要約・翻訳:編集部
ベルント・リーゲルト(Bernd Riegert)
DW (Deutsche Welle),2024/1/15
https://www.dw.com/en/across-the-world-kings-and-queens-continue-to-reign/a-67972921
デンマークでフレデリック(Frederik)10世が新国王となった。多くの国で民主主義への移行が進んでいるにもかかわらず、王族は世界中にたくさんいて、一部の君主は依然として絶対的な権力を満喫している。
ヨーロッパの7つの王家のうち、また1つが世代交代を迎えた。オランダ(2013年)、ベルギー(2013年)、スペイン(2014年)、英国(2022年)に続き、今度はデンマークの番だ。83歳のマルガレーテ2世女王は、王位に就いてちょうど52年が経った2024年1月14日の日曜日、息子のフレデリックに王位を譲った。デンマーク王室によるこの突然の発表(編集部注:退位の発表は2023年12月31日)は、近年のトレンドに沿ったものだ。英国王室を除いて、多くの君主はもはや王位に就いたまま亡くなることはない。代わりに、君主は退位し、子供たちに道を譲るのだ。
55歳のデンマーク国王フレデリックは、すでに一生をかけて王位に就く準備をしてきた。伝記作家によると、彼は王位に就くことをためらってきたという。子どもの頃、「王になりたくない」と乳母に叫んだと言われている。だが、反抗的な「パーティ王子」としてのフレデリックの奔放な日々は、とうの昔に過ぎ去った。彼とオーストラリア人の妻メアリーは王位継承者を生み、ヨーロッパ最古の王朝の存続を保証した。臣民たちは彼の王位を承認しているようで、世論調査ではデンマーク人の80%が国王に満足している。
スウェーデンのヴィクトリア皇太子とノルウェーのホーコン王子が、それぞれ次の王位継承者となる。ヴィクトリアは、50年以上王位に就いている父カール16世グスタフの後を継ぐ予定だ。ホーコンは、健康上の問題で現在めったに公の場に姿を現さない86歳の父ハーラル5世の後を継ぐことになる。
フランス大統領のマクロンもプリンス(大公)
ヨーロッパでは、王や女王は一般的に儀礼的な役割しか担っておらず、政治的権力はわずかである。これはルクセンブルクやリヒテンシュタインの王家、そしてアルベール2世が比較的強い地位にある小国モナコにも当てはまる。フランスとスペインの高地の間に位置する小国アンドラには、常に2人の共同大公がいて、国家元首として行動している。1人の大公はウルヘルのスペイン司教であり、もう1人はフランス大統領である。つまり、エマニュエル・マクロンは現在(編集部注:この記事が書かれた2024年1月当時)フランス共和国の大統領であるだけでなく、アンドラの議会制民主主義国家のプリンス(大公)でもあるのだ。
ヨーロッパで、王位が世襲でない唯一の国、君主が選挙で選ばれる国はバチカンである。フランシスコ法王はカトリック教会の長であるだけでなく、世界最小の国であるバチカン市国の絶対的な統治者でもある。
ポツダム大学の歴史学者で王室専門家のモニカ・ヴィエンフォルト(Monika Wienfort)は「君主制国家の国民の大半は、実際に君主制を楽しんでいると思う」という。ヨーロッパの7つの王国と5つの公国では、この形態の政府を廃止しようとする真剣な取り組みは行われていない。共和主義を志向するグループによる小規模な抗議を除けば、辞任や継承は滞りなく行われている、と彼女は述べる。
チャールズ国王はいう。「私たちはメロドラマ(a soap opera)だ」
フランス、イタリア、オーストリア、ドイツなど、革命的な大変動がなかったヨーロッパの国で、王室制度は存続してきた。ほぼすべての王家が何らかの形で互いに、そして主にドイツの貴族と関係しているため、親戚がピンチのときには移動してくる可能性が常にあると、ヴィエンフォルトは言う。各王室は、伝統、ゴシップ、スキャンダル、そして幸せな家庭生活を見せびらかすことで栄えており、荘厳や煌びやかといった感じからはどんどん遠ざかっている。
2008年、当時のチャールズ英国皇太子は自分の家族について「私たちはメロドラマ(a soap opera)のようだ」と語った。彼の父フィリップもかつて、ウィンザー家(英国王室)について、納税者のお金と引き換えに、皆が憧れるような美しいイメージを作り出すことを使命とする会社だ、と表現したことがある。
世界に43の君主制
君主制モデルは世界の22%の国、つまり正式に認められている194の国のうち43の国で実施されている。ヨーロッパに加え、カリブ海、アフリカ、中東、アジアにも君主制がある。
その多くは大英帝国にまで遡り、イギリス国王はカナダやオーストラリアを含むヨーロッパ以外の14か国で今も国家元首である。日本は世界で唯一の帝国(編集部注:日本政府が「天皇」をemperorと翻訳していることを指していると思われる。emperorがいる国はempire、すなわち帝国なので)だが、天皇はこの国の民主主義において純粋に儀礼的な役割を担っている。
ブルネイ、オマーン、カタール、サウジアラビア、エスワティニ(旧スワジランド)、および前述のバチカン市国の6 つの国では、君主(monarch)、首長(sheikh)、族長(emir)などと呼ばれる人が、議会や司法の統制を受けない絶対的な統治者である。ヨルダンやモロッコなど一部の国では、国王が憲法で定められた政治権力を持っている。
アジアでは、マレーシアが唯一の、君主を選挙で選ぶ大きめの国である。現在は、9 つの州のスルタンたちによって決定されたスルタンである、アブドラ・スルタン・アフマド・シャーが君主を務めている。アラブ首長国連邦でも国家元首の職は、それぞれの公国の権威主義的指導者である首長たちが持ち回りで務めている。
中東には王室のドラマを公に報道するタブロイド紙はないが、君主に関するゴシップはヨーロッパでは大きなビジネスだ。70年間統治し、2022年に亡くなった女王がいなくなっても、市場のリーダーは依然として英国王室だ。チャールズ国王、その息子ウィリアムとハリー、そして妻カミラを取り巻く家族のドラマに対する国民の関心は安定している。
「人々の興味は、飾り立てた日常から生まれる」とヴィエンフォルトはいう。王族は結婚し、子どもを育て、死ぬなど、まったく普通のことをしているだけだ。しかし、彼らの経歴は豪華で、あるいは尊大でさえあると彼女は述べる。人々は、特に畏敬の念を抱かなくても、馬車、制服、ドレス、城を見たいのだ。
君主であるということは、おとぎ話レベルの大金を手にしているということでもある。米国のビジネス雑誌の推計によると、世界で最も富裕な王であるタイのラーマ10世の資産は300億~430億ドル(273億~390億ユーロ)である。ヨーロッパで最も裕福な王子はリヒテンシュタインのハンス・アダム2世で、約35億ドルの資産がある。英国の国王チャールズ3世の私財は18億ドル(16億ユーロ)である。
デンマークのマルガレーテ2世は、比較的少ない3000万ドルの王室財産を息子のフレデリックに渡したが、本物の宮廷を維持するのに十分な額であることは間違いない。ヨーロッパ最下位のスペイン国王でさえ、1000万ドルもの資産を有しているのだ。
*原文はドイツ語。デンマークでフレデリック国王が即位したことを受けて、2024年1月15日に更新。
DW (Deutsche Welle) :ドイツの国際放送局であり、国際メディア。
ベルント・リーゲルト:ブリュッセル駐在の上級特派員。EU内の人々と政治に焦点を当てて取材活動を行っている