要約・翻訳:編集部
Alex Rühle, “Süddeutsche Zeitung”(南ドイツ新聞)2023/09/17
https://www.sueddeutsche.de/panorama/monrachie-carl-gustaf-schweden-stockholm-monarchiegegner-charles-iii-queen-elizabeth-1.6235379
カール16世グスタフが在位50周年を祝うなか、ヨーロッパ中から王制に反対する人々がストックホルムに集まっている。エリザベス女王が死去した今、ほのかな希望で彼らは結ばれている。(編集部注:スウェーデンのカール16世グスタフは、9月15日に在位50年を迎えた。その祝賀行事が、17日(土)までの週末にかけてストックホルムで開かれた。)
街の外で王の祝賀パレードのための準備が進む間、街の中では、市庁舎の裏手のほんの数メートルのところで約40人の人々が、イギリスのグレイアム・スミスの講演開始を待って座っている。講演のタイトルは「王制を廃止せよ——なぜそれが必要で、どうやってそれを実現するか」。わかりやすく言えば、こうだ:「今こそ王制廃止の時」。
これはヨーロッパ共和制運動同盟(Alliance of European Republican Movements:AERM)が毎年行う定例会議だ。イギリス、スペイン、デンマーク、オランダ、ノルウェー各国の王制反対者がストックホルムに集まり、それぞれの王室をどうやったら廃止に追い込むことができるか、意見を交換するのである。
スウェーデンは、カール16世グスタフの即位50周年記念式典がこの週末に行われたため、必然的に今回の開催地となった。そのため共和制会議と王室の祝祭の間には、映画の一シーンにもなり得るような情景がいくつも見られる。例えば土曜日の午後、王室の馬車が誇らかに手を振るグスタフとシルヴィアの老夫婦を乗せて会議場の脇を通り過ぎる時、中で二人のイギリス人の若者たちが今年の夏、「Not my King」というプラカートを掲げてチャールズ3世の戴冠式をどう妨害したか、陽気に語っている。国王夫妻は、こうした独創的な「王制打倒」の目論見をこれからもどうぞお続けください、と促すために、にっこり頷いていると見えなくもない。
王制反対派の会議の出席者たちは今年、ほのかな希望で一致している。それもそのはず、頑丈な岩のようだったエリザベス女王がやっと死去したのだ。鉄の仮面のような微笑を浮かべ、ただ手を振っているだけで、在位年数を重ねるごとにどんどん王という威厳の権化となっていった、あのエリザベス女王だ。しかし今、ヨーロッパの君主制の母船ともいうべきこの存在が永遠の彼方に消え去った今、残されたのは、チャールズ国王と王位継承者ウィリアムを巡る、機能不全に陥った家族だけだ。だからこそグレイアム・スミスは、決して無駄な戦いだとは思っていないのである。20年来英国王室の廃止を求め、理不尽な王制崇拝やロイヤルゴシップ狂いのタブロイド紙との闘いに疲れているかのようにも見えるスミスだが、拳を挙げてこういうのである:「まだゴールには達していないかもしれないが、ベースキャンプに立っていて、頂上ははっきり見えている」と。
■「王政の経済的メリットを証明できた研究はない」
世襲君主制がいかにグロテスクで非民主的な制度であるかということは、今や実質的に誰もが知っている。だからこそ20世紀のヨーロッパ社会は、その他に王制を正当化する理由を考え出した。スウェーデンの「Republikanska Föreningen(共和制連盟)」が今回AERM会議のホストを務めているが、ニッケル眼鏡をかけ、肩をすくめている歴史家のニクラス・マルムベルグ会長は、一見闘士には見えない。しかし、王制維持に賛成するどんな意見に対しても彼は、訓練された柔道家のように巧みに一言で反論できる。ツーリストアトラクションとしてのロイヤルファミリーだって?「観光パンフレットに国王のことが言及されたことは一度もない。王を見に来るツーリストなど、いない」。王室の人脈により輸出が促進される?「王制が経済的メリットをもたらすことを証明した研究はどこにもない」。それどころか、王室はスウェーデンの納税者に年間15億クローネもの負担を強いている、という。「フィンランド大統領の経費何百倍もだ」。結局のところ、最後に残る唯一の理由は、これだ、マルムベルグ氏は言う:伝統。
