伊賀正浩(「戦争教科書はいらない」大阪連絡会共同代表)
小泉防衛大臣は6月19日の定例記者会見において、「まるわかり!日本の防衛」(以下、「こども防衛白書」)の学校現場への配布について次のように語りました。
2024年度版は9つの都道府県の教育委員会から協力が得られ、防衛省から各小学校に配布した。他の38都道府県からは協力が得られず、市町村教育委員会と直接調整してくれと言われたが、調整先の数が大きくなるのでマンパワーが足りず、断念した例が多くあった。今後は文科省とも協議の上、都道府県教育委員会からより多くの協力を得て、小学校だけでなく中学校・高校にも配布を拡大していきたい。
2025年7月の長崎放送によれば、「2024年度版」は全国約2400校の小学校に約6100冊が送られ、長崎市内の67の小学校には5月下旬に九州防衛局から送られてきました。「こども防衛白書」は2021年から毎年作成されネット上で公開されてきましたが、学校に直接送付されたのは2024年度版が初めてでした。
「2024年度版」の配布は必ずしもうまくいかなかったわけですが、高市政権の軍拡政策にのっとって、子どもたちを軍隊と戦争に導く冊子を、防衛省が小中高校生にまで拡大して配布することを進めようとしているのです。
「こども防衛白書」は、防衛省が学校教育に直接介入し、子どもたちに高市政権の防衛政策を一方的に押しつける文書です。私たちは教育委員会が教育の原点に立ち戻り、同文書の小中高生への配布に協力しないよう要望しています。
ことさら危機を煽り、軍事力の必要性を強調
「こども防衛白書2026」では、「自衛隊の一番大事な仕事って何?」から始まり、「もし他の国が日本を攻めてきた場合、ミサイル攻撃などで国民の平和な暮らしが破壊される」と危機を強調し、「自分たちの国を守り抜く意思と能力があることを周りに示し、日本から何かを奪うのは難しいと他の国に思わせることが必要」と、軍事力の必要性を説きます。そして、「自衛隊の装備品について詳しくなろう」では、兵器のあれこれや、武力を使った撃退法を紹介しています。
しかし、これは日本国憲法第9条第1項の「武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する」に違反しています。2022年に当時の岸田政権は「敵基地攻撃能力」の保有を決定し、先制攻撃への道を開きました。高市政権は「核共有」によって、核兵器による脅しの力に依存しようともしています。しかし、81年前のアジア・太平洋戦争の反省の上に成立した憲法第9条は、踏みにじられているとはいえ破棄されたわけではありません。にもかかわらず防衛省は「武力による威嚇または武力の行使」を正当化した冊子を作成し、子どもに直接教えようとしているのです。明らかに憲法違反の冊子に他なりません。
特定の国を敵視し、排外主義を煽ることは、学校でいじめや人権侵害を生まないでしょうか
「こども防衛白書2026」は、軍事力を強化している日本のことはさておき、中国・北朝鮮・ロシアの3国の名前をあげて、「日本の安全保障環境が厳しくなっています」と脅威を煽っています。こうした名指しの危険な国扱いは、子どもたちにこれらの国への敵対心を植え付け、その国につながる子どもを深く傷つけます。「多文化共生教育」に反し、子どもたちの分断、いじめ、人権侵害につながる危険性があるのではないでしょうか。学校で教えるべきは、国籍に関わらず「誰もが平等で、命の重さは同じである」こと、国家間の紛争は武力によってではなく、政府の「外交努力」と民間をも含めた「国際交流・支援」などによって、平和的に解決することの大切さです。これこそが日本国憲法の平和主義の精神に沿う教育ではないでしょうか。
日米一体となった戦闘態勢を讃美し、戦争を肯定してよいのでしょうか
「こども防衛白書2026」は、アメリカとの軍事協力の重要性を詳しく取り上げています。「もしどこかの国が日本に対して攻撃しようと考える場合、その国は世界一の軍事力を持つアメリカ軍と直接対峙することを覚悟しなければなりません」と書いており、アメリカ海兵隊と自衛隊との大規模な実弾演習(レゾリュート・ドラゴン25)も紹介しています。これはアメリカ軍を司令塔として、日本列島と東・南シナ海を組み込む戦闘態勢を完成させるものです。自衛隊がアメリカ軍と一体化して、アジアで戦争をすることにつながります。81年間、戦争をしなかった日本が再び「戦争をする国」になってしまうのです。
一方で、日本国内だけを見ても、沖縄にはアメリカ軍基地の70%が集中し、アメリカ兵による女性への暴行事件があとをたちません。基地周辺のPFASによる水質汚染の被害も全国で拡大していますが、日米地位協定に阻まれて、日本政府は立ち入り調査すらできず、住民の健康が脅かされています。しかし、こうしたマイナス面は一切書かれていません。きわめて内容が偏っています。
