鉄火場宏
麻生を先頭にした「男系男子」維持派は、「皇室典範」改正にあたっての政府案取りまとめの段階で、それまで続けられてきた(それ自体が紛い物である)「立法府の総意」づくりの話し合いでの一応の「合意」すら、あっさりと飛び越して、男系男子による皇位継承に固執・執着する案を作成した。
そもそもここまでの経緯では、「皇族数の確保」のための話し合い(全体会議)であったはずのものが、合意が難しいとして棚上げされていた「安定的な皇位継承」に、最終段階で、突如としてすり替えられたのである。
2017年成立の天皇退位特例法に付された附帯付帯決議「政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること」が、安倍、菅、岸田、石破政権下で「先延ばし」されてきたものが、ようやく2024年以降本格的に、衆参両院の正副議長と与野党すべての党・会派の代表参加の「全体会議」で話し合われてきた。
6月10日には、この全体会議によって「立法府の総意」として、「皇族数の確保策」に関しては、女性皇族が結婚後も皇族身分を保持する案と、旧宮家系の男系男子を養子として皇族に迎える二案が決定された。一方で、「安定的な皇位継承」については「今後も検討を続ける」という形で先送りされていた、はずであった。
ところが、この「立法府の総意」を受けて作成された政府案(自民党もそれを承認・閣議決定)は、男系男子による皇位継承を確かにし、女性(愛子)天皇・女系天皇排除を確定する内容のものである。
全体会議の結論(「立法府の総意」)を無視して、法案には、1)天皇および皇族以外の男子と婚姻した女性皇族については住民基本台帳法を適用する、2)皇族となった旧宮家の養子本人は皇位継承資格を持たないが、その子孫の男子は資格を持つ、の2点が盛り込まれた。
1)の結婚した女性皇族に「住民基本台帳法を適用」ということは、女性宮家は創設せず、女性皇族の配偶者とその子供を皇族としない、ということの表現である。その上で、2)は、文字通り、養子の子(男児)に皇位継承者を与えるということを明確にしたものである。男系男子派にとっては、こここそが本丸であることは明らかであったが、「合意」形成が難しいとして、「全体会議」では、検討事項に含まれていなかった。6月9日の段階でも、森衆議院議長の「(養子のもとに)男の子が生まれれば皇位継承権を持つ」との発言は、「政党間の意見の隔たりが大きい皇位継承のあり方は、代表者協議で主要な論点になっておらず、総意案に記載がないなかでの発言だった」(朝日新聞)と問題となり、森自身も「「将来の検討を先取りしたり、縛るような趣旨のものではない」とし、今後の議論の方向性を決めた発言ではないと理解を求めた」(同)ものであった。
「立法府の総意」では話し合われていない、女性天皇・女系天皇を排し、男系男子の皇位継承の枠を拡大するという明確な方針が、政府法案段階で突然と現れたのである。
「国民の総意」に基づく(とされる)天皇の地位を、それを偽装した「立法府の総意」に置き換えて、「皇族数の確保」であるかのような様相で話し合いを進めていたものが、その偽装や前提をかなぐり捨てて、露骨に、麻生をはじめとした皇統男系男子派の意向(意志)を反映させたものが、「法案」としてあらわれたのである。
そして今(2026年7月6日現在)、この改正案を、今国会(延長なければ17日まで)で成立させることを最優先で高市政府は進めようとしている。
維新との連立公約で掲げた国会議員定数削減すら後回しに、いやむしろ野党が強く反対するこの定数削減後回しを「エサ」にする形で、皇室典範改正を強行しようとしているのである。その背景には何があるのか。
女性天皇(男女平等の長子継承主義)への世論の支持が7割以上(調査によっては9割)もある現状で、男系男子継承を確保する(それで突破する)には、戦後最高の圧倒的衆議院での議席数(316議席)と高市政権の高支持率(下落傾向にあるとはいえ6割を超えている)がまたとない好機であることは言うまでもないだろう。まして、高市自身が男系男子派であるし、高市政権への麻生の影響力は強い。そんな中で、中傷動画問題をはじめとして、あまりにお粗末な高市政権の国会対応が、支持率こそ急落を免れているが、政権の行先(持続性)に、麻生は不安を感じているのであろう。「この機を逃せば……」と言う思いがあるのであろう、か。
