち——サバイバー、内部告発者、ジャーナリスト、そして子ども——にとって最も重要だ。 グローバルスタンダードが進化する中、暗号化の保持は、議員にとっても技術者にとっても最優先事項でなければならない。

あなたは何か隠している?

暗号化は犯罪者だけでなく、サバイバーも守る

よく言われるのは、暗号化がジェンダーに基づく暴力のサバイバーが法執行機関から必要な支援を得るのを妨げるという主張だ。 というのも、SignalやTelegramのようなプラットフォームのグループチャットを利用して活動する「正体不明」の加害者やネットワークを特定しにくくするからだ。 これには、ディープフェイクポルノを作成・共有する人々、人身売買に関与する人々、標的を絞ったヘイトスピーチや ハラスメントをコーディネートする人々が含まれる可能性がある。子どもの虐待画像、暴行、人身売買で子どもを搾取する者についても同様の懸念が提起されている。

暗号化プラットフォームは確かに犯罪者を含む全ての人に安全を提供する。しかし加害者の身元を隠すのと同じテクノロジーが、サバイバーを悪意ある者(国家の監視、ハッカー、搾取的なテックワーカー、犯罪ネットワークなど)からも守るのだ。暴力のリスクが高い女性、周縁化されたジェンダー、クィアコミュニティを保護する。暗号化は、彼らがオンライン上で自由に自己を表現し、仲間意識、商業活動、連帯、または市民の権利を闘うためにコミュニティを形成することを可能にする。

暗号化は安全な避難場所だけでなく、充実した人生を可能にする

匿名性と非人格化は加害者や犯罪者を保護する一方で、虐待のサバイバーを含む全ての人々に自由と安全を提供する。 しばしば私たちは、女性や周縁化されたジェンダーを、彼らが経験した被害や直面する可能性のある被害というレンズを通してしか見ない。 このレンズは、オンラインとオフラインにおける個人の人生の豊かで広範な視点を奪ってしまう。トラウマを経験した者——過去・現在・未来を問わず——は、オンライン空間で自己の多様な側面を探求したいと願う。つまり、干渉なく情報にアクセスし、学び、ビジネスを創出し、受け止められ方に関わらず意見を表明し、政治的に関与し、友情を築き、恋に落ちたり離れたりし、助けを求めることだ。

もしあなたが家庭内暴力に苦しんでいるときに、支援を求める(=する)のはただでさえ難しい。それを、家庭内暴力を部分的または完全に非犯罪化し、その公的な議論を「家族の価値観」に対する公の秩序への扇動と見なす国で想像してほしい。そうした場所では、安全で私的な通信手段を持つことが、サバイバーにとって命綱となり得る。多くのシェルターの地下ネットワークや秘密ネットワークは、サバイバーとの連絡にWhatsAppやFacebookメッセンジャーを利用している。特にアフリカ大陸では、シェルターが南アフリカの全国シェルター運動「National Shelter Movement of South Africa」、ナイジェリアのWomen Safe House、カメルーンのAlertGBVやWhatsAppといった通信手段を通じて組織に連絡することをサバイバーに許可する事例が増えている。モザンビークでは、GBV(性暴力)対策団体がWhatsAppの利用を開始し、Covid19によるロックダウン中に家庭内暴力に苦しむ女性たちに手を差し伸べた。 こうしたプラットフォームの暗号化を弱めることは、サービスプロバイダーと助けを求める双方を危険に晒すことになる。

虐待的な関係から抜け出したり、ストーカー被害に遭ったりしている場合、常に「デジタル上の目」を気にせずに匿名でオンラインに参加できることは、サバイバーが安全に生活を続けることを可能にする。元パートナーや見知らぬ者によるストーカー行為は、ハラスメント、雇用主や友人・家族への虐待、殺害脅迫、レイプ脅迫、個人アカウントへのハッキングの企て、ディープフェイク攻撃、さらには誹謗中傷キャンペーンなど、様々な危害をもたらし、人を疲弊させる。誰かが残酷さや虐待を選んだからといって、誰もオフラインに追い込まれるべきではない。

