Blinne Ní Ghrálaighさんの弁論

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(日本語仮訳PDF)
(裁判長: 次に、ブリン・ニ・グラーレーさんに発言を求めます。ニ・グラーレーさん、ご発言ください。
(ブリン・ニ・グラーレー[Blinne Ní Ghrálaigh] 弁護士、登壇)


[訳者注: 弁論は、イスラエルのジェノサイド条約違反によって引き起こされた回復不可能な損害からガザのパレスチナ人を保護するための暫定措置が緊急に必要なことを主張している。
 「概観」においては、ガザのパレスチナ人たちが現在置かれている状況を具体的な数字をもとにして明らかにしている。そして、国際司法裁判所による仮保全措置の要件である「事態の緊急性」の基準と「回復不可能な損害」の基準に関する先例を分析して、ガザにおいては二つの要件がまさに該当し、まさに人命およびその他の基本権に対する重大な危険が存在していることを主張している。
 弁論は、ガザにおいては現在、回復不可能な損害の切迫する危険性がより大きく、一層大きな深刻性を有する状況にあり、暫定措置の提示が要請されることを国際司法裁判所の裁判官に力説する。そして、ジェノサイド条約が人間集団全体の生存権の否定を問題にしていることに触れた上で、パレスチナ人に対する回復不可能能な損害の拡大を防ぐために緊急に必要とされる暫定措置を提示する希望は、まさにパレスチナ人の生存のためのものも含めて、いまや当裁判所の肩にかかっているとしている。]

