「象徴元首」の〈殺人五輪〉——開会宣言という政治セレモニー

天野恵一

このニュースが読者の手に届く時には、すでに〈殺人五輪〉は東京で実施されるのか否かが、最終的に決定されていると思う(「中止を!」という圧倒的な日本列島住民の声を無視する暴挙が、ギリギリの時点で中止に追い込まれるという期待を手放さずに、この原稿を書き出している)。

安倍から菅政権へとのリレーを通して、新型コロナ感染対策は、オリンピックによる経済効果と政権にとっての人気アップの政治効果の方を優先され、オリンピックによる人流拡大がもたらす感染拡大は無視され、オリンピックは可能だというイメージを作り出す政策が優先されつづけてきた(「緊急事態宣言を出すタイミングも期間もつねにオリンピックができるイメージづくりの方が政治的に優先)、いいかえればオリンピック実現を目指す政策によって感染者、死者がドンドン増大してきたのである。端的にオリンピック準備がすでに人を殺し続けてきたのだ。

4月21日の国際オリンピック委員会(IOC)会長トーマス・バッハの理事会での「緊急事態宣言は五輪と関係ない」発言は、私たちの怒りに火を注ぐものがあった。金のことしか頭になく、人が何人死のうが関係ない。この「日本のミナサーン」とはしゃいでみせた「ぼったくり男爵」のヘラヘラ顔には、「日本のミナサーン」の大きな抗議と反撃がつくり出された。

新聞『日刊ゲンダイ』(5月13日)号には、こうある。「人々の命と暮らしを守るために東京五輪の開催中止を求めます」——。署名サイト「change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」を通じた元日弁連会長の宇都宮健児弁護士の呼びかけへの賛同は、33万筆(12日午前9時現在)を突破した。5月正午の開始意向、署名はどんどん集まり、2012年の日本語版開始依頼、最速ペースで延びているという。署名の宛先はIOC (国際オリンピック員会)のバッハ会長や菅首相、東京都の小池知事東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長ら五輪関係者6人だ。国内メディアにとどまらず、英ロイター通信をはじめとする海外メディアもこの動きを次々に報道。新型コロナウィルス第4波の猛威にはなす術はなく、緊急事態宣言は6都道府県に拡大された。過去最多の死者数を更新する状況では、五輪中心を求める勢いは加速する一方である」。

緊急事態宣言下の東京オリンピックは感染拡大オリンピックであることはまちがいない。そして私たちが忘れてはいけないのは、このオリンピックは十年前の3月11日の福島原発震災直後に発せられた、「原子力緊急事態宣言」下のオリンピックでもある点だ。放射能汚染水を海に放出するなどというとんでもない決定が、この間、「スガ」首相によって勝手になされた事態(海が殺される事への漁民らの大きな抗議の声など、まったく無視したそれ)、が「復興五輪」などという政府のデタラメ(安倍首相の「放射能はアンダーコントロールされている」という大嘘)ではまったく隠しきれない実態を露骨に示している。

アベもスガも次には「コロナに打ち勝ったことを示す五輪」だなどと、勝手なことをIOCとともに恥ずかしげもなく宣伝し続けてきた。彼らにとっては人命より権力(自己保身のための政治)あるいは金なのだ。コロナによって、オリンピックがそのように歪められたのではない、コロナ感染拡大によって、「人間の尊厳の保障に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てる」という「オリンピック憲章」の中の「根本原則」の美しき論理と、まったく敵対する感染拡大(殺人)オリンピック強行の姿勢とがまったく無矛盾であるとするIOCの体質にこそ、オリンピックムーブメントの本質が露呈していると考えるべきなのだ。バッハたちは実に正直である。オリンピックに殺されてたまるか。

2つの「緊急事態」宣言下での〈国家による犯罪〉であるというべきオリンピック。この観客が「無人」の大会場で、ロイヤルボックスから、開会を宣言する新天皇の姿をイメージしてみた。オリンピック憲章には、こうある。

「オリンピック競技大会は、開催地の国家元首が以下のいずれかの文章を読み上げ、開会を宣言する」(傍線引用者)。この後、「私は第何回大会を祝い」、「開会を宣言する」という言葉が示されている。一切の他の主張は許さない、第何回の開催宣言のみと規定してあるのだ。政治家のこれ以外の一切の発言は禁止と明示されてもいる。

天皇は憲法上「元首」ではない。自民党の改憲案は「元首天皇」への明文憲法のプランを示し続けている事実がそれを逆に証明している。ところが戦後の日本でのオリンピックは、すべて天皇が開会を宣言している(明白な憲法違反が常に正当化されてきていたのだ)。

しかし、この〈殺人オリンピック〉の象徴元首としての、無人の大会場での、新天皇の世界へ向けた開会宣言は、まさに天皇制の本質を国際的に露呈する大イベントということになろう。

*初出:「マスコミの中の新天皇(制)論議 ⑧」『ピープルズ・プラン研究所 News Letter』no. 73, 2021. 5

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