強制であれ自発であれ、女性はしばしば自らの声を隠さざるを得なかった。ヴァージニア・ウルフが指摘したように、「署名せずに多くの詩を書いた匿名(アノン)の人物は、往々にして女性だったと推測できる」。何百年もの間、女性は教育、芸術、科学、ビジネス、住宅、結婚や母性における自律性において、家父長制の障壁に直面してきた。これらの自由は、男性優位のシステムにおいて、父親、兄弟、夫、息子、政府当局者によって管理されてきた。自らを守るため、女性はしばしば匿名を選ぶか、あるいは匿名を強制されてきた。ジェンダーの少数派にとって、自身のジェンダー自認を隠すことは、自身のセクシュアリティや人間関係を探求するより安全な方法となり得る。

私たちも今も、女性が自己表現し、精神的・身体的危害への恐れや 裁きなしに自由に生きられる世界を目指して活動している。しかし匿名性は、必要な場合に 行使できる権利として残されねばならない。確かに匿名性は加害者も守るが、この権利を 奪えば、サバイバーや活動家、内部告発者、政治的な反体制派は、匿名性を悪用する者による 危害よりもはるかに大きな危険に晒されるのだ。

暗号化は権利を守る、国家が守らぬ時でさえ


画像出典:NBCニュース

女性と女子の生殖に関する権利は、暗号化・国家監視・身体の自律性が最も致命的な形で衝突する領域だ。米国における中絶権の事例では、2022年にネブラスカ州警察は、Facebookに対し、違法中絶を行った疑いで刑事訴追された母娘のユーザーデータ提出を要求した。これはロー対ウェイド判決が正式に覆される前の出来事だが、娘は妊娠20週を超えており、ネブラスカ州では妊娠20週以降の堕胎は禁止されている。彼女たちが堕胎薬の入手方法を話し合った非公開だが暗号化されていないメッセージが、17歳の少女を成人として裁判にかける根拠として用いられた。両者は有罪を認め、刑務所での服役を経験した。

ロー判決が覆されて以来、中絶関連の訴訟や起訴は劇的に増加し、中絶を求める者や支援する者間の安全で暗号化された通信の必要性がさらに高まってきている。2025年2月には、ニューヨーク在住の医師がテキサス州で罰金刑を受け、ルイジアナ州では中絶薬提供の容疑で起訴された。2025年3月には、テキサス州の助産師が、同州のほぼ完全な禁止令下で中絶を行った疑いで逮捕された。有罪となれば数十年の刑期に直面することになる。

これらの事例は、国家機関が敵対的になった場合、医療提供者だけでなく医療を求める者にとってもいかに危険かを示している。多くの活動家や団体は、中絶を提供する側と求める側がWhatsappやSignalなどの暗号化メッセージングプラットフォームを利用して支援を求めるよう推奨している。

暗号化サービスを通じた安全な情報アクセスが阻まれることは、命を奪う結果を招く。

ラテンアメリカとカリブ海地域では、年間約370万件の危険な中絶が行われ、約4,000人の女性が命を落としている。地域の一部では中絶を医療として認める世論が高まっているが、ベネズエラやニカラグアなどの国では安全な中絶サービスへのアクセスが依然として厳しく制限されている。これにより女性と女子はオンラインで支援を求めるようになり、支援を提供する側と受ける側の双方にとって安全な暗号化通信が不可欠となっている。Vitala Global Foundationが開発したAya Contigoのようなツールは、ベネズエラのユーザーを国家監視から保護しつつ、中絶関連の情報とサービスを提供する。

