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安倍政権の隠蔽体質があらためて露呈 加計問題、特区会議の議事録を改竄か

2017/08/28(月) 13:00

8月2日、福島で講演した前川喜平・前事務次官。(撮影/横田一)

「加計ありきではない」と言い張る安倍晋三首相の主張が根底から崩れ始めた。「国家戦略特区諮問会議の議事もすべて公開」「プロセスに一点の曇りもない」と強調していたが、肝心要の議事録が一部隠蔽(改竄)された可能性が高いことが、「特区会議に加計幹部 議事要旨に出席・発言の記載なし」と銘打った8月6日付『朝日新聞』の記事で明らかになったのだ。

愛媛県・今治市が国家戦略特区への提案を申請した翌日の2015年6月5日に開かれた諮問会議のワーキンググループ(WG)のヒアリングで、同県と同市から3人が出席し、質疑応答をしたが、この場に加計学園幹部が出席して発言もしたのに、議事要旨に記載されていなかったのだ。

この報道を受けて翌日の7日、民進党の「加計学園疑惑調査チーム」が会合を開き、塩見英之内閣府参事官を問い質した。塩見氏は「(加計学園幹部は)『説明補助者』という非公式な立場だった。発言も公式なものではないため、記載していない」と説明したが、調査チーム共同座長の桜井充参院議員は納得せず、「結局、加計ありき、加計を隠したがることばかり」「本当は『非公開で』というやりとりがあったのに、議事要旨に『公開でいいか』の問いに『はい』と記載したのは改竄ではないか。行政文書の信用、内閣府の信頼の問題に関わる」と追及。議事録全文の提出を求めた。

また議事要旨には、『朝日新聞』が報じた加計学園幹部の発言(教員確保の見通しやカリキュラムの特徴についての質疑応答)が入っていないことから、「意図的に削除したのでは」「なぜ公開する内容を調整しなければならないのか」と疑問が噴出。調査チームの次回会合(10日)で速記録などの議事録全文や加計学園側の資料の提出を求めたが、情報公開されることはなかった。

安倍政権の隠蔽体質が改めて露呈した形だ。菅義偉官房長官も会見で「加計学園は共同提案者ではなく、(説明)補助者。ルールに基づいている」と強調。WG座長の八田達夫氏も同じ内容の弁明をして事足りている。「加計学園の獣医学部新設が国家戦略特区に相応しいのか」「閣議決定をされた“石破4条件”を満たしているのか」という検証をするための情報が欠落している状態なのだ。

【規制緩和論者ばかり】

2日の福島市内での講演で前川喜平・文部科学前事務次官は、こう指摘した。

「文科省は『今治市から提案のあった内容は、他の大学ですでにやっていることなので、(石破)4条件に合致していない』ということは繰り返し言っている。それに対して『新しいものだから認めるべきだ』という意見が出たのですが、きちんとした議論はなされていない。ワーキンググループのメンバーは規制緩和論者ばかりで、獣医学の“獣”の字を知っている人は1人もいないのです」

獣医学の専門家の鹿児島大学・岡本嘉六名誉教授も、「要請があれば二つでも三つでも獣医学部を承認」という首相発言を「何の根拠もない素人の戯言」などと批判していた。「日本には国際的な獣医学部が一つもなく、欧米に比べてレベルが低いことが問題になっていた。それで文科省はレベルアップのために大学再編による『共同獣医学部』構想を進めていたのに、内閣府から『国家戦略特区で獣医学部新設』という横槍が入った。だから文科省が怒り、前川喜平・前事務次官が怒りの告発をした。安倍首相は共同獣医学部構想に逆行することを進めたのです」(岡本氏)。

「共同獣医学部」の構想は現在進行中で、文科省は資料で現状を示して諮問会議で説明をしていた。前川氏が「岡本名誉教授の言う通り、獣医学部新設は日本の獣医学部のレベル低下を招く」と懸念するのはこのためだ。

獣医学の専門家の意見を聞かない“素人集団”が、議事録を隠蔽・改竄しながら獣医学部新設をゴリ押しした実態が浮き彫りになる。文科省の大学設置・学校法人審議会は9日、加計学園の獣医学部新設を“認可保留”としたが、加計問題の疑惑は深まるばかりだ。

(横田一・ジャーナリスト、8月18日号)

相模原障がい者施設殺傷事件から1年 追悼式への違和感とは

2017/08/25(金) 18:32

亡くなった19人の名前も遺影もない無機質な祭壇。(写真/猿渡達明)

昨年7月26日、神奈川県相模原市の「津久井やまゆり園」で障がい者19人が刺殺、27人が重軽傷を負った相模原障がい者施設殺傷事件から約1年。7月24日、相模女子大学グリーンホールで、県・市・かながわ共同会共催の追悼式が行なわれた。

最初に違和感を感じたのは無機質すぎる祭壇。19人の名前も公表されず、家族会や園長の追悼の辞でも「◯◯のあなた」とだけ。この日も存在が消されている。悔しい。約670人が出席の中、車椅子のひとは10名程度で、今入所している仲間の声も聞けない。塩崎恭久厚労相が代読した安倍総理のメッセージや、出席した黒岩祐治県知事の式辞で繰り返された「19人の御霊よ安らかに」のフレーズ。官僚が考えた言葉をただ読んだとしか思えなかった。形式的な1時間程度の追悼式。

私たちは、「私たち抜きに私たちのことをきめるな」をスローガンに地域で活動してきた。県が設置した部会による再生基本構想がもうすぐまとまるが、知的障がいの当事者は1名のみ。この事件に関して、国県・市町村・かながわ共同会は、さらに連携を取るべきであり、国は、分離・隔離政策をしてきたことを当事者や家族に謝罪し、インクルーシブ(包摂)教育や介助者(ヘルパー)不足等、生きる為にお金を使うべきだ。私たちは最後まで地域で生きたい!

(猿渡達明・一歩の会、8月4日号)

火山灰濃度の影響評価100倍に引き上げ 日本の全原発が非常時の基準満たさず

2017/08/25(金) 17:40

原発の火山灰の影響評価について、原子力規制委員会は7月19日の会合で、評価に用いる火山灰濃度を百倍規模に引き上げる基本方針を承認した。すでに許可済みの川内、高浜、伊方、美浜、大飯、玄海原発は、稼働中も含め、現状で規制の要求を満たしていない。

審査で用いられる規則及び火山影響評価ガイドは、火山灰によるフィルターの目詰まりで非常用ディーゼル発電機が機能喪失に陥ることがないよう要求している。電力各社は、火山灰濃度を仮定し、フィルターが詰まる時間と交換に要する時間を算出し、交換できることを示し、許可を得ていた。

仮定する火山灰濃度について、規制委は昨年10月に、米国セントヘレンズ火山での観測値を採用し、基準を約十倍に引き上げた。しかしその値は、観測機器の性能から過小評価の可能性があると観測者当人が指摘していたものだった。 また、同時期の規制委に、富士宝永噴火の推定値により、火山灰濃度が最大でセントヘレンズの約30倍になるとの電力中央研究所による新知見が報告された。

規制委は今年になって外部専門家を交えた検討チームを立ち上げた。その中で規制庁は三つの方法で試算を行ない、二つを採用したが、いずれもセントヘレンズの百倍規模となったのである。

