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オスプレイ隠しは政府の意図だった(黒島美奈子)

2017/09/13(水) 15:43

腹の中を何かにえぐられるような、奇妙な爆音に気付いて空を見上げた。しばらく眺めていたら頭上を巨大な黒い物体が通過した。それが、初めて目にしたオスプレイだった。

主翼の両端に角度が変わるプロペラを有し、ヘリコプターと戦闘機の両方の特徴を備える軍用機。独特な構造のせいで開発段階から事故が相次ぎ、1990年代には試作機がたびたび墜落。運用が本格化した2000年代に入っても不具合が見つかって使用停止になったり、乗員が死亡する事故が発生している。

そんなオスプレイの沖縄配備が取り沙汰されるようになったのは20年以上も前、日米両政府が米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を発表した直後だ。1997年1月『沖縄タイムス』は、普天間配備のCH46の後継機として、米軍が移設と同時期に導入を計画していると報じている。

国会議員としてこの事実を最初にただした1人が、今年8月に亡くなった上原康助元衆院議員(享年84)だった。98年5月、辺野古の新基地にオスプレイ36機を配備する計画を明記した米国防総省の文書を入手し公表した。ところが、同年6月の衆院予算委員会で橋本龍太郎首相(当時)は「(文書を)見たこともない」と答弁。配備を真っ向から否定した。

99年に嘉陽宗儀県議が、オスプレイ沖縄配備は2005年予定とする米海兵隊の資料を入手。05年には普天間へ12年に配備することが「米海兵隊航空機計画」に明記されていることが報じられた。何しろ米軍関係者は99年にすでに「普天間が移設されてもされなくてもオスプレイを沖縄に配備する」と言及。沖縄配備が既定路線であることは誰の目にも明らかだった。

これに対し日本政府の対応が異様だった。2000年時点も河野洋平外相(当時)は「米側から具体的な予定は存在しないとの回答を受けている」と沖縄配備を否定。続く小泉純一郎政権も第1次安倍晋三政権もまったく同じ答弁書を閣議決定し続けたのである。配備の可能性に触れるようになったのは民主党政権の09年になってから。報道の通り、米軍は2012年、沖縄に配備した。

この間には、96年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告草案ですでに、沖縄へのオスプレイ配備が明記されていたことがわかっている。当時の米公文書からは米側が「即座の情報開示を求む」と日本側に配備の情報公開を要請していたことも明らかになった。

オスプレイ隠しは政府の意図だったのだ。沖縄配備から5年、オスプレイは横田をはじめ在日米軍基地へ広がり始めている。今年8月には、北海道での自衛隊との共同訓練直前にオーストラリア沖で墜落し、日本国内での運用を危ぶむ声が各地で上がった。

だが、そんな国民の懸念に向き合う政府でないことは過去が示している。小野寺五典防衛相は米軍に「自粛」を要請してみせたが、米軍は応じず沖縄での飛行を続けた。オスプレイを巡るごまかしの歴史をみれば、そんなやりとりもポーズにすぎないことがわかるというものだ。

平気で国民をだまし続ける政府が、名実ともに軍隊を有するための改憲を画策している。その不気味さはオスプレイの比ではないかもしれない。

(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。9月1日号)

731部隊の元隊員が戦後に復権し、政財界で暗躍していた

2017/09/13(水) 12:16

日中戦争80年共同キャンペーンは2回目。講演する加藤哲郎氏。(東京・文京区民センター、写真/原田成人)

8月26日、東京・文京区で加藤哲郎・一橋大学名誉教授が731部隊の戦後をテーマに講演(主催:日中戦争80年共同キャンペーン実行委員会)、約100人の市民が参加した。講演は今年5月に加藤さんが上梓した『「飽食した悪魔」の戦後』(花伝社)を軸に行なわれ、3560人いたとされる731部隊隊員の1人、二木秀雄氏を追うことで明らかにした。

講演では、敗戦直前に大本営から証拠抹消命令が出された一方で、帰国した二木氏が、金沢に731部隊の仮本部を設置し、満洲から持ち帰った物資や実験データを保管したことを指摘。後に、そのデータ提供を元に米軍との免責の取引が成立し、731部隊や創設者の石井四郎氏は、極東国際軍事裁判(東京裁判)での訴追を免れた事実が説明された。

実質的な部隊解散後の関係者の復権には、GHQの公衆衛生福祉局(PHW)サムズ准将の関わりが大きく、広島・長崎の原爆調査への関与も紹介された。復権の過程で後に薬害エイズ事件を起こす「ミドリ十字」が部隊関係者によって設立された事例や、二木氏が、金沢で創刊した『輿論』が後に右派政局雑誌『政界ジープ』となり総会屋雑誌などになっていく系譜も紹介され、731部隊の清算されない過去が現在ともつながっている事実が明らかになった。

(原田成人・業務部、9月1日号)

前原民進党代表、国政選挙で「書生論」を改められるか

2017/09/12(火) 17:19

民進党代表戦に立候補した前原誠司氏(右)と枝野幸男氏の記者会見。(撮影/横田一)

9月1日投開票の民進党代表選が8月21日に告示され、前原誠司元国土交通大臣と枝野幸男元官房長官が立候補、党本部での共同記者会見に臨んだ。翌22日からは地方での街頭演説と討論会がスタート、初日の新潟では枝野氏が“原発稼働即時ゼロ”に等しい踏み込んだ発言をした。今後の国政選挙で「再稼働反対」を旗印の一つにした非自民勢力結集(市民参加型野党選挙協力)につながる内容で、討論会直前の記者会見で飛び出した。

まず柏崎刈羽原発再稼働などについての質問に対して、前原氏が民進党結党の基本政策合意に「国の責任を明確化し、責任のある避難計画が策定され、核廃棄物の最終処分場選定プロセスが開始されることが(再稼働の)前提」と書かれていることを紹介。これを受けて枝野氏はこう明言したのだ。

「柏崎刈羽原発再稼働については明確に反対です。前原さんが言った民進党結党の時の合意文書の前提が整っていない上に、米山知事を先頭にして新潟県としても、県民の意思としても理解が得られているとは思いません。従って、いま再稼働は認められない」

各地の原発周辺住民の避難計画は不十分で、核廃棄物の最終処分場選定プロセスも動き出していないため、原発再稼働は数年オーダーで一切認められないことになる。実際に米山隆一新潟県知事は、避難計画や安全性などの検証に3年から4年はかかると断言。柏崎刈羽原発の再稼働は当面は困難という状況に陥っている。再稼働のハードルの厳守は、実質的な原発稼働ゼロ(原発ゼロ社会の実現)をもたらす効果があるのだが、ここに枝野氏は注目したのだ。

【前原氏に迫る】

記者会見後の討論会で枝野氏は前原氏に、「柏崎刈羽原発の再稼働を容認するかどうか」と質問、原発政策に差異があるのかを確認した。前原氏はこう答えた。

「原発のない社会を創っていくことにわれわれは使命を負っている。私は米山知事の選挙を一生懸命応援し、上越で他党と一緒に演説した。その流れからすると当然ながら柏崎刈羽原発は再稼働する状況にないことは明確だ」。

去年10月の新潟県知事選で米山知事は、避難計画が不十分なことなどを理由に、柏崎刈羽原発の再稼働反対を訴えて自公推薦候補を打ち破ったが、その新潟で両候補も同じ論法を使って「再稼働反対の民意の受け皿に民進党がなる」という意気込みを明らかにしたといえるのだ。

