『マコクライシス』『秋篠宮家と小室家』『秋篠宮』を読む   ──〈たった一人の叛乱〉の軌跡と総括

奥野修司 著、発行:日刊現代、発売:講談社、 2022年5月

ここで紹介する3冊の本、その中の最新刊である奥野修司(ルポライター)の『マコクライシス「眞子さんの乱」で見えてきた皇室の危機』(発行:日刊現代、発売:講談社、2022年5月刊)を読了して、私の中に浮かんだ言葉は〈たった一人の叛乱〉である。もちろん、それはあの丸谷才一の小説の内容とイメージが重なったというわけではない。長いマコ騒ぎを通して感じ続けてきたことが、やっと一つの言葉に集約できたら、それだったということにすぎないが。

『日刊ゲンダイ』に連載されている皇室情報についての時評をまとめ直したこの本の帯の言葉は「海外逃亡を選んだプリンセスの悲劇と苦悩」である。

そこでは、なるほど、時代の変化に対応できなくなっている皇室制度の矛盾を一身に担って「苦悩」したもとプリンセスの「悲劇」のドラマがバッシングの持続的な拡大とそれに対抗して彼女への同情のうねりの発生という「世論」動向が、かなり正確に読み解かれている。この本の結びの言葉はこうだ。

「1997年、ダイアナ元妃がチャールズ皇太子と離婚したあと不慮の死を遂げたが、エリザベス女王が無関心をよそおったために、国民は強い反発を示した。これをきっかけに英国王室は改革に取り組み、自らの活動を積極的にPRするだけでなく、SNSもフルに活用するようになったという。皇室も『眞子さんの乱』を契機に、より多くの人から愛され敬われるように考えていくべきではないだろうか。皇室は変わらないことも大切だが、変わることも必要なのである」

文藝春秋 編、文春新書 刊、2022年2月

2022年2月に刊行された文藝春秋社編の新書『秋篠宮家と小室家』は「2016年〜2022年に『文藝春秋』に掲載された秋篠宮家に関する記事を編んだもの」(「はじめに」)に「有識者会議」でヒアリングを受けた本郷恵子の文章をプラスしてつくられている。保坂正康・友納尚子などの、このメディアの常連たちのレポートをまとめて読むことで、私はハッキリと「マコ」なる女性の皇室脱出(アメリカ逃亡)の持続的な強い意志の存在が確認できた。この新書の帯の文章は、こうだ。

「このご結婚は更なる波乱の幕開けにすぎない」。

妹「佳子」の姉への全面加担と親、特に母(紀子)への両人の強い反発についてもそれなりに確認できる。カコの方も強い皇室脱出願望を持っていることは、まちがいないようである。カコの乱の予兆も読める。こちらの方で使われている言葉は「眞子さまの乱」である。

この新書には「悠仁さまの『帝王学』と『学校選び』」のタイトルのレポートが収められている毎日新聞社の記者であった江森敬治が2022年5月に小学館から『秋篠宮』という単行本を出している。

この長く「秋篠宮」取材を持続し、本人とも交流し続けてきた(『秋篠宮さま』という本を以前に毎日新聞社から刊行している)、元記者の本の帯の言葉は、こうだ。

「皇族である前に一人の人間である」。「私にとっての自由とは、頭の中の自由が一番大切になります」

江森敬治 著、小学館 刊、2022年5月

これが3冊目の紹介する本である。「一個の人間」としてキチンとした意見を持った人格としての「秋篠宮」が、そこにはひたすらクローズアップされ続けている。

人物評価は『マコクライシス』の奥野の方の世間知らずのオボッチャマぶりのトンチンカン発言という皮肉な評価軸の方が、はるかにリアルのようだ。

江森も「一定のきちんとした基準を設け」それにそってマスコミ報道には「反論」するという意向を表明している秋篠宮発言をふまえた、「皇族の維持は極めて大事な問題である。皇室の危機管理に改革を求められた」と論じている。

時代の変化に対応した皇室改革を、というトーンで三著は共通している。そして、もっとも明示的に正面から論じているのは『マコクライシス』であるが、「女性(系)天皇制」を容認する方向への皇室制度の転換の必要性がマコの〈たった一人の叛乱〉の軌跡の総括を通して、主張されているようである。
 皇室制度という〈超特権的奴隷制度〉の中でもがいていた一人の若い女性の反乱に、人間的な同情を私も感じないわけではない。しかし、その同情や共感をこの〈超特権的奴隷制度〉への安定的持続のテコに利用されるのはゴメンである。

〈たった一人の叛乱〉へのバッシングと同情がグルグル回っているマスコミにはこんなグロテスク制度はなくしてしまうべきであるという、もう一つのあたりまえの結論に向かう流れは、存在できないようだ。

人々を戦争にまとめて狩り出すことに大きな力になった(今後も、そうしたナショナリズム煽動装置として稼働する可能性が強い)皇室制度、この〈超特権〉に囲まれているが人間的自由がトータルに侵害されている皇室によって支えられている〈制度〉。

こんな制度には、私たちは何の共感も同情も寄せる必要はないのだ。

私はマコへの同情から皇室制度安定のための改革の必要を説く3冊の本を前にこう思った。

〈たった一人の叛乱〉への私の解答は、だから、こんなグロテスクな〈制度〉は廃止すべきである。

(天野恵一)

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