読売グループ新総帥《小林与三次》研究(1-3)

電網木村書店 Web無料公開 2017.4.1

第一章《旧内務省の幻影》

「警察新聞」が世界にのびる「全国紙」へ発展する恐怖

3 “読売進駐軍”の違法パワーにバックアップ

 日本テレビでは、一九六九年秋以来、激変がつづいた。これも前著でくわしく紹介したところだが、政財界の会物的存在であった正力松太郎(元内務官僚)会長の死去、粉飾決算の暴露、日本刀を捧げもって会場にはいる総会ゴロ。そして、正力の女婿、元内務官僚の小林与三次の登場である。

 「読売進駐軍帰れ!」という声に象徴されるような、上から下までの不人気にかかわらず、小林社長の権力はますます強化され、労資慣行は無視され、労資協定はつぎつぎに破棄・改悪された。

 こうして、系列支配の強化、再編成が進められ、日本テレビが保有する準キー・ローカル局の株式は、一九七五年には額面約四億五千万円、一二社に達し、小林社長は日本テレビ以外の民放局七社の取締役を兼任するに至った。それが、五年後の一九八〇年には、八億四千万円で一五社、九社の取締役兼任へとますます拡大した。

 このような攻撃・マスコミ支配の原動力としての違法・脱法行為による新聞・放送系列支配の実態についても、前著を参照していただければ幸いである。

 問題の郵政省通達は、民間放送局が「人的」にも「資本的」にも他の局および新聞社から独立すべきであると定めている。たとえば、大蔵省通達は、銀行の兼営を禁ずるに際して出資五パーセント、派遣役員の総引き上げを命じている。これにくらべれば郵政省通達は、はるかにゆるく、実態無視の規制にしかすぎないのだが、それさえ「人的」および「資本的」に、公然と無視されつづけてきたのである。

 のちの章でもふれるが、小林与三次が日本テレビ社長として、テレビ音声多重放送の違反をやってのけ、「オレが命じた」とばかりに郵政官僚の抗議をふみにじったのは、つい一昨年のこと。元内務官僚で、いまも官界の黒幕である小林にとっては、赤子の手をねじるに等しい仕業であった。

 そして、その勢いが、今後も新聞・放送の二頭立てで加速されるとしため、日本のマスコミの行末は恐ろしいのだ。

 しかも、さきの異例人事への読みは、早くから関係者の間に知られていた。放送評論家の志賀信夫は、三年も前に、小林に会った上で、こう書いていた。

《それにしても、もし小林が発行部数約八六〇万部の世界一の巨大新聞の社長と、日本最初の民放テレビの社長とを兼任することになると、まさに活字マスコミと電波マスコミの頂点に立ち、マスコミ界の支配者になるわけであるが、郵政省としては新聞社と放送局との社長を一人で兼任するのを避けるように指示してきた。

 そこで、小林社長に正月早々、新聞社と放送局の社長を兼ねることについて、どのような見解を持つか質問してみた。それに対して小林社長は次のように語った。

 「両社兼任の問題点は要するに言論の独占がいかんということだろうと思います。同一人があらゆる言論機関を握ってしまうのは危険だという……。その論理は正しいと思う。しかし、テレビが数局、新聞が数紙あれは、独占もへちまもない。田舎の一人の人間が、その地方の新聞・テレビをみんな握るのは危険だ。世論だけでなく、政治、経済を握っちゃうからね。しかし、逆に言うたら、中央紙の必要性というのはそこにあるのだ」

 そこで、筆者は「東京のように、これだけ新聞社やテレビ局が数社あれば……」と重ねて尋ねると、

 「何ちゅうことはない。これだけしのぎを削っていれば……。観念的に議論したって意味ないよ。事実上、一人でやれるかといったら、そんなヒマはないと思います。現に、ひとつのテレビさえも製作を分けたりして分散させてるでしょう。そんな状態なのに……」

 と、小林社長は答えている。

 一人で新聞とテレビとの双方をやれるかというと、そんなヒマはないと、否定的な表現をとっているようにもみえるが、そう解するのは誤りだろう。というのは、テレビ局は番組製作を分離しているが、社長は一人でやってきたのであり、協力さえ得られれば、新聞と放送の二つの社長業を一人で兼任してもいいということを実は強調したにすぎない。だから、郵政省の言い分は論理的に正しいが、東京の場合、新聞と放送の二つの会社の社長を一人の人間がやってもおかしくないと主張しているのだと思う。

 ということは、読売新聞と日本テレビとの二つのマスコミ機関の社長を、小林与三次が引き受けても、自分自身の考えかたや生きかたを否定することにはならないと発言したと読んでいいだろう。さらに深読みすれば、小林与三次は、読売新聞の社長になれば、日本テレビの会長になるということはなく、双方の社長を兼ねる決意を秘めているのではないかと思われる。(『人と日本』「‘79・3)》

 要するに、片方では会長という「異例人事」で、郵政省の顔を立ててやっただけのことなのだ。本人は、いまも、「日本テレビと読売新聞の両方をみていく」と明言し、ワンマンフロアの“常勤体制”も、時間は短かくなったとはいえ、派手にくり展げられているのである。

 しかし、「ますます驚く」のだが、こんな話は読売グループでは日常茶飯事ということ。「いまは社屋が広くなったから話の規模も広がっただけ。正力会長のワンマン振りはもっとすごかった」というのだ。


4 マスコミ《独占集中》の開祖は元A級戦犯