皇室情報の検証② 〈象徴天皇教〉と憲法をめぐる問答

「皇位継承」に関する「有識者会議」の
「最終報告」をめぐって

天野恵一

—さて、天野さん、前回は、私少しハシャギ過ぎだから、冷静に行きますね。去年の12月1日は天皇家の長女愛子さんの20歳の誕生日、成年皇族になった。秋篠宮家の眞子さんの結婚騒動との対比で、「愛子さま」への期待が高まっているという感じの報道ですが、これからいきますか。

天野 ウーン、「青年女性皇族」の正装、頭にのせる「ティアラと勲章を着用したローブデコルテ」というロングドレス初披露とかで、キチンと皇室儀礼をした彼女へのヨイショ記事と写真がマスコミに大量に流れていた。コロナ禍での国民の生活を考慮して、天皇の妹ですでに結婚して民間人になっている黒田清子に借りたティアラですませたという「国民」をおもんぱかったというどうでもいい「美談」。「マコ」のマイナスイメージと対比して「ありがたい人」イメージアップが続いているだけでしょう。
 そんなことより、今回は去年の12月23日に「安定的な皇位継承のあり方を議論する政府有識者会議」の最終報告が岸田文雄首相に提出されたでしょう。この「会議」グスグス延長され続けてきたけど、まとまった。この内容、天皇制の未来を考えるうえで、重要。これの具体的内容を、できるだけ正確に読んどくことをしようよ。

—ハイ。そうしましょう。でも結論は「女性天皇」ナシで、新鮮味のない、右翼の人が喜ぶような内容のものなんでしょう。

天野 それは、そうなんだけど、天皇制の制度を公然と変更する作業なんだから……。

—その点はわかります。読んで来い、というから『象徴天皇制の構造—憲法学者による解説』(日本評論社、1990年)の中の横田耕一さんの「『皇室典範』私注」も読んできましたよ。どう「皇室典範」を変えるんでしょう。

天野 まず、この件に関する長いプロセスを確認する作業から始めましょう。平成のアキヒト天皇の「生前退位」を可能にする「特例法」が2017年6月9日に成立。これには付帯決議がついており、そこには、政府は「安定的な皇位継承を確立するための諸課題」や皇族女性が結婚後も皇族にとどまることができるよう「女性宮家」の創出も検討すべし、と書かれていた。
男系天皇絶対の安倍晋三首相は「女性(系)天皇」問題が浮上してくるのを嫌ってこれに積極的に取り組む姿勢はなかった。天皇「代替り」のラストの儀式「祝宴『宮中饗宴(きょうえん)の儀』→立皇嗣の礼」が終了する4月21日以降に本格的論議するとし、それまでは、非公式に「学識経験者」なる人々の意見を聞いてまわるという方法で「有識者」の「会議」なるものをもうけなかった。そのプロセスで、「女性・女系天皇」については「議論」しないという基本方針を決めました。
 2020年2月16日の新聞、『読売』の一面にはこうあります。
 「政府は、皇位継承のあり方をめぐる論議で女性・女系天皇を対象としない方針を固めた。男系男子が皇位を継ぐ皇室制度を維持する。」
 7年8ヵ月におよぶ安倍政権の「継承」を公言した次の菅政権は、もちろんこの「基本路線」も継承した。そして、すぐつぶれたこの政権の「継承」政権である岸田文雄政権の去年12月6日の国会所信表明演説の日、3月につくられていた「安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議」(座長は清家篤・元慶応義塾塾長)は、最終報告の骨子を確認した。内容は安倍から菅へそして岸田に継承された女性・女系天皇については触れないという「基本方針」に基づいて、①女性天皇皇族が結婚後も皇室にとどまる、②旧宮家の男系男子が養子として皇族復帰、この2案を軸とすることを決定。これを報じた『朝日新聞』(12月7日)は、こう論じています。
 「結論を急げば、『国民統合の象徴』をめぐって国論を二分しかねない。政府には当初から「踏み込んだ論議への警戒があった。この先の論議は国会に委ねられることになる。」
 世論調査では圧倒的多数の国民が支持する「女性(女系)天皇制」は神権主義天皇制論者たちが大反対、天皇をめぐって大きな議論は避けたいのが政府。そうすると、こんなことにおちついてきたのだろうね。
 
