御厨貴編著『天皇退位 何が論じられたか──おことばから大嘗祭まで』

御厨貴編著『天皇退位 何が論じられたか──おことばから大嘗祭まで』(中公選書・2020年)

アキヒト天皇の「生前退位」を実現するのに大いに力となった安倍首相がつくりだした「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の座長代理であった著者(実質的に、その会議をしきった)の、大量の各論文に対するコメント付き編著である。

戦後憲法の天皇規定〈非政治・非宗教の象徴天皇〉を全面的に踏みにじる「生前退位」に向けた「典範」改正要求の実現という、天皇自身の「賭け」、これへの自覚的加担者だった著者は、首相の意をも組みこんで、こんなふうに、それをうまく実現したという自慢話のトーンが著者の「はじめに」や細かく添えられたコメントを通して、全体から伝わってくるすこぶる不愉快な書物であった。

しかし、広くマスコミにおどったいろんなジャンルのインテリの天皇制ヨイショ論文が広く集められている、この論文集(批判的な主張はゼロではないが)、この「代替わり」プロセスで何が実現させられてしまったかを、私たちがリアルに認識するには、便利な本である。

著者は「はじめに」をこういう言葉で結んでいる。

「平成の幕引きとともに、戦後という時代がようやく『本当』に終わったと実感している」。

この著者のいう「終わった戦後」とは、いいかえれば戦後憲法下の象徴天皇制理解、天皇制と民主主義・人権・平和主義は、対立的である、あるいはかなり矛盾しているという戦後支配的だった思想、こう言い変えてもよかろう。それは、ほぼ消滅した思想であると強調しているのだ。この「代替わり」のプロセスに生みだされた言論をトータルに集約してみれば、象徴天皇制と平和主義はもちろん民主主義や人権とは、すこぶる調和的なものであることがハッキリ読み取れるという主張だ。この世に反天皇制運動など存在しなくなったという認識とそれは対応している。さて、私たちはどう対決する。

(2020年8月学習会報告/天野恵一)

*初出:『反天皇制運動 Alert』no.50,2020.8 (反天皇制運動連絡会)

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