タイ政府による王制批判者への弾圧

JACOBIN
2025.04.11
https://jacobin.com/2025/04/thailand-monarchy-paul-chambers-dissent

Michael G. Vann

(翻訳・要約:編集部)

著名なタイ研究者の米国人、ポール・チェンバースが、
タイ王室を批判した罪で逮捕された。
チェンバースは、世界でいちばん裕福な国王に対する反対運動への弾圧で標的にされている人々のうち、最も有名な人物の一人である。

2025年4月8日火曜日、ポール・チェンバース博士は逮捕状に応じ、タイ北部ピッサヌロークの地元警察署に出頭した。逮捕状は3月31日に発行されており、事前に出頭命令や召喚状は出ていなかった。彼は「不敬罪法」として知られている刑法第112条およびコンピュータ犯罪法違反の容疑で直ちに逮捕された。王を侮辱する罪は、件につき15年の懲役刑に処せられる可能性がある。

タイ第3軍管区が、米国市民であるチェンバースに対して告訴状を提出したのだという。その後、ピッサヌローク県裁判所はチェンバースの保釈要求を却下し、弁護士が控訴するまで拘留するよう命じた。タイ当局は当初、チェンバースが外国人であるため逃亡の恐れがあるとしていたが、月10日木曜日に釈放した。しかし容疑は続いており、電子監視装置の装着が義務付けられている。彼はビザを奪われタイで仕事をする権利を失うリスクにさらされているのだ。

君主主義と軍国主義

スキャンダルや逸脱した行動の記録があるにもかかわらず、マハ・ワチラロンコーン国王ラーマ10世を批判するのは極めて危険である。1946年から2016年まで王位にあった父のプミポン・アドゥンヤデート国王は、本当に人気があり尊敬される人物だったが、息子のラーマ10世にはそのような人気はなく、反対意見や批判を封じるために権威主義的な手段に訴えている。

ジョン・オリバーのHBOシリーズ「ラスト・ウィーク・トゥナイト」(米国の政治風刺テレビ番組)の映像の一部をソーシャルメディアに投稿したという、取るに足りない行為で、数百人のタイ国民が処罰された。この一見些細な罪で、政治活動家の「ブスバス」モンコン・ティラコットは懲役50年の判決を受けた。国連や国際人権団体は、これをはじめとする多くの判決を非難している。

タイ国王はかつて絶対君主であったが、1932年の軍事クーデター以降の数十年間は歴代の軍事指導者たちが権力を握ることとなった。しかし冷戦期には軍と王室が同盟関係を結び、軍の高官たちは、王制、仏教、軍国主義を巧みに組み合わせて反共産主義同盟を結成し、右翼民族主義者の結束と、米国からの底なしとも思える軍事援助と資本投資を確保したのである。

430億ドルの純資産を持つラーマ10世は現在、世界で最も裕福な君主であり、多くの軍高官たちも莫大な財産を築いている。タイの統治者たちは、君主の神聖な権威に対するタイ仏教の崇敬を利用し、明らかな汚職に対する懸念の表明や軍政への反対、そして民主改革を求める声を、刑法第112条に違反する重大な犯罪行為とみなしている。

2025年1月、国連の人権専門家委員会はこの法律を非難し、即時廃止を要求した。

国際法の下で個人は、国王を含む公職者を批判する権利、および王室を含むあらゆる公的機関の改革を平和的に主張する権利を有する。タイの不敬罪法は厳格かつ曖昧で、当局と裁判所に犯罪を広く定義する大きな裁量を与えており、2020年以降270人以上が拘留、起訴、処罰されており、その多くが裁判所から長期にわたる連続刑を言い渡されている。

ポール・チェンバースは、王室を侮辱したとして告発された最初の外国人ではないが、これまでに逮捕され起訴された外国人の中で最も注目を集めた人物である。彼は、タイ軍指導部と、1782年から現在まで続くチャクリー王朝の政治的同盟に関する批判的研究にキャリアの大半を捧げてきた。しかし、今回の具体的な告発は、シンガポールで最も権威のある学術機関の一つであるISEAS(ユソフ・イシャク研究所)が主催する2024年10月のウェビナーに関するオンライン上の概要を問題にしたものだ。