中絶の権利は、暗号化が国家の弾圧から人々を守る唯一の領域ではない。国家権力に挑む活動家にとって、そのリスクは極めて高い。タイでは、Amnesty Internationalの2024年報告書が、女性やLGBTQIA+活動家が、女性蔑視的、同性愛嫌悪的、トランス嫌悪的なオンライン虐待の集中攻撃の標的となっていることを明らかにした。これには性的なコンテンツや、テクノロジーによって助長されるその他の形態のジェンダーに基づく暴力が含まれ、国家が政治的異論を抑圧するために利用している。タイは興味深い事例だ。女性やLGBTQIA+の人々はその近隣諸国に比べ比較的自由と平等を享受しているが、国家は依然としてデジタル監視で彼らの活動を封じ込めている。

世界で64カ国以上では、クィアやLBTQIA+であることが犯罪とみなされる。そのためクィアの子どもや大人が「カミングアウト」したり、そのコミュニティの一員と認識されたりすることは危険を伴う。もし出会い系アプリがメッセージの暗号化を行わず、プラットフォームが匿名アカウントを許可しなければ、法執行機関や過激な保守派グループがその脆弱性を悪用できる。その結果は致命的となり得る。Human Rights Watchの2023年報告書によれば、エジプトイラクヨルダンレバノンチュニジアの治安部隊は、ソーシャルメディアや出会い系アプリ上の活動に基づきクィアコミュニティを標的にし、起訴、拷問、その他のオフラインでの虐待を引き起こしていた。報告書はまた、治安部隊だけでなく市民もこの迫害に加担していたと指摘している。

こうした危険に対応するため、多くのリスクに晒されたコミュニティは自己防衛手段として暗号化プラットフォームに頼るようになった。2021年にタリバンがアフガニスタンを掌握した後、米国拠点の非営利団体「Operation Recovery」はエンド・ツー・エンド暗号化サービス「AWS Wickr」を活用し、処刑の危険に晒された活動家やジャーナリストを含む数千人のアフガン人を避難させた。2020年以降、世界中の抗議活動家たちは、法執行機関の干渉を受けずに活動を組織化するため、有名 なエンド・ツー・エンド暗号化メッセージアプリ「Signal」に集まってきている。

今そして未来における子どもの権利保護

プライバシーによって保障される自由は生涯にわたるものであり、子どもと、その子どもが成長する大人双方を守る。

子どもは保護されるだけで、大人と同じ権利を必要とせず、機関やプライバシーへの期待も持たないという考えに陥りやすい。 子どもは年齢に起因する保護やケアを必要とし、潜在的なリスクや危害に対する理解が限られているが、同時にプライバシーと人格に対する尊重も受けるべきだ。 単なる子どもとしてではなく、将来の大人として尊重されるべきである。こうした未来の大人たちは、権威主義国家や環境を損なう企業勢力に対する強力な反体制の声となるかもしれない。子どもの権利は、安全とプライバシーの権利を大人と同等に重視する人権枠組みの中で捉える必要がある。これは複雑な領域であり、児童性的虐待素材(CSAM)対策の強化と、現在および未来の子どもたちを不必要な監視やプライバシー侵害から守るアプローチとのバランスが求められる。

では、代替案は何か?

エンド・ツー・エンド暗号化に反対する最も頻繁に用いられる論点は、これを廃止するか、あるいは当局向けのバックドアを設けることが犯罪者に対抗する最も単純な方法であり、信頼できる代替案は存在しないというものだ。暗号化された通信経路上の犯罪がエンド・ツー・エンド暗号化の廃止によって摘発・阻止できると想像するのは魅力的に思えるかもしれないが、上述した理由から、現実はより複雑である。プライバシーを保護しつつ犯罪者や虐待者を追及するには、多角的なアプローチが必要だ。様々な関係者が虐待の防止・検知・阻止に向けた取り組みを強化すると同時に、サバイバーの支援も行うべきである。

Child Rights International Networkとdefenddigitalmeによる報告書 「Privacy and Protection: A children’s rights approach to encryption」では、このバランスが必要である点を次のように要約している。

「単一の法律、政策、技術だけでは、オンライン上の子どもを保護したり、より広範な人権を確保したりすることはできない。暗号化に関わる介入は、多くの主体が関わるより広範なエコシステムの中で捉えられなければならない」

