グローバル・デジタル・コンパクトにおけるジェンダーを包摂するためのフェニスト原則

(JCA-NETによる前書き)現在国連では2024年9月に開催される予定となっている「未来のための協定」の策定にむけた検討にはいっています。「未来のための協定」は、近年になって露呈したグローバルなガバナンスにおける国連の役割の機能不全や国連が掲げた招来への目標達成に関する危機感を背景に、「既存の合意が完全かつ公正に履行されるよう国際協力を強化すると共に、現在および将来世代のために新たな脅威と機会に効果的に対応」するものと位置づけられています。デジタル領域についてはGlobal Degitai Compact(GDC)においてとりまとめが進められています。

JCA-NETが加盟している進歩的コミュニケーション協会(APC)は、とくにジェンダー領域に関して、明確にフェミニストの観点を取り入れるように要求しています。またジェンダーの問題は階級、エスニシティ、経済、法、宗教、文化など様々な領域と交差してその社会的な枠組が構築されていることから、交差的な視点を取り入れるべきであるという点が強調されています。APCは、こうした観点にたって以下のフェミニスト原則を公表しました。JCA-NETもこのフェミニスト原則を支持し、以下、日本語訳を公開します。(文責:小倉利丸)

背景

グローバル・デジタル・コンパクト(GDC)は、「すべての人にとってオープンで自由かつ安全なデジタルの未来のための共有の原則を描く」ことが期待されているものである。私たち全員が共有する地球の健全性を守るために国際協力が不可欠であるように、リスクを軽減しながらデジタルテクノロジーの恩恵を追求するためには、国際的な協力と協調が必要である。

GDCは、人権に基づくアプローチを採択するために普遍的な基準に基づくものでなければならず、また、情報通信テクノロジー(ICTs)が女性、女子、多様なジェンダーやセクシュアリティの人々に差別化された影響を与えることを認識しなければならない。

オープンで自由で安全というGDCの基本理念は、私たちの経済と社会で進行中のデジタルの変革が、すべての個人とその自己実現への道を肯定するジェンダー公正の世界の到来を確実にするために、交差的フェミニズムの視点と融合されなければならない。

以下に列挙するフェミニズムの理念の策定は、ダイナミックで多面的なプロセスであり、女性の地位委員会(CSW)67で合意された結論(日本語)、CSWでのUN Women & Equality Nowコンサルテーション・イベントの結論、2023年3月のジェンダーの権利とデジタル団体とのイベントの後のAPCによるグローバル・デジタル・コンパクへのコンサルテーションへの提出など、様々な情報源からインスピレーションと指針を得ている。この原則は、国連人権理事会(A/HRC)の決議や、女性差別撤廃条約(CEDAW)にも依拠している。

グローバル・デジタル・コンパクトにおけるジェンダーを包摂するためのフェニスト原則

1. 女性と女子、社会から疎外された人々のデジタル上の権利を守るための具体的なコミットメントを確保する

ジェンダー的に公正な社会と経済のために、既存の人権法と基準に基づいたデジタル上の未来を保証するための具体的なコミットメントを推進し、その中で、国家と民間部門は、あらゆる多様性の女性と女子、そして多様で交差する形態の差別に直面している人々の人権を保護し、尊重し、促進する。これには、デジタル上の権利侵害に対する救済や、人権を解釈する際に、人種、階級、カースト、民族性、性的指向、宗教、(不)能力、その他関連するあらゆる要素とともにジェンダーを考慮する交差的アプローチを採択するために、ジェンダーによる差別や不平等に対処することが含まれる。

2. テクノロジーによって助長されるジェンダーに基づく暴力からの自由を保証する

テクノロジーによって助長されるジェンダーに基づく暴力からの自由に対する権利を保護する法律を制定するよう、国に求める条項を含める。これには、被害者のための迅速かつ有意義な救済、安全で倫理的なテクノロジー、技術的・社会的変化に対応したテクノロジー改善のための透明で迅速なプロセスなど、予防と被害者中心の対応のための措置が含まれる。重要なことは、国家はテクノロジー企業に対し、その行動、方法、動機を明らかにすることによって透明性を実践し、その行為に対する説明責任を履行するよう主張しなければならないということである。

3. 表現の自由、プライバシーの自由、平和的な集会の自由、女性と女子の生活のあらゆる側面における多様な参加に対する普遍的権利を促進する

表現の自由および情報の自由、抗議および組織化の自由を含む平和的集会および結社の自由、ならびに経済的、社会的、文化的、市民的および政治的生活への完全な参加および享受に対する普遍的権利の完全な実現を促進する。これには、暗号化とオンライン匿名性の権利の保護、および国際人権基準に準拠しないインターネット妨害の禁止が含まれる。

4. すべての人に、普遍的で、安価で、アクセスしやすく、安全なインターネットアクセスを確保する

あらゆる多様性を持つ女性と女子、および多様なジェンダーを持つ人々(複数の、そして交差する形態の差別に直面している人々を含む)のために、普遍的で、手頃な価格で、無条件に、オープンで、意味のある[1]、平等なインターネットへのアクセスを促進する。この権利には、安全で利用しやすく、手頃な価格のフォーマットとテクノロジーを通じて情報とアイデアを受け取り、伝える障害者の権利、および自分自身の言語で情報を作成し、共有し、関与する権利も含まれる。

