反靖国〜その過去・現在・未来〜(33)

土方美雄

中曽根首相による「靖国公式参拝」への道 その5

*前回よりの続き:1983年の私のヤスクニ・レポート

第3に、攻撃の対象を「公式参拝は違憲の疑いがある」とする内閣法制局にピタリ、照準を絞っていることである。

こうした動きの中で、内閣法制局長官がさしたる理由もなしに、角田礼次郎から茂串俊なる人物にかわったことは、ひとつの疑惑を抱かせるといったら、いいすぎだろうか。

その後、角田長官の辞任は、法制局見解の見直しをゴリ押しした中曽根首相に対する抗議の辞任だったことが、明らかになった。

さらに、初の比例代表制となった今回の参院選全国区で、自民党は党内にかかえる靖国反対勢力を代表する楠正俊を、名簿で22位というボーダーラインぎりぎりのところにランクし、その結果、同氏の落選という事態をまねいたことなど、一連の動向はいったい何を意味するのだろうか・・。

中曽根の靖国公式参拝「合憲」への根拠づけの意図が本物であったことを改めて確認させられたのは、首相の「お国入り」の際の群馬県庁での記者会見(7月30日)である。その中で、首相は

「八月一五日、私は殉国の英霊に対し感謝申し上げ、お慰め申し上げる考えで参拝する。公式参拝については歴代の内閣が国会で答弁しているように、国務大臣の公式参拝には憲法違反の疑いがあるとの内閣法制局の見解があり、政府はこれに従っている。『疑いがある』『慎重にした方がよい』というのはあいまいなので、憲法との関係を勉強しようと申し上げている。内閣も、党も勉強しようということで、内閣としてもさらに検討してみたい」

と述べ、法制局見解の見直しを明示した。

8月9日には、参院内閣委員会で野田哲(社)の質問を受けて、後藤田官房長官が「首相からまだ指示は受けていないが、指示があれば(法制局見解見直しを)検討したい」「公式参拝が合憲か、違憲かという争いが最後まで残るなら、最終的には最高裁の判断にゆだねる」などと発言した。

一方、靖国推進派は8月2日、自民党本部で「英霊にこたえる会」の全国代表者大会を開き、気勢をあげた。大会には約400人が参加。井本会長は「公式参拝の運動は一歩一歩前進している。しかし、法制局などにはあいまいな面が依然として残されており、政府がいつ決断するかということにのみが残る問題となっている。一刻も早く政府に決断させるべく、力を入れてゆきたい」と、挨拶。

なお、会場からは「平和が永く続くと、重箱のスミをほじくるような議論が多くなって困る」などといった暴論も、ポンポン飛び出した。そして極めつけは、何といっても8月11日付で、首相をはじめ全閣僚に送付された「自主憲法期成議員同盟」(岸信介会長)発行の「靖国神社公式参拝が合憲であることの法的根拠」という文章だろう。

その内容を要約すれば、

①憲法20条1項は宗教団体が国から特権を受けることを禁じているが、閣僚の公式参拝程度では特権にならない
②同条2項は宗教上の儀式などへの参加強制を禁止しているが、参拝を拒否する国務大臣に公式参拝を強制しない限り違憲ではない
③同条3項は国の宗教活動の禁止を求めているが、信教の自由を侵さない程度なら政治が宗教にかかわることが許されていることは、昭和52年(1977年)の津地鎮祭訴訟における最高裁判決で明らか
④参拝は外形的には神道の方式をとるが、社会通念では地鎮祭や仏教の葬儀同様、習俗的行為である
⑤憲法89条で、宗教団体の便益のために公金を使用することが禁止されているが、10万円程度の玉ぐし料は「財政援助的支出」にはならない

靖国公式参拝を習俗と強弁するこの主張がそのままスンナリとり入れられるとは思わないが、ひとつの叩き台となることは間違いない。

以上のような一連の流れの中で、8月15日の首相の靖国参拝が行われたわけだが、参拝後の記者会見で後藤田官房長官は、「政府の見解は従来通りで何ら変わっていない。『内閣総理大臣たる』はあくまであたり前のことをあたり前にいったまでのこと」との政府見解を明らかにしている。後藤田との二人三脚によるペテン的言辞で事態をひとまず乗り切った中曽根だが、今年の秋が靖国公式参拝にむけた大きなメルクマールとなることは間違いない。

一方で、公式参拝「合憲」根拠づけのための検討作業が自民党の正式機関である政調会内閣部会で始まり、他方、中曽根が今、脳裏に思い浮かべているであろう、来日したレーガンと中曽根とが並んで靖国神社へ参拝する光景こそは、まさに事実上の「公式参拝」そのものだからである。

ちなみに、そのレーガンの、靖国参拝は、彼の重要な支持基盤である宗教右翼等の、根強い反対もあって、直前に断念され、結局のところ、レーガンと中曽根は、明治神宮に参拝することになった。

以下、続く。

 

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