このセクションでは、有害な行為者を対象としたグローバルな対応を強化する方法をいくつか検討する。

公的機関の強化

保護責任を負う公的機関は、デジタル技術の進展よりはるか以前から、何十年もの間、虐待の被害者を適切に発見し、信頼し、支援することに失敗してきた。P・ディディのような有名人が関わる注目案件でさえ、虐待が長期間にわたり見過ごされたり放置されたりする理由を調査すると、共通のパターンが浮かび上がる。機関が重要な兆候を見逃し、事情を知る個人が責任ある行動を取らず、権力を持つ加害者が威圧や金銭的強制でサバイバーを沈黙させるのだ。

虐待の兆候を発見できる公的機関のエコシステムを強化しなければならない。これには学校や教育機関、ソーシャルワーカー、医療専門家、法執行機関、公共交通機関、裁判所が含まれる。

虐待や人身取引のサバイバー、特に子どもたちは「なぜもっと早く助けを求めなかったのか」と問われることが多い。子どもが、特に当局に自身の状況を打ち明けるのは極めて困難だ。この問題を単独の機関が解決することは不可能である。調整された、トラウマに配慮した、十分な資源を伴うアプローチが不可欠だ。

教育とセーフティ・バイ・デザインによる予防への投資

学校でのデジタルリテラシー教育、同意と性教育、あるいは有害な行動を早期に特定・対処するためのテクノロジープラットフォームによる積極的な取り組みを通じて、予防への投資は不可欠だ。プラットフォームは行動工学を用いて「アプリ内」の文化を変えることも可能であり、この取り組みへの投資は必須である。これらの努力が現在の危害を根絶するわけではないが、すべての人にとってより安全な未来を築く上で極めて重要だ。技術プラットフォームとインターネットの安全性向上、虐待や人身売買組織の根絶において、「Safety by Design(設計段階からの安全性確保)」は強力な予防的アプローチを提供する。

技術を活用した有害行為の検知手法

近年、セキュリティ技術は、サイバーフラッシング、ブルートフォース攻撃、露骨な画像・動画、ドクシング、その他テクノロジーが助長するジェンダーに基づく暴力からユーザーを保護するために著しく進歩している。二段階認証から、バンブルの性器画像自動ぼかし機能、TikTokのコンテンツモデレーションアルゴリズム(同社によればガイドライン違反コンテンツの80%を捕捉・削除)に至るまで、プラットフォームは確かな進歩を遂げている。GoogleやYouTubeのような企業は、CSAMコンテンツを検知・削減するためのハッシュ化と照合技術を導入した。こうした進展は、人間の介入と並行してテクノロジーを活用し、これらの犯罪に対処できることを示している。

エンド・ツー・エンド暗号化を持たないプラットフォームを通じた犯罪ネットワークへの対処

暗号化はおろか、セキュリティ対策がほとんど施されていないプラットフォーム上で発生する性的虐待や有害行為の事例は数多く存在する。最近の例として、ドミニク・ペリコら82名の男性が利用したプラットフォームCocoが挙げられる。彼らはこのプラットフォームで互いを発見し、意識不明の妻ジゼル・ペリコに対する性的暴行を計画した。ドミニク・ペリコはCocoプラットフォームで男たちを選定したが、その後スカイプに移行して作戦を協議した。スカイプのダイレクトメッセージは暗号化されていた。

この事件で特筆すべきは、Cocoが、殺人計画・子どもの性的虐待・同性愛者への攻撃の組織化に関与したとして、2024年に遮断されるまで、複数回にわたり通報されていた点だ。2021年から2024年にかけて、480人の被害者からCocoに対し23,000件以上の訴訟が提起されたが、所有構造が意図的に不明瞭にされていたためサイトは存続した。より強力な管轄区域を横断した協力と警察によるCocoの監視強化があれば、当局は早期にサイトを遮断し、これらの犯罪を未然に防げた可能性がある。

