世襲制の君主たちが世界で43の国家を支配している:
英国はこの古風で奇妙な権力システムの解体に率先して取り組むべきである
要約・翻訳:編集部
Kate Bermingham
Open Global Rights , June 30, 2023
https://www.openglobalrights.org/hereditary-monarchies-antithesis-human-rights-culture/
1945年、世界の人権、開発、平和、安全を促進するため国際連合が設立された。第二次世界大戦の悲惨な結果を受けてのことである。193の加盟国すべてに義務付けられる国際法である国連憲章の要となる前文には、「我々、国際連合の人民は…基本的人権、人間の尊厳と価値、男女同権、および大きな国家と小さな国家が同権を有することへの信念を再確認し…社会の進歩と生活水準の向上を促進する」と記されている。
この前文における言葉の選択は極めて重要である。国家に正当性を与えるのは、支配階級や王族たちの意志ではなく、人民の意志であること、および、人権文化の発展には、すべての人間が生まれつき価値を持っているという認識、人権の普遍的な尊重、そしてすべての人々にとって社会の進歩と生活水準の向上の促進が必要である、と謳われているのである。
これらの価値観は国際人権規約に具現化されている。同規約では、国家は管轄権内の全個人の市民的、政治的、経済的、社会的、文化的諸権利を包括的に尊重、保護、履行しなければならないと規定する。これらの最初の人権条約と、その後に続いたより専門的な人権規程とが、事実上、締約国が全人民に対して負う義務と責任の最低限のセットを定めている。
重要なのは、人権条約が、国民が国家に奉仕する方法ではなく、国家が国民に奉仕する方法に焦点を当てていることだ。前者は権威主義体制がよく使用する方法で、権威主義体制は、通常、国家主義的なプロパガンダと抑圧的な法律や政策を組み合わせて、個人の人権を制限し、同時に国家とその支配層に対する愛国心と忠誠心を促進する。君主制は、国民を君主の「臣民」subject(ラテン語のsubとjacioに由来し、他者の権力下にある者を意味する)に貶めるものであるため、権威主義体制であると言える。
世襲君主制は、さまざまな方法で人権文化の発展を妨げる。第一に、君主制は法の支配を弱体化させる。英国では、チャールズ国王は「主権免除」という法理により、民事および刑事訴訟を免除されている。この法理は、国王の公務だけでなく、私生活やビジネスにも適用される。警察は、国王の許可なく、犯罪捜査のために王室の私有地に入ることを禁じられている。歴代の英国政府は、法の支配が英国の基本的な価値観であると主張してきたが、すべての人間に適用されないのであれば、法の支配が存在するとは言えないだろう。
第二に、君主制は本質的に非民主的である。個々の君主が選挙で選ばれないだけでなく、政治機構としての世襲君主制というアイデアが国民投票にかけられたこともない。英国では、大衆メディアで大々的に宣伝されているにもかかわらず、45歳未満の人口のうち王室を支持する人は半数以下で、最近のチャールズ国王の戴冠式に注目した人も人口の約4分の1に過ぎない。もし英国が現在、選挙で選ばれた国家元首を擁していたなら、世襲君主制を求める運動家たちがどのような主張を展開するか想像するのは困難である。世襲君主制は単に昔から存在してきたから存在しているに過ぎず、だからと言って支配層が自発的に権力を手放す気配はないのである。
第三に、どの王族も生まれながらにして不当な特権を享受している。他のヨーロッパの君主制に比べると、イギリス王室は特に過剰である。チャールズ国王が相続した私的財産は推定18億ポンドの価値があるが、不可解なことに、王室は相続税を支払う必要がない。また、多くの英国人が困惑する理由により、億万長者の王族のために、英国の納税者は毎年莫大な国庫補助金(2021~22年度は8,630万ポンド)を支払わなければならないのだ。ヨーロッパの外の状況はさらに悪い。サウジアラビアの支配王朝であるサウード家は推定1.4兆ドルの資産を持ち、タイ国王は推定400億ドルの富と資産を保有している。人権文化には社会の進歩が必要であり、国民の生活水準を向上させるために使用すべき富である国の資源を、組織的に溜め込むことが進歩の大きな障害となることは明らかである。
表現と集会の自由は人権文化の礎である。しかし、5月6日のチャールズ国王戴冠式での抗議者に対する警察の取り締まりは、王室に不都合であれば、これらの基本的権利が気まぐれに剥奪される可能性があることを明らかにした。平和的な抗議を鎮圧するために警察の権限を拡大するという論争的な内容を含む新しい治安維持法は、国連人権高等弁務官や他の著名人が撤回を求めたにもかかわらず、戴冠式のわずか数日前に急遽可決された。この新しい抑圧的な法律により、数十人の極めて疑わしい逮捕が行われた。その中には、「ロックオン装備」の疑いで16時間拘留された反王制団体「リパブリック」のメンバー8人や、ソーホーで弱い立場の人々に強姦警報装置を提供しようとして逮捕拘留された「ナイトスター」のボランティア3人も含まれる。人権弁護士のアダム・ワグナーは、内務特別委員会に対し、新しい法律が民主主義と人権に「萎縮効果」をもたらすことを懸念していると述べた。
最後に、英国王室は英国自体の人権文化の発展を脅かしているだけでなく、14の英連邦諸国の進歩を阻害している。奇妙なことに、英連邦諸国ではチャールズ国王が公式に国家元首となっているのだ。これらの国々の多くは、英国からの独立と選挙で選ばれた国家元首の擁立を志向している。チャールズ国王が退位すれば、これらの国々は完全な自治と独立を享受できるだろう。
世界で最も有名な君主制である英国王室を解体すれば、良い波及効果がもたらされるだろう。他の君主制国家の人々が自国の政治体制に異議を唱える時の力になるに違いない。かつてトマス・ペイン(編集部注・18世紀の哲学者、政治活動家)はこう言った。「物事を間違ったことだと考えない習慣が長く続くと、表面的には正しいように見えるようになる」。21世紀において、世襲君主制は表面的にさえ正しくない。彼らは直接的に市民の人権を脅かしている。世襲君主制が続く正当な理由はない。
*Kate Bermingham(ケイト・バーミンガム)
社会問題ジャーナリスト。元アイルランド人権センター所員。
*”Open Global Rights” (『オープン・グローバル・ライツ』)は、国際人権問題に関する分析と意見を発信する独立したプラットフォーム。ニューヨーク大学ロースクール人権・国際正義センターおよび、権利の未来プログラムが主催している。