電力各社は、許可済みの原発について新基準での試算を行なったが、川内、伊方、玄海原発は、交換の限界となる濃度の3~4倍に。大飯や美浜も限界濃度を超えた。高浜原発は同程度となったが、規制委が電源2系統の機能維持を要求したことから現状では新基準をクリアできない。電力各社は、フィルター性能を向上させ、運転しながら交換できるようにするというが、いずれも今後のことだ。

原発を直ちに止め、再審査なしに再稼働を認めるべきではない。8月7日14時から参議院議員会館にて規制庁交渉を予定している。

(阪上武・原子力規制監視市民の会、8月4日号)

ブラックホール化する日本銀行(高橋伸彰)

2017/08/24(木) 18:59

日本銀行は7月20日の金融政策決定会合で、2%の物価目標達成時期を2019年度頃と、昨年10月に同会合で展望した2018年度頃から1年先送りした。見直しは今回で6度目。当初の2015年4月と比較すると4年以上も先送りされたことになる。それにもかかわらず、日銀の黒田東彦総裁は同日の記者会見で「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し(中略)安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します」と述べ、従来のスタンスに変更はないと言明した。

黒田総裁は、貨幣量さえ増やせば物価は必ず上がるという極端なリフレ派ではない。就任時の挨拶でも、デフレの原因は多様であり「あらゆる要素が物価上昇率に影響している」と述べてリフレ派とは一線を画していた。ただ、物価安定の責任論に話題が及ぶと一転して「どこの国でも中央銀行にある」と主張し「できることは何でもやるというスタンスで、2%の物価安定の目標に向かって最大限の努力をすること」が日銀の使命だと言い切った。

これに対しケインジアンの吉川洋氏(「物価と期待Ⅱ」日興リサーチセンター)は、4年以上マネーを増やし続けても2%の物価上昇を達成できない「実績」を見れば、リフレ派の理論は「否定」されたという。実際、この4年余りの間に日銀が供給する貨幣量(発行銀行券と当座預金の合計)は141兆円から460兆円に319兆円も増加したが、生鮮食品を除いた消費者物価指数(以下、物価指数という)の上昇率は昨年3月から12月まで10カ月連続で下落したうえ、今年に入ってからも0%台前半の上昇率で推移している。

日銀の展望通りに物価が上昇しないのは人々のデフレ期待が根強いからではない。吉川氏が指摘するようにリフレ派の物価理論が間違っているからだ。日銀が目標に掲げる物価指数とは、現実に存在し観察できる物価ではない。個々の財やサービスの価格を加重平均して計算される統計データである。

それでは物価指数の基になる個々の財やサービスの価格はどのように決まるのか。吉川氏によれば大多数の価格は生産費用をベースに生産者が決め、その価格を消費者が「公正」と認めれば、現実に価格は変動し物価指数も変わる。つまり、鍵を握っているのは賃金をはじめとする生産費用であり貨幣量ではないというのだ。

事実、日銀が貨幣量を増やしたからといって価格を上げる生産者はいないし、そう言われて値上げを受け入れる消費者もいない。生産者が価格に転嫁せざるを得ないほどに、また消費者が値上げを認めても良いと思うほどに、賃金や原材料価格が上がらなければ個々の物価も、その加重平均である物価指数も上昇しないのである。

改めて日銀法を繙けば物価の安定は手段であり、目的は国民経済の健全な発展にある。手段より目的を優先するなら、黒田総裁は「疑ったら飛べなくなる」とピーターパンを引き合いに出し自らの方針を正当化するのではなく、「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」の故事に倣い、日銀のスタンスを転換すべきだ。そうでなければ日銀は国債を際限なく飲み込むブラックホールと化してしまう。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。8月4日号)

「新専門医制度」に全国1560人の反対署名 地域医療の弱体化懸念

2017/08/24(木) 11:49

新専門医制度を批判する安藤哲朗代表(中央)ら=7月21日、厚生労働省。(撮影/片岡伸行)

一般社団法人日本専門医機構(吉村博邦理事長)が2018年度からの導入をめざす「新専門医制度」に対し「反対」の声が上がっている。「専門医制度の『質』を守る会」(代表・安藤哲朗安城更生病院副院長)は7月21日、東京・霞が関の厚生労働省を訪れ、全国1560人の反対署名を塩崎恭久厚生労働大臣と「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」遠藤久夫座長宛に提出した。

同制度については昨年、地域からの強い懸念の声を受けて塩崎厚労大臣が「立ち止まって考えるべき」と発言。今年4月からの導入予定が延期された経緯がある。

提出後の会見で安藤代表は「1年経っても根本的な問題は変わらず、専門医研修の質の担保はない。地域医療の弱体化につながる恐れがある新専門医制度をゴリ押しすべきではない」などと述べた。共同代表の坂根みち子医師(茨城県つくば市)は「女性医師にとって現状でも医療現場は過酷なのに、この制度では結婚・出産という時期に5年間も複数の研修施設を転々とすることになる。法的根拠のない第三者機関がこんなことを勝手に決めてしまっていいのか」と批判。福島県南相馬市の神経内科医・山本佳奈医師は「産科の専門医を取りたいと思ったが、この制度では南相馬から離れなければならず、私は南相馬に残ることを選んだ。医師の希望の芽を摘んでしまう制度だ」と指摘した。

また、仙台厚生病院の遠藤希之医師は「機構には1億4000万円の負債があり、そのうち8000万円を貸しているのは日本医師会。審査される側がカネを貸すという利益相反の関係だ。一任意団体のために日本の医療と若手の夢を潰してはいけない」と訴えた。

日本専門医機構は8月4日に理事会を開くが、“紛争の火種”を残しながら制度開始を宣言することになれば医療界の混乱を招きかねないと懸念する声も出ている。

(片岡伸行・編集部、8月4日号)

民進党は一刻もはやく戦闘態勢をととのえよ(西谷玲)

2017/08/23(水) 17:49

またも代表が辞めた。民進党だ。政権が混乱、弱体化し、ここぞとたたみかけなければいけない時にこの体たらくだ。

都議選で惨敗しても、当初、蓮舫氏は辞めるつもりはなかった。だからこその、二重国籍問題での戸籍の一部開示だった。あれもまったくの的外れではあったが、あんなことをしてまでも続投したいという気持ちの表れだったのだ。なのになぜ唐突の辞任になったかと言えば、それはひとえに野田佳彦幹事長の辞意表明によるものだ。

野田氏は7月25日に開かれた両院議員懇談会で辞意を表明した。蓮舫氏にきちんと相談していなかったようだ。もともと野田氏は幹事長就任に乗り気ではなかった。そりゃそうだろう。首相までやった人物がなぜ今さら苦労を引き受けなければならないのか。それが本人の偽らざる心境だったろう。

党内にも違和感が支配していた。野田氏は、最悪のタイミングで解散総選挙をして、民主党(民進党)を下野させた張本人である。だが、蓮舫氏は信頼できる人が党内にいなかったようだ。野田氏を幹事長に、そして学生時代からの友人で、蓮舫氏を民主党にスカウトした、落選中の手塚仁雄氏をアドバイザー格とした。

