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読売グループ新総帥《小林与三次》研究 第五章-1

会社の宣伝する「赤字」は組合つぶしのための嘘であることを、木村愛二は経営分析委員として指摘。狙い撃ちで不当解雇され、以後16年半、労組の全面支援を得て不当解雇撤回闘争を展開することになる。

第五章《組合征伐》

「決死」とか「捨て身」が飛び出す本人談の真相とマスコミに報道されない実状

1 ブラスバンドを先頭にデモ行進

 「ホワット・イズ・イット?」(これはなんですか?)

 大変にゆっくりした口調の質問であった。見ず知らずの日本人相手だからというのではない。眼の前では、一六名編成のブラスバンドが、力一杯のジャズ演奏中。耳元に口をよせて、大声で話さなければ、相手に聞えないという状況であった。

 質問者は、観光客風、アメリカ人らしき白人老紳士。聞かれたのは、街頭でビラ配布中の木村愛二であった。

 ところは東京、丸の内一丁目、第一生命ビルの裏といえば、最近名物の昼休みデモの出発点である。デモの出発に先立って、日本音楽家労働組合(日音労)のメンバーで構成する東京吹奏音楽隊が、昼休みでランチョン・プロムナードに出てくる人々向けに、サービス演奏中であった。

 ときは、一九七八年七月二一日、その日のデモ隊の先頭の横幕には、「浜田精機・日本テレビ・キグナス石油、三争議の早期解決をめざす七・二一総決起行動」と書いてあった。こんな長い名称の行動を、外人観光客にきかれて、おいそれと説明できるはずもない。その上、木村も平均的日本人の英語能力の持主で、会話はからっきしダメときている。えい面倒とばかり、木村は身振り手振りで、ブロークンの説明にとりかかった。

 「アイ・アム・ファイアド」(ゎたしはクビをきられた)

 「ゼイ・アー・オールソー・ファイアド」(彼らも同様にクビをきられた)

 すると今度は、

 「オー・オール・オブ・ゼム?(みんなそうか?)

 という質問がかえってきた。やはり適当な返事では満足してくれない。ともかく支離滅裂ながら、意思疎通できたと思われる部分を整理すると、つぎのような会話になる。

 「近所ではたらいている仲間が、沢山、応援にかけつけてくれる」

 「クビをきられたものは、労働組合にはいっていないのか」

 「はいっている。あのブラスバンドも、応援にきた労働組合のメンバーである」

 「きみらの労働組合は、雇用主と雇用確保の協定を結んでいないのか」

 おお、この外人は、何者なのであろうか。

 日本の企業別労働組合の弱点と長所と、アメリカなどのユニオンの強さと保守性と、等々……この質問に含まれる情報量の大きさに、プロークン・イングリッシュは、最早、こたえきれないのである。

 木村は、絶望して、こういった。

 「日本の労働組合は、大変に弱いのである。法律も悪いのである」

 外人は、眼の前のブラスバンドと、派手な旗・ゼッケン・宣伝カーまで並べたデモ隊を見くらべながら、木村の顔をウサンくさげに眺めた。

 と、そこへ、シュプレヒコールがひびきわたった。

 「三菱重工は、浜田精機倒産の責任をとれ!」

 「三菱独占は、浜田精機の工場を再開しろ!」

 これを聞いて、外人はふたたび木村に近寄ってきた。しかも、いささか昂奮の面持であった。

 「アー・ユー・ゴーイング・トゥ・ミツビシ?」(君らは、三菱にいくのか?)

 「イエス」

 外人は強くうなずく。「世界の三菱」を知っているのだ。死の商人としてか、アメリカでの企業倒産の原因としてか。こちらも説明せねばならない。

 「大企業の三菱が、中小企業の仕事を横取りして、つぶしてしまうのだ。それでクビをきられた労働者が、抗議にいくのだ」

 「そんなことが、東京で起っているのか?」

 「イエス」

 外人の眼はまんまる。意気ごみもちがってきた。この外人、もしかして、三菱にうらみでもあるのだろうか……。

 そういう飛び入りの見物人にも見守られながら、丸ビルの横をかすめ、デモ隊は街をいく。そして、デモの終着点で流れ解散し、大手町の読売新聞社の本社屋正面玄関へ集まる。短かい行動だが、支援団体の代表、日本テレビ労組の委員長、解雇者本人の木村愛二などが、こもごもに、宣伝カーの上から、読売新聞グループと日本テレビの現状を訴え、たたかいの決意を表明する。

 こういうデモ行進からの、読売新聞社への抗議要請行動は、何千人の規模で、一九七八年以降都合五回ももたれた。名称は、日本テレビ総行動、東京総行動、さきにふれた三争議総決起行動、中央総行動と変った。いろいろな段階で、日本テレビ争議の全面解決が取り上げられたのである。

 なお、キグナス石油、浜田精機の争議は解決ずみ。浜田精機は三五〇名の組合員が三五億円の解決金を獲得、再建へむかっている。


2 九段会館を満席にした決起集会