伊藤博文 著『憲法義解』

憲法義解 (岩波文庫、2019年6月)

この本(皇室典範義解とあわせて一冊になっているが今回はこれは省略)は、大日本帝国憲法作成に当った伊藤ら官僚グループ自身の憲法解釈であって、その後の官僚的憲法学(美濃部憲法学も上杉憲法学も)の基礎文献であった。今回の報告はこの本に盛りこまれた思想面を中心とした。その思想の根本は「この憲法の示す国体は日本固有の国体が立憲の形で内容を得たもの」ということだ。天皇は国家(公)の体現者で私的専制君主ではなく、しかも始めから人民の批判の外にある。天皇の統治権総攬は国家統治権の「体」(もと)であり、これが立憲を統治権の「用」(働き方)として定めた。この統治権の体と用との関係を合理的たらしめるための解釈を天皇大権、立法、行政、司法についてまとめ、また古来天皇の「公民」である地位を憲法によって確認された人民(臣民)の立場について述べたのが本書である。

報告者は以上の概観ののち若干の考察を述べた。①本書はこの憲法において日本古来の国体思想(淵源の一つは中国帝国思想)にローマ法的観点における西洋立憲思想をつぎ木したと見るが、ここでは天皇は専制君主ではなく、しかも立憲主義が作りかえられている(人民・君主対抗の歴史の拒否)。一種の国家法人説がここには存在し、美濃部憲法学を官僚法学の主流たらしめる。ただし本書の解釈による憲法規範と政治・社会の現実との矛盾は彼の解釈改憲を引き出す。②この書の立場としての立憲主義はその本質のある部分がひそかに第二次大戦後の立憲主義に引きつがれている。戦後も主権の「体」は国家であり、民主主義はとかくその「用」となりがちなこと。立憲主義はたんなる形式ではなく、人民(たんに権力悪への受動的抵抗者ではない人民)を一方の対抗要図とする構図であることが忘れられがちであること。

(2021年6月研究会報告/伊藤晃)

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