蓮舫氏は前原誠司氏に、言わば「上がり」ポストである顧問を打診するなど、人事は下手だった。安倍政権のことを「お友だち内閣」と揶揄できないかもしれない。

信頼していた野田氏に一方的に去られ、蓮舫氏は動揺し、数人に幹事長就任を打診したものの断られ、糸がぷつんと切れてしまったようだ。野田氏が辞任を表明した翌日は1人こもった。そして27日の辞意表明へと至るのである。蓮舫氏のやることもずれていたが、しかし、民進党の人々にも「あんたたちが選んだんだろ」と言いたくなった。自分たちで選んだんだから、全力で支えるべきだろう。それをしないから、信頼できない人たちだと思われるのだ。

後任の代表には、前原氏と枝野幸男氏が立候補すると見られている。対立軸は鮮明になって、わかりやすいとも言える。前原氏が当選すれば野党共闘は見直されるだろうし、他の野党も巻き込んだ再編という名の民進党の解党に進むかもしれない。枝野氏であれば、野党共闘は一定程度行なうであろうし、再編には慎重だと見られる。

安倍晋三首相は追い詰められており、民進党が立て直しを図る前をねらって、解散は案外早いかもしれない。そうなると、森友、加計学園も、南スーダンの国連平和維持活動の日報をめぐる問題も、どこかに行きかねない。両方ともまだ解決には至っていないのだ。

先日の閉会中審査でも、政府への疑問は深まるばかりだ。一つだけ、どう考えてもあり得ない点を指摘しておきたい。今治市職員の官邸訪問について「確認できない」「記録がない」「記憶にない」との答弁だったが、首相官邸にはアポがなければ外部の者は絶対に入れない(唯一の例外が記者クラブに所属している記者たち)。記録をとらないわけがないし、ある首相秘書官経験者によれば、同じ内閣が続いている限り、絶対に官邸訪問記録は破棄しない。もししていたとしたらそっちのほうが問題だ、とのことであった。まだまだ攻め手はたくさんあるのだ。民進党は一刻もはやく戦闘態勢をととのえなければならない。

(にしたに れい・ジャーナリスト、8月4日号)

「報道の自由度72位」をつけた国境なき記者団に政権擁護派が質問攻撃

2017/08/22(火) 11:33

「国境なき記者団」(RSF、本部・パリ)のクリストフ・ドロワール事務局長は7月21日、東京・有楽町の外国特派員協会で会見し、日本政府に対し、「国連や国際法で、記者の安全を保証するメカニズム作りに参加すべきだ」と提言した。また、「『報道の自由度ランキング』で、日本は2011・12年は22位で第2次安倍政権以降に続落、今は72位。フリーや外国人記者を差別する『キシャクラブ』と大手メディアにおける自己検閲の拡大で、記者が民主主義の監視人としての任務を遂行できない」と指摘。さらに、「日本の大使が赴任地の外国報道機関に出向き、記者を名指しして圧力をかけている」と述べた。

挙手での質疑応答で、最初に三好範英『読売新聞』編集委員は「日本には報道の自由があるので心配は無用。メディアは連日安倍首相のスキャンダルを報じている」と非難。次に、「右翼」という男性は「反安倍の記事が溢れているが、記者は誰も逮捕されていない」と発言。「母はキューバからの亡命者」という男性は「キシャクラブなどを理由に挙げているが、日本の文化的な背景を見ていない。外国人記者としての活動で何の問題もない」と言い放った。

山下英次大阪市立大学名誉教授は「RSFは安倍氏に偏見を持っている。安倍氏はナショナリストではなく、フランスのマクロン大統領と同じ愛国者だ。日本の72位はエキセントリックで信頼できない」と罵り、「放送法遵守を求める視聴者の会」の茂木弘道氏が同会のチラシを掲げて、「日本のメディアは反政府の側の利益の為に活動している。安保法案の報道の89%は反対の立場だった」と強調した。

質問者10人中6人が政権擁護“文化人”。ドロワール氏は「指導者の資質が問題ではなく、法的に記者の活動を規制、妨害しているかが評価基準。日本では記者に最高10年の刑が科せられる。ランクの高い北欧諸国に出かけて実態を見て学んでほしい」と回答した。

(浅野健一・ジャーナリスト、8月4日号)

執行部の独走に不満爆発で連合「残業代ゼロ法案」容認を撤回

2017/08/21(月) 11:15

高収入の専門職の人を労働時間規制の対象から外す、「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を盛り込んだ労働基準法改正案。労組の中央組織「連合」は、同法案の修正を巡る政府、経団連との合意方針を撤回し、反対の立場に回帰した。「残業代ゼロ法案」と批判してきた姿勢を一転、政府と手を握ろうとした執行部に内部から激しい不満が噴き出し、組織がもたないと判断したためだ。

「皆さんにご迷惑をおかけし、混乱を招いて申し訳なかった」

7月27日午前、札幌市であった連合の臨時中央執行委員会で、神津里季生会長と逢見直人事務局長は深々と頭を下げた。そして神津氏は政府や経団連との修正合意を見送る方針を示し、了承を得た。

神津氏は7月13日に安倍晋三首相と会い、法案への賛成を前提に「年間104日以上の休日確保の義務づけ」といった修正を求めた。だが「労働者保護につながる」との釈明は、傘下の労組や、反対で足並みをそろえてきた民進党に受け入れられず、「微修正で方針を変えるのか」と突き上げられた。高プロ容認の方針はわずか2週間で撤回に追い込まれた。

混乱の要因は、首相とのパイプを持つ連合のナンバー2、逢見氏が春から始めた秘密裏の対政府交渉を、組織にも黙したまま一手に握ってきたことだった。神津氏でさえ詳細を知ったのは5月という。「安倍一強」の下、連合の政策実現に向けて政権との協調路線に舵を切ろうとしたようだ。

しかし、執行部の「独走」が明るみに出た7月は、学校法人「加計学園」の問題などで内閣支持率が急落した時期と重なった。「高めの球でなく、ある程度合意を読んだ」。修正案に関するそんな逢見氏の説明も火に油を注ぎ、「下り坂の政権にすり寄る必要はない」との批判を招いた。内紛は10月の人事にも波及し、逢見氏が神津氏の後任に就く当初の構想は霧消した。神津氏の続投案にも「執行部総入れ替えが必要」(傘下労組幹部)との異論が出ている。

連合は、修正要請自体は取り下げないという。菅義偉官房長官は27日の記者会見で「要請は重く受け止める」と述べ、柔軟に対応する考えをにじませた。それでも政権に陰りが見えるなか、成立への道筋は不透明さを増している。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、8月4日号)

横浜市、「条件付き賛成」林市長3選で気になるカジノ誘致の行方

2017/08/18(金) 12:13

与野党激突選挙の構図が崩れた横浜市長選で民進党の牧山ひろえ参院議員(右)は林文子市長を応援。(撮影/横田一)

菅義偉官房長官(神奈川2区)が安倍晋三首相と一緒に推進するカジノ誘致が争点の「横浜市長選」が7月30日に投開票され、自公推薦の現職林文子氏が、カジノ反対を掲げた元民進党衆院議員の長島一由・前逗子市長と元民進党横浜市議の伊藤大貴氏を破って3選を決めた。都議選で歴史的敗北を喫し、仙台市長選(7月23日)でも野党統一候補に敗れた自民党は3連敗を回避。「横浜市長選 自民 現職勝利に安堵」(31日付『読売新聞』朝刊)となった。

一方、カジノに反対の民進党は自主投票を決定。去年10月の新潟県知事選でも同じく自主投票になったものの、原発再稼働反対の米山隆一知事の応援で蓮舫代表を含めた国会議員が現地入り、自公推薦候補の応援に回る議員は皆無で、実質的な与野党激突となった。