(更なるジェノサイド行為の危険、回復不可能な損害の危険および緊急性)
(初めに、およびお詫び)
1. 裁判長、裁判官の皆様、こうして国際法廷で発言できることを光栄に思います。このような重大な事件に関して南アフリカの主張をご説明できる権利を与えられ、責任に応える所存です。
2. 私からは、当裁判所が暫定措置を命令するために必要とする条件のうち後の2件、すなわち、かかる権利侵害における緊急性と修復不能な損害の危険についてお示しします。
3. 当裁判所ではフランス語を使用する裁判官がいらっしゃるのを存じておりますが、南アフリカの請求書面がフランス語でなかったことを深くお詫びします。南アフリカの失礼に対してご寛容をお願いするものです。
4. ここからは英語でお話しすることをお許しください。
(概観)
5. 裁判長、裁判官の皆さま、イスラエルのジェノサイド条約違反によって引き起こされた回復不可能な損害からガザのパレスチナ人を保護するための暫定措置[*]が緊急に必要です。
[* 訳注: 国際裁判所規程第41条1項「裁判所は、事情によって必要と認めるときは、各当事者のそれぞれの権利を保全するためにとられるべき暫定措置を指示する権限を有する」。この仮保全措置は「事情によって必要と認めるとき」に指示されるが、判例によると、その要件は①応の管轄権の存在、②回復不可能な損害の存在、③事態の緊急性の3つである。]
6. 国連事務総長とその局長たちは、ガザの状況を「人間性の危機」(193)「生き地獄」(194)「血の海」(195)「徹底した深化する(比類のない)恐怖」(196)、「全住民が包囲され、攻撃を受け、生存必需品へのアクセスが拒否されている」(197)大規模な(198)状況などとさまざまに説明しています。国連人道問題事務次長は先週こう述べました。
「ガザは死と絶望の場所となった・・・家族は気温が急降下する中で野宿をしている。人々が安全のために立ち退けと言われた地域は爆撃を受けている。医療施設は容赦のない攻撃を受けている。部分的に機能している数少ない病院は、外傷患者であふれかえり、すべての物資が決定的に不足しており、安全を求める絶望的な人々が殺到している。公衆衛生の災害が起きている。過密状態の避難所では下水があふれ出していて、伝染病が蔓延している。この混乱の中で、毎日180人ものパレスチナ人女性が出産している。人々はこれまでの記録の中で最高レベルの食糧難に直面している。飢餓が間近に迫っている。特に子どもたちにとって、この12週間はトラウマ的なものだった。食べ物がない。水もない。学校もない。毎日、毎日、恐ろしい戦争の音しか聞こえない。ガザは人が住めなくなってしまった。ガザの人々は、自分たちの存在そのものが脅かされているのを毎日目の当たりにしている。世界はそれを見守っているだけだ」(199)。
7. 当裁判所は、おびただしい死者数を、そして7,000人以上のパレスチナ人男性、女性、子どもたちが行方不明になっており、死亡したこと、あるいは瓦礫の下敷きになって閉じ込められたままゆっくり耐え難い死を遂げていることが推定されること(200)を聴聞してきました。現場での処刑(201)、拷問、虐待の報告(202)が相次いでいます。殺された場所に埋葬されずに放置されたパレスチナ人男性・女性・子どもの腐乱死体、それらが動物によってつつかれている映像(203)もあります。ガザ内の大部分、つまり町も村も難民キャンプ全体も、地図から消し去られようとしています(204)。世界食糧計画によれば、「世界で飢饉または壊滅的なタイプの飢えにあえぐ人びとの5人に1人は、今まさにガザにいます」(205)。実際、専門家は、飢餓と病気の危険による死が爆撃による死を大幅に上回る危険があると警告しています(206)。
8. 毎日の統計は、その緊急性と回復不可能な損害の明らかな証拠となっています。現在の数字に基づくと、毎日平均して247名のパレスチナ人は殺害されているか、殺害の危険にさらされています(207)。その多くは文字通り粉々に吹き飛ばされています(208)。それには、毎日48人の母親、つまり1時間に2人の母親と(209)、毎日117人以上の子どもたちが(210)含まれます。ユニセフはイスラエルの行動を「子どもたちへの戦争」と呼んでいます(211)。現在の割合でいけば衰える気配はなく、3人以上の医療従事者(212)、2人以上の教師(213)、1人以上の国連職員、1人以上のジャーリストが(214)殺害されるでしょう。多くの者は仕事中に、家族の家または避難している場所を標的にしたとみられる攻撃に遭っているのです(215)。飢餓のリスクは日に日に増大しています(216)。必死に安全を求めて場所から場所へ移動する間に毎日平均 629 人が負傷し(217)、中には数回負傷する人もいます(218)。毎日、10人以上のパレスチナ人の子どもたちが片足または両足を失い(219)、その多くは麻酔なしで切断されました(220)。現在のペースで計算すると、毎日平均 3,900 棟のパレスチナ人の住宅が損傷または破壊されることになります(220)。大きな墓がもっと掘られるでしょう(221)。墓地はブルドーザーで破壊され(222)、爆撃され、死体は暴力的に掘り起こされ、尊厳も平安も死体には拒否されることになります(223)。 毎日、救急車、病院、医療従事者が攻撃され、殺され続けています(224)。国際的な支援を受けずに 3か月間を過ごした初動対応者は瓦礫の中から素手で家族を掘り起こそうとしていますが、今後も標的とされるでしょう(225)。負傷者を救出しようと現場に向かう人々に攻撃が向けられ、現在の数字に基づけばほぼ2日に1人が殺害されていくでしょう(226)。毎日絶望的な人々が避難している場所から移動することを一層強いられ、あるいは立ち退くように言われた場所で爆撃を受けることになります(227)。数世代にわたる家族が丸ごと消滅させられ(228)、さらにより多くの子どもたちは“WCNSF” (Wounded Child, No Surviving Family 負傷して生き残ったが家族のない子どもたち)になるでしょう。“WCNSF” は、これはガザ地区のパレスチナ人に対するイスラエルのジェノサイド的な攻撃から生まれた恐ろしい、新しい略語です(229)。
9. 本件で問題となっている権利に対する切迫した回復不可能な損害を防止するために、暫定措置をとる緊急の必要性があります。これほど明確で説得力のある事例はないでしょう。国連パレスチナ難民救済事業機関事務総長の言葉では、「ガザとその人々の虐殺に終止符を打」たなければなりません(230)。

(国際司法裁判所の判例法)
(緊急性の基準)
10. 国際司法裁判所の判例法に目を向けると、当裁判所が最近再確認したように、「回復不可能な損害をもたらすおそれのある行為が、裁判所が訴訟について最終決定を下す前の『いかなる瞬間にも起こり』うる場合には、緊急性の条件は満たされます」(231)。まさに本件がその状況になります。私が言及したような事柄はいつでも起こりえますし、現在も起こっております。国連安全保障理事会の決議は、ガザ全域に「人道支援を直ちに、安全かつ大規模に、妨げられることなく提供すること」(232)と、「完全かつ迅速で、安全な、妨げのない人道的アクセス」(233)を要求していますが、これはいまだ実施されていません。人道的停戦を求める国連総会決議(234)も無視されています。状況はこれ以上ないほど切迫しています。この手続きが開始された2023年12月29日以降だけでも、推定1,703人以上のパレスチナ人がガザで殺害され、3,252人以上が負傷しています(235)。