「こども防衛白書2026」は、子どもをだます欺瞞だらけの文書
「こども防衛白書2026」では、「国防」が大きく取り上げられ、日本政府の考えとして次の4点を上げています。 ①専守防衛 ➁軍事大国にならない ③非核三原則 ④文民統制。 これらは歴代内閣が何度も強調してきたことです。しかし高市政権は発足以来、ことごとく裏切っているのではないでしょうか。
①「専守防衛」について
これはすでに岸田政権が先鞭をつけました。「敵基地攻撃能力」を持つと明言し、先制攻撃をおこなうことを可能にしました。
②「軍事大国にならない」について
日本は長い間、防衛費はGDPの1%以内としてきましたが、今年度すでに2%に近づいています。軍需産業を成長分野として奨励し、「殺傷能力のある武器輸出」まで認めました。今後は世界中の戦争で日本製の武器が人を殺すことになります。
③「非核三原則」について
小泉防衛大臣は核兵器について「タブーなく議論しなければならない」と踏みこみ、自ら「非核三原則」を踏みにじりました。高市総理大臣は今年の広島・長崎の平和記念式典で「非核三原則を堅持している」とは言いましたが、「今後とも堅持していく」とは決して言いませんでした。
④「文民統制」について
現職自衛官が制服を着て自民党大会で「君が代」を歌いました。政治的中立性を義務づけられた自衛官が特定政党の大会で歌うことは許されません。自民党による自衛隊の政治利用に対し、小泉防衛大臣は「自衛隊法違反ではない」と容認し、自らシビリアンコントロールの原則を破りました。
自衛隊の装備と活動の宣伝、宣伝、大宣伝! 教育の場を自衛隊の宣伝の場にしてはなりません。
「自衛隊員について詳しくなろう」では、10ページを使って「女性自衛官の活躍」「自衛官のコースや職種」「階級章やバッジ」「陸海空の名物料理」「ブルーインパルスの活躍」など、まるで自衛隊への勧誘パンフレットそのものです。さらには、「自衛隊の整備品について詳しくなろう」では、「敵基地攻撃能力」を備えた空母化された護衛艦や1000㎞を越える射程を持つ地対艦誘導弾、最新ステルス戦闘機などを紹介しています。高市政権が進めた「防衛装備移転三原則」の改訂や「5類型」の撤廃を受けて、他国との武器共同開発や武器輸出について「地域の安定につながっています」と、政府の政策をあからさまに宣伝しています。さらに冊子の最後には、自衛隊の「キッズサイト」や「自衛隊募集ページ」等を紹介したり、自衛隊員なるための様々なコースを紹介したりしています。
なぜ防衛省は『こども防衛白書』を子どもに直接渡そうとするのか……深刻な自衛官不足
これまで政府・文科省は「国防」「自衛隊」については教科書に記述させようとしてきました。それだけではなく、育鵬社や自由社といった右派系出版社の中学校公民教科書を検定に合格させ、安倍政権はこれらの教科書の採択の後押しすらしてきました。だが、育鵬社・自由社の採択は伸びず、他社は多少の違いはあるものの、今も記述は抑制的です。これにいらだったからか、防衛省が直接学校に「副教材」の形で送りつけ、授業で使用させようとしたのではないかと考えられます。
防衛省が「こども防衛白書」を何が何でも子どもに渡そうとするのは、自衛官の不足が自衛隊の最大の問題になっているからです。これまでも防衛省は様々な形で自衛隊の宣伝をし、15歳、18歳の節目の子どもたちに、職業選択先の一つとして自衛隊を考えさせるためのリクルート活動をしてきましたが、大きな成果を上げることはできていません。現在、自衛官は定員約24万7千人に対して約3万人不足し、少子化の進行の中では若手隊員の不足が特に深刻だと言われています。そのため、小学生にまで国防の意義を強調し、バラ色の自衛官生活をイメージさせようとしているのではないでしょうか。
さらなる署名の拡大にご協力をお願いします
戦前、学校は「教育勅語」と国定教科書で教育内容を縛られ、教員は軍国少年・少女を育成することを任務としていました。その結果、日中戦争、太平洋戦争へと突き進み、日本国民が壊滅的な被害を受けるだけでなく、アジア諸国の人々にも多大な被害を与えました。「こども防衛白書2026」は「軍国主義教育」の復活に道を開くものであり、私たちはいまこそ歴史の教訓に学び、同文書を子どもたちに絶対に手渡してはならないと考えます。
すでに防衛省は各都道府県教育委員会に順次配布の協力要請を始めています。何としても教育委員会に配布協力をさせないように声を届けたいと思っています。私たちの提起するネット署名は3万を超えています。10月中旬には全国の都道府県教育委員会に署名を届けたいと思っています。ぜひとも多くのみなさんの署名への協力を呼びかけます。
署名ページは以下です。
https://www.change.org/Kodomo_Bouei_Book