しかし横浜市長選では、民進党の牧山ひろえ参院議員(神奈川県選挙区)や山尾志桜里前政調会長(愛知7区)らが林氏を応援、江田憲司代表代行(神奈川8区)や真山勇一参院議員(神奈川県選挙区)らが共産や自由や社民と共に伊藤氏を応援する分裂状態となり、「カジノの是非を問う与野党激突」の構図が崩れてしまった。

しかも市長選終盤には蓮舫代表が辞任表明し、仙台市長選勝利の勢いを活かすどころか、存在感をほとんど示すことができなかった。

【林氏は曖昧な答えに終始】

野党第1党の迷走に救われたのが安倍自民党だ。林氏が万歳三唱と挨拶と記者会見を終えた後、選挙事務所に現れたのは菅官房長官。自公推薦候補の圧勝を「大変うれしく思い、ほっとしている」と切り出した後、カジノについては次のように語った。

「市長は出馬前の記者会見で『検討していきたい』ということでした。そういう方向で、市長として全体の流れを見ながら方向性を決めていくということだと思います」

しかし、林氏の公約にはカジノについて「依存症対策やIR実施法案など、国の状況を見ながら、市として調査・研究を進め、市民の皆様、市議会の皆様の意見を踏まえたうえで方向性決定」と明記、地元の民意の賛同を必要とする「条件付賛成」の立場といえる。

しかも様々なアンケート調査では「横浜市民の圧倒的多数が反対」という結果が出ていた。「全体の流れ」を見ていけば、「カジノ誘致はしない」という結論に至る可能性が高い。そこで菅官房長官に「横浜市民はカジノ反対の声が多いのですが、反対でもやるのですか」と聞くと、「そうですか」と言うだけでカジノ誘致が頓挫しそうな不安の表情を全く見せなかった。林氏からも否定的発言は出なかった。当確後の記者会見で「市民の声をどう聞くのか。住民投票かアンケート調査なのか」と聞くと、林氏は曖昧な答えに終始した。

「まだ、そういうところまで考えに至っていません」

「選挙戦を踏まえた状況を担当と話をしながら検討、決めていきたいと思っています」

不信感が芽生えてきた。年末のカジノ法案成立を評価しながら市長選が近づくと、白紙状態という立場に豹変していった林市長は当選した途端、民意の問い方すら答えない曖昧な姿勢を取り始めた。“菅傀儡市長”とも言われる林氏は結局、市長選向けに慎重派のように振る舞っただけの“隠れカジノ推進派”ではないのか。応援した牧山参院議員に聞いてみた。

「市長選で林さんを応援した仲間、『(民進党の)横浜市総支部協議会』で林市長と面談、カジノについて『市民の声を聞いて決める』と一筆取りました。横浜市民はカジノ反対が多いので、『カジノ誘致はできない』に等しいと思います。林市長は人の話を聞く人で、これまでも無視することはなかった。私は林市長を信じているので、みんなが嫌なこと(カジノ誘致)をやるわけないじゃないですか。(今回の林氏応援は)民進党のカジノ反対の方針と矛盾することはない。ちなみに私はカジノ反対です」

ただ、菅官房長官はカジノ誘致に不安感を全く見せていない。「市民の意見を聞く」と約束した林市長が公約違反をしないのかを、チェックしていくことが不可欠だ。

(横田一・ジャーナリスト、8月4日号)

安倍首相らの資産公開報告書は「破棄した」 官僚の隠蔽体質変わらず

2017/08/17(木) 12:11

開示を渋った内閣官房内閣総務官室が入る内閣府庁舎。東京・千代田区。(撮影/三宅勝久)

公開が義務づけられている大臣らの資産報告書のうち、総理大臣や官房長官らのものについて、担当部署である内閣官房内閣総務官室に筆者が問い合わせたところ、対応した係長が「すでに破棄した」「公文書ではない」などと“虚偽”の説明を行ない、開示を渋るという出来事があった。都知事選の告示前のことで、「安倍政治」への逆風が強まるなか、選挙への影響を考えて嘘をついた疑いが濃厚だ。

問題の文書は、2001年に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」に基づくものだ。大臣、副大臣、官房長官、副長官、政務官は、自分と家族の資産状況について報告書を作成し、公開することが義務づけられている。閣議決定によれば、「公職にある者としての清廉さを保持・促進し、政治と行政への国民の信頼を確保し、もって行政の円滑な運営に資する」ための制度である。

筆者は6月15日、総理大臣らのものを管理している内閣官房内閣総務官室第一担当(山崎重孝内閣総務官=当時)に電話をかけ、安倍晋三総理大臣や菅義偉官房長官らの資産報告を見たい旨伝えた。防衛省や財務省、内閣府など他省庁は1~2日で開示していたので内閣官房も同様の対応だろうと思っていたところ、電話口で対応した男性職員は意外にもこう言った。

「国務大臣等の資産公開の報告書は官邸記者クラブに配布した後に破棄した。(各国会議員の)事務所が作成したものであって公文書ではない。クラブに聞いたらどうか、また事務所に問い合わせたらどうか」

【「探したら保有」の怪】

官邸記者クラブは筆者のようなフリー記者を事実上排除している。また閣議決定で公開を義務づけた報告書なのに、議員事務所に要求しろと行政が指示するのも筋違いだ。もとより、公文書ではないとはいったいどういうことか。納得がいかない筆者は念を押した。

「様式は省令で決まっている。やはり公文書だと思う。保管しているのではないか」

しかし職員は「破棄した」「公文書ではない」と自信ありげに繰り返した。「文書が存在しないのだから情報公開請求しても開示できない」とも言った。

嘘をついている可能性が高いと判断した筆者は、数日後、情報公開請求を行なった。結果が出たのは1カ月後、都議会議員選挙で自民党が惨敗した後の7月14日のことである。土生栄二内閣官房内閣総務官名で出された決定は、総理大臣らの資産報告書を「行政文書」――つまり公文書として特定し、すべて開示するという内容だった。対象の報告書は次の14人分。

・総理大臣=安倍晋三・配偶者昭恵

・官房長官=菅義偉・妻眞理子

・官房副長官=萩生田光一・妻潤子・長男一輝

・同副長官=野上浩太郎・配偶者真美子・子萌子・同温子・同周太郎

・同副長官=杉田和博・配偶者彰子(敬称略、表記は記載通り)

「破棄した」「公文書ではない」という職員の説明が“嘘”であることが、これではっきりした。

内閣官房内閣総務官室に事情を質すと、電話でこう回答してきた。

「電話で対応した職員は特別職担当のアメミヤ係長である。資産公開文書は公文書である。私どもの確認不足だった。申し訳ない」

「破棄した」については、「当方に文書がなかった。今すぐに出せないという意味で申し上げた。情報公開請求を受けて探したら、保有している事実がわかった」と意味不明の説明に終始した。

加計学園問題や防衛省情報隠蔽疑惑に通じる今回の“虚言”騒動の原因が、当の国務大臣らからの“助言”にあるのか、職員レベルの忖度なのかは不明だが、安倍政権の法令無視体質が行政組織を激しく蝕んでいるのは間違いない。