(回復不可能な損害— 人命およびその他の基本権に対する重大な危険)
11. 回復不可能な損害という基準について、当裁判所は過去数十年にわたり、人命またはその他の基本権に重大な危険が生じる状況において、その基準が満たされると繰り返し判断してきました。
12. グルジア対ロシア事件、アルメニア対アゼルバイジャン事件において、当裁判所は、数十万人が居住地から強制退去させられる場合には、回復不可能な損害を被る重大な危険があると判断し、暫定措置を命じました(236)。
13. 後者のケースにおいて暫定措置を命じた際に、当裁判所は、「必要物資の輸入が妨げられ、食糧、医薬品、その他の救命医療物資の不足を引き起こしている」ことを含めて、「住民が長年にわたって脆弱な状況にさらされている」という文脈に注目しました(237)。
14. ガザではご承知のように、人口の85%以上 にあたる200万人近い人々が、1度や2度ではなく、3回、4回と繰り返して(238)、家や避難所からの避難を余儀なくされ、狭い土地に押し込まれて爆撃され、殺され続けています(239)。これらの人々はイスラエルが16年に及ぶ軍事封鎖と大きな損害を与えた「開発不全」によって、すでに脆弱な立場に追い込まれていました(240)。今日では、イスラエルが食糧や必需品の輸入を「妨害」することによって、ガザは「飢饉の瀬戸際」に立たされています。母親、父親、祖父母は子どもたちが少なくとも何か食べることができるように定期的にその日の食物を見送っています(241)。医薬品の不足、医療、清潔な水、電気の欠乏は深刻で、多数のパレスチナ人が予防できる死を遂げたり、その危険にさらされています(242)。がん病棟やその他の診療科は長期にわたって停止し(243)、女性たちは麻酔なしで帝王切開を受けています(244)。ホラー映画に出てくるような、かろうじて機能している病院の中で(245)、多くの女性の命を救うために、本来なら不必要な子宮摘出手術が実施されています(246)。
15. カナダ・オランダ対シリアの拷問事件において、裁判所は「拷問およびその他の残虐で、非人道的な、あるいは品位を傷つける取り扱いまたは刑罰を受ける人は、……回復不可能な損害を被る深刻な危険がある」ことを明らかにしました(247)。ガザのパレスチナ人もまた、回復不可能な損害を受ける危険にさらされています。パレスチナ人の少年や男性が駆り集められ、裸にされ、品位を落とされる映像(248)が、あるいは深刻な身体的危害の映像や、深刻な精神的危害や屈辱の証言、重大な身体への加害の映像(249)とともに世界中に流されています。
16. カタール対アラブ首長国連邦事件において、当裁判所は、以下のような要因から派生する回復不可能な損害の危険を考慮し、暫定措置が正当化されると考慮しました。人びとを帰還の可能性なく居住地から強制退去させる、または「一時的もしくは継続的な家族からの分離」の心理的な苦痛、学生が「試験を受けられなくする」ことに伴う損害などです(250)。暫定的措置がその事件において正当化されるのであれば、無数の家族が離ればなれにさせられているガザにおいて、暫定措置が正当化されないわけがありません。ここでは、イスラエル軍の命令に基づいて避難する家族もいれば、負傷者や病人、高齢者の世話をするために極度の危険を冒してまで残る家族もいます。ここでは夫、父、息子たちは、駆り立てられて家族から切り離され、不特定の期間見知らぬ土地に連れて行かれています(251)。カタール事件では、およそ150人の学生への被害が問題となり、裁判所は暫定措置命令を出しました。ガザでは625,000人の子どもたちが3ヶ月も学校に通っていません(252)。国連安保理事会は、「教育へのアクセスの途絶が子どもたちに劇的な影響を与え、紛争が子どもたちの身体的・精神的健康に生涯にわたって影響を及ぼすことに深い懸念を表明」しています(253)。ガザでは、約9万人のパレスチナ人の大学生が大学に通うことができません(254)。学校の60%以上、ほとんどすべての大学、数え切れないほどの書店や図書館が損害を受けるか破壊され(255)、数百人の教師や学者が殺され(256)—大学の学部長や指導的なパレスチナ人の学者を含めて(257)—、ガザの子どもたちや若者の将来の教育の見通しをまさに消し去っています(258)。