ちなみに新潟県は、参院選1人区で野党統一候補が当選、新潟県知事選でも実質的な野党統一候補が勝利。この時の大きな争点が再稼働反対だった。そこで、野党共闘の見直しを表明している前原氏に、なぜ新潟をモデルに同じような選挙協力を進めないのかについて聞いてみた。

「前原さんは(野党選挙協力の)見直しを言っているが、理由をお伺いしたい。『理念や政策の一致が必要』ということだが、自公は違いを乗り越えて選挙協力をして成功している」

前原氏はこう答えた。

「先の二つ(の新潟モデル)は参院選と知事選挙。衆院選は政権選択の選挙ですので、基本的な理念や政策というものが一致しないと、やはり同じ政権を組むことにならないと思いますので、話はまったく別だと考えております」

自らが体験した成功事例(新潟県知事選)から目を背け、自公を利するに等しい“自縄自縛的書生論(理想論)”ではないか。茨城県知事選(8月27日投開票)では、自公推薦の大井川和彦候補が原発再稼働反対の現職と新人2候補を破って当選したが、原発政策に大きな違いがある自公の“野合的”推薦(先週号で紹介)の産物でもあった。この県知事選で民進党は自主投票で存在感は皆無だったが、今後の国政選挙では再稼働反対の旗を掲げて野党統一候補擁立をすれば、新潟モデルの成功事例を全国各地に広げることができるに違いない。前原氏が自縄自縛的書生論を改めるのか否かが注目される。

(横田一・ジャーナリスト、9月1日号)

受動喫煙対策に消極的な加藤厚労相と鈴木五輪担当相 たばこ業界からの献金が一因か

2017/09/11(月) 11:58

加藤勝信厚生労働相の受動喫煙対策への姿勢とメディア対応が物議をかもしている。

8月24日、一般社団法人全国がん患者団体連合会が「受動喫煙防止対策の推進に関する要望書」を加藤大臣に渡した際、加藤大臣は「総合的に考えていく」との姿勢を示したのみで、対策を強化する健康増進法の改正案については触れなかった。さらに、全がん連が要望書を手渡した大臣室には報道関係者の入室も認めなかった。がん患者らは「加藤大臣が受動喫煙対策に消極的であることがよくわかった」と憤り、かたや厚労省記者クラブの記者からは「前大臣だったら確実にメディアにもオープンにしていたはずだ」という声が漏れてきている。

がん対策を協議するがん対策推進協議会は6月、この夏に閣議決定されるがん対策推進基本計画に「2020年度までに受動喫煙ゼロを入れる」と一致して決めた。今回、全がん連が要望書を提出したのは、それが盛り込まれない可能性が高いという情報が流れていたためだ。

安倍晋三首相の信頼が厚く、8月の内閣改造で1億総活躍担当相から厚生労働相に横すべりした加藤氏は元大蔵省(現、財務省)官僚で、たばこ産業界から政治献金を受けている。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて受動喫煙対策を推進していく立場にある鈴木俊一五輪担当相も、やはりたばこ産業界から献金を受け、「禁煙ではなく分煙」を旨としている。鈴木氏は自民党たばこ議員連盟に所属し、たばこ特別委員会の委員長でもある。

厚労省の推計だと、受動喫煙によって年間1万5000人が亡くなっているとされる。安倍首相は1月の施政方針演説で、3年後に迫ったオリンピック・パラリンピックを必ず成功させるとし、受動喫煙対策を徹底させると明言していた。加藤、鈴木両大臣の対応と首相演説の整合性が問われてきそうだ。

(野中大樹・編集部、9月1日号)

この時代にプロテストソングは可能か(小室等)

2017/09/08(金) 16:37

三〇年以上前、大岡信さんと谷川俊太郎さんの対談(『対談 現代詩入門』一九八五年八月、中央公論社刊)の中で谷川さんは、
「ぼくの個人的な印象で言うと、小室等という人があらわれて、大岡の詩とかぼくの詩とかを、まったく詩集からそのまま、へっちゃらで作曲してうたっちゃったといのがとても新鮮だった記憶があるんだよ。それまでは、ぼくなんかも歌の作詞はしていたけれども、やっぱり、歌のために作詞するというある構えがあって、一番、二番、三番なんて書いてね(笑)。そうしないと歌にならないと思ってたのね。ところが、小室等を初めとして、高石友也なんかもそうだけれども、いわゆるフォークの新しい人たちっていうのは、われわれの書いている現代詩の中に同時代の声というものを聞きとって、それを歌にのせる一種の方法を持って登場してきたわけね」
と言っている。

その谷川さんと『プロテストソング2』というアルバムを現在作っている最中。なぜ「2」かというと、谷川さんとは一九七八年、すでに『プロテストソング』というアルバムを出していて、今回、久しぶりに今の時代にプロテストソングってありなのかを問うてみようということで、「2」なのです。

「2」のトラックダウンが済んで、谷川さんが毎年夏を過ごす群馬県の別荘にmp3(音声データ)で送ったら、
「mp3聴きました。ギターを手放さずに言葉を伝えるフォークソングの正統に感動、歌になると活字で黙読してると気づかないものに身体が反応する。いろんな友人、知己に聞いてほしい」
というメッセージが届いた(「聞いて」は「聴いて」の変換ミスか、いや言葉の権威がそんなミスない?〈笑〉)。はい、ま、端的に自慢話。わかっております。

わかっておりますが、「九条変えましょうよ、だって九条があると戦争しにくいじゃないですか」とか、「北朝鮮からミサイルが飛んできたら迎撃しなくていいの? ね? しっかりと戦争できるようにしておかないとね」とか、国全体がそんな空気、なんかほっとけないじゃないですか。

六〇年代にはアメリカの、日本の、世界のシンガーソングライターたちがプロテストソングを歌った。七八年にぼくと谷川さんは、ぼくたち流の『プロテストソング』を作った。今あらためて、この時代にプロテストソングは可能か。

七〇過ぎと八〇過ぎの二人の“老人”が、「戦争反対」とダイレクトに言うのではない、詩の言葉でのプロテストソングが成立するかを試そうとしているのです。

(こむろ ひとし・シンガーソングライター、8月25日号)

辺野古の文子おばぁ、都内で500人の聴衆を前に戦争の悲惨さ訴える

2017/09/08(金) 11:50

約500人の聴衆を前に島袋さん(左)と三上監督。講演後の官邸前デモの第一声は「安倍首相に文句を言いにきました」だった。(写真/まさのあつこ)

「安倍は戦争をやりたいなら、死んだ人間の血の泥を飲んでからにしろ」

その言葉に、「島袋文子さんを迎え沖縄に連帯する市民のつどい」(文子おばぁを迎えよう!実行委員会主催、8月17日、参議院議員会館)の参加者は沸き立った。島袋さん(88歳)は辺野古住民だ。米軍基地前で「私を轢き殺してから行け」と巨大な工事車両の前に立ちはだかった姿を収めた映画『戦場ぬ止み』の三上智恵監督が引き出し役となって講演が行なわれた。

「安倍晋三は国民の命と財産を守るときれいごとを言う。その半面、戦争を作り出すようなことをやっている。自衛隊の命も安倍晋三の命も余分な命は一つもない。命の予備を持っている人はいますか。私は持っています。私は(沖縄戦で)一度死んでいます。もし日本が勝っていたら日本軍はウジ虫の湧いた人間を助けるわけがない。米国が勝ったからこそ野戦病院に連れていってくれた。命の恩人はアメリカ人です」