なお、開示された資産報告によれば、安倍晋三首相は森永製菓の株を4万9000株(株式併合により現在は9800株相当)保有。12年の首相就任時と比べて6倍に値上がりしており、約5000万円の含み益が生じた計算だ。

(三宅勝久 ジャーナリスト、8月4日号)

茨城県龍ケ崎市で弾道ミサイル避難訓練 住民からは厳しい意見も

2017/08/16(水) 10:59

弾道ミサイル避難訓練に抗議する市民団体メンバー。茨城県龍ケ崎市。(撮影/崎山勝功)

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の弾道ミサイル発射を想定した「X国からの弾道ミサイル避難訓練」が7月29日、茨城県龍ケ崎市の市立川原代小学校周辺で行なわれ、住民ら約150人が参加した。

訓練では、防災行政無線(屋外スピーカー)での住民の避難情報伝達や、住民が同小体育館などに避難する手順などを訓練した。

訓練前日の7月28日深夜に「北朝鮮が弾道ミサイル発射」報道を受け、訓練終了後の振り返りでは、参加住民から「車に乗っているとほとんど聞こえない」「小学校体育館に放送受信設備がないと身を守れない」など、防災無線が聞こえないことへの厳しい意見が相次いだ。別の住民からは「『頑丈な建物に避難』とあるけど、私の自宅近くにはコンクリートでできた建物がない。ミサイルは普通の火薬を積んだものなのか原爆(核弾頭)を積んだものなのか」との質問が出た。内閣官房の伊藤敬内閣参事官は「屋外よりは屋内と、一番ベターなところに避難する。必ず決まった基準がなく難しいけど(自分の)身を守るようお願いしている。ミサイルにどんな弾頭が積んでいるか分からない中で訓練している」と説明。その上で「外交努力、防衛努力も100%ではない。我々も努力するが、皆さんもきちっと(訓練の趣旨を)理解することが大事」と理解を求めた。

訓練中には市民団体「戦時下の現在を考える講座」メンバー6人が同小前で「政府による朝鮮敵視、戦争動員政策に同調するな」と抗議行動を実施。伊藤参事官は会見で「こういったこと(訓練)に対していろんな意見をお持ちの方がいる。国民の皆さんには(訓練は)必要と思っている」と答えた。

訓練に参加した同市の関野勉さん(79歳)は戦争体験者で「(小学生の頃に)何回も防空壕に逃げ込んだ。小学生の時は訓練じゃなく『実践訓練』だった。小さい頃を思い出した」と感想を語った。

(崎山勝功・『常陽新聞』元記者、8月4日号)

「外国人家事労働者」を推進する戦略特区に欠けている視点とは

2017/08/15(火) 10:40

移住労働者問題を研究する巣内尚子さん。今後も調査を続ける予定だ。(写真/山村清二)

7月17日~23日、東京・新宿のギャラリーで、ジャーナリストの巣内尚子さんの写真展「『彼女を探して』 現代ベトナムと女性移住家事労働者」が開催された。

巣内さんによれば、ベトナムは移住労働者の送り出し国だが、女性は、台湾などで家事労働に従事することが多く、虐待やハラスメントに遭うこともしばしばとのこと。展示された女性たちはみな、明るい笑顔を向けているが、「話をじっくり聞くと、家事と介護の両方を長時間労働で強いられるなど、休みはまったくとれていない」女性ばかりとのこと。そんな一人ひとりのライフ・ヒストリーを丹念に追いかけたので標題を「彼女を探して」としたという。

日本においては、加計学園問題などでクローズアップされている国家戦略特区の一つ、「家事支援外国人受入事業」として、東京都・神奈川県・大阪市などで、移住家事労働者の受け入れが進むが、「(家事労働者を)使う側の視点ばかりで、雇用される側の視点がない」と批判。

しかも日本は、家事労働者の基本的な権利を守るILO(国際労働機関)第189号条約を批准していない。巣内さんは「既に技能実習生などの外国人労働者が搾取やハラスメントに直面する事例がある。特区の家事労働者受け入れは現在は大手企業中心だが、裾野が広がれば課題が生じる可能性がある」と懸念する。

(山村清二・編集部、7月28日号)

たばこ議連に所属する自民党国会議員の「禁煙」審議は条約違反か

2017/08/14(月) 10:58

日本禁煙学会(作田学・理事長)は7月17日、屋内禁煙強化のため、厚生労働省案通りの健康増進法改正案を閣議決定し、次期国会に提出するよう求める要望書を安倍晋三首相に提出した。

要望書によると、小規模店を除き「屋内禁煙を原則とする」厚労省案は、内閣官房に設置された関係省庁による検討チームの議論を経て策定されたもので、政府案にするのにふさわしい(本誌4月21日号)。

ところが、先の国会では法案の提出が見送られた。自民党内に「たばこ議員連盟」(会長=野田毅、前党税制調査会長)に所属する強硬な反対派がいて、まとまらず、政調会長代理が「150平方メートル以下の飲食店は、店頭に『喫煙』か『分煙』かを表示すれば喫煙を認める」との修正案を作成して、厚労省案に対置したためだ。

こうした党内での議論は非公開で行なわれており、首相は事態を静観するだけだった。

自民党内の審議機関の構成をみると、政務調査会の厚労部会は16人中4人、政調役員は16人中10人、総務会は25人中11人、幹事長組織は27人中6人(いずれも、少なくとも)がたばこ議連所属だ。これらの議員はタバコ業界から献金・パーティ券購入などの便益を受けている。

日本も批准している「タバコ規制枠組み条約」は、タバコ産業の利益のために働く団体は、タバコ規制を立案・実施する政府機関・協議会・諮問委員会の構成員として認めるべきではない、と定めており、自民党内の審議はこの条項に違反している可能性が大きい。

こうした実態を踏まえて要望書は、(1)健康増進法改正案の審議には利益相反のある議員の出席を認めない、(2)部会や政調では密室審議をやめる、(3)政府提出法案は政調の部会→政調会→総務会での合意を経た後に閣議決定するという慣行は廃止することも求めている。

(岡田幹治・ライター、7月28日号)

和泉洋人・首相補佐官は「ポスト・ホント国」の住人か(浜矩子)

2017/08/13(日) 17:27

この人たち、ポスト・トルース(post truth)の国の住人なんだな。加計問題等々に関する国会閉会中審査の模様を観ながら、つくづくそう思った。ポスト・トルースの意味するところが、初めて実感的に解った気がした。

ポスト・トルースは、2016年を象徴する言葉だ。かのオックスフォード英語辞典によってそのように認定された。いわば世界版流行語大賞を授与された格好である。ポスト・トルースを日本語で言えば、「脱真実」あるいは「超真実」という感じか。筆者は「ポスト・ホント」という言い方をすることに決めている。

ポスト・ホント国とウソ・イツワリ国とは、どう違うか。端的に言えば、後者は確信犯の世界。前者は、ご都合主義犯の世界である。「そのウソ、ホント?」と聞かれた時に、「ウソなんてとんでもない。私はホントを言っています」と反論するのが、ウソ・イツワリ国の住人だ。それに対して、ポスト・ホント国の答えは「そんなのどうでもいいじゃん。私にとってはこれがホントなんだから」ということになる。

閉会中審査の中で、和泉洋人・首相補佐官なる人が「そうした記憶はまったく残っていない。したがって言っていない」と発言していた。おお。これぞ、ポスト・ホント的模範解答だ。自分が記憶していない。自分の記憶に残っていない。そのようなことは、ホントであろうがなかろうが、なかったことなのである。これが、僕のホントです――。