(暫定措置とジェノサイド)
17. 注目すべきことに、当裁判所は、ジェノサイド条約違反との関連で以前に請求された3つの事件すべてにおいて、暫定措置の正当性を認めています。1993年のボスニア対セルビア事件では、現在当裁判所に提出されている証拠よりも説得力のない証拠に基づいて、「ジェノサイド行為が実行される重大な危険がある」と判断するには十分であるとしました(259)。当裁判所は、ガンビア対ミャンマー事件において、「……大量殺りく……と殴打、村落と住居の破壊を受け、食料・シェルター・その他の生活必需品へのアクセスを拒否された」ロヒンギャに対する回復不可能な損害の危険性を根拠にして、暫定措置が正当性であることを認めました(260)。
18. より最近では、ウクライナ対ロシア連邦事件において暫定措置を示す際に、当裁判所は、ロシアの軍事活動が「多数の民間人の死傷者をもたらし」、建物やインフラの破壊を含む重大な物的損害を引き起こした」ために、回復不可能な損害を被る危険性があると判断しました(261)。裁判所は「攻撃が継続中であり、民間人にますます困難な生活状況をもたらしている」事実に対して、極めて脆弱な状態のもとにあるとみなしました(262)。裁判所はまた、「多くの人々が最も基本的な食料品、飲料水、電気、必要な医薬品、暖房器具を利用できない」という事実、そして多くの人々が「極めて不安全な状況下」で避難を試みていることも考慮しました(263)。ガザでは、包囲され、閉じ込められ、安全な行き場を失い、恐怖におののく人々に対して、このような事態がより集中的な規模で起きています。

(武力紛争状況における暫定措置)
19. 誤解を防ぐために申し添えますと、ウクライナ対ロシア連邦事件から明らかなように、武力紛争状況において回復不可能な損害の緊急の危険が生じるという事実は、暫定措置の要請を弱体化させ、ましてや妨げるものではありません。このことは、当裁判所の他の判決からも明らかです。
20. コンゴ領における武力活動(コンゴ民主共和国対ウガンダ)事件の場合(264)においては、例えば、裁判所は、「コンゴ領に存在する個人、資産、資源は、特に紛争地域において極めて脆弱であり」、「本件で争点となっている権利が回復不可能な損害を被る深刻な危険がある」という発見に基づいて、暫定措置を命令しました(265)。同様に、コスタリカ対ニカラグア事件でも、裁判所は、紛争地における軍隊の存在が、「身体的傷害または死という形で救済不可能な損害を引き起こしかねない事態の現実かつ現在の危険を生じさせた」ことを根拠にして、暫定措置を提示しました(266)。
21. 特にジェノサイド条約に関連して、当裁判所はガンビア対ミャンマー事件において、「締約国は、ジェノサイドを、それが生じる『平和』または『戦争』の文脈とは独立して、防止し処罰しなければならない国際法上の犯罪とみなす意思を明示的に確認した」ことを想起しました(267)。
22. より最近では、ガイアナ対ベネズエラ事件において、裁判所は、ベネズエラが「係争中の領土を支配・管理するようになる」重大な危険が、この訴訟で主張された権利に回復不可能な損害を与える危険性を生じさせると判断しました(268)。イスラエル政府のメンバーによって提起されているガザに対する領土的野心と入植計画、そしてそれらの要因がガザのパレスチナ人の生存そのものに関係していることを考慮すれば、同様の要因がここでも問題になってきます。