Graphikaの調査によれば、画像ベースの虐待の多くは、ソーシャルメディアプラットフォームや公開ウェブサイトで広告を出し、アフィリエイトリンクでトラフィックを集める「nudify」や「undress」アプリを通じて公然と行われている。これらのアプリは女性や女の子、子どもを裸にするために利用される。実際の交換や取引はTelegramやDiscordのような暗号化プラットフォームで行われる場合もあるが、サービスのマーケティングは公然と行われている。これらのアプリやサービスは収益性と拡張性のために可視性を必要とするため、取り締まりに対して脆弱な状態が続いている。法執行機関やウェブホストは作成者を遮断できるが、運営は継続される。同じ調査では、非同意の性的画像のトラフィックの50%が、1つの組織または個人が所有する3つの運営者クラスターに集中していることも判明した。これらのネットワークの摘発を優先すべきだ。

Yahoo Boysと呼ばれる、主にナイジェリア人サイバー犯罪者からなる緩やかなネットワークは、元々インターネット詐欺、デート詐欺、金融目的の性的な脅迫で知られていたが、2023年から2024年にかけて11人以上の少年たちの死亡と関連付けられている。これらの犯罪者は従来の手口からオンラインで子どもを積極的に標的にする手法へ移行した。被害者の大半はInstagram、Snapchat、Wizzなどのプラットフォームで接触を受けている。過去18ヶ月間(2024年1月以降)で性的な脅迫事件が10倍に増加したのは、Yahoo BoysがTikTok、YouTube、Scribdで性的な脅迫の手法や台本を配布した直接的な結果だ。これにより他の犯罪者も金銭目的の性的脅迫に加担するようになり、彼らは積極的に手口を共有し、人々がそれを学んでいる。

資金の流れを追う

同意のない画像、人身売買、子どもの虐待といった犯罪は、他の犯罪組織と同様に、組織的かつネットワーク化された手法で実行されることが多い。犯罪者は手数料の徴収、支払いの決済、資金の保管手段を必要とする。カード決済システムや仮想通貨の利用に加え、汚職、賄賂、マネーロンダリングも彼らの事業を支える手段となっている。

年間約80万人が国際的に人身売買されている。この行為は腐敗によって可能となる。人身売買業者は国境を違法に越えるため不正な入国管理官に、また現地警察には見て見ぬふりをさせるため賄賂を支払う。現代の奴隷状態にある人々(推定2100万~4500万人)は、腐敗によって免許の確保、給与の不正記録、そして人々を募集・輸送・管理する形で助長されている。

Graphikaの調査によれば、多くの合成非同意親密画像(NCII)サービスはフリーミアムモデルを採用している。最初の数枚の画像生成は無料だが、画像の改良やカスタマイズには有料コンテンツへのアクセスが必要で、クレジットやトークンの購入によってのみ利用可能となる。Paypal、Strike、Patreonなどの決済プロバイダーや、Coinbaseのような暗号通貨プラットフォームが広く利用されている。これは、主流の決済プロバイダーが非同意ポルノの販売を許可していないためである。

資金の流れを法的に追跡することは、犯罪ネットワークを暴く鍵であるだけでなく、資金源を断つことで犯罪の継続を容易にできなくする。2020年、マスターカード、ビザ、ディスカバーがポルノハブでのカード利用を停止した際、同プラットフォームは認証されていないオリジナル動画の全てを削除した。これはコンテンツの80%に相当した。サバイバーたちは長年、レイプや子どもの虐待を含む非合意画像・動画の削除要請をポルノハブにメールで送ってきたが、同社はこれを無視してきた。サバイバーや支援者の声では成し得なかったことを実現したのは、マスターカード、ビザ、ディスカバーの持つ経済的圧力だった。

児童虐待サバイバー支援団体への資金提供

慈善団体や市民社会組織は、ジェンダーに基づく暴力や子どもの性的虐待のサバイバー支援の最前線に立っている。彼らはサバイバーの回復や公的機関との対応を支援する変革的なケアを提供するだけでなく、複数の事例に共通する虐待のパターンを解明し、虐待ネットワークを特定する上で重要な役割を果たしている。これらの組織は資金不足に陥っており、長期的な計画や安定性に欠けるつなぎ合わせの財政支援でかろうじて維持されていることが多い.