ことほど左様にポスト・ホント連にとっては、客観的にホントかどうかはそもそも本質的に問題ではない。自分がどう記憶しているか、自分にとってどうなのか。それですべてが決まる。イメージがすべてで、すべてがイメージなのだ。自分の都合に従って、選択的にホントを選ぶ。それが「ホントを超える」ということなのだろう。

思えば、だからこそ「印象操作」という言い方への執拗なこだわりが出てくるのだろう。ポスト・ホント国の人々にとっては、まさに印象がすべてなのである。「これホント」イメージが成り立てば、それが「ホントにホント」なことになる。どんなに客観性があっても、どんなにしっかり記録されていても、ポスト・ホント国においてそれは何の証明にもならない。すべては「だってそうなんだもん」基準、「やっぱりそうなんだもん」基準で判定されてゆく。

ところで「記憶はない。だから言っていない」と大見得を切った上記の御仁は、追及の中で「言った、言わない」のテーマとなっている件について、結局は「言わなかったと思う」という言い方をするにいたっていた。ふーん。この「思う」という表現、ポスト・ホント的にはどうなのだろう。まぁ、自分が思っていないことはホントじゃない。自分が思っていることはホント。そんな風に整理されるのだろうかと推察する。

ポスト・ホント国は、何とも怖い世界だ。その住人たちは、何ともかわいそうだと思う。結局は、印象操作合戦の中で共食いの末路をたどるのだろう。誰も彼らを信じられない。誰にも信じてもらえない者たちは、誰にも助けてもらえない。

(はま のりこ・エコノミスト。7月28日号)

ヒロちゃんのほんと(小室等)

2017/08/12(土) 14:42

近所でヒロちゃんのライブがあるよと言うので、娘夫妻とうちのかみさんと連れ立ち、7月17日、埼玉県・フォーシーズンズ志木ふれあいプラザに行ってきた。恒例の紀伊國屋ホールとは一味違って、志木おやこ劇場主宰の女性連に囲まれ、会場もヒロちゃんのパフォーマンスも手作り感漂うライブだった。近刊絵本『憲法くん』(絵・武田美穂)を紹介しながら、いつものように政治ネタで大いに笑わせ、会場は爆笑の渦。

圧巻は、三上智恵監督作品の記録映画『標的の村 風(かじ)かたか』の語り。高江で強行されるオスプレイのヘリパッド建設に抵抗する住民。若い機動隊員とデモに加わった若い女性が、互いに目をそらさずにらみ合いを続けるが、たまらず若い機動隊員が目をそらすシーンのヒロちゃんの表現が圧巻だ。

次にヒロちゃんの話は永六輔さんの一生を駆け抜ける。ヒロちゃんの話に笑わされ、泣かされ、ほとんど知っている話なのに、永さんの身に起きたことをヒロちゃん流につなげていくから、まるではじめて永さんに出会っている気がしてくる。ヒロちゃん、芸というのはすごいね。いや芸がすごいのは言うまでもないことだが、実際のところ、ヒロちゃんと僕が同じ出来事を、同じように見ているとは限らないものね。

それで思い出したけど、中津川・全日本フォークジャンボリーのステージジャック小室等犯人説というのがある。先だって亡くなられたフォークジャンボリーの仕掛け人のひとり笠木透氏は、長い間小室犯人説を信じていたようだ。

なんの犯人かというと、ジャンボリーの運営に不満を感じた一部の観客にステージジャックされ紛糾した1971年のフォークジャンボリーで、その観客を挑発煽動した犯人は小室だというのだ。

たしかに、サブステージでいまや伝説となっている吉田拓郎の「人間なんて」絶唱を収拾させるため、観客に向かって「そろそろみんなでメインステージに行こうぜ!」と叫んだのは僕だったかもしれない。だからと言って、煽動したのは小室だなんて。あれ、この話、前にもしたかな。

ヒロちゃんの話に戻ろう。ヒロちゃんが映画を語るのは、マルセ太郎さんの「スクリーンのない映画館」のヒロ版だね。ヒロちゃんの語りを聞き、僕は映画を観たいと思った。観た結果、違う感想になることもよくある。が、かまわないのだ。マルセ太郎さんの『生きる』はマルセさんの、黒澤明監督の『生きる』は黒澤監督の、それぞれのほんとがあるのだ。ヒロちゃんのほんとは観たから、三上監督のほんとも観に行かなくちゃ。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、7月28日号)

まともなり、亀井静香(佐高信)

2017/08/10(木) 15:54

拝啓 亀井静香様

ごぶさたしていますが、お元気のようですね。亀井さんの独特の声が聞こえてくるような岸川真著『亀井静香、天下御免!』(河出書房新社)を拝読しました。

社民党の福島みずほさんは、郵政民営化に反対して亀井さんが自民党を追われた時、
「亀井さんと私には共通点が三つしかない。つまり、郵政民営化反対、義理人情、死刑廃止だけですね」
と言い、亀井さんに、
「三つも一緒だったらいいじゃないか」
と返されたそうですね。

違いを挙げたがる革新と、何でも包み込む保守の特質を象徴しているような会話で、おもしろいと思いました。

学生時代に合気道に熱中する一方で椎名麟三や野間宏らの戦後派文学に傾倒していたというのはちょっと意外でしたが、警察に入った亀井さんは「あさま山荘事件」の後、いわゆる過激派のリーダーの森恒夫や永田洋子の取り調べを担当して、こう考えたとか。

「森は完全黙秘だったが物凄い迫力だった。なぜ、こういう自分を捨てることが出来る若者が極左活動に走っていくことになったのか。その疑問に沈みました。初めてそこで政治の責任を痛切に感じましたね」

自民党、社会党、新党さきがけの自社さ政権を支えた亀井さんは村山富市さんに惚れたとして、こう言っています。

「村山さんは俺が経験した首相の中で最高の人物だと思いますよ。これは閣内で支えた小里貞利や野中広務をはじめ関わった誰もが言うはずです。すまし屋の橋龍だってご多分に漏れないね」

別れた妻がホリエモンに野次

森友学園や加計学園の問題で官僚論が云々されている時、亀井さんの次の指摘にも頷かされます。

「役人の使い方は官僚本人を納得させること。官僚は威張りたくてなったのは少ない。公の仕事をしたい。だから自尊心を燃やしてやれば頑張りますよ。押し付けは逃げられる。納得させることが肝要なんです」

亀井さんは小泉(純一郎)首相がイラクへ自衛隊を派遣することに反対しました。加藤紘一、古賀誠両氏と共にです。アーミテージらネオコンにもこう言ったそうですね。

「軍事力を絶対に行使すべきではない、それはアメリカにとっても世界にとっても間違いなく不幸なことになる。私がお巡りさんをやっておったから言うわけじゃないけれど、たしかに市民は得手勝手でワガママである。しかし、その市民の支持と理解を得なければ、警察の仕事は成り立たんと思っています。アメリカが世界の警察官を自任して自らの犠牲においてそれをやろうとするのであれば、我々は感謝します。しかし、そのためには世界から支持されるということがなければ、人類にとってもプラスにもならないし、アメリカにとってもいいことにはならんと思う」

