加速する「死の商人」への道

鉄火場宏

ここにきて岸田自公政権は、日本を「死の商人」国家にしようとやっきになっている。

安倍政権下の2014年、国是ともいわれた「武器輸出(禁止)三原則」が放棄され、武器輸出に向けた「防衛装備移転三原則」にすげ替えられた。しかし武器開発・生産の技術不足や、輸出できる武器を「救難、輸送、警戒、監視及び掃海」の5類型に縛りをかけた運用指針のせいもあって、10年近いの時間のなかでこれまでの武器輸出の実績は、完成品としては、フィリピンへの防空レーダー(三菱電機、2023年11月2日に全4基中の1基を納品)だけにとどまっている。

武器輸出による経済的利益やそれ以上に戦争国家にとって不可欠の国内兵器産業の育成を目指した「武器輸出解禁」であったが、10年でのこれだけの現実は、自公政権にとって予想以上の不調と言わざるを得ないだろう。

■日本は「死の商人」になるのか
こうした事態を「改善」すべく、岸田政権は、急速に動いている。年内にも5類型の縛りをなくし、殺傷能力のある武器の輸出を解禁しようとしている。それに対して、青井未帆さんなどが呼びかけとなった「日本は「死の商人」になるのか 殺傷武器の輸出に反対する共同声明」(https://heiwakosoken.org/2023/10/02/statement1003/)が、10月3日に発せられた。


【共同声明】
日本は「死の商人」になるのか 殺傷武器の輸出に反対する共同声明

岸田政権は、年内にも、今まで制限されてきた殺傷武器の輸出を解禁しようとしています。それは「メイド・イン・ジャパン」の武器によって他国の人々が殺傷されるようになることを意味します。日本が掲げてきた「平和主義」は今、崖っぷちに立たされています。

防衛装備移転三原則の運用指針の見直しをめぐる自民・公明の与党実務者協議は、7月に中間報告をとりまとめました。その後、政府への提言をめぐる議論は「秋以降」始めるとされていましたが、岸田首相による突然の指示を受けて前倒しされ、8月23日、9月6日と相次いで開催されました。

そこで政府は、実務者による「論点整理」を追認する以下の見解を示しました。

1.今まで禁じていた殺傷武器の輸出を、「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5類型に沿う場合は、解釈変更によって「可能」とする。/これは、密室協議における元防衛官僚の「5類型は殺傷武器の輸出を制限してはいなかった」との検証不可能な「証言」を唯一の根拠とするもので、あまりにも恣意的です。

2.日英伊で共同開発する次期戦闘機を念頭に、開発相手国や日本からの第三国輸出を容認する。/共同開発の調整機関を設置する条約への年内の署名と年明けの通常国会での批准が想定されており、議論の前倒しの根拠とされています。しかし、戦闘機は殺傷武器そのものです。かつて英伊などが共同開発した戦闘機「ユーロファイター」がサウジアラビアに輸出され、イエメンへの無差別空爆に使用されました。これは国連人権理事会で「戦争犯罪」と非難されています。このように、第三国輸出によって、日本が戦争犯罪に加担してしまう恐れすらあるのです。

3.F15戦闘機のエンジンのインドネシアへの輸出を念頭に、「自衛隊法上の武器」に部品は該当しないものとする。/これは、これまで「武器にあたる」として輸出できなかったエンジンを「武器にあたらない」と解釈し直すということです。しかし、たとえエンジンであっても、日本製の武器部品が組み込まれた戦闘機によって他国の人々が殺傷される状況が生まれることを見過すことはできません。

(以下略)


■共同開発を突破口として
声明でも指摘されているように、今回の共同開発機は、英国・イタリア・ドイツ・スペインが共同開発した「ユーロファイター・タイフーン」の後継機ともなり、同機は開発国以外では、サウジアラビアが最大(72機)の輸出先であった。サウジアラビアは今回の共同開発への参加にも意欲を見せている(日本は反対しているが)。現状では、殺傷能力のある兵器の共同開発参加国以外(第三国)への輸出は、日本では禁じられているので、英国・イタリアにとっては、サウジアラビアなどの「得意先」への輸出が封じ込められてしまうことになる、とも危惧されている。

実際に、さまざまな国際情勢の中で、共同開発国の間でも、武器の輸出先に対しての軋轢は起こっている。サウジアラビアをめぐっては、2018年のジャマル・カショギ氏の殺害事件を受けて、ドイツがサウジアラビアへの武器売却を凍結したが、英国は、「大規模な防衛プロジェクト」(戦闘機開発等を念頭に置いているものであろう)については、武器輸出停止の対象外とするようにドイツに要請している。また、英国自身も、韓国が開発した戦闘機FA50をアルゼンチンに輸出しようとした際に、そこに使われている主要部品(6つ)が英国製であり、英国は1982年のフォークランド紛争以来課したアルゼンチンにへの武器禁輸措置が現在も有効である、ということで輸出を中止させたこともある。