この発言に、後半で参加した高校生が「本心ですか」と質問。島袋さんは「本心ですよ。日本軍は、戦争に負けると分かっていて、ガマから住民を追い出した。暗闇に置かれた子どもが泣くと、米軍が来る、見せしめだと言って殺した。二度と戦争をしてはいけませんよ」。その答えに会場は聞き入っていた。

(まさのあつこ・ジャーナリスト、8月25日号)

特区諮問会議メンバーはなぜ前川喜平氏を攻撃するのか(佐々木実)

2017/09/07(木) 17:22

加計学園の獣医学部新設をめぐる問題では、国家戦略特区における規制緩和のあり方も問われている。この案件の担当が文部科学省であり、前事務次官の前川喜平氏が疑惑解明の鍵を握る人物として登場したことは、規制緩和行政の視点から眺めると、偶然とはいえない。

規制緩和の流れを遡ると、小泉純一郎政権(2001~06年)で大きな質的変化が起きたことがわかる。「社会的規制」がターゲットとされるようになったのである。それまで規制緩和の対象は、タクシーやバスにおける業者の参入規制のような「経済的規制」だった。

小泉政権が掲げる「構造改革」に呼応して、総合規制改革会議は労働、医療、教育、農業などの改革に照準を合わせた。「製造業における派遣労働の解禁」「混合診療の解禁」などだ。規制緩和に名を借りた社会改造そのものであり、規制緩和行政は変質した。

重点が社会的規制に移ると、所管する厚生労働省、文部科学省、農林水産省が「岩盤規制」を守る官庁として叩かれた。叩く側の総合規制改革会議の議長はオリックス会長(当時)の宮内義彦氏。1990年代半ばから政府諮問機関の常連となり規制緩和の旗を振り続けたが、オリックスが規制緩和ビジネスにかかわっていたことが判明後、厳しい批判を浴びた。

規制緩和に関するオーラルヒストリーで、宮内氏が興味深い証言を残している。

「経済官庁はよくわかる。どちらかというと理屈の世界ですね。財務省にしろ、経産省にしろ、わりかたわかってくれる。わかってくれない最たるものは、かつてで言えば労働省であり、厚生省であり、文部省であり、というところだったと思います。ここは、我々の理屈が通らないんです。経済を活性化するとか、選択の幅を広げるとか、そういうことでなく、私に言わせれば彼らは社会主義者なのです。違う理屈を持っているので、全く通用しない」(2006年8月のインタビュー:総務省関連の研究で公表はされていない)

宮内氏は労働や医療、教育の行政に携わる官僚を、ビジネスの論理を理解しない「社会主義者」とみなしていた。社会的規制を経済的規制と区別する発想はない。すべからく緩和、撤廃すべきという“原理主義”である。

宮内氏が小泉政権で大活躍できたのは、経済閣僚の竹中平蔵氏が手厚く支援したからだ。竹中大臣が司会する経済財政諮問会議に出席、議長である小泉首相の言質をとる巧みな連携プレーも見せた(ちなみに現在、竹中氏はオリックスの社外取締役)。

竹中氏が安倍政権に国家戦略特区を提唱した背景に、経済財政諮問会議での成功体験があった。特区諮問会議に集う面々は、宮内氏の論理を共有している。というより、その論理を実行に移すため、“原理主義者”たちが制度設計から運用まで、すべて仕切っているのが特区制度なのである。

状況を俯瞰すると、特区諮問会議のメンバーや彼らの賛同者が敵意むき出しで前川氏を攻撃するのも合点がいく。「特区ビジネスの旨味」を察知できない文科省の前次官なんぞ、唾棄すべき「社会主義者」にしか見えないのである。

(ささき みのる・ジャーナリスト。8月25日号)

昭恵氏「秘書」こっそり海外異動、加計学園「特区審査しない」大学設置審 安倍政権また「疑惑隠し」

2017/09/07(木) 12:09

谷査恵子氏のイタリア日本大使館への異動について「適材適所」と繰り返す経産省(手前右)と外務省の職員(同左)。(写真撮影/片岡伸行)

「国家戦略特区の要件は審議しない」

加計学園(本部・岡山市、加計孝太郎理事長)の獣医学部の設置審査をめぐり、文部科学省の松永賢誕高等教育局専門教育課長らの発言が波紋を広げている。折しも、安倍晋三首相の妻・昭恵氏付き「秘書」を務めた経済産業省職員・谷査恵子氏の在イタリア日本大使館への異動が発覚。安倍政権による「疑惑隠しだ」との批判がさらに高まりそうだ。

加計学園の獣医学部新設をめぐっては、国家戦略特区諮問会議議長である安倍首相の関与が疑われる数々の文書や証言が明らかになっているだけでなく、当初から、特区認定のための4条件(既存の獣医師養成ではない、新たに対応すべきニーズに応えるなど)を満たしていないとの疑惑もあった。そうした中、加計学園の獣医学部設置申請を審査中の大学設置・学校法人審議会は、8月下旬に出す予定だった「認可」答申を「保留」としたが、特区要件を満たしているかどうかの判断が焦点とされていた。

しかし、8月16日に東京・永田町の衆院第一議員会館内で開かれた民進党
「加計学園疑惑調査チーム」のヒアリングの席で、松永専門教育課長らは「大学設置審はカリキュラム内容、教員組織、施設・設備などについて学問的、専門的な審査をする」としながら、「国家戦略特区としての要件(4条件を満たしているかどうか)については審議しない」と明言した。

これに対し、疑惑調査チーム座長の桜井充参院議員や今井雅人衆院議員は「おかしい」と反発し、「4条件を踏まえた特別な獣医学部を作るとして認可されたにもかかわらず、その特区要件について審議しないとすれば、通常の獣医学部の審査と同じではないか」「内閣府は、新たなニーズに対応する獣医学部の質が確保されているかどうかは設置審で審議すると言い続けてきた。4条件を議論しないというのは矛盾する」などと指摘。内閣府も「教育のレベル、質の議論については設置審でやる」(塩見英之参事官)と認めた。文科省と内閣府の食い違いが明らかになっただけでなく、国家戦略特区の認定と大学設置認可をめぐる制度上の欠陥が露呈した形だ。

民進党側は文科省に対して次回(23日)のヒアリングで再度の説明を求めたが、かりに、設置審では国家戦略特区の要件を審査しないということになれば、千葉県成田市に今春開学した国際医療福祉大学の医学部新設に際しても同様に特区要件の議論を除外したことになり、設置審自体のあり方が問われよう。大学設置審議会は10月下旬に再度、加計学園の獣医学部を「認可」するかどうかの審査結果を出すことになっている。

【疑惑深まる谷氏の異動】

「国民から見たらどう考えても疑惑隠し。8億円値引きの核心を知る谷査恵子さんをなぜ海外に隠すのか。疑惑はますます深まる」

そう指摘するのは民進党の国会対策委員長・山井和則衆院議員だ。

谷氏は2015年11月、森友学園への国有地有償貸付の過程で籠池泰典理事長(当時)の要望に応える形でファクス回答をした。また、谷氏らには昭恵氏とともに自民党の選挙応援をした国家公務員法違反の疑いも指摘されている。