郵政選挙ではホリエモンこと堀江貴文を刺客に立てられたわけですが、別れた妻がわざわざ尾道まで来て、ホリエモンの演説に物凄い野次を飛ばしていたと聞いたそうですね。

「警察時代にあれだけ夫婦仲も悪かったのに、人生というもんは分からんもんですよ」

この述懐に私はウーンと唸りました。次の覚悟にも拍手を送りたいと思います。

「絶対、子たちには継がせない。妻も苦労して、ゼロから築き上げた支持地盤ですけど、継がせる気はさらさらねえな。どうしてもやりたいなら他所でやれ。選挙区は個人の持ち物ではありません」

山城新伍さんが『実録・自民党』で亀井さんを演じたいと言っていたというのも、なるほどと思いました。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、7月28日号)

石川・加賀市「生命尊重の日条例」制定の背後に「中絶反対」運動

2017/08/10(木) 11:48

石川県加賀市が6月の議会で、「お腹の赤ちゃんを大切にする加賀市生命尊重の日条例」を制定した。「お腹の赤ちゃんを社会の大切な一員として迎える」のが条例の趣旨である。なぜ「生命尊重の日」が7月13日か? 堕胎罪の例外規定として人工妊娠中絶を許可した旧優生保護法(現、母体保護法)の公布日だからである。

生命尊重、優生保護法と聞けば、ピンとくる人も多いだろう。「生命尊重」は海外でも日本でも、中絶に反対する勢力が使ってきた言葉だ。アメリカではプロ・ライフ(生命尊重=中絶禁止派)とプロ・チョイス(選択派)が激しく対立し、前者であるトランプ大統領になってから、中絶規制がますます強まっている。

日本でも1982年、旧優生保護法の中絶許可条件から経済的理由を削除しようとしたのは「生命尊重国会議員連盟」だった。また、82年来日したマザー・テレサの「日本は美しい国だが、中絶が多く、心の貧しい国だ」という言葉をきっかけに、84年「生命尊重センター」ができ、「生命尊重ニュース」の発行、講演会やビデオなどで啓発活動を重ねてきた。

91年には、国際生命尊重会議・東京大会が開かれ「胎児の人権宣言」を採択。この大会では、菊田昇医師に対し、87年養子法改正に貢献し中絶から胎児を救ったとして「世界生命賞」を授与。講演者のドクター・ジョン・ウィルキー国際生命尊重連盟会長(当時)は、「胎児は生まれていれば、いずれ国の宝・働き手になるのです。殺してはいけません」と、中絶胎児を写したショッキングなスライドを上映しながら発言していた。

このように、生命尊重派の主張は、“胎児は人間→中絶は殺人だから許されず妊娠したら産むのが女性の使命→中絶せずに出産すれば出生率も上がる”というものである。今回の加賀市も、「生命尊重の日」制定を出生率向上策の一つだと説明している。

生命尊重センターを母体とするNPO法人「円ブリオ基金センター」は、「産むか産まないか悩む妊婦さんに安心して産んでもらうための基金」で、「妊娠SOSほっとライン」はマスコミでも好意的に取り上げられた。2016年7月13日に電話相談員を増やすなど、「生命尊重の日」をアピールしている。

【女性グループも反対声明】

今年3月、滋賀県愛荘町議会は「生命尊重の日」制定を国に求める意見書を全国で初めて可決したが、その背後にも、地元の「円ブリオ基金センター」の賛同団体の請願があった。

こうして生命尊重派は、出産への不安を抱える女性に電話相談や健診・出産費の支援をすることで中絶を減らす活動(赤ちゃんポストや養子縁組も)をしてきた。と同時に、少子化対策の波にのって地方議会での「生命尊重の日」制定など政治的な活動にも力を注いでいるようだ。

そもそも日本には100年以上前から刑法堕胎罪が存在し、中絶した女性と施術者のみを罰し、妊娠の原因となった男性は何も問われない。産まない選択は、実にもろい状態にあり、性教育バッシング、少子化対策や妊活の影響で、避妊や中絶についての情報提供は不足している。

そのような状況で、「生命尊重の日」を自治体が条例で制定するのは大きな問題である。1982年、中絶を禁止しようとした「生長の家」や「生命尊重国会議員連盟」の動きに反対し、堕胎罪撤廃を求めてきたグループ「SOSHIREN女(わたし)のからだから」は、声明文「地方自治体が『生命尊重の日』を制定することを憂慮する声明文」を発表した。

「地方自治体は、個人が産む・産まない、どちらの選択もできる環境をつくるべき立場にあります。……『生命尊重の日』を制定することは、産むことのみを奨励して、産めない・産まない選択を脅かし、産めない女性に罪悪感をもたせることにつながりかねません」

ソフトな物言いの背後には、多様な性や生き方を認めない復古的な思想がうごめいていることを、忘れてはいけない。

(大橋由香子・フリーライター、7月28日号)

日本の司法の異常性を問い続ける基地問題訴訟(黒島美奈子)

2017/08/08(火) 15:17

ちょうどこの原稿の締め切り日となる7月24日、名護市辺野古の新基地建設を巡り、沖縄県が国を提訴した。基地問題について県と国が法廷で争うのは、1996年に国が法廷で故大田昌秀知事(当時)を訴えた代理署名訴訟が初めて。これまで県側が勝訴した事例はなく、沖縄県は劣勢に立たされている。

だが、過去の結果が示すのは、県側敗訴という事実だけではない。国民主権や基本的人権など憲法の理念を保障することにおいて、日本の司法制度の大きな課題を露呈している。

たとえば、代理署名訴訟は、「駐留軍用地特別措置法」で定められた米軍用地の強制接収手続きの違憲性を争うものだった。特措法は米軍用地への土地の強制接収を拒否する地主に代わり、知事が契約を代行することを定めている。当時の大田知事は、沖縄だけに集中する基地負担に異議を唱え、知事として初めて代理署名を拒否。これを問題視した国が、署名拒否の違法性を問い、知事を提訴した。

これに対して最高裁は、「駐留軍基地が沖縄に集中していることにより、沖縄県および住民に課せられている負担が大きい」と基地による負担を認めながらも、特措法の合憲性を認定。知事の署名拒否は、「著しく公益を害する」として国が勝訴した二審の判決を支持した。

驚くべきは、この時、補足意見で述べられた見解だ。園部逸夫裁判官(当時)は「裁判所が国の高度の政治的、外交的判断に立ち入って本件使用認定の違法性を審査することは、司法権の限界を超える可能性がある」とした。つまり、「行政(政治)の権限に司法は及ばない」と責任を放棄したのである。特措法の合憲判断は、そうした司法の限界の結果として示されたのだった。

沖縄の基地問題に関するすべての司法判断には、この無責任な見解が通底している。

米軍機の飛行差し止めを求める嘉手納や普天間の爆音訴訟はその最たるものだ。日常的なひどい騒音が住民に健康被害をもたらす大規模な公害問題にもかかわらず、裁判所は、公害解消について国の責任を免罪し続ける。裁判所の判断を支える論理は、前述の補足意見とまったく同じだ。すなわち「外国軍のなす行為に日本国の権限は及ばない」と。かくして沖縄の基地負担解消は、行政だけでなく司法でも門前払いが続く。