フェミニストの対応とは何か?


ChaynのためにOlivia Devadasが作成した画像

私たちは、フェミニストの応答とは暗号化を擁護することだと考える。なぜなら暗号化は人権、特に監視・虐待・抑圧のリスクにさらされている女性、女の子、ジェンダー多様性を持つ人々の人権を守るからだ。子どもの保護とプライバシーを対立させる二項対立的な考え方を拒絶すること。そしてサバイバーの実体験を無視する技術的・政策的決定に異議を唱えることだ。

技術・政策・現場サービスに携わるフェミニストたちの主張は明確だ。プライバシーは特権ではなく、必要不可欠なものだ。私たちがこのブログで示した通り、暗号化は人々が安全に助けを求め、報復を避け、情報を得られるようにする。活動家やジャーナリストを守り、家庭内暴力から逃れる人々を保護し、LGBTQ+の若者が自らの意思でカミングアウトすることを可能にする。サバイバーは安全とオンライン上の権利のどちらかを選ばされるべきではない。

  • サバイバー主体のグループは、この現実を支えるツールと指針を構築してきた。全米家庭内暴力終結ネットワーク(NNEDV)とTech Safetyはジェンダーに基づく暴力のサバイバー支援プログラム向け暗号化基本ガイド(日本訳)を公表した。安全な通信手段の有無が、助けを求めるか沈黙を続けるかの分かれ目になるからだ。
  • フェミニスト技術者たちもまた、人々を危害から守るインターネット標準の形成に取り組んでいる。IETFにおける不要なBluetooth追跡デバイスへの取り組みは、ストーカーウェアや強制的支配への懸念から生まれた。CDTやNNEDVを含む市民社会が推進したクロスプラットフォーム保護機能は、現在AppleとGoogleで実装されている。
  • インフラレベルでは、IEEE 2987標準はジェンダーに基づく暴力へのテクノロジー支援対応を体系化する初期段階ながら重要な一歩であり、技術的専門性とサバイバー主導の実践を融合させている。

ここで求められるのは、フェミニスト技術者が独自の能力と専門性を携え、意思決定の場に参加し、脆弱なコミュニティの安全確保を超えた技術設計を提案することだ。フェミニストテクノロジーは全ての人々のためのものだからである。

結論:暗号化はオンラインGBV被害者を守る

他の保護手段と同様、暗号化にも欠点は存在する。全ての危害を阻止できるわけではない。しかし現時点で最も堅牢で信頼性の高い保護・プライバシー手段である。

子どもと大人では脅威のモデル化が異なり、子どもはより多くの監督機能、ケア、警戒を必要とするが、それは中核的なプライバシー保護を犠牲にすることを意味しない。子どもと大人を問わず、あらゆる決定の根底には、人権の尊重があるべきだ。その一つがプライバシーである。

デジタル暴力に対するフェミニストの応答は、尊厳、安全、自由は譲歩できないものであり、暗号化の弱体化はすべての人を危険にさらすことを主張するものである。

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この記事は、Chayn の CEO 兼創設者である Hera Hussain が Mallory Knodel と共同で執筆した。
Mallory はフェミニスト・テクノロジストであり、Social Web Foundation および Internet Exchange の創設者兼ディレクター、Center for Democracy and Technology の元 CTO である。
執筆:Chayn
暴力や抑圧から女性や周縁化された性別の人々を力づける、オープンソースのジェンダー&テックプロジェクト。世界に向けてツール、プラットフォーム、ハックを制作している。
https://chayn.medium.com/encryption-is-necessary-for-gender-based-viole…
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訳注1
第十九条

1 すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。

2 すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。

3 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使については、一定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。

(a) 他の者の権利又は信用の尊重
(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html