連載:シオニスト『ガス室』謀略の周辺事態(その21-1)

SWC-Blackmailに屈した小学館『週刊ポスト』 1.前半

1999.11.12

 ユーゴ戦争で本連載を中断し、途中で飛び飛びに2回、同時進行状況を記し、再び長らく休眠していた間に、様々な関連事件が起きた。『ガス室』そのものに戻る前に、それらの「周辺事態」を概観する必要があるだろう。

『噂の真相』(1999.12)は、冒頭の「うわさの真相」欄の、そのまた冒頭に「『週刊ポスト』にユダヤ団体が抗議中で大危機」を組んだ。人気抜群の頁左余白「1行太字情報」の末尾には、創価学会仕掛け説」とある。

『創』(同)は、「あの『マルコポーロ』事件を思い出した人も…/今度は『週刊ポスト』へユダヤ人団体の猛抗議」を特集した。両誌ともに、編集長とは古い仲で、『マルコポーロ』事件の際にも、それぞれ、私に好意的な記事を載せてくれた。

 今度は早速、『創』の篠田編集長から電話がきたので、拙著『アウシュヴィッツの争点』の該当箇所を教えた。その要約が、上記の特集に載っている。以下、関係箇所の主要部分を紹介する。それでも、いささか長文になるので、定額料金制になっていない後進地帯の読者は、まとめて取り込んでから読まれたい。ああ、無料!、ああ、感無量!


『アウシュヴィッツの争点』(1995.6.26, リベルタ出版, p. 293-302)

「イスラエル大使館サイドの反論」の背後にいたアメリカ大使

 日本国内を見わたすと、すでに本書の準備中、隔週誌の『サピオ』(94.7.14)に異様な記事があらわれていた。

「本誌記事に対するイスラエル大使館サイドの反論/『「クリントン失脚の日」(4月14日号)ほかサピオ記事のおぞましき″反ユダヤ的暗示″について」と題するものである。執筆者のマイク・ジェイコブスの肩書きは、「『ロンドン・ジューイッシュクロニクル』『エルサレム・ポスト』特派員」になっている。

 ジェイコブスの批判は、つぎのような部分に要約されている。

「サピオの4月14日付記事は、日本と海外社会で憤激を買った。アメリカのモンデール大使の言葉に、それが端的に表明されている。著者の藤井昇氏は、ユダヤ人がアメリカ政府の高級職から排除されたので、シオニスト達がクリントン大統領にメディア・ウォーを仕掛けているとして、シオニストを非難した。その記事に対して、大使は『異様なうえ、途方もない間違いである。反ユダヤ的暗示がまことにおぞましい。』と批判したのであった」

 ところで、この記事より10年前にアメリカ大統領選挙になのりをあげていた「モンデール」について、「著者の藤井昇氏」は『世界経済大予言』のなかでこう書いていた。

「これは、その場に居合わせた私たちの友人に聞いた話ですが、モンデール氏は、毎日4時になると、かならずユダヤ人のある超大物弁護士のところへ電話を入れるそうです。中東問題でシオニスト・ロビーに嫌われないようにするにはどうすればいいかを相談するそうです。(中略)彼のスピーチ・ライターは全部、ユダヤ人です。(中略)モンデール氏の取り巻きの経済政策面の一人は、ロバート・ライシュ(ユダヤ人)です」

 藤井昇は、アメリカのハーバード大学国際問題研究所員をへて、シンク・タンク、ケンブリッジ・フォーキャスト・グループの代表をしている。現地耳情報の強みをいかして、日米関係の政治経済予測記事を書きつづける異色のジャーナリストだ。

『サピオ』は、反論記事をのせた経過について、「イスラエル大使館より本誌編集部に対し抗議がありました。(中略)イスラエルとの話し合いの結果、大使館側の推すジャーナリスト、マイク・ジェイコブス氏に反論の執筆を依頼しました」としるしている。