このイベントの宣伝文「2024年のタイにおける軍と警察の再編:その意味とは?」は、シンガポールに拠点を置くウェブサイトに英語で掲載されていたが、その後、編集し直されている。この宣伝文では、タイ国王が軍指導部の交代に関する権限を有すると述べられていたとされているが、これは研究者が証拠を挙げて裏付けることができる政治的な見解であるようだ。チェンバースの代理人の弁護士は、問題の文章はチェンバースが書いたものではないと主張している。

権威主義に反対する連帯

由緒あるタイ外国特派員クラブから「物腰柔らかで、共感力があり、情熱的」と評されるチェンバースは、ナレースアン大学で政治学を教えており、タイ政治、特に軍と王室の役割を専門とする。ナレースアン大学ASEAN共同体研究センターの国際問題担当特別顧問も務め、東南アジアでは著名な知識人である。タイ語に堪能で、タイ国人と結婚しているチェンバースの、タイでの経験は約30年に及ぶ。

チェンバースは、真摯かつ政治に関心を持つ研究者として、世界的な名声を得ている。ノーザンイリノイ大学の名門東南アジア研究センターで博士号を取得し、東南アジアにおける政府と軍の関係に関する長年の研究で国際的に高く評価されているのだ。彼は、その正統性、権威、権力が、彼らが守るとする君主制と不可分であるような国家的軍事力を理論化するために、「君主制主義の軍隊」というモデルを構築した。このようなケースにおいては、君主への軍隊の忠誠心は、憲法、民主主義、そして文民統治への支持よりも優先されるとチェンバースは主張する。タイでの活動に加え、フランクフルト平和研究所、ドイツ東南アジア公共政策・グッドガバナンス中核研究拠点、カンボジア協力平和研究所、ハイデルベルク大学、ハンブルクのグローバル・地域研究ドイツ研究所などで役職を歴任し、南アジア民主フォーラムの顧問を務め、2017年には欧州議会で証言を行った。

彼の膨大な著作の中には、多数の学術誌と数冊の重要な書籍も含まれる。2017年にナピサ・ワイトゥールキアットと共編で出版した 『カーキ・キャピタル:東南アジアにおける軍事の政治経済学』は、銃口からいかにして経済力が噴出するかを示したエッセイ集である。

2024年 の『プラエトリアニ王国:タイにおける軍隊台頭の歴史』は、タイにおいて軍隊と王制がいかにして最強の組織となったかを詳細に考察した、おそらく最も詳細な決定的歴史書である。2023年のニティ・ヌアンチャムノンとの共編書『東アジアのビール:政治経済学』では、世界最大のビール消費量と生産量を誇るアジアにおける帝国主義と資本主義の歴史を探求した。彼の痛ましい逮捕を引き起こしたのが、軍国主義者と王制主義者の反民主主義同盟に関する研究であることは明らかだ。

マルコ・ルビオが長官を務める米国国務省でさえ、チェンバースの逮捕に「警戒している」と表明した。

この事件は、タイにおける不敬罪法の適用に関する長年の懸念を改めて浮き彫りにした。タイ当局に対し、表現の自由を尊重し、認められた表現を抑圧するために法律が利用されることのないよう、引き続き強く求める。

各国の研究者たちは直ちにチェンバースの弁護に結集した。関西外国語大学平和紛争学准教授マーク・S・コーガンは、チェンバースの釈放を求めるオンライン署名運動を立ち上げた。亡命中のタイ人研究者​​パヴィン・チャチャワルポンパンは、依然として第112条に最も声高に反対する人物の一人である。

ポール・チェンバースの事件は、米国の大学における研究者の逮捕、ドイツにおける知識人の沈黙、ルワンダにおけるポール・カガメ政権による研究者への攻撃、そしてインドネシアからトルコに至る大学教授たちへの脅迫といった世界的な文脈の中で捉えなければならない。グローバルな権威主義が強まる現代において、その標的に対する国際的な連帯が不可欠である。

著者のMichael G. Vann(マイケル・G・ヴァン)はカリフォルニア州立大学サクラメント校の歴史学教授。共著に『ハノイのネズミ駆除大作戦:フランス植民地下のベトナムにおける帝国、疾病、近代』がある。

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