反靖国~その過去・現在・未来〜(27)

土方美雄

初めてのヤスクニ・レポート その4

引き続き、前号よりの、続きです。

代表者8名は会場に戻り、井本(英霊にこたえる会)会長が鈴木首相との面会内容を報告。「そんなことで、まただまされるな」「昨年のようなこともあり、信用できぬ」との声が圧倒的で集会を一時中断、緊急幹部会を開いた結果、鈴木首相に対しもう一度ダメ押しをすることになる。

3時半、代表4名が宮沢長官と再び面会。今度は「国会の場でも私的とは答弁しない」との発言を引き出す。これに対し、井本会長は「これで首相は私的参拝といっておけばいいといった、やすきにつく答弁を国会でもしないだろう。次の目標は公式参拝の完全実現だ」と評価。

また「英霊にこたえる議員協議会」の板垣事務局長も、「実質的には公式参拝以外の何物でもない。今後は法案を練り直して、靖国神社の国家護持をはかり、さらには憲法を頂点とする戦後体制そのものの見直しをはかる」との評価を下している。

以上の一連の経過の上に、7月15日の「公私の区別を答えない」との宮沢官房長官の記者会見が行われたわけであるが、いまひとつ注目すべきは翌16日の閣議で、同氏が「自治体が慶弔表示として玉ぐし料などを支出することを認めた26年(1951年)の文部省・引揚援護庁次官通達は今日も有効」と発言していることである。

この通達は戦後間もない時機で、戦没者の遺骨の帰還が相次ぎ、しかもその中には遺族の不明の遺骨が多いという特殊事情のもとで出されたものであり、即、これをもって今日、地方自治体等が靖国神社への玉ぐし料を公金から支出する根拠になるようなものではないが、それはさておき、自治体がいいなら首相や閣僚も--との声に、大きく道を開くものに必ずやなるものである。

事実、閣僚の中で初村労相は「玉串料についても10万円とか20万円ほどの常識的な額なら、公費を使ってもいいのではないか」との主張を行っている。参拝に公用車を使い、「内閣総理大臣○○」等の肩書きで記帳を行い、かつ玉ぐし料を公金から支出すれば、本人があらためて、「公人の資格で」というまでもなく「立派」な公式参拝に他ならない。

自民党閣僚群の参拝意識

結局、8月15日に靖国神社に参拝した国会議員の数は鈴木首相以下閣僚17名(内、宮沢官房長官は前日の14日に参拝)、衆議院議員34名、参議院議員25名--の計76名にとどまった。推進派側の147名という数字には71名の代理参拝者(秘書等)が含まれているわけである。

この76名という数字は81年8・15の参拝者108名を32名も下回るものであり、第一回めの「戦没者追悼の日」という鳴り物入りの前宣伝のわりには、かなり後退した数字になっている。

また、当初、参拝するほとんどの閣僚が「公私の区別をいわない」という鈴木首相の方針に従うものと見られていたが、7月16日の閣議で、「私としては公人の資格で参拝する」と大ミエをきった初村労相を筆頭に、「私人」を強調した閣僚が実際には7名もおり、その足なみは乱れがち。以下、その発言を列記してみる。

坂田法相 公人、私人ともいわない。心の問題だ。
桜井外相 コメントしないことにしている。
小川文相 私人です。(公用車は使わず)タクシーで来ました。
森下厚相 公人です。しかし、公式参拝ではない(なんのこっちゃ?)
安倍通産相 自然体で来た。
小坂運輸相 日本人だ。
箕輪郵政相 (公私の質問に)そんなことは・・。
初村労相 私人です。
始関建設相 全くの私人。
世耕自治相 両方です。
中曽根行管庁長官 私的参拝。
伊藤防衛庁長官 私人です。
河本経企庁長官 公人と解釈されても、私人と解釈されてもいい。
中川科技庁長官 国務大臣中川一郎として来た。判断はあなたに任せる。
原環境庁長官 私的に参拝。
田辺総務庁長官 私人。理由はあえていわない。
宮沢官房長官 ノーコメント。

ちなみに、参拝しなかった三閣僚の声。

渡辺蔵相 墓参のため地元に帰る。靖国神社には、ふだんから参拝している。
田沢農相 選挙区に帰っている。靖国神社には国難に殉じた人に対し、参拝する。  軍国主義ということではなく、国のつとめだ。
松野国土庁長官 地元の護国神社に私人として参拝する。

以下、次回へ続きます。

 

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