JCA-NETは、下記の共同公開書簡に署名しました。今回の事案は、英国政府の立法が直接の対象です。日本でもよく使われているWhatsAppやSignalなどエンド・ツー・エンド暗号化のサービスを規制することが目的とされています。英国をはじめとして、米国や日本、インドなどがこの間、エンド・ツー・エンド暗号化を規制する方向で各国の捜査機関などが国際的な連携をとっており、今回の英国における暗号化規制の法案は、私たちにとっても無関心ではいられない問題であり、早晩、日本においても同様の動きがでてくる危険性があります。暗号化は、インターネットのコミュニケーションのセキュリティを確保する上で必須の手段であり、政府や捜査機関が例外的に暗号を解読できる権限を持ったり、こうした公権力に企業が協力することはあってはならないことだと考えています。(JCA-NET理事、小倉利丸)

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専門家が政府の反暗号化キャンペーンに異議

サイバーセキュリティの専門家と人権活動家は、暗号化を弱めるために、一般市民を誤解させたり架空の事例を持ち出すような人々を不安に陥れる戦術が行なわれていると指摘しています。広告キャンペーンには50万ポンド以上の税金が使われています。

英国内務省は、オンライン安全法案Online Safety Billの一環として、WhatsAppやSignalなどの暗号化されたサービスのプライバシーとセキュリティを削除するようテクノロジー企業に強制することを計画しています。さらに悪いことに、内務省はロンドンの広告代理店に数十万ポンドを投じて、人々や企業のオンラインでの安全を守るための重要なデジタル・セキュリティ・ツールに対する人々の信頼を損ねるようなデマキャンペーンを展開しています。

暗号化が妨げられると、私たちのプライベートなコミュニケーションが安全でなくなり、敵対する見知らぬ人や政府が会話を傍受できるようになります。暗号化が妨げられると、暗号化を最も必要としている人々の安全が脅かされます。子どもを含む虐待や家庭内暴力の被害者は、大切な人と話したり、必要な情報や支援を得るために、安全で機密性の高い通信手段を必要としています。英国情報委員会事務局the UK Information Commissioner’s Officeの技術・イノベーション担当エグゼクティブ・ディレクターであるスティーブン・ボナーが最近指摘したように、エンド・ツー・エンドの暗号化は、「犯罪者や虐待者が子どもに有害なコンテンツを送ったり、子どもの写真や位置情報にアクセスしたりすることを許さないことで、子どものオンラインの安全性を強化する」ものです。[1]

Operation: Safe Escape」[2]と「LGBT Tech」[3]の2つの団体は、家庭内暴力の被害者やLGBTQ+の人々が、嫌がらせや被害、さらには処刑の脅威にさらされている国において、暗号化された通信の重要性を強調しています。リスクを抱えた人々は、安全を確保するどころか、機密性の高いライフラインが拒否されることによって、より大きな、時には致命的なリスクにさらされます。

反暗号化政策は、表現の自由という基本的人権を脅かします。暗号化が損なわれると、汚職や犯罪を暴く調査報道活動が損なわれます。Centre for Investigative Journalismによると、安全な通信手段がなければ、情報源は保護されず、内部告発者は名乗り出ることをためらうでしょう。[4]

内務省の主張に反して、サイバーセキュリティの主要な専門家は、メッセージスキャンであっても「すべての社会に深刻なセキュリティとプライバシーのリスクをもたらし、その一方で、法執行機関に提供できる支援は微々たるものだ」と結論づけています。[5] バックドアは、敵対する国家、犯罪者、テロリストが非常に重要な情報にアクセスするための入り口となります。暗号化を弱めることは、グローバルなインターネット [6] に悪影響を及ぼし、個人的なメッセージ、銀行の機密情報、個人的な写真やプライバシーが損なわれることを意味します。MI6の長官であるリチャード・ムーアは、初めて公の場でスピーチを行い、敵対国からのデータ・セキュリティの脅威が増大していることを警告しました。[7]ムーア氏の分析によれば、英国は敵対国の政府にとって、私たちの個人的および国家的安全性に対する戦いを容易にすることになります。

英国政府は、英国内外の多くの人々にとって不可欠なテクノロジーに戦争を仕掛けようとする決定を再検討する必要があります。

Signatories:

Access Now
ACLAC (Latin American and Caribbean Encryption Coalition)
Adam Smith Institute
Africa Media and Information Technology Initiative (AfriMITI)
Alec Muffett, Security Researcher
Annie Machon
ARTICLE19
Big Brother Watch
Centre for Democracy and Technology
Christopher Parsons, Senior Research Associate, Citizen Lab, Munk School of Global Affairs & Policy at the University of Toronto
Collaboration on International ICT Policy for East and Southern Africa (CIPESA)
Cybersecurity Advisors Network (CyAN)
Dave Carollo, Product Manager, TunnelBear LLC
Derechos Digitales – Latin America
Digital Rights Watch
Dr. Duncan Campbell
Electronic Frontier Foundation
Faud Khan, CEO, TwelveDot Incorporated
Fundación Karisma
Global Partners Digital
Glyn Moody
Index on Censorship
Instituto de Desarrollo Digital de América Latina y el Caribe (IDDLAC)
Internet Society
Internet Society Brazil Chapter
Internet Society Catalonia Chapter
Internet Society Germany Chapter
Internet Society India Hyderabad
Internet Society Portugal Chapter
Internet Society Tchad Chapter
Internet Society UK England Chapter
Internet Freedom Foundation, India
JCA-NET (Japan)
Jens Finkhaeuser, Interpeer Project
Prof. Dr. Kai Rannenberg, Goethe University Frankfurt, Chair of Mobile Business & Multilateral Security
Kapil Goyal, Faculty Member, DAV College Amritsar
Khalid Durrani, PureVPN
Prof. Dr. Klaus-Peter Löhr, Freie Universität Berlin
LGBT Technology Partnership
Liberty
Luke Robert Mason
Mark A. Lane, Cryptologist, UNIX / Software Engineer
OpenMedia
Open Rights Group
Open Technology Institute
Peter Tatchell Foundation
Privacy & Access Council of Canada
Ranking Digital Rights
Reporters Without Borders
Riana Pfefferkorn, Research Scholar, Stanford Internet Observatory
Simply Secure
Sofía Celi, Latin American Cryptographers.
Dr. Sven Herpig, Director for International Cybersecurity Policy, Stiftung Neue Verantwortung
Tech For Good Asia
The Law and Technology Research Institute of Recife (IP.rec)
The Tor Project
Dr. Vanessa Teague, Australian National University
Yassmin Abdel-Magied

[1]https://www.infosecurity-magazine.com/news/privacy-tsar-defense-encrypt…
[2]https://safeescape.org/get-help/
[3]https://www.lgbttech.org/post/lgbt-tech-internet-society-release-new-en…
[4]https://tcij.org/bespoke-training/information-security/
[5]https://arxiv.org/abs/2110.07450
[6]https://www.internetsociety.org/resources/doc/2022/iib-encryption-uk-on…
[7]https://www.bbc.com/news/uk-59470026
(2022年2月8日)
英語正文
https://www.openrightsgroup.org/app/uploads/2022/02/Experts-challenge-G…