経産省と外務省の説明では、谷氏は16年1月に官邸から経産省に戻り、今年1月6日付で「在イタリア大使館一等書記官」の異動内示を受け、8月6日付で経産省から外務省に出向、異動発令となった。森友問題発覚後は「テレワーク」(自宅勤務)となり、“口封じ”された上で海外に飛ばされた形だ。しかし、国税庁長官に栄転した佐川宣寿理財局長(当時)と同様、「論功行賞人事」と指摘される。

「国会を閉じてからこの人事。国会中にはできなかった」(山井衆院議員)上に、異動発令が8月6日の日曜日で、同月15日までその事実を伏せていた姑息さが際立つ。8億円値引きの事前交渉のテープが出てきたこともあり、谷氏隠しをきっかけに森友学園疑惑の捜査進展を求める声も強まりそうだ。

(片岡伸行・編集部、8月25日号)

モザンビーグ政府、国際会議参加予定だったNGO職員へのビザ発給拒否

2017/09/06(水) 16:58

8月24日と25日、アフリカのモザンビークでTICAD(アフリカ開発会議)閣僚会議が開催される。TICADはアフリカの開発をテーマとする国際会議で、1993年以降に日本政府が主導し、国連やアフリカ連合委員会、世界銀行と共同で開催している。

今回の会議には河野太郎外務大臣が参加するが、派遣団メンバーとして外務省に登録された渡辺直子さんに対し、駐日モザンビーク大使館はビザ発給を拒否した。

渡辺さんはNPO法人「日本国際ボランティアセンター」(JVC)の南アフリカ事業担当として、長年HIV陽性者支援に携わり、モザンビークでもJICA(国際協力機構)のODA事業「プロサバンナ」計画について現地農民と共に調査と提言活動を行なってきた。

同計画は、同国の北部約1400万ヘクタールを農業開発し農産物輸出を目指すものだが、渡辺さんらは、計画には農民の参画がない、つまり受益者が不明であり、同時に、多くの農民の土地が収奪されることを指摘してきた。

現地農民も数回にわたり来日し、外務省やJICAに計画見直しを訴え、今年4月には農民団体の代表11人が、政府からの弾圧や脅しを怖れ、匿名で計画への異議申立を行なった。JICAの環境社会配慮ガイドラインにJICAが組織的違反をしていると訴えたのだ。

この申立には、今後の文献調査と現地調査を経て、11月までにJICA理事長に答申が提出される。

渡辺さんへのビザ発給拒否について、駐日モザンビーク大使館は「理由は開示はできない」と表明するが、渡辺さんは「TICADで市民社会がプロサバンナ計画に声をあげるのを阻止したいのが狙いなのでしょう」と推測する。

JVCは、ビザ発給拒否について、外務省がモザンビーク政府の責任を追及しないことを指摘する。TICADでは発足当初から市民団体の自由な討議が尊重されてきただけに、極めて残念な事態だ。

(樫田秀樹・ジャーナリスト、8月25日号)

安倍首相は「火中の栗を拾いにいく」のか(佐藤甲一)

2017/09/05(火) 16:04

「冒険」とは、成算の少ない一種の賭けでもある。

7月28日午後、評論家の田原総一朗氏が首相官邸を訪れ、安倍晋三首相と面談した際に用いたとされるのが「冒険」という言葉である。その後思わせぶりにメディアの取材に応じた田原氏だが、安倍首相に「政治生命を賭けた冒険」を進言したことを明らかにしたものの、内容については言及を避けた。

巷間、その「冒険」とは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)訪問であるとか、消費税の引き下げ、などと憶測が飛び交い、その後8月3日に行なわれた内閣改造の後は、この問題は大きく取り上げられることなく、推移してきた。

一方で、安倍首相は8月15日の「終戦記念日」にトランプ米大統領と北朝鮮問題で電話会談。北朝鮮がグアム島周辺へのミサイル発射計画を明らかにし、これにトランプ大統領が警告するなど米朝間の緊迫が高まる中での会談だったが、その晩には山梨県鳴沢村の別荘近くで森喜朗、小泉純一郎、麻生太郎の3元首相らと約3時間にわたり会食。新聞などでも特に大きく報じられることはなかったが、この15日の動きこそ「冒険」の中身と関わっているという。

安全保障政策に関わるある政府関係者は、7月末の田原氏との会談後、首相は熟考を重ねてきたのだと説明する。導いた結論、つまり安倍首相がいまできうる「冒険」とは「安倍訪朝」以外にない、というものだった。15日のトランプ氏との電話会談、そして同じ晩の3首相経験者との会食の主要議題こそ「安倍訪朝」の内諾、そして訪朝経験者を招き、何がなしうるかの検討会だったというのだ。

政府関係者は、その直後の17日に行なわれた日米の外交・防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会」、いわゆる「2プラス2」では安倍訪朝に関する米国側との具体的なすり合わせが隠された主要議題だった、と指摘する。米朝の対立が一度は頂点に達し、金正恩氏の「米国の様子を見守る」発言でいったん緩和したかのように見える米朝関係の陰で、日本を軸にした、対話のための工作が進行している、というわけだ。

しかし、先の政府関係者に「日本が持っていけるものは具体的にあるのか」と尋ねると、案の定「それはない」という。それでも、この訪朝が期待されるのはなぜか。マティス米国防長官の選択の中に北朝鮮への武力行使は絶対にない、韓国に人的被害が出ることは、市民を巻き込むことは軍人として軍歴の汚点となることだけに、「ありえない」という。ならば残された選択は対話しかないが、米国が直接関わることになれば、失敗は許されない。その前にどうしても北朝鮮の出方を探る必要がある。その「火中の栗を拾いにいく」のが安倍首相、ということか。

有効な交渉のカードもなく敵地に赴くのは「冒険」ではなく「無謀」である。まして、この訪問が安倍首相にとって唯一の利点と見ることができる「拉致問題」解決のきっかけにつながる見込みは、今のところ見いだしえない。

政権浮揚の有効な手立てもなく、悲願とする憲法改正の実現はすでに「黄信号」が点っている安倍政権。訪朝の模索は真夏の「怪談」なのか、それとも東アジアの安定をもたらす歴史的な試みが水面下で進んでいるのか。「2週間前後で、その姿は見えてくる」というのだが。

(さとう こういち・ジャーナリスト。8月25日号)

東京大学が非常勤職員8000人大半の雇い止めを強行か

2017/09/05(火) 11:11

東京大学で働く約8000人の非常勤教職員の大半が、来年4月以降雇い止めされる可能性が高くなった。8月7日に開かれた東京大学教職員組合と首都圏大学非常勤講師組合との団体交渉で、大学側が明確にした。

東大の非常勤の雇用形態は2種類ある。「特定有期雇用教職員」は特任教員や看護師・医療技術職員など約2700人。「短時間勤務有期雇用教職員」は、パートタイムワーカーで約5300人もいる。

2013年4月に施行された改正労働契約法は、5年以上同じ職場で働く非正規労働者が希望した場合、無期雇用に転換することを定めている。組合側は、2018年4月以降、希望者全員の無期雇用転換を求めているが、大学は契約期間の更新を上限5年とする「東大ルール」を法律よりも優先。法人化前から働く480人など一部を除いて雇い止めする方針だ。