 イスラエル大使館は、わたしが30年近く在籍した日本テレビ放送網株式会社の社屋の窓から見える位置にある。

 パレスチナ関係の運動が襲撃の対象にするという噂がたえず、いつも警察官が見張っていたので、その建物の存在は、否応なしに目についた。しかし、普通の中流どころの住宅並みの規模だから、何人ものメディア監視スタッフがいるとは思えない。隔週誌の『サピオ』まで監視する余力があるはずはない。これはきっと「アメリカのモンデール大使の言葉」の方が先行していたにちがいないと直感した。アメリカ大使館は、かなり前から日本のメディアの報道を系統的に監視し、ときには直接の干渉までしてきたのだ。

 関係者にあたってみると、案の定、そんな感じの返事がもどってきた。

アメリカのマスコミへのユダヤ(シオニスト)勢力の強い影響

 ジェイコブスの反論の内容は、いたっておそまつである。つぎの部分などは、モンデール大使の言葉を借用すれば、「途方もない間違い」である。

「『アメリカのマスコミが、ユダヤ(シオニスト)勢力に強く影響されていることは周知の通り』とする主旨は、著者の意図的な或は無知に起因するミスリード例である」

「アメリカのマスコミ」、または国際的大手メディアにたいする「ユダヤ(シオニスト)勢力」の支配については、すでにわたし自身も、拙著『湾岸報道に偽りあり』『電波メディアの神話』のなかで若干紹介したところである。出典の資料は数おおいが、『尻尾が犬を振り回す』の著者、グレース・ハルセルなどは、ジョンソン元大統領のスピーチ・ライターを3年間つとめたこともあるホワイト・ハウス通の著名なジャーナリストである。ジェイコブスは、自分のセリフに自信があるのなら、まず最初に、ハルセルなどのアメリカの著名なジャーナリストたちに訂正をもとめるべきだろう。

 一応、主要な事実の指摘だけをあげておこう。

『ニューヨーク・タイムズ』の社主、ザルツバーガーはユダヤ人で、幹部の大半もユダヤ人だ。『ワシントン・ポスト』の創立者、故ユージーン・メイヤーもユダヤ人だったし、現会長のキャサリン・グレアムはかれの娘で、幹部でユダヤ人でないのはたった一人だけだ。日本なら日本経済新聞にあたる『ウォール・ストリート・ジャーナル』の場合、オーナー会長兼社長、ウォーレン・H・フィリップスなどは「親イスラエル」の姿勢を明確にしめすユダヤ人で、湾岸戦争のさいにはもっとも強硬な主戦論をはった。かかげた目標は「バグダッド占領、マッカーサー方式の占領行政実施」だった。

 電波メディアの場合はもっと明確だ。ラディオ時代にRCA(ラディオ・コーポレーション・オブ・アメリカ)を創立し、NBCネットワークをきずいたデイヴィッド・サーノフは、ロシアから移民の子としてわたってきたユダヤ人だ。ABC創立の中心となったレナード・ゴールドスタインも、CBS創立の中心となったウィリアム・S・ペイリーも、ともにユダヤ人だ。

 ただし1986年には、3大ネットワークのすべてが新経営者にのっとられた。CBSの新経営者、ラリー・ティッシュはイスラエル支持のユダヤ人だったが、NBCを親会社ごと買収したGEの会長、ジャック・ウェルチと、ABCを買収して傘下にくわえたメディア会社、キャピタル・シティズの会長、トム・マーフィーの両者は、ユダヤ人ではない。3大ネットワークを追いこす勢いのCNNを一部門とするターナー放送システムのオーナー会長、テッド・ターナーも、やはりユダヤ人ではない。だから、電波メディアについては、WASP(ホワイト・アングロ=サクソン・プロテスタント)のまきかえしという解釈が成立するのかもしれない。しかし、どのメディア系列にもユダヤ人の有力スタッフがおおいのは「周知の通り」である。