—でも、岸田首相自身、確か「女性(女系)天皇」反対論を、いつか公言していた人物だったんでしょう。

天野 まあ、そう報道されたけど、まったく安倍と同一ってわけではないようですよ。その問題については『選択』という権力者たちの情報紙の2020年の1月号の「なぜか存在霞む『神道政治連盟』」というレポートを紹介します。

 「安倍首相は、憲法改正を目標に掲げているが、こちらも掛け声倒れに終わりそうな雲行き。運動目標を軽視されても、神政連はじっとがまんしてみているだけなのだ。/神政連が筆頭に掲げる男系男子による万世一系の皇室護持についても同様である。昨年十一月に今上天皇の大嘗祭が終わった直後から、自民党幹部による『女系天皇容認』ともとれる発言が相次いだ。中でも甘利利明・党税調会長はテレビ番組で『男系を中心に順位を付け最終的な選択として女系も容認すべきだ』と語っている。至極まっとうな意見であるものの、同氏も神政連議連のメンバーである。/岸田文雄・党政調会長は十一月二十五日の会見で『皇室の長い歴史や伝統を考えた場合、女系天皇は慎重に検討すべきだ』と語った。岸田氏もまた同議連に参加しており、新聞などは『一連の容認発言に反対の立場をとった』という分脈で報道された。『本来は、検討の俎上にさえ載せるべきではないというのが神政連や神社本庁の立場、岸田氏もまた検討を容認している時点で、甘利氏らと五十歩百歩だ』。/ある神政連関係者はこう憤る。」

—ナルホド、ゴリゴリの「男系」主義者ではないわけね。

天野 岸田のいる自民党内の派閥からいってもゴリゴリの右翼文化じゃないね。信念を持った伝統主義右翼なんてもともとあてにならないけどね。なにせ、みんな親米右翼だからね。アメリカの意向にそった改憲論者たちだからね(「売国ナショナリズム」!)。

—そういう流れのゴールとして、去年12月22日の最終報告が岸田首相に提出されたということになるわけね。骨子の①「女性皇族が結婚後皇室にとどまる」と②「旧宮家の男系男子が養子として皇族復帰」の2案の線で、どうまとめられたの。

天野 『朝日新聞』の12月23日の見出しはこうです。「将来の皇位継承示さず」「女性皇族結婚後も皇族に」「旧宮家の男系男子復帰も」。そこでは、こう解説されています。
 
 「①について、有識者会議が七月に整理した案では、女性皇族は結婚後も『皇族の身分を保持することを可能にする』としていた。最終方向では『保持することとする』と表現を改めた。ただ、現在の女性皇族については『現行制度下で人生を過ごされてきたことに十分留意する必要がある』とも記した。/②は、皇室典範で皇族に認められていない養子縁組を可能にして、1947年に皇籍を離脱した旧11宮家にルーツのある男系男子に皇族に復帰してもらう案だ。養子となって皇族となった人は『皇位継承資格を持たないこととすることが考えられている』と併記した。/①、②で十分な皇族数を確保できない場合に、法律で旧宮家を直接に皇族にする案も示した。現在、次世代を担う皇位継承者は秋篠宮さまの長男、悠仁さま(15)のみ。報告書は悠仁さま以降の皇位継承は『機が熟していない』として、悠仁さまの年齢や結婚をめぐる状況を踏まえて、将来議論すべきだとした。皇族数を維持して、公的活動を維持したり、天皇の負担を軽減したりすることに主眼が置かれ、女性・女系天皇の是非などには触れなかった。」

 念のため、女系天皇制というのは例えば、天皇の娘が女性天皇となり、彼女が天皇家の血族でない「民間」男性と結婚してできた子供が次の天皇ということになれば天皇の男系の「血」が途絶えてしまう、男系「万世一系」の神々の一族の血の入っていない天皇ができてしまう、これが「女系天皇」。こんなことは絶対許されない、これが神様天皇主義者の「国体」論。だから、女性(女系)天皇にだけは踏み込まない、というのがこの「最終報告」を支配している論理です。

—ウーン、でもサー、結局「皇族」をふやす方法について、あれこれ論じているし、それはこの方針で可能なんだろうけど、「皇位継承」者をふやすという政府や天皇家にとってもっとも重要な問題は、これでは展望が開かれないじゃない。なんのために長い間、議論してきたのかしら。私らにとってはどうでもいいこと事だけど(笑)。