また大学は、短時間勤務の教職員は6カ月のクーリング期間をおけば上限5年での再雇用が可能としている。しかし、無期転換を避けるためのクーリングは違法または脱法行為とされる。しかも以前は3カ月だったクーリング期間を、改正法の成立後、雇用期間が「リセット」される6カ月に変更した。これは労働条件の不利益変更だが、労基署に届け出ていない疑いがあり、非常勤講師組合は労働基準法違反で刑事告発を検討している。

団交で大学は、無期雇用できる「職域限定雇用職員」制度を来年4月に作るので、法に矛盾しないと主張。試験を行なうというが採用人数は明らかにしていない。

全国86の国立大学法人で働く非常勤教職員は約10万人。文部科学省によると、法改正を受けて無期転換を決めたのは6法人だけで、東大の対応が正当化されると、追随する大学が出てくる可能性がある。最も模範になるべき存在の東大がこのまま雇い止めに突き進むのか、今後の対応を注視したい。

(田中圭太郎・ジャーナリスト、8月25日号)

巡査の「いじめ自殺」で遺族側勝訴的和解 愛知県警「パワハラ」認める

2017/09/04(月) 12:13

亡くなったAさんの遺影に裁判の報告をする父親。(撮影/三宅勝久)

2010年に愛知県警の新人男性巡査(享年24)が警察署内で拳銃自殺した事件をめぐり、先輩らのいじめが原因として遺族が愛知県を相手取り名古屋地裁に起こしていた国家賠償請求訴訟。今年7月、県側が「パワハラがあった」として非を認め、150万円を払う内容の遺族側勝訴的和解が成立した。事件から浮かぶのは、人権感覚が乏しい閉鎖社会のなかで苦しむ底辺の警察官の姿である。

事件が起きたのは2010年11月29日の昼ごろ。愛知県警で最も規模の大きい中署(名古屋市中区)の2階トイレで、地域課の巡査だったAさんが拳銃で頭を撃って自殺を図り、後に死亡した。大学卒業で一般の警察官に応募、中署地域課の配属となって2カ月。先輩巡査部長や巡査の新人指導を受けながら勤務していた。愛知県警の調査によれば、事実経過はこうだ。

(1)この日午前、Aさんは中署のなかで射撃訓練に参加、拳銃に取り付けている吊りひもをはずしたところ、ひもを訓練場に置き忘れた。(2)訓練後、Aさんが交番に戻ろうとしたところ、吊りひもがないことに気づいた。指導担当の先輩巡査部長らから「指導」を受け、ロッカーや寮の部屋の荷物やかばんをひっくり返して捜索。(3)吊りひもは警務課が保管していることが判明。しかし、その後も先輩からの「指導」が続く。交番に戻ろうとしたAさんに先輩は「お前もう知らん、勝手にしろ」と発言、中署に置き去りにして1人で交番に行く。(4)中署のトイレでAさんが拳銃自殺をはかる。

事件の10日前には、先輩巡査部長から執拗に退職を促されていたことも報告書で明らかになった。実習日誌の保管場所が間違っていたという理由で、約30分間、数十回にわたって「やめろ」と迫り、机をたたいたりいすをけって退職願への署名を迫ったという。

さらに、交番の前の路上で何十回も腕立て伏せやスクワットをさせていた事実も判明した。

だが、いずれも「指導」であっていじめではないというのが愛知県警の結論で、先輩巡査部長や上司の懲戒処分はなされなかった。

これに遺族は納得できなかった。いじめを受けているという話は、生前本人から断片的に聞いていた。その内容が県警の報告よりもはるかにひどかったからだ。腕立て伏せの回数は200~300回。同じ内容の反省文を繰り返し書かせる。先輩の私用を頻繁に言いつけられる。当直の日にはほとんど仮眠させてもらえない。当直が明けても帰宅させてくれない。寝不足でフラフラだった。そう嘆いていた。

【県警警部補だった父親】

内部告発もあった。吊りひも発見後、Aさんを土下座させて「死んでしまえ」などと激しく罵倒していた。暴力を振るっていた。事件後は上司らが責任逃れのために箝口令を敷いている――。

息子は警察に殺されたのだ。両親はそう確信した。父親は現職の愛知県警警部補だったが、時効目前の2013年8月、愛知県を相手どり、慰謝料や逸失利益計約6000万円の損害賠償を求める国家賠償請求訴訟を起こした。代理人弁護士は札幌弁護士会の市川守弘弁護士。熊本県警機動隊員のいじめ自殺をめぐる国賠訴訟で勝訴した実績をもつ。

裁判でも愛知県側は「いじめ」はなかったと責任を否定した。だが審理が終盤に入った今年初め、裁判官が和解を勧告し、応じる姿勢に転じた。和解調書には「侮辱的言辞での叱責及び執拗かつ威圧的な退職勧奨等の不適切な行為を行った」と警察の非を認める一文が入った。事実上の遺族側勝訴だ。

裁判中に警察を定年退職した父親が言う。「在職中、自殺した警察官を何人も見聞きしました。幹部が遺書を捨てた例もある。でも自分だけは違うと組織を信じていた。警察はちゃんと調査して、いじめた当人を処分すると思っていました。しかしちがった。息子をいじめた当事者に対する処分をどうするのか、見届けたい」。

愛知県警(加藤達也本部長)は監察官室を通じて「(自殺の件は)大変遺憾だ。処分については公表をさしひかえる」と回答した。

(三宅勝久・ジャーナリスト、8月25日号)

憂慮すべき銀行の“サラ金”化(宇都宮健児)

2017/09/03(日) 15:02

深刻化する多重債務問題に対処するため、2006年12月13日、改正貸金業法(貸金業規制法、出資法、利息制限法等の改正法)が成立した。

改正貸金業法では、金利規制と過剰融資規制が大幅に強化された。具体的には、出資法の上限金利が年20%まで引き下げられ、出資法の上限金利と利息制限法の制限金利との間にあった「グレーゾーン金利」が撤廃された。また、貸金業者が利息制限法の制限金利を超えて貸付けをすることも禁止された。さらに、年収の3分の1を超える貸付けを禁止するという総量規制が導入され、過剰融資規制も大幅に強化された。

2010年6月18日に改正貸金業法が完全施行された後は、多重債務者や自己破産申立件数、経済・生活苦による自殺者、ヤミ金被害者、貸金業者数などは大幅に減少してきていた。

ところが2016年の個人の自己破産申立件数は、13年ぶりに増加に転じることになった。自己破産申立件数の増加の背景には、貸金業法の総量規制の対象外となっている銀行カードローンの貸付残高の急増がある。銀行等金融機関には貸金業法は適用されないことになっており、この結果、銀行等金融機関に対しては、貸金業法が定める総量規制は適用されないのである。

最近の銀行のカードローンは、「貸金業法の総量規制適用外」「専業主婦でもOK」「収入証明書不要」「来店不要」「最短即日利用可」などといった、まるで一時のヤミ金の広告を思わせる広告が増えてきている。

銀行カードローンの大半は、プロミス、アコムなどの大手サラ金が保証会社となっており、与信審査も保証会社に委ねる体制となっているところが多い。この結果、大手サラ金を保証会社にした銀行カードローンの貸付額、件数が急増してきている。

銀行カードローンの貸付残高は、この4年間で1・6倍に急増し、2016年末は5兆4377億円となり、サラ金など消費者向無担保貸金業者の貸付残高2兆5544億円を大きく上回っている。