しかし、岸田自公政権(特に公明党)は、実は共同開発参加国によるこうした「危惧」を外圧・追い風として「歓迎」している。

9月30日の「北海道新聞」の企画記事「ガバメント 舞台裏を読む:武器輸出拡大 透ける意図」は以下のように報じている。

「三原則見直しを協議する自民、公明両党のワーキングチーム(WT)は今年4月から半年ほどの議論で、長く続いた事実上の武器禁輸政策を打ち崩した。スピードの裏には「外圧」と「内圧」が浮かぶ」

「6月中旬、自公WTのメンバーが向かったのは東京都内の英国大使館。日英伊で開発する次期戦闘機の第三国輸出などについて非公式に意見交換するためだ。/日本の現行ルールでは、共同開発なら殺傷能力を持つ武器も輸出できるが、輸出先は共同開発国に限られる。次期戦闘機の場合、英伊以外へ直接輸出することはできない。両国が第三国へ輸出する際も輸出先などについて日本政府の事前同意が必要で、輸出後の補修対応や部品提供も日本が直接は受けられない…。/自民の国場幸之助国防部会長(当時)らWTメンバーのこうした説明に、英国側は強い懸念を示した。/「今のままの日本では、戦闘機の共同開発はメリットを失う。協力は難しい」

「参加者はこの懸念に飛びついた。『そういう話が聞きたかった』と公明のWTメンバーは言った。『これで党(公明党)を説得できる』。英国側の『圧力』を歓迎した」「『あれから公明の態度が変わった。引き締まった議論になった』と自民のWT幹部は言う。公明が一転、次期戦闘機の日本から第三国への直接輸出を容認する姿勢を示したのは、1カ月後のことだ」。

■武器取引は政府同士の合意で
今回の戦闘機共同開発の英国側の中心企業は、英国最大の兵器生産企業BAEシステムズである。BAEシステムズは、2003年に、サウジアラビアへの兵器売却をめぐり巨額の賄賂を送ったと、英ガーディアン紙が報道し、捜査が開始された。しかし、捜査していた重大不正捜査局は、2006年に突然捜査を打ちきった。捜査打ち切りの理由について、時のゴールドスミス法務長官は「国益を守るため」と説明した。当時のブレア首相も「サウジアラビアは英国にとって、テロ対策や中東情勢の面から非常に重要な国だ。捜査の進展で悪影響を及ぼすのは、国益に反する」と発言した。

「サウジへの武器輸出はむしろ国家間の関係構築が主たる目的で、単純な商業行為とは見なさない方が良いでしょう。英政府は助成金を出すなど、自国の軍需産業を非常に強く支援しています。英政府の大臣らは、いわばセールスマンの役割まで果たしているのです。外交訪問で安全保障などについて話す半面、「ちなみに、この武器を買いませんか」という話をする。そのため、大きな武器契約締結の前には、首相を含む大臣級の訪問が数多く行われます。/数年前、大きな契約締結の前にチャールズ皇太子が訪問したことが示唆するように、時には王室関係者の訪問まで伴うこともあります」(「武器を輸出すれば日本も『手が血に染まる』」「日経ビジネス」 https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/100500021/022000016/?P=3)とも指摘されている。

イギリス王室とサウジアラビアの王室との密接な関係はよく知られている。エリザベス女王が王位継承して以来、サウジアラビア国王の英国への公式訪問は4度。4回の元首訪問は、英国の近隣国であるフランスとドイツなど、他に4カ国しかないという。チャールズ国王が即位前の2022年には、チャールズ創設の慈善財団への寄付の見返りとして、サウジアラビアの富豪に勲章と英市民権を得られるように便宜を図ったとも報道されている。もちろん日本の皇室とサウジ王室との関係も強い。現天皇の結婚後の最初の訪問先は、サウジをはじめとする中東諸国であった(1994年、病気前の雅子も同伴)。サウジのサルマン国王は2017年に訪日しているし、2019年にはサウジの皇太子も訪日している。

中東地域は巨大な武器市場である。2022年の世界最大の武器輸入国はカタールで、サウジは第4位、クウェートが5位と続く。カタールもクウェートも首長制の国であり、「国家間の関係構築」のためには、王室・首長家との交流は欠かせない。これまでと同様に、友好・親善の名目で、実質的には武器貿易の支援に皇室が動くのもそうれほど遠い日ではなくなったようだ。

日本独自の武器生産、武器輸出に対しては、日本を含めた兵器市場が荒らされると米国の王手軍需産業(や米国政府)によってブレーキがかけられてきた(サウジアラビアへの最大の武器輸出国は米国)が、ウクライナ戦争による「特需」で、米国軍需企業には余裕が生まれ、それどころか生産・開発が遅れがちになった。兵器市場が急速に膨張した現在、米国にとっても、それを埋める同士国・日本の、軍需産業の育成、武器輸出の拡大は、歓迎すべきこととなったのであろう。

日本が「死の商人」へ踏み出すことは、世界大の軍拡競争を加速させることでもある。

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