大半のスウェーデン人にとってグスタフ国王は、尊厳ある君主というよりはどちらかというと恥ずべき存在のようだ。在位50周年を記念に、国王在位中の傑出した瞬間として何が記憶に残っているかというアンケートが行われたが、2004年の津波の後行われた印象的なスピーチを除いて、恥ずべき出来事の数々を並べた驚くべき長いリストができた。全国を巡行していて、彼は自分がどこに来たのかわかっていないことがよくあるようだ。例えば、アルボガ(Arboga)に来て、エーレブロ(Örebro)市民よ、と挨拶したことがある(編集部注:ÖrebroはArbogaから50kmほど離れた別の町)。ストリッパーを登場させたパーティーを開いたり、ブルネイの独裁的なスルタンを賞賛したりしたこともある。それなのに、現在54%の国民が王制維持に賛成している。
娘のヴィクトリアはまだグスタフ以上に人気がある。母シルヴィアのカリスマ性と王家らしいオーラを受け継ぎ、スウェーデンの人々は、一刻も早く彼女が父親の跡を継ぐように願っているようだ。それなのに、どうしてマルムベルグは王制廃止を期待できるのだろう?「ヴィクトリアなら、スウェーデン初の女性大統領になれる器を持っている」と彼は語る。そこで彼はこの春、君主制をどうすれば現代的な大統領制へと移行していくことができるか、会って一緒に話し合おうではないかという提案をグスタフに手紙に書いて送ったという。「そうすればグスタフも、自分の死後もずっと変わらぬ人気を勝ち取ることができるに違いない」。それで、返事は来ましたか?「まだです」とマルムベルグは言う。
この土曜日は、ストックホルムの町の通りには3,000人の兵士と海軍水兵が並び、馬の隊列がパレードを行い、交差点ごとに軍楽隊が鳴り響く。こうしてパレードが派手でやりすぎな豪華さで行われると、「Republikanska Föreningen(共和制連盟)」には新会員が増えるだろう。これまで、宮廷がその豪華絢爛を誇示するたびに新会員を増やしてきた。「ヴィクトリア王女の結婚式のときは、過去最高の盛り上がりを見せました」とマルムベルグは言う。「なぜこんな時代錯誤の見世物のために税金を払わなければならないのか? と皆が思ったに違いありません」。当時は1万人の会員がいたが、現在は約7,500人だ。
■スペインの王制反対派は、それとはまったく別の問題に直面しているようだ
会議に参加している他の参加者にとって、それは夢のような数字らしい。デンマークの代表は、コペンハーゲンから全員で参加しにやってきました、と紹介された。ノルウェーの会員は約300人。そしてスペインはまったく別の問題にぶち当たっているようだ。マドリードから夫のフアン・ミグエルとともに参加したソニア・ノグエスによれば、スペインには17の自治州があるが、そのそれぞれに異なる共和制クラブがある。彼女の夫が手に負えない、という感じで付け加える。「どの自治州にも、というだけならまだいい。どの村にもそれぞれクラブがあるんだ!」それでは王家を倒すのはとりわけ難しいのだ。
とはいえ、ネパールでは最近王制が廃止されたし、バルバドスも2021年11月に英連邦を脱退し、英国王室に背を向けて共和制を宣言した。まもなくジャマイカ、ベリーズ、アンティグアも同じことをするだろうし、これでオーストラリアが君主制に反対する国民投票を実施することになれば、旧大英帝国全体に衝撃波が走るだろう。そのようにして、ここでは皆がこうした仮説を信じて闘士を燃やしていくのだ。
最も美しい瞬間は金曜日の夕方だ。歴史的な街の中心部にある城は明るくイルミネーションに照らされ、その広間では祝賀記念の厳かな晩餐会が開かれている。外では、王制反対派が松明を持って歩いていく。いわば、これから二日に備えてのウォーミングアップだ。城に向かう通りに沿って歩きながら、「君主制はやめて民主主義を!」と陽気に叫ぶ者もいる。広場には巨大なスクリーンが設置され、晩餐会の模様やカール16世グスタフの姿をクローズアップして放映している。勲章を胸にかけ、寄る年波に勝てない彼は、祝賀を楽しんでいるというよりは、むしろ苦笑いを浮かべながら辛抱してすべてが終わるのを待っているかのように見える。あるいは、暗い夜に外で自分のことを呼んでいるのは誰だろうと思っているのかもしれない。タブロイド紙『エクスプレス』は同日夜、反王制主義者たちが生放送を妨害したため、国会議長の演説が聞こえなかったと憤慨する記事を出した。確かに30秒間に関しては当たっていたかもしれないが、そのとき広場には、演説を聞こうとする聴衆はまったくいなかった。