「イスラエル大使館サイド」のジェイコブスの文章の図々しさには、『サピオ』編集部関係者も苦笑いするばかりだった。だが、このジェイコブスの反論記事にたいする藤井側の再反論の企画は、いまだ実現していない。『サピオ』側は、別に再反論を拒絶しているわけではなくてタイミングの問題だというのだが、いささか気になることがある。それは、関係者のすべてが、つぎに紹介する日本経済新聞のユダヤ本広告掲載拒否にいたる経過を、かなりくわしく知っていたということだ。

日本経済新聞のユダヤ本広告掲載を撃った「ナチ・ハンター」

 日経の書籍広告にたいして国際的な抗議行動を展開したのは、「ナチ・ハンター」を自称するサイモン・ウィゼンタール・センター」である。

 同センターの抗議運動の対象となったのは、1993年7月27日づけの日本経済新聞の第5面、ページ下の全5段にのった大型書籍広告である。広告主は「第一企画出版」で、書籍は「☆ユダヤ支配の議定書(プログラム)☆《衝撃ヤコブ・モルガンの3部作》」と銘打った『最後の強敵/日本を撃て』、同『続』、『続々』の3冊に、『ロスチャイルド家1990年の予言書/悪魔(ルシファー)最後の陰謀(プログラム)』で、あわせて4冊である。「3部作」の部分の真中には、つぎのような宣伝文句がある。

「ロスチャイルド家を核にユダヤ財閥はヨーロッパ、アメリカ、ロシアを支配し、いよいよ日本征服に乗り出した」

 右肩にはつぎのような、いかにも日経新聞の読者むけらしい宣伝文句がある。

「ユダヤを知らずして株価が読める訳がない!」

 これらの書籍は、いわゆる「おどろおどろ」の反ユダヤ財閥本の典型だから、わたしの好みではないし、いささかも推奨するつもりはない。だが、この書籍広告に抗議する「サイモン・ウィゼンタール・センター」の側にも、非常にあやしげな気配があるのだ。

 翌1994年の『ニュウズウィーク』(94.5.25)には、「アジアで広がる反ユダヤ主義」という題で、「アメリカのユダヤ人人権擁護団体『サイモン・ウィゼンタール・センター』」の日本での活動についての、つぎのような記事がのっていた。

「東京では今、同センターの後援でホロコースト(ユダヤ人大虐殺)への理解を深めてもらうための展示会『勇気の証言/アンネ・フランクとホロコースト展』が開かれている(東京都庁の交流展示ホールで5月20日まで)」

 この活動の目的について同記事では、「アジアで高まる根拠なき反ユダヤ感情に歯止めをかけたいユダヤ人団体の努力の一端なのだ」としている。

 サイモン・ウィゼンタールは、オーストリアうまれのユダヤ人である。かれは、クリストファーセンの『アウシュヴィッツの嘘』の出版にさいしても、ドイツの弁護士会宛てに、序文をよせた弁護士、マンフレッド・レーダーの行為が同会の倫理規定に違反するのではないかとせまって、「調査」をもとめた。これにたいするレーダー自身の返答の最後には、つぎのような痛烈な皮肉がしるされていた。

われわれドイツの弁護士は、ユダヤ人によってであろうとだれによってであろうと、またはいかなる方法によってであろうと、検閲や支配をゆるしません。あなたこそ、われわれの周囲をかぎまわる前に、あなたがゲシュタポの手先だったというポーランドの新聞がおこなった告発にたいして答えるほうが先決ではないだろうかと、ご忠告もうしあげます。そうでないと、貴方の病的な″反ドイツ主義的″行動は、″泥棒をつかまえろ″[とさけんで自分が逃げる泥棒の手口をさすドイツ語の慣用句]のたぐいとしか見えないでしょう」