そんな司法の態度を見ると、新基地建設を巡り、県知事の許可なく岩礁破砕行為に及ぶのは違法として、沖縄県が国を提訴した今回の訴訟も、県側に不利な情勢がうかがえる。管轄する水産庁はすでに、許可必要とした従来の見解を覆し、国にお墨付きを与えているほどだ。そうした状況に応じて都合よく解釈を変える暴挙でさえ、「行政の権限に司法は及ばない」とする無責任な態度の前ではまかり通ってしまうに違いない。

けれども、こうした日本式司法は国際社会では決して普遍的とは言えない。米国ではトランプ政権が打ち出した移民の入国制限という行政判断について、各州の裁判所が差し止めを命じたことは記憶に新しい。

日本の司法の異常性を問い続ける。基地問題訴訟は図らずもそんな役目を担っている。

(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。7月28日号)

「特区の生みの親」竹中平蔵氏が疑われる原因(佐々木実)

2017/08/07(月) 15:25

加計学園問題で脚光を浴びる国家戦略特区は別の問題も抱えている。衆議院の地方創生に関する特別委員会は国家戦略特区法の改正案を可決した5月16日、「附帯決議」として次の文言を盛り込んだ。

〈民間議員等が私的な利益の実現を図って議論を誘導し、又は利益相反行為に当たる発言を行うことを防止するため、民間企業の役員等を務め又は大量の株式を保有する議員が、会議に付議される事項について直接の利害関係を有するときは、審議及び議決に参加させないことができるものとする〉

野党議員の念頭にあったのは国家戦略特区諮問会議民間議員の竹中平蔵氏。与党内にも懸念の声はあった。そもそも国家戦略特区制度を提唱したのは竹中氏なのだが、「特区の産みの親」が疑われる原因は特区で優遇される企業との深い関係にある。

特区諮問会議は東京都などで外国人による家事代行を解禁し、参入事業者のひとつにパソナを選定した。竹中氏が取締役会長を務めるパソナグループの子会社だ。兵庫県養父市の農業特区では、竹中氏が社外取締役を務めるオリックスの子会社を選定している。

附帯決議については雑誌の記者から私も意見を求められたが、不思議なことに、その記者もふくめ関心をもつ人々は「もうひとつの企業」を見落としている。

竹中氏と森ビルの関係はずいぶん古い。小渕恵三政権の経済戦略会議の委員となった際、同じく委員だった創業家2代目の森稔氏の知遇を得た。やがて竹中氏は森ビルの文化事業を担う「アカデミーヒルズ」の理事長に就任する。森稔氏の名声を高めた六本木ヒルズが完成したとき、竹中氏は小泉政権の現職閣僚だったが、上棟式に出席している。

現在はアカデミーヒルズ理事長のほか、森記念財団の理事も務める。同財団の理事には森ビルの辻慎吾社長が名を連ねる。竹中氏は同財団の都市戦略研究所の所長も兼務している。国家戦略特区制度は「世界一ビジネスのしやすい国際都市づくり」を目的とするので“研究対象”である。

実は、竹中氏が民間議員を務める特区諮問会議が扱う最大規模の事業が東京都心の再開発だ。特区で手がける都市再開発事業は30あまりあるが、特区諮問会議はそのうち5つのプロジェクトの事業主体として森ビルを選定した。

森ビルの辻社長は今年2月10日、国家戦略特別区域会議に出席している。司会役は加計学園問題で名前が取り沙汰された藤原豊内閣府審議官(当時)で、森ビルのプロジェクトに関して、着工前の各種行政手続きを大幅に簡素化すること、設備投資減税の措置を講ずることなどを報告。辻社長は「この国家戦略特区制度と小池(百合子東京都)知事の都市政策のもと、政官民が一体となって異次元のステージとスピードで世界の人々を引きつけるような都市づくりを進めていかなければならない」と語り、「引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします」と結んだ。

この日の会議に竹中氏の姿はなかったが、森ビル社長が謝意を伝えるべき相手が「国家戦略特区産みの親」であることは贅言を要しないだろう。

(ささき みのる・ジャーナリスト。7月21日号)

都連会長人事にみる「安倍一強」の終わり(佐藤甲一)

2017/08/06(日) 14:29

東京都議会議員選挙の歴史的惨敗、『読売新聞』をはじめ大手主要紙における世論調査での支持率急落など、安倍政権をめぐる情勢は通常国会閉会からわずか1カ月余りで、激変した。

8月3日には内閣改造を断行する予定だが、目論み通りに支持率回復につながる見込みは薄い。なぜなら、支持率低下の原因が安倍晋三首相の強権的な政治姿勢と利害関係者を優遇する政権の隠蔽的な癒着的体質を、国民の7割近くが「信用おけない」と感じているからに他ならない。

「信用おけない」人物が断行した人事が好感を持って迎えられるはずがない。自民党内の各派閥ではこうした環境変化に即座に反応している。それらは単に「ポスト安倍」をめぐる動きという近視眼的なものにとどまらない。

大敗を受けて対立が始まった自民党東京都支部連合会の新会長人事こそ、注目に値する。過去最低の獲得議席23という結果を受け、下村博文都連会長以下、役員が引責辞任の意向を表明。再建を担う後任都連会長に目されているのが安倍首相の出身派閥、細田派の丸川珠代五輪担当相と、石破茂元自民党幹事長の側近の鴨下一郎元環境相だ。つまり「ポスト安倍」の前哨戦が始まったと言える。

だが、ここで見落とせないのは、平将明衆院議員ら石破系若手国会議員が提出した「新会長の3条件」である。(1)上の操り人形にならない、(2)小池百合子都知事と対話できる、(3)公明党との関係修復――という3条件のうち、(1)の「上」とは党本部を意味するから、「反安倍」の旗幟を鮮明にするということだろう。

一方、(2)と(3)の意味は、都政においては小池都知事と小池与党を敵視せず、当面は是々非々で臨むことができる執行部、ということになる。つまりは石破系(つまり石破氏)は「親小池」路線に進むということだ。

これが「ポスト安倍」をめぐる前哨戦にとどまらないのは、その任期との兼ね合いにある。自民党総裁の任期は来年の2018年9月、そしてその次は21年9月となる。支持率低落に見舞われた安倍首相の総裁3選はもはや決して「既定路線」ではない。安倍首相の足元の揺らぎにより、3カ月前までは安倍支持を打ち出した岸田文雄外相も立候補の可能性が急浮上したと言える。

総裁選が石破vs.岸田の闘いになれば、党内情勢では岸田有利、石破不利との見方が有力だ。安倍氏が既定路線通り出れば、岸田氏は安倍支持に回る可能性もあり、どちらにしても石破氏は不利な闘いを強いられる。石破総裁の目が出てくるのは21年の総裁選とも言える。

そして21年秋と言えば、小池都知事が知事2選目を果たし(20年7月が次期知事選)、無事、東京オリンピック・パラリンピックを終えた1年後だ。そろそろ小池氏の国政復帰が視野に入ってもおかしくない。そして小池知事とこれまで気脈を通じていると見られたのが新進党や日本新党で同じ釜の飯を食った石破氏であり、鴨下氏なのである。

東京都連会長選挙は21年までを見通した自民党権力闘争の始まりであり、そこに小池新党の国政進出という再編がらみの要素も加わる。「ポスト安倍」にとどまらない、重層的な権力闘争の構図が顕在化することこそ、皮肉にも自民党の活力が戻りつつあり、「安倍一強政治」の終わりが始まった証左、と見ることができるのである。

(さとう こういち・ジャーナリスト。7月21日号)

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