「愛子天皇が実現する日」!?

 中嶋啓明

12月1日の朝刊各紙には驚いた。

言うまでもない、愛子の誕生日をめぐる大騒ぎだ。

各紙とも本記を一面や社会面に載せただけでなく、生い立ちを振り返ったり、縁のある関係者らのオベンチャラ記事などを語らせたりと、大展開した特集記事に1つの紙面全面を割いている。

例えば『読売新聞』。御所の庭を「散策」する愛子の宮内庁提供写真を3段もの大きさで一面上部中央に本記と共に配置した同紙は、特集記事で全面を埋め尽くした特別面を用意した。何枚ものカラー写真で飾り立て、「歴史学び 平和に思い」だの「チェロ演奏 国内外の文化に関心」、「向上心高く おちゃめ」といった、例によって歯の浮くようなお追従だらけのサイド記事が躍っている。

『毎日新聞』は、本記を載せたのは社会面だが、特集記事のメインタイトルに「令和の皇室 新たな一歩」とデカデカと掲げた。

『朝日新聞』はオピニオン欄に「愛子さまの成人に思う」と題した「識者」らのインタビュー記事を載せ、『女性天皇容認案が出たのは3歳のころ。以降、皇位継承をめぐる議論が続くなかで「大人」になる愛子さまへの、私たちの責任は。』とリードで謳ってみせた。インタビューの相手は、「ジャーナリスト」に政治学者、憲法学者(横田耕一氏!?)の3人。全体として、女性天皇をも認める方向へと誘導するような内容に仕上がっている。

一女性皇族の誕生日に、ここまでやるかと思った。天皇「家」の一人娘が成人したから、というのだろうが、背景に、眞子の結婚スキャンダルで露になった天皇制の統合力低下と、その中で行き詰まりを迎えつつある皇位継承者の払底という問題を前に、天皇制権力の側が抱く、かつてないほど深く大きな危機感が横たわっているであろうことは間違いない。

4年の長きにわたってメディアが踊りに踊り、世論をあおりにあおった眞子の結婚スキャンダルも、ようやく一段落した。

このスキャンダルはいったい何だったのか、あらためて冷静な検証と分析の作業が必要であることは間違いなかろう。スキャンダルを機に、あるいはこれをも栄養素として、天皇制がなにがしかの変化を受け入れながら再編を果たそうとしているのは明らかなのだから。

『文藝春秋』の来年1月号は「天皇と日本人」と題したかなり長大の緊急特集を組んでいる。冒頭は、民主党政権時代の元総理大臣・野田佳彦や元官房副長官の古川貞二郎に、東京大学史料編纂所教授の本郷恵子を交えて行った鼎談企画で、そのリードでは「このままでは皇統が絶えてしまう!/皇室の一大危機を大激論」と、大仰に謳っている。

すでに人選からも、ある一定の方向性を読むことができるが、鼎談が議論のテーマに掲げた4本の柱は「皇統の危機——なぜ政治は放置するのか」「皇室は日本の宝——続いたのには訳がある」「守るべきは万世一系か、それとも天皇制そのものか」、そして最後に「愛子天皇が実現する日」(!?)だ。

緊急特集の中には、自民党の政調会長で極右政治屋の高市早苗に対するインタビュー企画『「女性天皇には反対しない」』が入っている。

インタビュアーのノンフィクション作家石井妙子による前文には冒頭、眞子の結婚、渡米や愛子の成人を挙げ「今、皇室への、とりわけ皇統への関心が、国民の間で非常に高まっていると感じる」と書いている。

高市は、9月の総裁選で旧宮家の皇籍復帰を訴えたバリバリの男系主義者だが、この中でも強調しているように、女系天皇に反対しているだけで女性天皇に異を唱えているわけではない。そんなことは、これまでに何度も言い尽くされてきた。なのになぜ今、あえて高市を登場させ、「女性天皇には反対しない」とタイトルで強調したのか。同誌の意図は明らかなように思う。

右翼男系主義者らによる組織的な天皇宛て「請願」について以前、本欄で書いた(2017、2018年)が、当時、徳仁と雅子、愛子の評判はすこぶる悪かった。「請願」の主眼は、眞子と小室圭の結婚反対だったが、皇太子だった徳仁と雅子の「廃太子、廃妃」を求め、愛子の身元調査を要求するなどといった内容が一様に書かれる一方、秋篠宮「家」に対する評価は、今とは正反対に高かった。

だが、眞子の結婚騒動を経て今、メディアでは『「放任教育の果て」を省みない「秋篠宮」』(『週刊新潮』12月9日号)など、秋篠宮の評判はガタ落ちだ。

地盤沈下著しく、かなりの程度、民衆統合力が毀損されたかに見える天皇制にとって、今一度、統合の象徴として再生するため、「愛子天皇」も視野に入れた女性天皇容認は、メディアを総動員しやすい起死回生の一手なのかもしれない。

軌道修正しておくか。そんな思惑が、男系主義者らと「マスコミじかけの天皇制」の間で一致したのだろうか。

皇位継承問題をめぐる有識者会議は、12月中にも最終報告書を取りまとめると報じられている。今後も、天皇制再編のためのさまざまなキャンペーンが、メディアに踊り続けていくだろう。ウンザリだが、注視しないわけにはいかない。

*初出:「今月の天皇報道」『月刊靖国・天皇制問題情報センター通信』
no. 205, 2021. 12

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