 サイモン・ウィゼンタールは、いかにもあやしげな海千山千の老人である。日経の広告にたいする抗議行動を報道した唯一の大手日本紙、産経新聞は、サイモン・ウィゼンタール・センターを「ホロコースト(大虐殺)の教訓を正しく伝える活動などを世界規模で続ける」組織だと紹介している。

 だが、イスラエル人のなかからさえ、「ホロコースト」が繁盛する商売であると同時に一種の新興宗教になっていることにたいして、批判的な声があがっている。

 ウィーバーが執筆したリーフレット『ホロコースト/双方の言い分を聞こう』によると、有名な新聞人のヤコボ・ティマーマンは、その著書『最も長い戦い』のなかで、おおくのイスラエル人が「アメリカでホロコーストがユダヤ人の世俗的宗教になっている状態を恥じている」とし、「ショアほどの商売はない」というイスラエル人の皮肉なジョークを紹介している。

 ヘブライ語では「ホロコースト」のことを「ショア」ともいう。これはあきらかに大当たりのブロードウェイ・ショウで、映画化もされ、日本語訳では意訳で「素敵な」を加えて『ショーほど素敵な商売はない』となっていた題名の「ショー」を、「ショア」ともじった「一語いれかえ(ワン・ワード・チェンジ)」のジョークである。だから、「ショアほど素敵な商売はない」と訳してもいいだろう。

広告担当幹部に「ユダヤ民族の真の価値の学習」を「ご提案」

 話を広告の問題にもどすと、サイモン・ウィゼンタール・センターは、日本経済新聞社宛てにファックスで抗議文をおくり、謝罪をもとめると同時に、その抗議の内容をアメリカと日本での記者会見で同時発表した。

 日本で報道したのは産経新聞だけだったようだが、わたしの手元には日本経済新聞社で事情を聞いたさいにもらった各種英字紙の記事コピーがある。通信社のAPが世界中にながしたA4判で2ページにわたる長文の通信全文。『ロサンゼルス・タイムズ』の約百行分の記事。以下の記事は若干みじくなるが、『インター・ナショナル・ヘラルド・トリビューン』、『アジアン・ウォールストリート・ジャーナル』、日本製の英字紙では『ジャパン・タイムズ』、『アサヒ・イヴニング・ニュース』といったところである。日経側は、世界中でさわがれたという受けとめかたをしている。

 日本語による唯一の大手紙報道、産経新聞(93.7.31)の記事は、「ワシントン30日=古森義久」発である。その一部を紹介しよう。

「抗議したのはユダヤ系米人の権利を守り、ホロコースト(大虐殺)の教訓を正しく伝える活動などを世界規模で続ける『サイモン・ウィゼンソ(ママ)ール・センター』。(中略)書簡はこの広告掲載にはユダヤ人として『衝撃と怒り』を果てしなく感じたとして、日本経済新聞社側がユダヤ人への謝罪を紙面で表明することと、広告担当幹部が『ユダヤ民族の真の価値』について学習することを要求している」

 この記事を発信者のワシントン支局長、古森義久には、湾岸戦争のさい、意図的と思わざるをえない誤報をいくつかながした前科がある。停戦直後には、「見通しを誤ったニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストは紙上で謝罪した」と称して、日本の「湾岸戦争評論家よ、丸坊主になれ!」(週刊文春91.3.14)とまで息まいた。だが、アメリカの両紙のどこにも、わびの一言もなかった。だから、今回もわたしは、この記事の裏づけに念をいれたのだが、今回は一応、誤報ではなかった。「広告担当幹部が『ユダヤ民族の真の価値』について学習することを要求している」という部分は、サイモン・ウィゼンタール・センターのラビ(教師)、アブラハム・クーパーが日経宛てに直接だした手紙の内容の一部とほぼ一致している。「ほぼ」というのは、「要求」とある部分の原文は「サジェスト」なので、おだやか、またはインギン無礼に「ご提案」と訳すほうが適切だからである。


以上で(その21)の前半終り。後半に続く。