天野 まったく、その通り。女性(女系)天皇制をストップさせて、では、その展望は、彼らにとっては開かれないでしょう。ザマーミロのジレンマですね。

—でも、「女性(女系)天皇」制に変えるという方向にも天野さんたちは反対なんでしょう。

天野 もちろん。安定的に天皇制という国の差別制度を維持する必要なんか認める必要はありませんから、賛成するなんてことはありえません。

—旧宮家でも皇族復帰をみとめるのは「男系男子」のみ。それでも、一度「皇族」でない生活をした人間には、「皇位継承」資格は与えない。これは天皇家(皇位)の男系の〈純潔〉にこだわった結果ですよね。

天野 もちろん、12月23日の『産経新聞』に「最終報告」の要旨が全文紹介されていたから、そこから引いておくね。

 「皇族数が減少する中で、皇族が養子を迎えることを可能とし、養子となった方が皇族となり、皇族の役割、皇室の活動を担っていただくということはとり得る方策であると考える。その場合、皇族が男系による継承を積み重ねてきたことを踏まえると、養子となり皇族となる者も、皇統に属する男系の男子に該当する者に限ることが適切であると考える。」
 「この方策については、昭和22年10月に皇籍を離脱したいわゆる旧11宮家の皇族男子の子孫である男系の男子の方々に養子に入っていただくことが考えられる。これらの皇籍を離脱した旧宮家の皇族男子は日本国憲法および現行の皇室典範の下で、皇位継承資格を有していた方々であり、その子孫の方々に養子として皇族となっていただくことも考えられるのではないか。」「また、皇位継承に関しては、養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たないとすることが考えられる。」

—戦後の憲法ができ、皇室典範も戦前のものとはまったく別の性格なものになったことと対応して「宮家の皇族離脱」がうまれたんじゃないの。

天野 ウン、戦後の憲法・皇室典範下でも「資格を有していた方々」という主張にこれは私もひっかかって、調べてみました。1947年5月に新憲法と新「典範」は施行されており、「宮家の皇族離脱」は1947年10月。少し後ですぐ離脱しているから、こういう屁理屈が主張されているのだと思う。

—敗戦と占領で強制されたのでしょう。

天野 もちろん、大きな流れはそれ。「離脱」プロセスでの離脱する皇族へのお金の流れなどを国会などでチェックするために、新憲法や新「典範」ができる以前にそうすべきものだったものを「離脱」の正式決定は遅らせたようです。

—だとすれば、ずいぶん変な論理ね。

天野 まあ、法的な妥当性があるように見せるための苦しい理屈ですね。このくだりにこの報告のインチキさ、男系血統主義の「合法性」の政治演出ぶりのグロテスクさがよく示されていますね。
 「内親王・女王は結婚後も皇族の身分を保持することとし、婚姻後も皇族としてさまざまな活動も行なっていただく」という方向は、一人も逃がさない方向へ制度を変更するというのだから……。

—天野さんが、マスコミサイドのわかりやすい決定版的整理だから読めというから『文藝春秋』(2021年12月号)の「秋篠宮家『秘録──この三年間で何が起きていたのか』」という特別取材編のレポート、読みました。「眞子」さんも「佳子」さんも、こういう制度がつくられて、皇室という「不自由」な世界から脱出できなくなることを以前から予測して、動いていたんですね。「眞子」さんは取りあえず、いそいで結婚して、ニューヨークにまで逃げて脱出に成功したんですね。脱出願望は姉以上のようだから、「佳子」さんはあせっているでしょうね。彼女は、間にあわないことになったら、気の毒だと思いませんか。彼女らの立場から見れば、ずいぶんひどい制度改革ですね。こんな不自由をあらためて平然と強要するなんて。こういう批判の声は、今のところマスコミにはゼロですね。天野さん、こういう考えはおかしいですか。

天野 イヤ、気持ちはわかります。特に、彼女らのこの〈超特権的奴隷制度〉からの「脱出」の意思は強かったようですから。ただ、この皇室制度が基本的にまるごとグロテスクであることが、トータルに批判されるべきだと思います。「マコ」脱出劇は、そのことを私たちに見えやすく示してくれたという点はありますね。

—「皇室と人権」の問題、女性(系)天皇制評価の問題、まだまだ聞きたいことは、山積みですが、今日は、ここまで。次回以降も、今回のような平穏なやりとりでいきたいですね(笑)。

天野 「平穏」でなくなる責任はあなたの方にあるのでは(笑)。

—そんなことありません(笑)。終わります。

*初出:『市民の意見』 189 号 2022. 2. 1(市民の意見30の会・東京発行)

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