(暫定措置と危険の緩和)
23. 同様に、イスラエルがガザへの人道的救援物資の搬入を拡大することは、本手続に対応するためであれ、それ以外の理由であれ、南アフリカの暫定的要請に対する回答にはなりません。イラン対アメリカ合衆国の事件では、裁判所は、「医薬品および医療機器」、その他の「人道上の必要性に必要な物品」 に対する制限によって、個人が「健康と生命に対する危険」にさらされることによって(269)、回復不可能な損害を被るリスクがあると認定しました(270)。米国が人道的問題の検討を促進することを確約したにもかかわらず(271)、必需品はいかなる場合でも米国の制裁の対象外であったという事実にもかかわらず(272)そう判断したのです。裁判所は、この保証は「提起された人道上および安全上の懸念に完全に対処するには十分ではない」し、米国が採用した「措置は修復不能な状態につながる可能性がある」と判断しました(273)。
24. アルメニア対アゼルバイジャン事件では、人道援助物資・商業物資搬入の全面的再開には及ばない移動制限の一方的な緩和を実施しても、暫定措置命令の要求は阻止されなかったのです(274)。裁判所は、軍事作戦の結果から生じる「回復不可能な損害を被る差し迫った危険を軽減することに寄与している」としながらも、こうした進展は「危険を完全に除去するものではない」ことを明らかにしました(275)。実際、グルジア対ロシア連邦事件において、裁判所は、「事態が不安定で急速に変化する可能性がある」場合には、「深刻な危険」が存在するとみなすことを明言しています。裁判所は、「継続する緊張と、この地域における紛争の全体的な解決の不在を考慮すると、………住民もまた脆弱な状態にとどまっている」と判示しています(276)。
25. イスラエルは、ガザが飢餓に瀕しているにもかかわらず、自国が引き起こした人道危機の責任を否定し続けています(277)。遅ればせながら許可し始めた援助は、まったく不十分なものであって(278)、封鎖の下でも、2023年10月まで1日平均500台のトラックの搬入が許可されていた(279)状態には到底及びません。イスラエルが将来の援助について一方的に約束するとしても、ガザに対する16年間の残忍な包囲を含めてパレスチナの人々に対して行っているイスラエルの過去と現在の行動を考慮すれば(280)、回復不可能な損害を被る危険を取り除くことはできません。
26. いずれにせよ、国連事務総長が疑いの余地なく明言しているように、「ガザにおける人道活動の有効性を、許可されたトラックの台数をベースにして測るのは誤り」です(281)。事務総長が強調したように、「現実の問題は、イスラエルがこの攻勢を実施している方法」は、「人道的援助の効果的な配達の条件がもはや存在していない」(282)ことを意味しています。その条件は、「安全確保、安心して働けるスタッフ、ロジスッティックな能力、そして商業活動の再開」を必要とします。それは、電気や安定した通信手段も必要とします。しかしながら、これらすべてが欠如したままです」(283)。実際、イスラエルが2023年12月下旬にケレム・シャローム検問所を物資輸送に開放した直後に、同検問所は無人機による攻撃を受け、パレスチナ人5人が死亡し、また一時閉鎖となりました(284)。どこにも、だれにも、安全などないのです。国連事務総長とそのすべての責任者が明らかにしたように、イスラエルの軍事行動を停止させなければ、検問所、援助物資輸送団、人道支援要員はガザにいるすべての人、他のすべてのものと同様に、更なる回復不可能な損害を被る危険が差し迫っています(285)。これまでに148人の国連職員が殺害されており、前例のないことです(286)。イスラエルによるガザでの軍事活動が停止しない限り、パレスチナの市民が直面している極限的な状況に終わりはありません。

(暫定措置とガザ)
27. 裁判長、裁判官の皆様、暫定措置の提示が私が引用したような事実関係において正当化されるのであれば、回復不可能な損害の切迫する危険性がさらに大きく、しかもより深刻である本件において、暫定措置の命令がなされないはずはありません。人道援助のベテランたち、遡ればカンボジアのキリング・フィールドのような危機も熟知した人びと(287)、国連事務総長の言葉によれば「すべてを見た人々」(288)が、「説明する言葉がない」ほどまったく「前例のない」(289)この事態において、暫定措置が正当化されないことは考えられません。
28. 本件において当裁判所が暫定措置を命じないことは、当裁判所が確固として確立し、最近になって再確認してきた法学のラインから完全に逸脱することになりましょう。ガザのパレスチナ人が今日直面しており、この審理が続いている間も毎日危険にさらされている死の、損害の、破壊の切迫した危険は、暫定措置の提示を実際に強いるものであり、またどんな見解を取ろうと正当化するものです。国際法の評判そのものが、すなわちすべての人々を平等に拘束し保護するその能力とその意欲が、試練に立たされていると表現する人がいるかもしれません。

(初歩的な道徳性の原則)
29. しかし、ジェノサイド条約は判例以上のものです。それはまた基本的には「初歩的な道徳性の原則の確認と承認」(290)です。当裁判所はジェノサイド犯罪に関する1946年の国連総会決議を想起しました。それは、以下の通りです。
「ジェノサイドとは、個々の人間の生命への権利を否定する殺人と同様に、人間集団全体の生存権の否定である。このような生存権の否定は、人類の良心に衝撃を与え、これらの人間集団によって代表される文化的その他の形態における人間性への大きな損出という結果をもたらす。それは、道徳法に反し、国際連合の精神と目的に反する」(291)。