現在、日銀はマイナス金利政策を採用しており、銀行の普通預金金利は年0・001%という超低金利となっている。一方で銀行のカードローンの貸付金利は年14・5%前後であり、利益率も高いので、今後、銀行等金融機関は消費者向けのカードローン貸付けにますます力を入れてくることが予想される。総量規制が及ばない銀行等金融機関の貸出しが増えれば、再び多重債務問題が再燃する虞がある。

そのための当面の対策としては、貸金業法を改正し、サラ金の保証残高を「総量」に算入して規制することが考えられる。

現在のわが国の消費者信用に関する法制度は、サラ金など貸金業者に関しては貸金業法により規制されているが、銀行は銀行法によって規制されることになっている。また販売信用(クレジット)に関しては、割賦販売法で規制されている。

したがってより抜本的には、このような業態別の規制を改め、サラ金・クレジット・銀行を統一的に規制する「統一消費者信用法」の創設が検討されるべきである。

(うつのみや けんじ・弁護士、8月18日号)

非良心的兵役拒否のすすめ(佐高信)

2017/09/02(土) 15:13

「映画運動家」の寺脇研を司会として西部邁と私の『映画芸術』での対談が続いている。今年の夏の460号で、22回目。そんなになるのかという感じだが、今回は『ハクソー・リッジ』と『戦争のはらわた』を観ての闘論だった。

『ハクソー・リッジ』は宗教的信念から銃は持たないとして衛生兵となって従軍した者の話だが、私には強烈な違和感が残った。

それで、西部が「信念を曲げたくないなら志願しなければいい」と言った後に、こう応じた。

「西部さんとは違う意味で、この映画に違和感を覚えたのは、『良心的兵役拒否』というのは昔から嫌いだからです。鶴見俊輔さんにも言ったことがあるんですが、戦争を『善』として、それを『良心的』に拒否するということでしょう。では、どうして『非良心的兵役拒否』はダメなんだと思ってしまうわけです。鶴見さんは、そんな考えもあるなと笑っていましたが、ともかくすごく嫌なんです。自分のどこかを満足させるだけのことで、それを良心的といえば許されるのかと」

西部と私の暴言の連続で、映画人からはヒンシュクを買っている闘論らしいが、そんなことも意識して、ちょうど同じころに観ていた『兵隊やくざ』(増村保造監督、勝新太郎と田村高廣の共演)の方が興味深かったと私は発言している。もちろん、戦争は戯画化して済むものではない。しかし、力が入れば入るほど国家を厳粛化してしまうことにつながるのではないか。

明治初期に徴兵令が出た時、民衆はそれを「血税」と呼んで抵抗して回避しようとした。

『良心的兵役拒否の思想』(岩波新書)で阿部知二は「単なる本能的恐怖あるいは厭悪にもとづく逃亡的行為」にとどまらずに、それが思想にまで昇華されたものを「良心的兵役拒否」と称しているように見えるが、「単なる本能的恐怖あるいは厭悪」から兵役を拒否しては、どうしてダメなのか?

選ばれた者だけの抵抗にしないために

たとえばキリスト教のクエーカー派は絶対に人を殺さないことを信条としている。それで「良心的兵役拒否」を申し出ると、厳重な審査を受け、それを通った場合に、病院で傷病兵の看護をすること、あるいは土木工事、鉱石採掘等に従事することを命じられる。

それも間接に戦争に協力することだとして拒絶すると獄につながれるのである。

この国では1939年に「灯台社」事件というのがあった。灯台社はニューヨーク州に本部を置く「ものみの塔聖書冊子協会」の日本支部として、1927年に明石順三を中心に結成されたキリスト教系団体で「エホバの証人」と呼ばれる新宗教である。彼らはエホバ以外の被造物に礼拝することはできないとして、宮城遥拝や御真影奉拝も拒んだ。そのため不敬罪等で検挙されたが、拷問を受け、傍聴禁止の秘密裁判で懲役12年の判決を言い渡される。そこで、明石はこう陳述している。

「私は今まで法律に触れるやうな行為をやつて来たとは思ひません。すなはち聖書も公刊物でありますし、この聖書に基いて私が発行した出版物は全部当局の検閲を受けてをります。(中略)私が今までに申し上げた真理は神の言葉です。絶対に間違は有りません。現在私の後について来てゐる者は四人(非転向者。――妻の静栄、崔容源、玉応連、隅田好枝)しか残つてゐません。私共に五人です、一億対五人の戦です。一億が勝つか五人が言ふ神の言葉が勝つか其は近い将来に立証される事で有ませう」

原理はこの通りだが、選ばれた者だけの抵抗にしないために、私は「非良心的兵役拒否」をすすめたい。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、8月18日号)

小池都知事の無電柱化推進で都心の街路樹が伐採の危機

2017/09/01(金) 17:46

豊かに緑陰を広げる明治大学前の街路樹。(撮影/伊田浩之)

東京都心部の歴史ある街路樹が次々と切られようとしている。道路拡幅や無電柱化などが主な理由だが、環境や景観を重視する住民たちから反対の声が上がっている。

学生街の明大通り(千代田区、535メートル)では8月下旬からプラタナス約70本がなくなろうとしている。千代田区道路公園課では「樹木医の診断の結果、移植可能なプラタナスはできるだけ移植して、マグノリアに植え替える。道路拡幅の要望は多い」と説明するが、千代田の街路樹を守る会の愛みち子さんはこう憤る。「プラタナスは樹齢50年で、パリの学生街カルチェ・ラタンを思わせる大木に育った。工事は2期に分かれていて、御茶ノ水駅から山の上ホテル入り口の1期工事区間は、両側の歩道をわずか25センチずつ広げるだけ。第2期は明治大学側約1・6メートル・日本大学側約1・4メートルを拡幅するそうですが、プラタナスを残したまま工事することは十分可能なはずです」。

中央区では現在、日本橋本町から日本橋小舟町までの歩道約190メートルを改修して無電柱化しようとしている。樹齢80年の由緒あるイチョウ9本を含む約26本(2本は移植)がなくなる予定だ。中央区の小坂和輝区議はこう話す。

「ビル街に潤いを与える素晴らしい並木です。伐らずにすむ代替案を十分に検討したとは言えません。説明会を開催するなど住民にしっかりと説明がされていないことも大問題です」

ある都政関係者は「小池百合子新知事は阪神・淡路大震災の教訓から無電柱化に熱心で、6月議会で東京都無電柱化推進条例を成立させました」と話す。無電柱化が加速すれば同様の問題が今後頻出する危険性がある。

ヒートアイランド現象の緩和に役立つ大木の街路樹をどうするのか。「街路樹を普段意識する人は少ない。突然撤去されないように注意してみてほしい」(前出の愛さん)

(伊田浩之・編集部、8月18日号)

安倍政権は「株式市場の良識」を崩壊させた(鷲尾香一)

2017/08/31(木) 18:36

加計学園問題とは何か。

文部科学省が、獣医師が過剰になることを理由に半世紀以上も既存の大学以外に獣医学部を新設することを認めずに定員を規制していた中で、通常の行政ルートではなく国家戦略特区の仕組みを使って獣医学部の新設を認めようとしたものだという解説がある。