5. 危害を及ぼす監視アプリケーションやリスクの高いAIシステムに対する厳格な措置を求める

ジェンダー・ステレオタイプと差別的バイアスがAIシステムに反映されないことを保証するために、世界の市民社会、女性の権利とフェミニスト団体、政府、民間部門が協議して開発したセーフガードと基準を採択すべきである。このことは、少なくとも、データセット、その出所と使用するもの、適用されるアルゴリズムに関する透明性を含むべきである。国際人権法を遵守して運用できない監視アプリケーションを明示的に禁止し、人権を保護する適切なセーフガードが整備されない限り、また整備されるまで、人権の享受に高いリスクをもたらすAIシステムの販売と使用にモラトリアムを課す。労働者は監視、特にプライバシーとセキュリティを侵略する監視の対象となることはできず、女性がテクノロジー主導の監視の対象とならないよう、保護と説明責任が必要である。

6. テクノロジー分野とデジタル政策立案への女性の参加とリーダーシップを拡大する

デジタルテクノロジー・ガバナンス、インフラ計画・規制、テクノロジー開発に関する国内・国際レベルでの設計、リーダーシップ、意思決定プロセスを含め、テクノロジーセクターのあらゆるレベルにおいて、多様な女性の参加と代表を増やすための措置を含める。これらの措置には、科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学(STEM)の分野で学び、働く女性と女子の促進と支援、民主的プロセスへの女性の参加の促進、意思決定とポリシー作成プロセスに参加するための女性の権利運動と若い女性主導の組織の強化が含まれるべきである。

7. 新しいテクノロジーが環境に与える影響を軽減する戦略を優先する

気候変動は、すべての人々に影響を与える地球規模の現象である。しかし、気候変動の影響は均等に経験されるものではなく、開発途上国の女性は不釣り合いな影響を受ける可能性が高い。世界の人々、特に女性と女子を危険にさらす差し迫った現代の環境問題に鑑み、各国はインターネットとデジタルテクノロジーのエネルギー消費を削減し、新技術の燃料となる天然資源の採掘による危害を最小限に抑えるための行動をとらなければならない。

8. 国家と多国籍企業がデータプライバシー、ガバナンス、同意を確保するための措置を実施する

プライバシーと保護の権利を守るための国家と多国籍企業のための措置と、あらゆる多様性を持つ女性と女子が、あらゆるレベルで、オンライン上の彼らの個人データと情報に関して、完全なコントロールを行使し、継続的かつ十分な情報に基づいた同意を提供できるようにするためのデータガバナンスシステムを含める。

9. デジタルテクノロジー開発のすべての段階において、設計による平等(Equality-by-Design)の原則と人権に基づくアプローチを採択すること

透明性、人権およびジェンダー権への影響評価を含む、人権に基づくアプローチおよび設計による平等(Equality-by-Design)の原則[2]が、アルゴリズムによる意思決定システムやデジタルテクノロジーの開発に、導入前に組み込まれていることを確認する。また、差別や危害のある偏見が増幅・永続化するのを防ぐため、これらの原則なしにテストされないようにする。

10. デジタルテクノロジーへのアクセスと使用における女性の参加と役割を再構築する。また、労働と起業へのその潜在的な影響に取り組む

交差的アセスメントを実施し、デジタル化のプロセスが人々のさまざまな層にどのような影響を及ぼしているかを理解すること、特にあらゆる多様性を持つ女性や、多様で交差する形態の差別に直面している人々への悪影響を考慮すること。この調査に基づいて、ジェンダー格差を是正し、女性が多くを占める部門に不釣り合いな影響を及ぼす仕事のエコシステムにおける転換を含むテクノロジーによる変化に対する経済的回復力を構築するためのポリシーとプログラムを策定する。さらに、科学・テクノロジー・工学・数学(STEM)の分野で学び、働く女性と女子を支援し、彼女たちが安全な労働条件にアクセスし、より強力な労働運動によって支援され、デジタル・イノベーションと起業家精神の代替モデルとしてのコレクティブや協同組合のようなフェミニズム的経済的アプローチを奨励するような活動環境にアクセスできるようにするための措置を確保すること。

GDCに関する加盟国間の交渉が間もなく始まる中、私たちはジェンダーとデジタルのアジェンダで活動する人々や組織の声を合わせ、最終合意に何を盛り込むべきかについての私たちの期待を政府に伝えることができるようにしなければならない。私たちがより多く足並みを揃えれば、私たちはより強い声を集めることができる。ここに署名することで、GDCにジェンダーを含めるためのフェミニズムの理念を支持することができる!

[1] 意味のあるコネクティビティのコンセプトについては、以下を参照のこと: ITUのグローバル・コネクティビティ・レポート2022、https://www.itu.int/hub/publication/d-ind-global-01-2022/
[2] Equality by Designとは、アルゴリズム・システムの潜在的な平等への影響を特定し、評価し、開発プロセスの不可欠な部分として取り扱うことを要求し、可能にするシステム設計へのアプローチである。以下を参照のこと: Principles on Equality by Design in Algorithmic Decision-Making (Equal Rights Trust, 2023)(アルゴリズムによる意思決定における設計による平等に関する原則)を参照のこと。

GDCに関する加盟国間の交渉が間もなく始まる中、私たちはジェンダーとデジタルのアジェンダで機能する人々や組織の声を一致させ、最終合意に何を盛り込むべきかという私たちの期待を政府に伝える必要があります。より多くの私たちが足並みを揃えれば、私たちはより強い声を収集することができます。ここに署名することで、GDCにジェンダーを含めるためのフェミニズムの理念を支持することができます!