30. ジェノサイド条約がこのような「憎むべき災い」を世界からなくす必要性を認めているにもかかわらず、国際社会は何度も失敗してきました。国際社会はルワンダの人々を守れませんでした(292)。ボスニアの人々やロヒンギャの人々を失望させ、当裁判所に行動を起こさせました(293)。昨年10月19日以来、国際的な専門家たちによって警告された「パレスチナ人民に対する大量虐殺の重大な危険」という早期の警告を無視することによって、国際社会はふたたび失敗しました(294)。
31. イスラエル政府高官や軍高官による非人間的な虐殺的レトリックが、イスラエル軍の現地での行動と一致しているにもかかわらず、またパレスチナ人に対する大量虐殺の恐怖が、ガザから私たちの携帯電話、パソコン、テレビ画面にライブストリーミングされているにもかかわらず、国際社会はパレスチナ人を失望させ続けています。これは、世界が何かしてくれるかもしれないという、絶望に近い、そして今のところは虚しい希望をもって、犠牲者たちがリアルタイムで自ら自身の破壊を放送している、歴史における最初のジェノサイドです。ガザは、普段は慎重な赤十字国際委員会が説明していように、「道徳的失敗」に他ならないものです(295)。国連の局長たちによって強調されているように、この失敗は「ガザの人々だけでなく、この90日以上に及ぶ地獄と人間性の最も基本的な教訓に対する攻撃を決して忘れることのない来るべき世代にも、後々まで残る影響」をもちます(296)。先週、ガザで国連の報道官が述べたように、赤新月社のシンボルが明記された病院跡地で、生後5日の赤ん坊を含む5人のパレスチナ人が殺害されました。「世界は絶対に驚愕すべきです。世界は絶対に憤慨すべきです・・・ガザには安全な空間はありません。世界は恥を知るべきです」(297)。

(結論)
32. 裁判長、裁判官の皆さま、最後に2枚の写真をお見せします。1枚目は、この野蛮な3カ月間にわたってイスラエルが標的とし、包囲し、爆撃した多くのパレスチナの病院のひとつである、ガザ北部のある病院のホワイトボードの写真です(298)。ホワイトボードには、もはや手術が不可能な外科症例が拭き取られ、国境なき医師団の医師による手書きのメッセージが残されています。「私たちはできることをしました。私たちのことを忘れないでください」とあります。
33. 2枚目の写真は、11月21日、このメッセージの作者であるマフムード・アブ・ヌジャイラ医師と彼の同僚2人が殺害されたイスラエルの攻撃後の、同じホワイトボードの写真です(299)。
34. それから1ヵ月ほど後にベツレヘムの教会では力強いクリスマス説教がありました。この日はイスラエルが250人のパレスチナ人を殺害し(300)、マガジ難民キャンプへの一撃だけで少なくとも86人が、その多くは同じ家族の人々が殺されたのです(301)が、パレスチナ人のムンザー・アイザック牧師は会衆と世界に向けて語りかけました。
「私たちが知っているガザは、もはや存在しません。殲滅されたのです。これはジェノサイドです。しかし私たちは立ち上がる。私たちは破壊の中から再び立ち上がるのです。これまでで最大の打撃かもしれないが、パレスチナ人として常にそうしてきたように。
しかし、彼は続けます。
「ジェノサイドの後では、謝罪は受け入れられません。起きたことは起こったのです。どうか皆さんは鏡に向かってこう尋ねてほしい。『ガザが大虐殺を経験したときに、私はどこにいたのだろうか』」(302)。
35. 南アフリカは、“平和宮”と名づけられたこの裁判所にいます。南アフリカはできる限りのことをしました。この手続を開始することによって、イスラエルに対してだけでなく、自国に対しても暫定措置を求めることによって、できることをしているのです。
36. 南アフリカはいま、この名誉ある裁判所に対し、謹んで、謙虚に、行うことのできる権限を果たすように要請します。それは、パレスチナ人に対する回復不可能な損害の拡大を防ぐために緊急に必要とされる暫定措置を提示することです。その希望は、まさに彼らの生存のためのものも含めて、いまや当裁判所の肩にかかっています。
37. 裁判長、裁判官の皆様、ご清聴ありがとうございました。キングス・カウンシルのロウ教授にご登壇いただき、パレスチナの人々のために南アフリカが主張する暫定措置について説明していただきたいと思います。
(裁判長: ニ・グラーレーさん、ありがとうございます。)

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