また一方では、政治家なのだから政策実現のために政治力を行使することは何らおかしいことではなく、当然のことであると安倍晋三首相を擁護する向きもある。

しかし少なくとも、加計学園問題は株式市場に計り知れない悪影響を与えてしまったようだ。

これまで株式市場関係者からは「株式市場は安倍政権に全幅の信頼を置いているので、株価が大きく下落することはない」という声が多く聞かれていた。

ある株式投資専門紙の社説は「株価は政権交代を明確に対比できる数字の一つ。民主党政権の厳しい時代から日経平均株価を倍以上に伸ばし現在進行形で結果を残している点を評価する投資家は多く、(安倍政権を)支持しない理由はない」と主張していた。

筆者が驚かされるのは、この社説が「加計学園問題やPKO(国連平和維持活動)日報問題などは何が違法なのかはっきりしない」とし、加計学園問題やPKO日報問題で無駄な時間を使うなら経済政策を進めるべきと主張していることだ。

株式投資専門紙であるのだから「国を監視する機能」が求められるジャーナリズムとは存在理由が違うという理屈はわかる。しかしその主張は、あまりにも身勝手で稚拙だと言わなければならない。

ところが、株式市場そのものが、この専門紙の主張を裏付けるような動きを見せる。加計学園問題や日報問題の不透明さには無反応なのに、7月27日に民進党の蓮舫代表が辞任表明をすると、日経平均株価は上昇したのだ。ある株式市場関係者は「蓮舫代表の辞任を好感した」と説明する。

市場取引は、それが公正で透明であって初めて参加者が安心して参加する。公正性や透明性を担保しているのはルールがきちんと説明されているかどうかだ。

政治も同じだろう。政治家、政党、役所それぞれに権力があるからこそルール厳守が求められるのであり、もしどこかに不公平や不透明さがあれば、国民に対する説明義務が発生する。

だから安倍首相や「腹心の友」である加計孝太郎理事長には、国民に対して丁寧に説明する義務がある。それが国民の信託(忖度ではない)を得ることにつながる。

株式市場がもっとも忌み嫌うべき「不透明さ」を、政治の世界では良しとしてしまう姿勢は、株式市場を不健全なものにしかねない。

株式市場は、アベノミクスによって日本銀行が実施してきた金融緩和の恩恵を得ている。特に、日銀のETF(上場投資信託)買い入れによる株式購入は、株式相場を下支えしてきている。

市場関係者の多くは、相場が下落すると日銀のETF買いに期待する。それによって株式市場が持つ本来の経済的機能などが壊されているにもかかわらず。

どうやら、安倍政権=アベノミクスは、「株式市場の良識」までをも崩壊させてしまったようだ。

(わしお こういち・経済ジャーナリスト。8月18日号)

裁判を受ける権利を侵す 再審請求中の死刑執行に非難の声

2017/08/31(木) 11:12

金田勝年法相(当時)が命令した7月13日の死刑執行に抗議する集会(主催=死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90など5団体)が同27日、東京都内で開かれた。執行された2人のうち1人は再審請求中、もう1人は自ら控訴を取り下げて裁判員裁判による判決が確定していた。ともに憲法32条の裁判を受ける権利を侵すとして、執行を強く批判した。

死刑を執行された西川正勝さん(執行時61歳)は、5月にした再審請求について裁判所から意見を求められ、回答の準備中だったという。金田法相は記者会見で「再審請求を繰り返す限り、永久に死刑執行をなしえない」から「棄却されることを予想せざるをえないような場合は、死刑執行を命ずることもやむを得ない」と説明した。

しかし、二審の弁護人だった小田幸児弁護士によると、西川さんは再審の請求理由としてMCT118型と呼ばれるDNA鑑定のおかしさを挙げていたようだった。この手法は精度が低く、足利事件(再審無罪)では冤罪の原因になっており、「この部分の再審の可能性はあった」と指摘した。

安田好弘弁護士は、(1)再審請求中の死刑執行は控えるのが刑事訴訟法の趣旨、(2)同一理由での再審請求は禁止されており永久に執行できないわけではない――と金田法相に反論した上で、「再審の可否は裁判所が判断するのに、政策論で執行したのは三権分立に反する越権行為だ」と非難した。

もう1人の住田紘一さん(執行時34歳)の事件は被害者が1人で、本人に前科がなく、上級審で減軽される可能性があった。弁護人が控訴したが、翌月、本人が取り下げて死刑が確定した。

一審の主任弁護人だった杉山雄一弁護士は「過去の最高裁判例に照らしても上級審で改めて厳密に審査されるべきだった」との声明を寄せ、死刑事案では必ず高裁や最高裁の審理を受ける「必要的(自動)上訴制度」の導入を訴えた。

(小石勝朗・ジャーナリスト、8月18日号)

小学4年生に憲法9条を教える前に自衛隊を学ばせる文部科学省

2017/08/30(水) 11:37

文部科学省による、自衛隊についての肯定的な教え込みが、小学生の早い段階から進んでいる。

文科省が法的拘束力ありとする学習指導要領(以下、指導要領)の参考資料にすぎない『小学校指導要領解説 社会編』(6月公表。以下、『解説』)で、4年生の段階から、「自衛隊」は「わが国の平和と安全を守ることを任務とする」と記述。市民らが社民党の福島みずほ参院議員を通じ根拠を問うた質問書に、同省は7月28日と8月8日の回答書で、「自衛隊法第3条第1項に基づく」とした。

小学校社会科の指導要領は従来、〈3年で市区町村→4年で都道府県→5年で国土の様子と国民生活→6年で国の政治の働き〉などと、発達段階に配慮し教える構造になっており、自衛隊の軍事(防衛)面は、中学3年で憲法第9条との関係を含め、初めて学ぶ。

質問書では、「(日本国憲法第9条を学ばない)小4から自衛隊の軍事面を、政府見解や政権政党の政策に沿い肯定的にだけ教え込むのは、発達段階への配慮を欠くし、改定教育基本法第14条の政治的中立性に違反する」などと質した。だが文科省は、指導要領や『解説』、自衛隊法の条文を載せるだけで、正面からの回答を避けた。

文科省は3月31日“官報告示”した改訂小学校指導要領4年社会の「自然災害から人々を守る活動」で、県庁・市役所とともに「国の機関」として自衛隊を明示し、「取り上げる」よう求めたが、この原案などに関し3月15日まで公募していたパブリック・コメントで、「自衛隊の主任務である国の防衛についての教育も充実されたい」という意見があったことを、『解説』での前掲記述の理由にあげる。

しかし、文科省が3月31日、ホームページに掲載した「パブコメ結果」一覧の自衛隊に係る「意見内容」の欄は、前掲を含む賛成・推進の意見だけ掲載。市民らは「周辺だけでも10人ほどが反対意見を送付しており、反対意見を追記すべき」と質したが、同省は「行政手続法に基づ」くとするのみ。また、「賛否の数の集計は行なわないこととしている」と説明する。

市民らは、「安倍首相が謀む憲法“改正”の国民投票が仮に政治日程に上った時、“賛成”にマルを付ける若者を“量産”することになりかねない」と文科省を批判する。

(永野厚男・教育ジャーナリスト、8月18日号)

菅義偉内閣官房長官は“はなたれ小僧”か(西川伸一)

2017/08/29(火) 18:28

第3次安倍晋三内閣の第3次改造内閣が8月3日に発足した。首相の大叔父にあたる佐藤栄作元首相は「内閣改造をするほど総理の権力は下がり、解散をするほど上がる」と言ったとされる。首相の求心力の低下は否めない。「各派が希望した初入閣待機組のほとんどが登用されず、党内には不満が充満している」という(8月4日付『朝日新聞』)。

