反靖国〜その過去・現在・未来〜(32)

土方美雄

中曽根首相による「靖国公式参拝」への道 その4

前回よりの続きです。1983年の、私のヤスクニ・レポートです。

さて、到着殿から拝殿にむかい、約10分ほどで戻ってきた首相はたちたまち記者団にとり囲まれ、その場で次のような一問一答がなされた。

記帳は?
首相 内閣総理大臣・中曽根康弘。
—公・私の資格は?
首相 前にも申し上げたように、内閣総理大臣たる中曽根が、英霊に対し感謝申し上げ……。
—「公式参拝」についての今後の取り組みは?
首相 いままで申し上げた通りです。

抗議行動終了後、私はキリスト者と別れ、九段下の交差点で、1時半に飯田橋の家の光ビルを出発したハズの真宗太谷派の抗議デモを待ち、2時過ぎ、これに合流。靖国通りから白山通りを経て、水道橋の全逓会館に至るデモコースを、ともに歩くことにした。
以上が、当日の抗議行動の一部始終であるが、「内閣総理大臣たる」中曽根が今後、何をたくらんでいるのか、それを知る上で、8・15に至る経過をふり返ってみたい。

靖国「合憲」根拠づけへ

7月21日付の『朝日新聞』、22日付で各紙が一斉に報じたところによれば、7月8日、首相官邸を訪れ、首相に「違憲か、合憲かの議論はすでに尽くされている。あとは政治判断の問題だ」と、公式参拝実現を鋭く迫った日本遺族会の村上勇会長、「英霊にこたえる議員協議会」の板垣正参院議員に対し、中曽根は「参拝のたびに違憲騒ぎになるのは困る。内閣としても検討させるが、党の方でも違憲でないという法的根拠を明確にうち出してほしい」と、答えたといわれ、これが推進派を一挙に活気づかせる結果となった。

元来、中曽根首相は「靖国国家護持」の主唱者であり、今年の4月21日の春季例大祭に首相就任以来初めて参拝した際、記者団の公人か、私人かとの質問に「内閣総理大臣たる中曽根康弘が靖国の英霊に感謝の参拝をしたということです」と答え、82年8月15日の鈴木首相の「公・私の区別を答えない」路線から、公式参拝へいま一歩踏み込んだことは、周知の通りである(ちなみに、82年8月15日の参拝に際しては、「私的参拝」を強調)。

靖国「合憲」根拠づけを——という中曽根発言を受けて、7月21日、自民党有志300名余でつくっている「英霊にこたえる議員協議会」は、自民党本部で緊急総会を開く。同日の午後、同じ会場で開かれる自民党の正式機関、政調会内閣部会靖国問題小委員会にむけて、

①靖国神社公式参拝のすみやかな実現をはかる
②国公賓の靖国神社表敬について、積極的に対処する

の、二点を決議。採択された要望書には「中曽根総理が本年4月の例大祭に際し『内閣総理大臣たる』と言明、公式参拝に大きく踏み込んでいるが、法制局見解のみが依然として旧来のままで、それこそが残された唯一の未解決点。(中略)そのような解釈がいま各地でおこっている慰霊祭や忠魂碑、玉串料のあい次ぐ訴訟のもとになっている。公式参拝が憲法20条3項の宗教活動に当たらないものとする、との政府見解を一刻も早く確立されたい」などと書かれていた。

その上で、同協議会内に「公式参拝に関する検討委員会」を設け、政府内閣部会靖国小委員会での検討作業を強力にバックアップしてゆくことなどを申し合わせ、委員長には自民党憲法調査会長として改憲策動の頂点に立つ上村千一郎が就任した。

午後3時、「英霊にこたえる議員協議会」の要望を受けるかたちで、政調会内閣部会靖国小委員会が開かれた。委員長には、元法相の悪名高き奥野誠亮が選任され、当面の検討作業の進め方として、

①靖国神社を含め、宗教関係施設への表敬が憲法上どの程度まで許されるかを検討
②その上で公式参拝を合憲とする論理を組み立てていく
③具体的には、9月の臨時国会開会に会わせ憲法学者や宗教者から広く違憲を聞く

の3点を確認。出席者の中からは、「党としてその実現を公約している。今さらこのようなことを改めて検討するのは、国民から無責任とのそしりを受ける」との反発も続出したが、結局、奥野提案の線でいくことになった。

こういった一連の動きに対し、中曽根首相は同日、記者会見し、「何も(「合憲」根拠づけの)指示などしていない。お互いに勉強しようと話しただけ」などと述べ、後藤田官房長官も「公式参拝について政府の従来の方針は変わらない」ことを強調したが、これが真っ赤なウソであることが明らかになるのには、さほどの時間を要しなかった。

ここでいくつかのことを、指摘しておきたい。そのひとつは、「英霊にこたえる議員協議会」内の小委員会委員長に上村千一郎が、内閣部会靖国小委員会委員長に奥野誠亮がそれぞれ就任し、互いに連係プレーをとることになったことである。上村については前述の通りだが、奥野は法相時代の80年11月の衆院法務委員会で、「憲法20条は靖国公式参拝まで禁止しているとは受けとれない」との暴言を吐いている。

第2に、協議会の決議の②を注目していただきたい。総会終了後に、同会の代表が二階堂幹事長ら党3役とともに、安倍外相に対してもその早期実現を申し入れていることなどを考え合わせれば、これが単なるスローガンにてとどまらず、この秋に来日するレーガン米大統領の表敬参拝を明確に射程に入れていることが、うかがい知れよう。

スイマセン、枚数が大幅にオーバーしたので、そろそろ、この辺で。記述が遅々として進まず、申し訳ありません。

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