「皇室は持続可能か」だって!?

中嶋啓明

「今の憲法に従うなら、持続可能な皇室のための皇位継承策は、喫緊の課題です。/しかし、皇位をどうつなぐのか、の前にまず考えなければならないのは、なぜ皇位をつなぐのかです。(略)私たちに突きつけられたこの問いを突き詰めれば、皇位継承の道筋はおのずとみえてくるはずです。」

朝日新聞社が発行する月刊誌「Journalism」の4月号は、特集企画のテーマに天皇制を取り上げ、「皇室は持続可能か」とタイトルに掲げた。冒頭は、その特集の趣旨を述べた同誌編集長・喜園尚史の前文『「象徴」って何ですか』の一節だ。

特集は、皇位継承策をめぐる政府の有識者会議の報告書に対する評価を柱の一つに構成されている。報告書は、具体的な皇位継承策の提言を先送りし、皇族数の確保策に話をすり替えて選択肢を示しているが、これをめぐり特集は、女性・女系天皇を認めるべきと主張する国学院大講師の「皇室研究者」高森明勅、男系男子を優先して女性天皇も許すよう皇室典範を「改正」すべきと訴える京都産業大名誉教授の所功、それに男系維持の継承原則を崩すべきでないと強調する元朝日記者・岩井克己の3人の“論考”を列記。これに、政治性を帯び「君主化」した天皇の権威に依存することで、「国民」が主権者としての責任と自覚をあいまいにしたまま戦争責任や原発政策など諸問題の解決を回避し続けることが問題だと指摘する一橋大名誉教授・渡辺治の主張が付けられている。

さらに特集は、明仁と美智子、徳仁と雅子、文仁と紀子がそれぞれ婚約した際に催された皇室会議3回分の議事録を、龍谷大准教授の瀬畑源の解説とともに掲載している。

皇室会議の議事録は、資料としては参考になる。やはりと言うべきか、家系、「家柄」、血統に、これでもかと言うほどに執着する天皇制の愚劣さがよく読める記録だ。記録を読むと、天皇制はあらゆる差別の源泉なのだと、しみじみと再認識させられる。

だが、やはり朝日の媒体。こうした愚劣さを厳しく批判するわけではない。瀬畑も解説で、家系、血統へのこだわりぶりに触れ、それが「今度の皇族の結婚の困難さを浮き彫りにしている」と指摘する。だが、それだけ。それどころか瀬畑は、こうしたこだわりを『メディアや国民から求められる「模範的な皇室像」に忠実であろうとの努力の結果』だの「国民からの支持が重要視される時代の特徴」だのと評価する始末なのだ。だから解説者として起用されたのだと納得できる。

柱に挙げる3人の“論考”自体、内容に特段、目新しいものはない。3様の主張から有識者会議の報告書を評価、批判したもので、批判、評価の根拠となる男系継承の維持や女系容認など、それぞれの主張は、すでにさまざまに言い尽くされたものばかり。

高森も所もこの間、それぞれ女系容認、折衷案の女性天皇容認の論者としては、いずれもメディアでよく名前を見る。だがなぜ、男系維持論者として採用したのが岩井なのか。確かに元朝日記者だから使いやすいということもあるのだろう。だが、それにしても、メディアで名前を売っている男系論者は、ほかにも数多くいるだろうに。

渡辺が、ガス抜きに使われているのは明らかだ。渡辺は論考の冒頭で、明仁が退位を示唆して「おことば」を発表したころから、退位、代替わりの儀式にかけて『マスメディアの報道や識者の論評で「平成」の天皇を礼賛する言説があふれた』と指摘し、「憲法理念から離れた象徴天皇」(渡辺論考のメインタイトル)のありようを批判している。だがそもそも、そんなふうに渡辺に批判させる朝日自身が、『平成」天皇を礼賛する言説』をあふれさせている当事者ではないのか。典型的なマッチポンプ。特集のカマトトぶりにはあきれるほかない。

喜園は前文で、「象徴とは何か」について「天皇は、自ら考えて続けてきた象徴像を語りました。それは、主権者の私たちが戦後ずっと放置してきた問題でもありました」と書いている。こうした主張はこの間、メディア上でも散々、見聞きする。

だが、本当に「戦後ずっと放置してきた」のか? 「象徴とは何か」とは、それなりに憲法学的に定義されてきた。単に、その定義から逸脱し、動き回る天皇を、メディアがきちんと批判してこなかっただけではないのか。「象徴とは何か」の問いを「放置してきた」のではない! 憲法違反を繰り返す天皇を「戦後ずっと放置してきた」のだ。

だいたい「今の憲法に従うなら」、「皇位継承策は、喫緊の課題」って何ナンダ!? 憲法には、天皇制を維持すべきとは書いていない。

喜園が言う「なぜ皇位をつなぐのか」の問いには、「皇位をつなぐ」こと自体の是非の検討は含まれていないのだろう。「皇位をつなぐ」ことを前提にしたうえで考えろと言っているにすぎない。

渡辺は、「世襲の天皇と民主主義・憲法の法の下の平等との矛盾」を解消するための「長い営み」の一つとして「天皇には男性しかなれないとかいう、ジェンダー差別も直ちにやめるべき」と、女性天皇容認も訴えている。
渡辺の真意が、ここにないのは間違いなかろうが、それでも、特集企画全体の意図として、朝日が誘導したい方向が透けてみえるように思う。

「皇位継承の道筋はおのずとみえてくる」そうだ。まさにメディア仕掛けの天皇制。

今後、「持続可能な皇室」に向けたメディアのキャンペーンが、さらに強まっていくだろう。メディア批判の重要性を再確認せざるを得ない。

*初出:「今月の天皇報道」『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信』 no.208,2022.5

 

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