今回の内閣改造で私が最も注目したのは、内閣人事局長の人事である。中央省庁の幹部職員の一元管理などを目指して、2014年5月、内閣官房に内閣人事局が設置された。初代局長には当初、事務担当の内閣官房副長官である元警察官僚の杉田和博氏を充てる予定であった。これにも政治家を据えては、政治主導がいきすぎると懸念されたためである。

そのはずが、発足直前になって政務担当副長官の加藤勝信衆院議員にすげ替えられた。トップが事務副長官では、政治主導の威令が行き届かないと菅義偉内閣官房長官が考え直した(14年5月21日付『日本経済新聞』)。

政務副長官には衆参両院議員から各1名が起用される。加藤官房副長官は、15年10月の第3次安倍内閣の第1次内閣改造に伴い、萩生田光一衆院議員に交代した。内閣人事局長も萩生田副長官が兼務した。首相の最側近である萩生田氏が内閣人事局長に座る。この含意は官僚たちに「忖度」を働かせる十分な動機づけとなったことだろう。たとえば、「森友」問題に関する国会質疑で、「記録に残っていない」と答弁して「殊勲(しゅくん)甲(こう)」の佐川宣寿・財務省理財局長は、17年7月5日付で国税庁長官に栄進した。

さて、このたびの人事で萩生田氏は自民党幹事長代行に転じた。そして、後任の内閣人事局長には事務副長官に留任した杉田氏が就いたのである。野党が「加計」問題と絡めて、「人事権を政治家が握ることで官僚が首相官邸の意向を過剰に忖度している」などと政務副長官との兼務を問題視していた(8月4日付『読売新聞』大阪版)。菅官房長官は萩生田氏のことを「局長として適切に業務を行った」とかばった(8月5日付『岩手日報』)。ならばなぜ局長を事務副長官兼務に代えたのか。

内閣改造の前日、福田康夫元首相が「共同通信」のインタビューで吠えた。内閣人事局については「政治家が人事をやってはいけない。安倍内閣最大の失敗だ」と強く批判する。その結果、「各省庁の中堅以上の幹部は皆、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。恥ずかしく、国家の破滅に近づいている。官邸の言うことを聞こうと、忖度以上のことをしようとして、すり寄る人もいる。能力のない人が偉くなっており、むちゃくちゃだ」とたたみかける。

首相の政権運営にも「(自民党内に)競争相手がいなかっただけだ。(脅かすような)野党もいないし、非常に恵まれている状況だ。そういう時に役人まで動員して、政権維持に当たらせてはいけない」と容赦ない(8月2日付「共同通信」配信記事より)。

福田氏の官房長官在任日数は1289日に及ぶ。菅・現長官に抜かれるまで最も長かった。政官関係を知りぬいたゆえの直言だろう。御年81歳の福田氏からみれば、68歳の菅官房長官など「洟垂(はなた)れ」なのかもしれない。大先輩の忠告に耳を傾けよ。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。8月18日号)

上関原発計画の漁業補償金受取めぐり、祝島漁民が地裁に仮処分の申し立て

2017/08/29(火) 11:27

6月20日、山口県漁協本店前。左から、祝島支店の清水敏保さん、本店職員、祝島支店の橋本久男さん、同竹谷芳勝さん。(提供/山秋真)

上関原発計画に35年間抗い続けている山口県祝島の漁民たち。その山口県漁協祝島支店の正組合員2人が7月4日、山口地方裁判所岩国支部へ仮処分の申し立てを行なった。同支店の5月10日の組合員集会で提出された「修正案」について、6月14日に組合員へ配られた書面議決書による採決の禁止を求めるもの。「修正案」は、同支店の昨年度の赤字補填に、上関原発のための漁業補償金を充てたい、その手続きとして総会の部会の開催を本店へ請求してほしい、という内容だ。

この漁業補償金は上関原発の建設と運転への同意を謳う契約に基づくため、同支店(旧祝島漁協)は受けとりを17年間拒んでいる。13年2月に受けとり賛成を議決と報じられるも、過半数である31人の正組合員が翌3月、受けとらない旨、1人1枚の書面に署名捺印して本店へ提出。だが本店主導で補償金の配分案が作られ、採決を迫られた。島ぐるみで原発計画に抗う祝島は混乱したが、15年4月の配分案否決で収まった。

ところが、先述した今年5月の集会で本店の幹部が、「修正案」を出すよう一組合員を促しつつ「定款規約の定めでその場で採決が必要」と介入。6月14日には「修正案」への賛否を問う文書と書面議決書が組合員へ配られた。差出人は山口県漁協祝島支店「運営委員長兼組合員集会議長 恵比須利宏」、提出期限は6月21日、返送先は同支店か光熊毛統括支店。

だが恵比須さんは「この文書を作っていない」と明言したと、本人に尋ねた組合員が話す。彼は祝島支店の運営委員長を5月の集会終了時に辞めたうえ、議長の任は集会終了までだ。この文書は内容に虚偽があり、それに基づく書面議決書は無効だと、同支店の運営委員・岡本正昭さんと橋本久男さんは回収しようとした。その際、提出された書面議決書がすべて光熊毛統括支店にあると判明。「祝島の組合員集会のことだから、祝島支店で保管する」と6月19日、ふたりは同支店の竹谷芳勝支店長とともに光熊毛統括支店へ行き、書面議決書の回収を求めた。

だが「本店の許可なく返せない」と拒まれ、翌20日は本店(下関市)へ行き、仁保宣誠専務理事らと祝島支店側が面談。本店は書面議決書を有効と主張したが、「作成したのは本店」と認めた。祝島支店の運営委員会に知らせずに配布せよと、本店が指示したことも分かったという。

【今なお蠢く新規の原発計画】

なぜ運営委員会に知らせなかったか。5月の集会の最後に「修正案」は継続審議にすると議長が宣言し、出席者から異論もなかった、それは、「会は、その議決により続行することができる」と定める定款に則ったに等しく、「修正案」は継続審議になった、議事録にもそう記載されたからと本店は説明したという。

だが、「出席者からの異論は出ていた。目下、集会を録音した音源と照合して議事録案を確認中で、議事録も未承認だ」と橋本さん。一行は山口県農林水産部団体指導室へも走り、県漁協への指導を要請した。事前に通知された事項につき、集会開始前に提出する旨を定款規約に定める書面議決の濫用等を訴えたが回答は「権限外」。

6月21日の提出期限直前、「開票は強行せず、協議して実施」と関係者が祝島で合意した。

しかし中国電力は6月30日、この状況のもと上関原発の予定地で追加ボーリング調査を開始。7月4日の仮処分の申し立ては、こうした経緯で行なわれた。

翌5日、「司法の判断が出るまで開票しない」ことを関係者が合意。8月24日に審尋の予定となり緊張感が漂う7月18日、祝島支店運営委員の補欠選挙があった。旧祝島漁協の元組合長ら4人が棄権、白票1人という異例の状況で、先の「修正案」を出した組合員が当選。幼い子をおいて原発問題で駆け回った女性は「私らからすれば3日前のような最近に加入した人」の当選を嘆いた。3・11の東京電力・福島原発大事故から7年目。新規の原発計画が今なお蠢いている。

(山秋真・ライター、8月18日号)

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