政府案発表の直後に、当然とはいえ、産経新聞を除く全国紙はこぞって、政府案への批判(その中心は「拙速な立法を避けよ」「総意に値するのか」等の主張)が展開された。
また、政府案提出の以前からであるが、旧皇族の養子案に対して、徳仁天皇による「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」との発言は、雑誌メディア等でも「踏み込んだ発言」「強い意思表示」との指摘されている。
さらにこの間、当事者?である旧宮家・久慈家の当主・久邇朝宏が各メディアに登場して「(養子案への)違和感」を語っている。これも、穿った見方をすれば、表立って意見を発言できない天皇の意向を受けてのことだと、見えなくもない(おそらくそうであろう)。
旧宮家からの養子案は、悠仁誕生前の小泉政権時の有識者会議では、憲法14条(門地による差別の禁止)に抵触する可能性もあり、また、「国民の理解が得られない」と退けられた、そもそも無理筋の話である。それを麻生はひっくり返して、実現しようとしているのだ。男系男子派は、占領軍(米国)による改革に異を唱えることを使命と感じているような人たちだから、占領軍によって皇室を「追放された」宮家(を復活でなくとも)から皇統をつなぐ人物を皇室に迎えることは、とても溜飲が下がる思いであるのだろう(外交では、米国追随一辺倒を支持しながら)。
麻生をはじめとする男系男子派にとっては、批判は織り込み済みであろう。
安倍政権以来、自民党政権のマスメディアコントロールは十分機能している。NHKの完全従属をはじめ主要マスメディ(TV・新聞)は、本質的な政権批判勢力とはなり得ないように飼い慣らしている。「国民」世論についても、おそらくたかを括っている。
一時的には批判は起こるであろうが、それは長く続かないし、決定的なダメージとはならないと思っているのであろう。
天皇の声も麻生には間違いなく届いているが、そんなことはもちろん意に介していないだろう。
この法案の付則に検討条項が設けられ、「必要があると認められるときは、30年ごとに見直しが行われるものとする」としている。多少強引でも、この改正案を成立させれば、少なくとも向こう「30年」(つまり麻生の目の黒いうち)は、男系男子の天皇制が維持されて、女性・女系天皇の可能性を封殺できるとの、麻生の思惑である。
養子の対象者は、10名程度はいると報道されている。麻生の妹も姪っ子も宮家の当主である。養子も受け入れ先も確保できる。養子は一人だけしか認められていないわけではない。養子の子供が皇位継承権を持つ、そしてその順位は、「実家(父親の属していた宮家)の系統による」とまで規定している法案だから、皇族全体で複数の養子を迎えることは当然、想定されている(同時に3人くらい認めれば、取材が集中せずにメディア対策になるかもしれない)。
悠仁に男子が生まれない(あるいは結婚できない)場合を見据えて、スペアとしての男子皇族をもうけるための養子候補が10人もいれば安心であろう。
誰をどこの養子にするかなど、具体的なことは、皇室会議に計られることになろうが、皇室会議の構成員は、皇族2人を含むとはいえ、総理大臣、衆参議院の正副議長、最高裁長官、宮内庁長官であって、政権の意向がそのまま通る構成である。
麻生による「外戚政治」との声もすでに上がっているが、まんざら間違いではないようだ。
現憲法では「主権の存する日本国民の総意に基く」と謳われている天皇の地位であるが、歴史的にはそれは為政者の意向によって常に左右されてきた。天皇制があるかぎりそうした「利用」のあり方は避けられない(もっとも天皇自身もその為政者の一部でもある)。
今回の皇室典範改正案は、「男系男子派の種馬確保」法案としか言いようのない、グロテスクなものである。天皇制という世襲制の制度が続く限り、こうした異様な「政治」が展開する可能性は常に孕まれているのである。
